表立って載せるほどではない小噺と、あとがき。 その他キャラ設定などなど、徒然なるままに書き連ねるページ。 

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うちの可愛い黒猫

フリーワンライ企画参加作品

お題
10年前の手紙
画面の向こう側の君
冷たい指

時間60分

 **
 最近、ミザリーの様子がおかしい。

 ミザリーというのはうちで飼っている黒猫だ。表向きは。
「だぁぁ!! ミザリー! あれほどスーツに近づくなって言っただろうがっ1」
 悲鳴をあげて毛だらけのスーツを救出する俺を見て、ミザリーははんっと鼻で笑った。
「そんなに大事なら、金庫にでもしまっておいたらどうかね」
「意味わからんわっ!」
 何が金庫だ! そんなもんあるか!! っていうか、そういう問題じゃねーよ!
 ミザリーというのはうちで飼っている、この黒猫だ。つまらなさそうに、スーツの上から座卓の下に寝場所をうつした、この黒猫。
 でも、それは表向き。
 実のところ、こいつは、自称地球を亡ぼしにきた恐怖の大魔王なのだ。ひょんなことから下僕認定された俺は、彼女を養っている。なんというか、まあ、なりゆきで。
 地球を亡ぼしにきた恐怖の大魔王という言葉が嘘か本当か、俺には確かめる術がないけれども、事実ミザリーは人語を喋る。俺の頭がおかしいのでなければ、ただの猫でないことだけは確かだ。
 コロコロで必死に猫毛をとりながら、ちらりとミザリーに視線をやる。
 最近、ミザリーの様子がおかしい。
 確かに、今までも今日と同じ様に無意味なちょっかいをだしてきて俺に怒られたりしていた。が、それにしても、やはり、最近おかしい。機嫌が悪い、というか。
「ミザリー」
 呼んでも返事は無い。
 部屋着からスーツに着替えながら、話を続ける。
「なあ、怒ってるのか?」
「怒ってる? 何に?」
 今度は冷たい言葉が返ってきた。
「この前、地球を亡ぼせばいい、とか言ったこと」
 ミザリーの機嫌が悪いのは、あの日からだ。就職活動に疲れた俺が、冗談で地球を亡ぼしたらいい、とか言い出したあの日。ミザリーが本当に恐怖の大魔王なのかどうか知らないが、そこに俺が踏み込んだことが不満だったのかもしれない。よくわからないけど、なんかミザリーのプライド的に。
「そんなことで怒っているわけないだろ」
 呆れたようなミザリーの声。でも、やっぱり、今までと違う気がする。
「でも、」
 なおも食い下がろうとした俺に、
「そんなことより、遅れるぞ。今日は説明会なんだろ」
 言われて時計を見る。うぉ、本当だ!
「ちょっ、続きは帰ってからな!」
 慌てて上着とネクタイと鞄を掴むと、家を飛び出す。
 ああ、めんどくさい。就活も、スーツも、働くことが、めんどくさい。
 だからって、やめるわけにはいかないんだけれども。駅のトイレで身だしなみを確認すると、よしっと気合いを入れた。

