表立って載せるほどではない小噺と、あとがき。 その他キャラ設定などなど、徒然なるままに書き連ねるページ。 

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猫に九生あり

フリーワンライ企画参加作品

お題
哀、逢い
物語の中だけの存在
ことだま
この中から

時間60分
 **

 ミザリーが居なくなって、気がついたら五年経っていた。

 ミザリーは俺が飼っていた黒猫で、人語を話して、自分のことを地球を亡ぼしにきた恐怖の大魔王だ! とか言い張る、変なやつだった。
 喋る猫も、恐怖の大魔王も、きっと物語の中だけの存在で、現実にはいない。だから、ミザリーも俺の生み出した妄想で、本当はいなかった。

 それだったら、どれだけよかっただろうか。


 もしかしたら、ミザリーが喋ることも、恐怖の大魔王発言も、俺の妄想だったのかもしれない。
 それでも、俺が飼っていた、綺麗で可愛い黒猫は確かにいたのだ。
 確かに、いたのだ。

 あの日、いつものようにミザリーに高い餌を要求され、仕方なくコンビニに行き、ミザリーの喜ぶ顔を思い浮かべながら帰って来た俺が見たのは、本当によくわからないものだった。
「仁科さん?」
 部屋の隅に立っていたのは、スーツ姿の女性。同じ大学の友人。同じ会社に試験を受けに行って、さっき駅前で別れたはずなのに、なんでうちにいるんだ?
「なに、してるの?」
 まったく意味がわからなくて、声をかける。
 仁科さんがゆっくり振り返って、微笑んだ。なんだか、綺麗に。
「魔王は、退治されました。もう、大丈夫だよ」
 意味が、わからなかった。
「何を、言って……」
 言いかけて気づく。仁科さんの右手に握られた、包丁。赤。
 魔王?
 退治?
「ミザリー?」
 小さく言葉が唇から零れ落ちる。
 包丁、魔王、退治。
 自称、地球を亡ぼしにきた恐怖の大魔王の、ミザリー。
「ミザリーっ!」
 嫌な答えが脳内を過って、慌てて仁科さんがさっきまで向いていた方に走る。邪魔な彼女を突き飛ばす形になったが、彼女は何も言わなかった。
 テレビが転がっている。
 その、裏。
「ミザリー!」
 名前を呼ぶ。
 ぐったりとしている、黒猫。
 自慢の綺麗な毛並みが何故か赤く汚れていて。ああ、意味がわからない。
「ミザリー!」
「……りん、たろう」
 ミザリーが俺の名前を呼ぶ。
 小さな黒い塊をそっと抱え上げる。
 軽い。
 ああ、どうしよう。
 どうしたら。
「ミザリー」
 ただ、名前を呼ぶことしかできない。
「わたしね、」
 ミザリーは小さな声で呟くから、必死に耳を澄ませる。
「りんたろうのこと」
 聞き逃さないように。
 必死に、聞き逃さない様に、耳を澄ませていたのに。
「だ……、」
 ミザリーの最期の言葉は聞き取れなかった。

 その後の事は、よく覚えていない。
 必死にミザリーを呼ぶ俺に、仁科が「これで魔王の洗脳がとけたから大丈夫」だの意味不明なことを口走って、意味がわからずに殴った。ところまではおぼろげにだが覚えている。
 騒がしいのを聞きつけた隣人が、警察を呼んだらしい。
 ミザリーを抱えたまま俺が叫び続けたから。
 そして、気を失って、目が覚めたら病院で、実家から母親が来ていて、あとから父親も来て。
 仁科は器物損壊とかで警察の取り調べを受けて、そこで「魔王退治をしたのだ、人助けだ」なんて主張したらしく、精神的な病院にいれられることになって。
 仁科の両親は、詫びだといって多めの金と、「たかだか猫ぐらい」という暴言を残し、俺の父親にキれられて。
 しばらく実家に帰って来なさいという母親の言葉を無視して、俺は一人暮らしのアパートの戻って。
 そのまま、ぬけがらみたいな状態で大学に行って、卒論書いて、バイトも続けて、大学卒業して。
 就職活動はしなかったら、フリーターのまま、バイトを続けていて。
 機械的に。
 最初は心配していた母親も、途中から呆れていた。
「ショックだったのはわかるけれど、いつまで猫のこと気にしているの?」
 母さんは、何もわかっていない。
 だから俺は、実家には帰らない。傷つくだけなのがわかっているから。
 それに、ここにいたら、またミザリーが戻ってくるかもしれないのだから。

 ミザリーは、俺が飼っていた綺麗で可愛くて聡明な黒猫で。人語を話して、自分のことを地球を亡ぼしにきた恐怖の大魔王だと言っていた。
 それが嘘か本当なのか俺は知らない。
 もしかしたら、ミザリーが喋るのは俺の妄想だったのかもしれない。
 でも、仁科もミザリーが喋るのを聞いたと言っていたから、やっぱりミザリーは喋るのだ。
 恐怖の大魔王かどうかは、俺にはわからない。嘘なのか、本当なのか。
 でも、俺は本当だと思っている。
 あいつは、恐怖の大魔王で、地球を亡ぼしに来ていて、たまたま黒猫の姿をしていただけで、本体はきっともっと別のもので。だから、人間の女に包丁で刺されたぐらいじゃ死なないのだ。
 明日にでも、ふらっとまた現れるかもしれないのだ。
 だから、俺は、この部屋を離れない。
 ミザリーが死んだなんて認めない。そんなこと言わない。
 言ったら、本当になってしまうから。

