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表立って載せるほどではない小噺と、あとがき。 その他キャラ設定などなど、徒然なるままに書き連ねるページ。 

アップルパイ

お題箱「純愛とリンゴ」
1年前のを今更で大変申し訳なく……

調律師の円と、ひとでなしの隆二の話。
どっちも本編終了後の時間軸です。
***

 その家には大きなリンゴの木がありました。
 その家の一人娘のために、そのリンゴの木の枝を使い、両親は人形をつくりました。かわいいその人形を、娘はたいそう可愛がりました。一緒に遊ぶのはもちろん、寝るときも、出かけるときも一緒でした。
 しかし、人形と少女の蜜月はそう長くは続きませんでした。
 重い病気にかかり、少女は帰らぬ人となったのです。
 人形は少女が亡くなる瞬間も、ベッドサイドで彼女を見ていました。
 人形は棺にいれられ、少女と一緒に火葬されました。
 それ以降、少女と人形がリンゴの木の下に佇むというのです。少女と同じ大きさになった人形が、彼女にそっと寄り添う。それは純粋なもの達だけが持つ、愛の形として語り継がれました。
 リンゴの木は純愛の象徴としてあつかわれるようになりました。
 そのリンゴで作った当店自慢のアップルパイ。カップルで食べると永遠の愛を築くことができます


「オシラサマみたいな話だな、なんか」
 リンゴにまつわる話を聞いた、神山隆二の第一声がそれだった。
「なんだっけ、それ。馬と恋に落ちる、蚕のやつだっけ?」
 向かいに座った一海円が首を傾げる。
「ああ。幼い子供と人間以外の恋愛って純愛扱いされやすいよな」
「清いものってイメージなんじゃない?」
 つまらなさそうに円が答えた。
 化け物退治の仕事を終えた帰り道、「前から行きたかった店がこの近くなんだけど、寄っていい? 奢るから」と円に半ば強引に連れて来られたのがこのアップルパイ専門店だった。
「永遠の愛、とかいうならあんたの恋人連れてこいよ」
「こんなとこ、翔くん連れてきたら大変なことになるに決まってるじゃない。あの子、基本的には人外祓うスタンスなんだから」
 言って、円が窓の外を見る。中庭の大きなリンゴの木。その根元に立つ存在を。
「まあ、あれが見えてたらのんきに永遠の愛とか言ってられないか」
 店内のカップルを見回し、それから隆二もリンゴの木を見る。
 少女の霊。そこにのしかかるようにして立っている、人形。二人にはリンゴの木の根が巻きついている。そこにあるのは、純愛の象徴などではなく、リンゴに取り憑かれた哀れな人霊の姿だ。
「人間扱いされて、自分を人だと思い込んじゃったんでしょうね、あの人形。親の手作りだっていうし。案外、あの子が亡くなったのも、あの人形のせいかもね」
「ほっといていいのか?」
「完全に悪霊化する前に祓わないとね、ってとこなんだけど。あいにく、この地域は一海の管轄外なの。手出しするにはそれなりの手続きが必要。緊急性、ないからね」
「面倒くさい世の中だな」
 現代の拝み屋一族の謎の縄張り意識に、隆二は苦笑した。
「ま、近いうちにどうにかする」
「ならいいんだが」
 そんな物騒な話をしていると、アップルパイが運ばれてきた。横にアイスクリームが添えられている。
「きたきた。いただきまーす」
 言って、円が嬉しそうに食べ始める。
「んー、おいしー。謂れはさておき、味が良いって評判だから来てみたかったんだよねー」
「へー」
 興味なさげに相槌を打ち、隆二も一口。確かに、美味しい。
「……持ち帰り、できるんだっけ?」
 さっきのメニューに書いてあったことを思い出しつぶやくと、
「持ち帰り用、2ホール頼んであるから大丈夫。真緒ちゃんにお土産にして」
 さらっと答えられた。
 仕事中またせている同居人へのお土産にしようとしていたことがばれていたらしい。
 それはさておき、
「2ホール?」
「一つは沙耶へのだから」
「ホールを、土産に用意してくれたわけか?」
「そうだけど?」
「俺と真緒の二人暮らしなことは知ってるよな?」
「そんなに一つが大きくないから大丈夫でしょ」
「ホールで用意したら、あいつ夕飯食べられなくなるだろ」
 真顔で指摘すると、
「……あなた、どんどん母親っぽくなってくわね」
 神妙な顔でつぶやかれた。
「そこはあなたがちょうど良いサイズに切り分けてあげてよ。で、何日かにわけて」
「明後日で戻るんだよ、あいつ」
 隆二の同居人は特殊だ。月の半分を人間として、もう半分を幽霊として過ごす。明後日には幽霊に戻ってしまうから、アップルパイを食べさせるタイミングがほとんどない。
「あー」
 円がちょっと困った顔をして、
「おっけー、一回うちで半分に切って、それを持って帰って。余った分は直純にでもあげるわ」
「ありがとう」
 食べ物を粗末にしたくないし、別に食べなくても死なない不死者の自分が食べるよりも、美味しく食べる人間が食べた方が良いだろう。それはそれとして、真緒にこれを食べさせたい。大変わがままな隆二の要望を全部満たす結論に礼を言った。
 自分の分に向き直る。
 それにしても、このアップルパイは程よい甘さで美味しい。
「来てよかったでしょ?」
 向かいで円がにやりと笑う。自由奔放な、このビジネスパートナーに今日も散々振り回された。踏み台にもされた、物理的に。帰りでさえ寄り道させられているが、
「ああ」
 それは事実なので素直に頷いた。
 それに、円が嬉しそうな顔をする。

 永遠の愛などあるのか知らないが、たとえ悪霊がいても、リンゴの実は育つのだ。
 
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