表立って載せるほどではない小噺と、あとがき。 その他キャラ設定などなど、徒然なるままに書き連ねるページ。 

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永遠の友達3

永遠の友達2の続き。
調律師とひとでなしのコラボもの。
両方とも完結後の時間軸なので、そんな感じで。

**

「んー、ここだね」
「そうだな」
 ケータイを片手にマオがマンション名を確認する。それを後ろから覗き込みながら隆二も頷いた。
 エントランスを入り、機械に目的の部屋番号を入力する。
「はい」
 しばらくの間の後聞こえた声に、
「沙耶? マオでーす!」
 元気よく挨拶した。
「いらっしゃい。あがってきて」
 くすくす笑う声のあと、自動ドアが解除された。中に入り、エレベーターで四階へ。
「いらっしゃい」
 玄関のドアをあけたところで、沙耶が待っていた。
「ごめんね、来てもらっちゃって。この子連れて外は大変だから」
 腕に赤ん坊を抱きかかえながら。
「ううん、御邪魔します。美実ちゃん、こんにちは。はじめまして」
 二人に挨拶するとマオは微笑んだ。
 
 実際に会うのは年に数回だったものの、メールや手紙等マオと沙耶のやりとりはずっと続いていた。最初に出会ってから数年経ち、その間に沙耶の名字は榊原に変わり、家族も一人増えていた。
 子供が生まれてからようやく少し落ち着いたとのことで、今日はこうしてマオと隆二が沙耶の家を訪ねていた。

「龍一さんはお仕事?」
「うん。お二人によろしくって」
「そっかー。じゃあこれ、お土産。今度二人で食べて」
「あ、ありがとー」
 お茶いれるね、と沙耶が立ち上がる。
 元々眠かったのか、赤ん坊はすぐに眠ってしまった。
 その姿を興味津々といった感じでマオが眺めている。そういえば、赤ん坊とかこんな間近で見るのははじめてかもしれない。
「あの少年は、結局医者になったんだっけ?」
「……ちょっとぉー、いつまで少年呼ばわりするの?」
「神山さんからみたらそうなりますよね。今はちゃんと、お医者様になりましたよ」
「へー」
 子供だったのにねぇ、と小さく隆二がぼやいた。
「はい、どうぞ」
 紅茶をいれて沙耶が戻ってくるので、ありがたく頂く。
「おいしー」
「そう、よかった」
 言って沙耶が微笑む。
 シュシュで束ねられた髪がゆれた。
「髪の毛、結んでるの珍しいね」
 会った時から気になっていたことを口にすると、
「ああ」
 沙耶が少し困ったように笑う。
「美実の面倒見ている時、どうしても邪魔で。切っちゃおうかなと思ったんだけど」
「えー、もったいない」
 せっかく綺麗な黒髪なのに。
 思わず言うと、沙耶がくすっと笑った。
「龍一にも同じこと言われて」
「……のろけ」
 隆二が小さく呟く。
「それに、なかなか美容院に行く暇もないし。まとめちゃうのが一番楽かなーって」
「そっかー」
 言いながらもう一度沙耶の髪に目をやり、そこに混じった、この前会った時には見られなかった白いものに一瞬、ざわっと変な気持ちが胸をよぎった。
「……そっか」
 もう一度小さく呟く。
「マオは、最近なにか変わったことあった?」
 やわらかく問われる。
「んー、特にはー」
 いつもと同じ毎日だなーなんて思いながら言葉を返す。
 あたしの毎日は、いつも同じだ。
 そのまま雑談を続ける。主にマオが喋って、沙耶が相槌をうって、ごくたまに隆二がつっこみをいれる。前会ったときと変わらないやりとり。
 なのに、なんでだろう。
 胸がざわつく。
「美実ちゃん、よく寝てるねー」
 話題の合間にそう言うと、背後のベビーベッドをのぞきこむ。
 ふっくらとしたほっぺたが可愛い。なんて、思っていると、
「うぅ……」
 小さい声とともに、閉じられていた目がひらき、次の瞬間には、火がついたように泣き出した。マオの視線を拒絶するかのように。
「ああ、ごめんね」
 びっくりして固まったマオの横から、なんでもないように腕を伸ばすと、沙耶は赤ん坊を抱き上げる。
「よしよし」
 言いながら子供をあやす。
「んー、お腹空いたのかな。ちょっとごめんね」
 言って、抱っこしたまま席を立つ。
「あ……」
 びっくりした。
 急に泣き出されて。
 あんなに小さな身体で、あんなに大声で泣くんだ。
 それから、子供を見つめる沙耶の顔が、今までまったくみたことないものなことにもびっくりした。
 いつも優しそうに笑うけど、それとはまったく別のもの。
 ああ、この感覚、知っている。
 あの時と一緒だ。
 隆二が茜に向けた笑顔を、見たあの時と。
 絶対に自分に向けられることのない、顔。
 そして、初めてみる顔。
 その顔を自分に向けられないのは構わない。だって、そんなこと当たり前だから。だけど、でも、その顔を手に入れたのは、子供が生まれたからで。変わったからで、彼女が。それって、つまり、
「マオ」
 隆二に呼ばれて、はっと我にかえる。
「そろそろ、お暇しようか」
 のんびりと言われる。
「え、あ、うん」
「あ、ごめんね、マオ」
 こちらを向いて笑う、前とはなんだかちょっとだけ違う、顔。
「びっくりしたよね?」
「……ううん。ごめんね」
「え、なにが?」
「……なんでもない」
 顔をあげると、どうにかこうにか笑ってみせた。

