表立って載せるほどではない小噺と、あとがき。 その他キャラ設定などなど、徒然なるままに書き連ねるページ。 

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私は我が侭だから

フリーワンライ企画参加作品

お題
新婚ごっこ
終末の世界で、
裏の裏の裏
風の中に息吹

時間60分
 **

 不安だらけだ。
 貴方がスーツを着てこの部屋を出て行くたびに、私の心は押しつぶされそうになる。
 それは、貴方が死へと近づくサインだから。
 貴方は死ぬ。
 社会に殺される。
 働かなければいけないという常識に、殺される。
 私はそれを知っているのに、貴方を止めることができない。

 私はミザリー。
 ただの黒猫だ。
 唯一違うところがあるとすれば、何度も同じ時を繰り返し、人語を話すことが出来るというだけ。
 昔、まだ私がただの黒猫だったころに、私を拾って、育ててくれた、優しい貴方を助けたくて、ただ同じ時を繰り返しているだけ。
 仕事が忙しくて心を病んで、自殺してしまった最初の貴方をなかったことにしたくて、悪魔の力で時を戻り、出会いの時からを繰り返している。
 でも、いつも私は貴方を助けられない。
 貴方はいつも、同じような時期に死んでしまう。
 自殺じゃなくても、事故でも。病気でも。
 でも、全部、背後に仕事が関わっていることを、私はとっくに気づいている。
 会社に向かう途中で事故に遭うとか、仕事が忙しくて病気になったことを気づかないとか。全部、そう。
 違う会社に勤めても、結果は同じ。
 ということは、私に出来る事はただ一つ。
 貴方を助けるために出来る事はただ一つ。
 今現在、就職活動をはじめた貴方を、貴方の就職を、阻止するだけ。

 できてないけど。

 今日も貴方は、私を置いて行ってしまった。
 リクルートスーツに身を包んで。
 履歴書を書くのを邪魔したり、スーツに毛をつけたり。色々な妨害活動をしているけれど、成果は出ていない。
 嫌なら就職しなければいいと、猫の私が言っても貴方は笑って無理だよ、というだけ。

 時は進む。
 このままじゃまた、私は貴方を失ってしまう。

 何度も何度も繰り返す、閉じられた世界。
 このままじゃ、きっと、この世界は壊れてしまうだろう。
 時を進めることができず、繰り返しで綻びが出た世界は、壊れてしまうだろう。
 それなら、それでもいいのだ。
 貴方と二人、一緒に滅びてしまうのならば、それで。
 終末の世界を貴方と過ごすことが出来るのならば。
 だから私は、自分のことを地球を亡ぼしにきた恐怖の大魔王だと名乗っている。いつか私は、世界を壊すから。
 世界を壊すことに、なんら躊躇いはないから。
 でも私は、耐えられない。貴方が居ない世界で生きることが耐えられない。
 また、貴方を失ってしまうことが耐えられない。
 私は我が侭だから。

