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表立って載せるほどではない小噺と、あとがき。 その他キャラ設定などなど、徒然なるままに書き連ねるページ。 

友よ、君の未来は

特殊状況下連れ人の後日談で、1個前のやつの続きです
****

「別れた」
 久しぶりに会った友人は、いつものように淡々とそう言った。
「え? 円さんと?」
「ああ」
「なんで?」
「家を、継がなきゃいけないだろ?」
「はあ??」
 淡々と俺には理解できないことを言う。あまつさえ、
「榊原、声が大きい」
 こちらを咎めたりもする。誰のせいだと思っているんだ。
「お刺身盛り合わせでーす」
 店員さんが明るい声でいいながら、皿を置いていく。
「まあ、食べよう」
 巽が箸をとるから、こちらも合わせる。それにしたって、
「え、本当に別れたわけ? 話ってそれ?」
「ああ」
「そう……」
 どんな顔をしていいかわからない。巽の方がなんだったら落ち着いているかもしれない。
 友人の父親が亡くなって。急なことに心配していたところ、話があると呼び出されて、結果恋人と別れた報告を聞かされる。どこに感情を持っていけばいいのかわからない。
 沙耶は知ってたのかな。円さんのことだ、知らないわけないか。
「君には僕から話した方がいいと思ったんだろう」
 俺の表情から何を読み取ったのか、そう言う。読み取ったことが間違ってなさそうで逆に困る。
「えっと、なんだっけ? 家を継ぐから?」
 このご時世にどこの世界の話だよ、巽家のか。
「ああ」
「いや、まあ、巽がその立場になるのはわかるんだけど」
 立派なおウチの跡取り息子だもんな。それにしたって、
「俺にはそこと別れる話が繋がらない」
「巽と一海は仲が悪い。それに、お互い跡取りだ。どちらも家を手放す気がないのなら、無理だ」
「そうかもしれないけど……」
 いつの時代の話だよ。
「一周忌が終わる頃には多分、結婚することになると思う。その頃には卒業もしているし」
「はあ???」
 さらっと何言ってんだ、お前は。
「誰と?」
「まだわからない」
「なんだそれ」
「どこかの、視える、力ある家系の娘だろうな」
「ああ、政略結婚……」
 ってなんか、淡々と言うけどさ!
「何時代だよ、どこの国だよ。現代日本なめてんの?」
 むしゃくしゃする。そんな理由で、別れたというのか。
 イライラしている俺を見て、巽はふっと笑うと、
「榊原は、普通だな」
「どういう意味だよ」
「安心したんだよ」
 穏やかな声に、戸惑う。
「父が亡くなって、ただでさえバタバタしているのに、僕の身の振り方も考えなくてはいけなくて。円さんと別れたことは仕方ないと思う。円さんもわかってる。きっと直純さんや沙耶さんも仕方ないって言うだろう。でも」
 少し、巽の声が掠れて震えた。いつも冷静な彼らしくもない。
「仕方ないで済ませたくないんだ、本当は」
「巽……」
「好きなんだから、別れたくなんてない。当たり前だろ? でも、 その当たり前を主張出来る環境にはなかったんだ。家にいると。だから今日、君を呼び出した」
 巽はおどけたように笑う、珍しく。ああ、無理をしているなと思った。
「自棄酒、付き合ってくれるだろ?」
 ああ、そうか。巽の家の事情を知っていて、それでもおかしいと言える部外者の立場は俺ぐらいなのか。
「もちろん」
 とりあえず飲めよ、と煽ってみせる。彼もグラスを手に取った。
 巽は決して大袈裟に泣き言は言わなかったけれども、少し寂しそうに、ピッチもはやくグラスをあけていく。
「自分のことはさ、もういいんだ」
 だいぶ、酒が進んだところで彼はポツリと言った。
「まだ、諦められてないけど、悲しくないわけじゃないけど、でも乗り越えていける。そう思う。それでも、最後にしたい」
「最後?」
「こんな家の事情に振り回されるのは、僕の代で終わりでいいと思わないかい? 現代日本なんだから」
 少し目が赤い。のは、酒のせいだろう。そう決めつけた。
「僕の祖父が古い人間で、巽はだいぶ古い価値観で凝り固められているんだ。父がだいぶ緩和させたけど、まだまだだ」
「お父さん、ファンキーだったもんな……」
「そうだろ? だから父を疎ましく思っていた人間も沢山いる。僕がまだ学生で、しっかりしてないからと、僕を都合のいいように扱おうとしてる連中もいる。でも、僕は」
 ぐっとグラスに残ったサワーを飲み干すと、
「傀儡になんてならない。父の意志を継ぐ。新しい巽を作るんだ」
 しっかりと宣言する。珍しい。巽がここまで、自分のことを話すなんて。でも、彼ならきっと大丈夫。話を聞いていると、そう思えた。
「うん。俺は特に巽家に対してできることはないけどさ。でも、友人として愚痴を聞くぐらいならいつでも出来るから」
「ありがとう」
 巽は少し泣きそうな顔で、笑った。

「じゃあまた」
 駅で別れる。
「また連絡する」
 すたすたと歩いていく巽は、酔ったからか少し足元はふらついているけれども、しっかり前を見ていた。とても、巽翔らしかった。
 どうか、彼の未来が少しでも明るいものでありますように。誰にともなく、祈った。
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