 説明会で、他の学生達の熱気に圧倒され、やっぱりもっとがんばんなきゃいけないのかなーと、ブルーになりながら帰宅する。
「ただいまー」
 玄関のドアをあけると、
「おかえり」
 珍しく、ドアをあけてすぐのところでミザリーが待っていた。
 お、なんだ。かわいいじゃないか。
「どうした?」
「土産は?」
 え、土産目当て? なかったらどうすんの。
「あるよ」
 帰りに買ってきた魚の袋を掲げると、満足そうにミザリーは頷いた。買っといてよかった。手ぶらだったらさぞかし詰られたことだろう。
「君のことだから、私の機嫌を取る為に何か買ってくるだろうと思っていてね」
 ふふんっと嬉しそうに笑う。
 猫に読まれる俺の思考回路って。
「今用意するから、待って」
「ああ」
 ミザリーは頷く。が、そこから動かない。あの、どいてもらわないと部屋にあがれないんですけれども。
 困惑してミザリーを見ると、ミザリーの目が不満そうに細められた。
 ああ、そういうことか。
「ただいま」
 手を伸ばして頭を撫でる。
 ただの猫ではなく恐怖の大魔王のくせに、ミザリーは撫でられるのが好きだ。
 嬉しそうに目を細め、満足したのか道をあけてくれる。
「それにしても手、冷たいなぁ!!」
 散々人の指を堪能したくせに、ミザリーはそんなことを言う。
「心が温かいんだよ」
「そんなこと、知っている」
 間髪入れず、ミザリーが答えた。
 それも、なんだか、俺の知っているミザリーの反応とは違う気がする。今までのミザリーだったら、誰の心が温かいんだね? とか言い出しかねないのに。
 ミザリーにいじられないようにスーツを高いところに吊るすと、いつもの部屋着に戻る。魚をミザリー用の皿に載せ、床に置くと、ミザリーは嬉しそうに鳴き、食べ始めた。
「さっきの話の続きだけど」
「しつこいなぁ! モテないぞ」
 うるさいなぁ。
「怒ってるんじゃないのかもしれないけど。なんか、最近、俺、ミザリーのこと、遠くに感じる」
 素直に思ったままを言うと、魚を食べていたミザリーの動きがぴたりと止まった。
 そう、多分この感覚が近い。怒っているようなミザリーが気になるのは、今までわかっていた気でいたミザリーの気持ちがわからなくなっているから。俺は、それなりに、この奇妙な黒猫と心を通じ合わせていることができていると思っていただけに、それがショックなんだ。
「遠い?」
「遠いよ。なんか。近くに居るのに、見えるのに、手が届かない気がする」
 届くんだけど、実際は。それでも、なんていうか、
「ミザリーがテレビの中にいるみたい」
 画面の向こうに見える芸能人は毎日見ていても、俺の知り合いじゃないし、俺の手の届く所にはいない。あの感覚に似ている。
「……そうかねぇ」
 ミザリーは感情のよくわからない声で一言そういうと、また魚に向き直った。
 ミザリーが実際のところ何を考えているのかはわからないが、とりあえず俺の言いたいことは言えたので満足だ。
 ミザリーが魚を食べているのをしばらく眺めてたが、ふっとそういえば今日は郵便物がきていたことを思い出した。
 ミザリーを撫でるために靴箱の上に放り出したそれを取りに行く。
 DMに紛れて、変な手紙が一通。差出人が、俺の卒業した小学校。今更なんだ? 首を傾げながらあけると、中から汚い字で書かれた手紙が出てきた。
「なんだね、それは」
 気になったのか、ミザリーが食事をやめて、俺の膝の上に飛び乗る。
「あー、これあれだわ。未来の俺への手紙」
 授業で書いたのだ。10年後の自分への、手紙。つまり、この汚い字は、俺の字だ。
「字の巧拙は今と変わらないと思うが」
「うるさいなぁ」
「先日の、履歴書も酷かったじゃないか」
「あれはお前が途中で書くの邪魔したからだろうが!」
 ごちゃごちゃ言いながら、手紙に目を落とす。我ながら読みにくい字で書かれていたのは、10年後の、つまり今の俺に対する、無邪気な10年前の俺の憧れと夢だった。
「野球選手には、なっていないなぁ」
 手紙を読んだらしいミザリーが呟く。
「そうだな」
 野球選手の夢なんて、中学一年の夏には消えたのに。
「有名人にもなっていないし、テレビにもでていないな」
「そーだな」
 当時の俺は、何がなんでも有名になりたかったようだ。やたらとテレビに出そうな職業ばかりを羅列して、それになれたかどうかを訊いてくる。
 野球選手にはなれましたか? それとも有名人になりましたか? お笑いですか? 歌ですか? テレビにはでましたか?
 実際の俺は、就職活動でひーひー言っている、しょうもない大学生だ。
「きらきらしてんなー」
 10年前の俺が、今の俺を見たらさぞかし絶望することだろう。
「夢があって」
 今や夢もなにもなく、ただ生きていくために、もうどこでもいいから就職出来たらいいなーと思っている。敢えていうならば、就職することが夢になってしまっている。
「これじゃあ、だめだなー」
 軽い調子で、巫山戯半分ぼやいてみたところ、
「そうだな」
 重たい声が返ってきた。真剣な声色。
「ミザリー?」
「夢も何もないのに、ただ皆がそうしているからという理由で、就職するのはやめたらどうかね」
「いやいや、そういうわけには」
「そこまで就職して、身を粉にして働く意味が、あるのか?」
 真剣な瞳がじっと見てくる。
 ああ、なんだか凄く久しぶりに、ミザリーと本気で目があった気がする。
 そして、もしかして、ミザリーがここのところ機嫌が悪かった理由って……。
「なぁ、もしかして、俺が就職するのが嫌なの?」
 ミザリーの髭がぴくっと震える。図星をつかれたように。
 ああ、なんだそういうことか。
 俺は、俺の中に出た結論に満足すると、
「確かに、今までほど構えなくなるけど、ミザリーを捨てたりしないって」
 言いながら頭を撫でる。
 ミザリーはなんだか一瞬、これは今の俺でもわかるぐらい不愉快そうな顔をしてから、
「猫じゃないんだが」
 いつものように言った。
「知ってるよ。恐怖の大魔王さん」
 でも今は、うちの可愛い黒猫だ。
 その証拠に、さっきまで不満そうな顔をしていた癖に、気持ち良さそうに喉をならしはじめた。
 ミザリーが本当に地球を亡ぼしに来た恐怖の大魔王なのかも、いつか本当に地球を亡ぼすのかどうかもわからないけれども、彼女が望むのならば俺は彼女を放り出したりしない。
 今の俺は、この風変わりな黒猫が大好きで大事なのだから。
 出会ってまだ、半年経つか経たないかぐらいだけれども、まるでずっと昔からそうだったかのように、ずっとずっと一緒だったかのように、今やミザリーは俺の生活の一部なのだ。
 
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