表立って載せるほどではない小噺と、あとがき。 その他キャラ設定などなど、徒然なるままに書き連ねるページ。 

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
    --:-- | Top

魔王退治

フリーワンライ企画参加作品

お題
三角の愛
プレゼント
愛してるの数だけ嫌いになるの
闇の中の光

時間60分
 **

「ね、背中、なんかついてるよ」
 そう声をかけると、彼は首を捻って背中を見ようとした。
「まって、とる」
 言って手を伸ばす。スーツ越しとはいえ、触れる口実が出来て嬉しい。
 髪の毛とはまた違う、毛。黒いそれは、きっと猫のもの。
「あー、ミザリーの。ありがと」
 彼が笑うから、どういたしまして、と私も笑い返しながら、内心舌打ちした。こんなときまででてきやがって、ミザリーとかいう黒猫め。
 同じ大学の彼に恋しているものの、その状況は芳しくない。
 現在、絶賛三角関係なのだ。っていうか、私の横恋慕?
 彼が今、熱をあげているのは、彼が飼っている黒猫だ。ミザリーとかいうらしい。そのミザリーなる黒猫の世話を理由に、最近の彼はめっきり付き合いが悪い。飲み会にも全然来ない。嫌になってしまう。
 彼がその、黒猫のミザリーとやらを好きになると、その分私はその黒猫のミザリーとやらのことが大嫌いになる。見た事無いけど、相手猫だけど、ばかばかしいのはわかっているけど。
 まあ、最近は飲み会っていう感じじゃないけど。
「どんな感じー、しゅーかつ」
「んー、よくはないねー。今日もびみょーだし」
「あー、私もー」
 お互い見慣れぬスーツ姿で並んで歩く。私達は今、絶賛就職活動中なのだ。正直、つらい。
 それでも、筆記試験の会場で見慣れた彼の姿を見かけた時は、テンションがあがった。恋する女子は現金なものである。
「なんか、希望とかあるの?」
「んー、もうなんでもいいかなーって感じ」
「わかるー」
 適当なことを言いながら、ゆっくり歩く。
 ああ、いい感じだ。話題が就活ってとこが最悪だけど。
 大学の最寄り駅まで戻ってくる。彼も私も、この駅だ。
「それじゃあ」
 駅から反対方向だから、彼はさくっと片手をあげて帰ろうとする。
「あ、ちょ、よかったら、お茶しない? 就活の情報交換っていうか」
 このまま帰るのがもったいなくて、慌てて声をかける。
 ってまあ、どうせ、
「あー、ミザリーが待ってるから」
 そう言われると思ってましたけどね。
 また猫に負けたことにイラっとしながら、彼を見送る。
 ああ、そう。それなら、それでいいわ。
 妙に早足で歩いて行く彼の後ろ姿をしばらく見つめ、ちょっと考えて、あとをつけだした。
 そりゃあ、確かに、これはストーカーじみている行為だとは思っている。けど、それでも私は彼の家を突き止めたい。
 いや、この言い方は正確じゃない。
 ミザリーとかいう黒猫を、一目でいいから見たい。
 私の恋敵だ。いや、相手はただの黒猫だということはわかっているのだけれども、それでも。どうにもこうにも、やつは強力な敵に思えるのだ。これ、女の勘!
 彼は後ろを気にすることなく、すたすた歩く。結構早足だから、ついていくのに苦労した。そんなにはやく、ミザリーに会いたかったか。
 そして、五分程行ったところで、古いアパートの二階にあがっていく。そして、二階の一室に姿を消した。
 なるほど、ここが彼の家か。
 ミザリーとやらは家猫だろう。ということは、外で待っていても見られないだろうな。うーん、しかしやはり、一目でいいから見たい。
 ちょっと悩んでから、そっと二階にあがる。古びた外階段がぎしぎし音を立てるから、びくびくした。
 そっと忍び足で彼の家に近づくと、ドアの前で耳をすます。
 いやもう、完全に不審者なのはわかってますけどね。