 ミザリーがいなくなって、気がついたら五年経っていた。
 機械的に通ったことで大学はなんとか卒業できた。
 でも、就職活動をしそびれたので、そんな気力はなかったので、卒業後は自然フリーターになった。
 コンビニのバイトを続けている。
 ミザリーが居なくなって以来、抜け殻のようになった俺を、誰よりも心配してくれたのは、実はコンビニのオーナーだ。親よりも心配してくれた。
 そんなオーナーにある日、話があると言われた。
「倫太郎君、君がいてくれてうちの店は助かってるけど、そろそろ潮時じゃないかな」
 その言葉に、俺は間抜けに一つ頷いた。いや、ただ首を動かした。
 それにオーナーが一つ、溜息をつく。
 それから、
「……もしかしたら、君には酷じゃないかと思っているんだが」
 言いながら、一枚の紙を差し出す。チラシ。
「僕の友達がペットショップをはじめるんだけどね。正社員登用を前提としたアルバイトを探しているんだ」
「ぺっとしょっぷ……」
「条件は、専門知識は今はなくてもいいから、なにはなくとも動物好きな人。誰か良い人知らないかと言われていてね」
 オーナーが俺を見て、小さく微笑んだ。
「僕が知っている中で、一番動物好きなのは君だからね」
 言われて、胸の奥がちくりと痛んだ。
 俺が好きなのは動物じゃなくて、ミザリーだ。ミザリー以外の猫のことなんてどうでもいい。
 それでも、なんだかその話には心惹かれるものがあった。
「だからこそ、君には辛い話じゃないか、とも思うんだけどね」
 オーナーの優しい言葉に、急に泣きそうになって、慌てて耐えた。
「まあ、良かったら、面接だけでも」
 控えめに言われた言葉に、頷いた。
 今度ははっきり、肯定の意思をしめして。
「はい」

 そうして、俺は今、そのペットショップで働いている。
 別段、動物好きのつもりはなかったけれども、この仕事は楽しい。
 辛い事もあるけれども、それよりも圧倒的に楽しい。
 もしかしたら、あのとき、適当な企業に就職しなかったことがかえってよかったんじゃないか、と思えるぐらい。
 最近、ようやく少し、笑えるようになった。
 実家に帰る気には、まだ慣れないけど。

 それから、やはりミザリーを探してしまうけれども。
 
 仕事中、店の中にいる、猫や犬や、鳥やハムスターや、果ては熱帯魚まで見ながら思う。
 実はこの中に、ミザリーがいるんじゃないか、と。
 黒猫の姿を失ったミザリーが、また別の動物の姿になっているんじゃないかと。
 ついつい、探してしまう。
 また、声をかけられるんじゃないかって。
 初めて逢った、あの日のように、「たのもー」なんて言われるんじゃないかって。
 帰り道、そんなことを思いながら、小さく微笑む。
 何度も思い返しても、「たのもー」はないよなー、なんて思って。
 最近、ミザリーが思い出になってしまっていて、そのことが少し悲しい。過去になってしまう、このままじゃ、ミザリーが。
「はやく出て来ないと、忘れるぞ」
 小さく呟く。
 人の気配のない、深夜の街角。
 拾うものの居ない言葉が転げ落ちて行く。
 ああ、そういえば。ミザリーと初めて出逢ったのはこんな場所だった。
 懐かしくなって、微笑んで、

「……にゃー」

 弱々しい声が、俺の笑みをかき消した。
「……ミザリー?」
 思わず呟くと、慌てて声がした方に近づく。急いで、それでもあまり大きな音を立てないように。
 驚かせないように。
「にゃー」
 鳴いていたのは、小さな小さな黒猫だった。
「ミザリー?」
 問いかけてみるけれども、その子は答えない。人間の言葉は話さない。
 やせ細った体をそっと抱き上げる。
 逃げなかった。
 もしかしたら、逃げる気力もなかったのかもしれない。
 よく見たら、右目が傷ついてる。
 上着を脱いで、それにその子を包むと、ひとまず家に向かう。歩きながら、ケータイで職場の獣医さんに電話した。
「遅い時間にすみません。非常識なのはわかってます。……猫、拾ったんです。仔猫で、痩せてて、怪我してる。俺じゃ助けられないし、こんな時間に開いている病院ないから。……はい、お願いします」
 頼りになるその人は、すぐに迎えに来てくれるらしい。待ち合わせ場所に指定された、コンビニに向かいながら震える黒い塊に声をかける。
「もうすぐ先生来てくれるからな。もうちょっとだけ、がんばれ」
 にゃ、と小さな返事。
 痩せていて震えていて怪我をしているけれども、返事は思ったよりも元気で少しだけ安心する。
「それで、元気になったらうちにおいで。名前は……、男ならポールで、女だったらアニーな」
 現時点でミザリーとつけるのは躊躇われた。まあ、もっとも、
「もしも、お前が、元気になって喋り出したらミザリーって名前にするけどな」
 にゃーと黒猫は、なんだか満足そうに鳴いた。


 **

ミザリー編はこれでおしまい。
 
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