「ただいま」
 スーツを着た貴方が帰ってくる。
「おかえり」
 私はそれを出迎える。
「ただいま、ミザリー」
 貴方はそういって、優しく私の頭を撫でてくれる。
 頭を撫でてくれる、その指先が私は大好きだ。
「土産はないのかね?」
 ふんっとふんぞり返って言うと、貴方は露骨に嫌そうな顔をした。
「またそういうことばかり言う」
 呆れたような声が愛おしい。
 毎度毎度繰り返される、お約束の会話が大切だ。
 いってらっしゃいと見送って、おかえりなさいと出迎える。いってらっしゃいキスの代わりに頭を撫でてもらって、ただいまのキスの代わりに頭を撫でてもらって、拗ねたフリをする。まるで、新婚夫婦のようじゃないかと、私は甘いことを思っている。
 そんな平和が、愛おしい。
「つーか、スーツで遊ぶのやめろよ。またお前の毛ついてたぞ」
「そんなに触られたくないのなら、金庫にでもいれといたらどうかね」
「またそれかよ」
「細かいことを気にしていると禿げるぞ」
「知るか。お前も何が気にいらないのか知らないが、やることがみみっちいんだよ。地球を亡ぼしにきた、恐怖の大魔王のくせして」
「お望みなら、いますぐ亡ぼしてやろうか」
 貴方と一緒に亡びるのならば、それも悪くない。
「まーたそういうことを。何、なんで機嫌悪いの?」
 貴方が、死へと近づいているからだ。
 何て言えるわけがない。
「お土産ないから」
 つーんと澄まして答えると、
「みみっちいね! 恐怖の大魔王」
「お徳用カリカリは不味い」
 いや、これは本当。
「猫のくせに我が侭言うなよ」
「猫じゃない!」
「カリカリ喰うくせに」
「それしかないからだ! 高級猫缶を要求する!」
「猫じゃないかよ!」
 毎度毎度繰り返されるやりとり。
 貴方の呆れたような声も、愛おしい。
 数回やりとりを繰り返して、
「じゃあ、とりあえずコンビニで買ってくるよ」
 いつもと同じように折れた貴方が、部屋を出て行く。
 私は、少しの征服感を持ってそれを受け入れると、部屋の真ん中で丸くなった。
 この部屋に、座布団なんて気の利いたものはない。
 まあ、その代わり、貴方の膝の上という、最高のものがあるのだが。あいにくそれは出払っている。
 自分でコンビニに行かせた癖に、早く帰って来て私をまた膝の上にのせてくれないかな、なんて現金なことを思う。
 私は我が侭だ。
 そんなことを思っていると、がちゃりとドアが開く音がして、外の空気が入ってきた。
「どうした、はやいじゃないか」
 丸まったまま、声をかける。
「忘れ物か?」
 財布でも忘れたんだろうか。
 買い物に行ったのに、ばかだなあ!
 からかうように言ったのに返事は無い。
「どうした?」
 言いながら、振り返り、
「え?」
 私は言葉を失った。
 見知らぬ女が、立っている。
 貴方と同じような、スーツに見を包んだ、女。
 え、誰?
「黒猫の、ミザリー?」
 女が、堅い声で言う。
 ああ、ただの猫のくせに、私は今喋ってしまった。
 どうしよう。どうにか、ごまかさないと。
 ごまかすって、どうやって。
 色々考えるように視線をさまよわせてから、
「にゃー」
 猫のように一度鳴いた。
 でも、今更ただの猫のフリをしても無駄だった。
「地球を亡ぼしにきた、恐怖の大魔王?」
 女が呟く。
 ああ、なんでその設定がバレているのだろうか。
 貴方が言う訳ないけど、どこかからバレたのだろうか。
 どうしたらいいかわからなくて、女を見る。
 女も私をじっと見つめる。怖い程の無表情。
 動けないでいると、女がふっと短く息を吐いた。
 次の瞬間、女は持っていた鞄を投げ捨てる様にすると、キッチンに走る。猫のような瞬発力で。
 戻って来た、女の手には、きらりと光る刃物があった。
 包丁だ。
 何故女がそんなものを持ち出してきたのかわからず、私は戸惑っていると、
「退治しなきゃ」
 女が呟く。
 どこか焦点の定まらぬ目で。
 これは、まずい。
 危険を感じ、私はテレビの裏に逃げ込んだ。
 狭い部屋の中、逃げる場所が他に思いつかない。
「魔王なら魔王らしく! 大人しく勇者に倒されなさい!」
 女が叫ぶ。
 おかしい。
 この女は、おかしい。
 一体、なんだっていうんだ。
 必死に体を小さくする。
 お願い、はやく帰って来て。
 ただの小さな猫の私は、どうしたらいいのかわからない。
 こんな展開、何度もやりなおしてきた中で、なかった。
 がっしゃんっと派手な音がして、顔をあげる。
 私を隠していたテレビが、女の手によってなぎはらわれていた。
 ああ、一体、なんだっていうのだ。
 この、女は。
「彼を返してよっ!」
 女が叫び、手を伸ばしてくる。その手を、咄嗟に引っ掻いた。何度も、何度も。
 かなり痛いはずなのに、女の手は止まらない。
 なんで、どうして。
 こんな展開、今までなかったのに。
 貴方を助ける為に、色々してきたのに。裏をかいて、裏の裏をかいて、何度も何度もやってきたのに。
 どうして。
 がっと、体が押さえつけられた。
 動けない。
 女の右手で刃物が光る。
 咄嗟に、貴方の名前が口からでた。
 瞬間、女の顔が醜く歪む。
 ああ、それでわかった。
 この女は、貴方に惚れているのだ。
 だから、私のことが憎いのだ。
 私が貴方を、独り占めしているから。
 少しの優越感と、女の勘でそれを自覚したときにはもう遅かった。
 刃物が、振り下ろされる。
 体を貫く灼けるような痛みに声がでない。
 何度か衝撃がきて、途中からもうよくわからなくなった。
 ああ、でもこの展開は想定していなかった。今までなかった。
 だったら、もしかしたら、何か変わるだろうか。
 貴方を、助けられるだろうか。
 薄れ行く意識の中でそんなことを思う。
 裏を読んで動いてきた。裏の裏も。でも、裏の裏の裏はない。
 裏の裏は、表じゃない。
 裏の裏の裏は、ただの裏じゃない。
 だったら、なにかが、変わるだろうか。
 消えそうな意識のなか、ドアが開く音を耳が捉えた。
 外の空気が流れ込んでくるのを感じる。
「ミザリー?」
 怪訝そうな、貴方の声。
 ああ、顔が、見たい。
 終わってしまう前に。
 貴方が、無事なことを、確認したい。
 最期に。
 私は我が侭だから、貴方をまた失ってしまうことが耐えられない。
 でも、貴方よりも先に逝くのは、それはそれでいいかもしれない。
 私は我が侭だから。
 貴方はきっと、傷つくだろうに。
「ミザリー!」
 慌てた貴方が走ってくる。
 貴方の息づかいが聞こえる。
 さぁっと、風が部屋にはいってくる。私を迎えにきたかのように。
「……りん、たろう」
 名前を呼ぶ、貴方の。
 ごめんね、私、我が侭だから。
「ミザリー!」
「わたしね、」
 最期は、貴方に拾われた、可愛い小さな黒猫のままでいたい。
「りんたろうのこと」
 願わくは、この未来の先の貴方は、生きながらえますように。
 私を愛してくれた、優しい貴方が、優しい世界で生きていけますように。


「だいすき、だよ」
 
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