 また今度、と約束して、家に戻る。
 いつもはすぐに寝る新幹線の中も、なんだか寝付けなかった。珍しく隆二の方が寝ている。
 カバンの中でケータイが震える。
 沙耶からのメール。今日はありがとう、また今度。次はいつ頃がいいかな? 要約してしまえば、それだけのメール。返事をしようと思って開いて、なんて返せばいいのかわからなくて、またカバンの中にしまった。

 最寄り駅まで戻ってきたころには、すっかり暗くなっていた。
「夕飯何にするかねー」
 隆二の言葉に曖昧に言葉を返す。
 少し速度を落として、隆二の半歩後ろを歩く。
 顔を見られたくない。見たくない。
 ああ、どうしよう。
 なんだかもうずっと、

 泣きそうだ。

「隆二!」
「うわっ」
 玄関に入ったところで、耐え切れなくなって抱きついた。
 隆二がよろけたように、段差の大きい床に手をつく。
「なんだよ。……マオ?」
 背中に抱きついたマオに不満そうだった隆二だが、様子が少し違うことに気づいたのか怪訝そうな声になる。
 ぎゅっと、シャツを握って、額を背中に押し付ける
「ねえ、覚悟ってどうしたらできるのっ?」
 泣きそう。
 大きく息を吸って耐えると、早口で言葉をつなげる。
「ずっとずっと、頭ではわかっていたつもりだったの。沙耶が人間で、あたしがこんなんで、時の流れが違うっていうのがどういうことなのか、わかっていたつもりだった。でも、全然わかってなかった! 今日まで、わかってなったのっ。沙耶のこと大好きだし、会いたいけど、会うのが怖いの。ああちょっと年をとったなとか、美実ちゃんが生まれたりとか、そこから先が見えるようになって怖いの。会いたいけど、会いたくないの。でも、会いたいの。ねえ、どうしたらいい?」
 言い切って、もう一度大きく息を吐く。
 ぐっとシャツを握った手に力をいれる。
 隆二からわずかに困惑した気配が感じられ、しばらくの沈黙のあと、
「……それを、覚悟が決まらなかった俺に訊いて、どうしようっていうんだ、お前は」
 吐き出されたのは、困りきったような、呆れたような言葉だった。
「……あ、そっか」
 言われた意味を理解すると、なんだか拍子抜けしてしまった。
 彼は最期を看取る勇気がなくて逃げた人だ。ひとじゃないけど。
 ちょっと手の力が弱まったすきをついて、隆二が身体ごとこちらに向く。
 振り返った顔は、いつもよりかなり優しかった。
 段差に腰掛けた隆二が優しく手を伸ばしてくるから、素直に近づく。隆二の膝の間に立つと、両手を握られる。
「だけど、一つだけ言えるよ。このまま会い続けるのは辛いと思う。だけど、逃げたら後悔する」
 一呼吸おいて付け加える。
「絶対」
「……もの凄く説得力があるね」
 思わず呟くと、少し笑われた。
「だろう? 不安についてぐらい俺でいいなら聞いてやるから、だから会える時に会っとけ。あの子どもがおおきくなったら、大道寺さんも忙しくなるだろうし、そういう用事で会えなくなるぞ」
 優しく頭を撫でられる。
「……うん、そうだね」
 ゆっくりと頷いた。
 泣きたい気落ちは薄れていた。
「大丈夫だよ、お前には俺がいるだろう?」
 頭に置かれた手が、そっと頬に触れる。ひんやりとした手の平と言葉が少しくすぐったい。
「他人の代わりにはならないけど、一人じゃないから」
 しっかりと目を見て言われた言葉に、
「うん」
 こちらも目を見て頷いた。
 珍しい、と思う。隆二がここまで優しいことを、慰めを、励ましを、はっきりと目を見て言うなんて。いつも恥ずかしがって逃げるのに。
 ああでも、それだけ、この問題は大きなことなのだ。逃れられない問題なのだ。自分たち人ではないものと、人との間にある時間は、面倒くさがり屋の彼にここまで真剣な顔をさせるぐらい、大きな問題なのだ。
 励まされたと同時に、突きつけられた気がする。
 逃げられない。
 逃げちゃいけない。
「……隆二」
「ん?」
「ありがとう」
「……ああ」
 もう一度、頭を一度撫でられる。それから、
「さて!」
 わざとらしいぐらいの大声のあと、マオから手を離す。
「飯にするか。この前冷凍したカレーで、ドリアでいいだろ?」
 なんでもないように言う隆二に、
「はーい! やったぁ! ドリア好きー!」
 なんでもないように言葉を返す。ちょっとだけはしゃいで。
「チーズ系好きだよな、お前」
「うん!」
「……胸焼けしない?」
「え、するの? ……おじいちゃんだもんねー」
「うるさいな」
 不安がないって言ったら嘘になる。
 だけど、大丈夫。
 一人じゃないから、逃げない。
 
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