「お土産はないのかね?」
 声がした。
 女の声。
 え? 女と一緒にいるの?
 くっそ、黒猫は隠れ蓑で実はカノジョいたってオチ!?
 さらに耳を澄ますと、
「またそういうことばかり言う」
 呆れたような彼の声。
 そして、女の名前を呼んだ。
「ミザリー」
 ……は?
 ミザリーって猫の名前じゃなかったわけ?
 ああ、そうか。猫って嘘ついていたわけ? どっかの外国の女にでもひっかかったってこと?
「つーか、スーツで遊ぶのやめろよ。またお前の毛ついてたぞ」
 あ、そうだ。猫がいることだけは確かなのだ。だって、猫の毛がスーツについてた。それには確かに見て、触れた。
「そんなに触られたくないのなら、金庫にでもいれといたらどうかね」
「またそれかよ」
「細かいことを気にしていると禿げるぞ」
「知るか。お前も何が気にいらないのか知らないが、やることがみみっちいんだよ。地球を亡ぼしにきた、恐怖の大魔王のくせして」
 はぁぁ?
 何それ、恐怖の大魔王ってなに? ノストラダムス?
「お望みなら、いますぐ亡ぼしてやろうか」
 女の声がそれに答える。
 え? なに? なんなの? この電波な会話?
 彼はあれなの、電波な外国人女ミザリーと同棲しつつ、よくわかんないけど黒猫も飼ってるって感じなの?
「まーたそういうことを。何、なんで機嫌悪いの?」
「お土産ないから」
「みみっちいね! 恐怖の大魔王」
「お徳用カリカリは不味い」
「猫のくせに我が侭言うなよ」
「猫じゃない!」
「カリカリ喰うくせに」
「それしかないからだ! 高級猫缶を要求する!」
「猫じゃないかよ!」
 さらに聞こえてきた会話に、頭がくらくらする。
 え、なに? 彼は猫と会話する変な人になったの? だって猫相手の会話だよね? いや、猫も答えてるけど? え、それで、恐怖の大魔王?
 聞こえてきた会話を必死に整理していると、
「じゃあ、とりあえずコンビニで買ってくるよ」
 そんな声が聞こえて、我に返る。
 え、もしかして、外に出る系?
 ドアにぴったり耳をおしつけていた私は、慌てて立ち上がると、派手な音がするのも構わず、階段を駆け下りる。
 外に出て適当な電柱に身を隠したところで、彼が部屋から出て来た。
 スーツの上着を脱いだ姿で、足元はサンダルで歩いて行く。
 よくわからないが、どうやらナチュラルに猫にぱしられてコンビニに行くようだ。
 その姿が見えなくなると、私はまたゆっくりと階段をあがる。
 彼の部屋のドアノブに手をかける。
 それはゆっくりとまわり、ドアがあいた。
 鍵をかけていかなかったようだ。
 不用心な。
 部屋の中に入り込む。
 これはもうストーカー以上だという自覚はあったが、だからといって細かいことを気にしている場合じゃない。
 気になること、だらけだ。
 恐怖の大魔王? にわかには信じられない夢物語だけれども、もしもそれが本当ならば、彼を助けなければいけない。
 だって私は、彼が好きだから。
 後ろ手にドアをしめると、音がした。
「どうした、はやいじゃないか」
 女の声がした。
 さっきも聞こえた、女の声。
 目を凝らす。
 電気のついていない部屋の中、女の姿は見えなかった。
 あるのは、部屋の真ん中で丸まって寝ている、黒い猫の影。
「忘れ物か?」
 声は間違いなく、そこからした。
 ああ、なるほど。
 それを見た途端、全てが腑に落ちた。
 恋敵なんかではなかった。
 もっと、酷いものだった。
 彼が人付き合い悪くなったのも、みんなこいつのせいなんだ。
 この、悪魔の。いや、地球を亡ぼしにきた恐怖の大魔王だったか?
 そんな夢物語のような言葉を、私は今、素直に信じられた。
 だって、喋る猫なんて、いるわけがない。こいつが変な生き物なのは確かだ。
 彼はきっと、こいつに洗脳されているんだ。操られているんだ。そうじゃなかったら、何か弱みを握られているのかもしれない。
 なんだって、構わない。
「どうした?」
 返事が無いことを不審に思ったのか、黒猫が振り返る。
「え?」
 私を見て、戸惑ったような声を発した。
「黒猫の、ミザリー?」
 わかっていながら、私は問いかける。
 黒猫の悪魔は困ったように視線をさまよわせてから、
「にゃー」
 一度鳴いた。
 猫のように。
 今更、猫のフリをしても、無駄なのに。
「地球を亡ぼしにきた、恐怖の大魔王?」
 呟く。
 猫は何も言わない。
 ああ、なるほど。
 そういうことなのか。
 それなら、私に出来ることはただ一つ。
 持っていた鞄を投げ捨てると、キッチンに走る。
 何処の家にも包丁ぐらい置いてあって、どこの家も包丁の置き場所なんて大体同じだ。彼はおあつらえむきに、流しの籠に置きっぱなしだった。
 暗い部屋の中、窓から差し込む光で少し刃が光る。暗闇の中の、希望の光のように。
 そんなに好きじゃないけど、私だってゲームぐらいしたことがある。漫画だって読む。
 魔王をどうしたらいいかぐらい、知っている。
「退治しなきゃ」
 呟くと、黒猫の悪魔を見る。
 危険を察知したのか、黒猫は逃げるかのように、狭いテレビの奥に身を隠す。
 往生際が悪い。
「魔王なら魔王らしく! 大人しく勇者に倒されなさい!」
 叫ぶ。
 ああ、自分で何を言っているのかわからない。
 だって、こんな夢みたいなことが自分の人生におきるだなんて思っていなかったから。魔王退治なんて。
 魔王だから、猫のように見えてなにか攻撃をしてくるかもしれない。地球を亡ぼされちゃうかも。
 だからってやめるわけにはいかない。
 彼を助けなきゃ。
 この悪魔から。
 守らなきゃ。
 倒さなきゃ、彼は解放されない。いつまでも、この黒猫に縛られたまま。
 テレビをなぎはらうと、隠れたはずの黒猫の姿が見えた。
 倒れたテレビが、派手な音をたてる。
 黒猫の瞳に怯えた色が見えて不愉快になる。
 魔王のくせに。何、被害者面しているの?
「彼を返してよっ!」
 手を伸ばし、引きずりだそうとする。
 爪でひっかかれた。
 でも、こんなもの痛くない。
 こんなところで怯んでいる場合じゃない。
 はやくしないと。
 彼が帰って来たら止められるかもしれない。
 魔王に洗脳されている彼は、私を止めるかもしれない。そんなんじゃ意味が無い。
 はやくはやくはやくはやく。
 ようやく、左手でその動きを止めることができた。
 右手に持った包丁を振り上げる。
 猫の口から、彼の名前が叫ばれた。
 助けを求めるかのように。
 媚びるように。
 何それ?
 ああ、不愉快だ。
 猫のくせに。
 魔王のくせに。
 私が彼を解放してあげるの。
 これは私からの、彼へのプレゼント。
 そうして勇者は、その剣を振り下ろした。
 何度も、何度も。
 がちゃ、っとドアがあける音。
「ミザリー?」
 彼の声。
 こちらに近づいてくる。
「仁科さん?」
 彼が私の名前を呼ぶ。
「なに、してるの?」
 私は振り返って、微笑んだ。

「魔王は、退治されました。もう、大丈夫だよ」

 さあ、ここから、私達の物語をはじめましょう。
 
Comment
 
 






(編集・削除用)


管理者にだけ表示を許可
 
Trackback
 
 
http://dfreedom.blog6.fc2.com/tb.php/257-4e15ca53
 
 
プロフィール
 
 

小高まあな

Author:小高まあな
FC2ブログへようこそ!

 
 
最新記事
 
 
 
 
カテゴリ
 
 
 
 
月別アーカイブ
 
 
 
 
リンク
 
 
 
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。