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表立って載せるほどではない小噺と、あとがき。 その他キャラ設定などなど、徒然なるままに書き連ねるページ。 

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私のエゴだよ

フリーワンライ企画参加作品

お題
卒業する前に
しゃりしゃり
「あなたを思うから僕はこうするのです」
忘れ去られた記憶

時間60分

 **

「ミザリー」
 背後から名前を呼ばれて、
「んー」
 私は適当に返事をする。視線はテレビに向けたまま。
 リポーターの女が、「うーん、しゃりしゃりですねぇー!」と言いながら、何やら白い物体を口に運んでいる。
「なあ、あれは何だ」
「かき氷。じゃなくて、ミザリー」
 再度呼ばれて、仕方なく振り返る。
 男が一人、真剣な顔をしながら私を見て、
「お前は、いつまでそうしているつもりなんだ?」
「そう、とは?」
「毎日毎日テレビをいてごろごろして過ごす猫みたいな生活だ」
「猫だからな」
 黒猫の自分の足を見ながら答える。
「いつも猫を否定しているくせに、都合いいな」
 ぼやかれた言葉は聞こえないフリをした。
「そうじゃなくてだな。ミザリーは、地球を亡ぼしに来た恐怖の大魔王なんだよな?」
「ああ」
「いつ地球を亡ぼすのかってことだよ」
「気が向いたらな」
 にゃんっと猫らしく、鳴いてみた。
「……なあ、ミザリー。悪いことは言わない。そろそろ、はっきりさせた方がいいんじゃないか」
「何を」
「地球を亡ぼした方がいいと思うんだ。それがお前の仕事だろう?」
 俺は、お前のためを思って言うんだぞ、と続ける。
「気が乗らないのかもしれないが、期限を決めた方が良い。いつまでも先延ばしにしていたら、お前の存在にも何かしらの影響ああるかもしれないだろ? そうだな」
 少し悩むような間を置いてから、
「俺が大学を卒業するまで、とか」
 私はその言葉を、わざとゆっくり時間をかけて理解し、
「つまり、就職するのが嫌なんだな」
 男の机の前に置かれた、エントリーシートを見ながら言った。
「……そうだよっ!」
 男は悲鳴のような声をあげて、
「もういやだ!」
 そのまま畳にねっころがった。
「働きたくない!!」
「じゃあ、やめればいい」
「そういうわけにもいくか!」
「難儀なものだなー、人間は」
 私はわざとらしく、呟いた。

 そう、人間は難儀なものだ。
 もう疲れたよー、とかいう男の傍により、大人しく撫でられてやる。
 ある一定の年齢になったら就職して、働かなければいけない、なんて固定観念に縛られているなんて。それが、貴方を、

 殺すのに。


 私は、貴方に嘘をついている。
 私は、地球を亡ぼしにきた恐怖の大魔王なんかじゃない。
 私は、貴方を救いに来た、ただの黒猫だ。
 貴方は覚えていないだろう。それが、正しい。
 今の私は、恐怖の大魔王として貴方に拾われ、貴方の家で生活している。その前、ずっと前、一番最初の私も貴方に拾われた。ただの、黒猫として。
 私がまだ、ただの黒猫だった時、貴方は長いこと付き合っていた恋人と別れたとかで、傷心だったそうだ。そして寂しくて、なおかつ酔っぱらった勢いで、捨てられて震えていた仔猫の私を拾った。
 たまたま、その夜テレビでやっていた映画から、私はミザリーと名付けられた。
 最初の私は幸せだった。貴方は、どうにもこうにもルーズな大学生だったけれども、私には優しかった。いつも優しく、頭を撫でてくれた。とても、とても幸せだった。
 貴方が、就職するまでは。
 貴方が最初に就職した会社は、俗にいうブラック企業だった。長時間のサービス残業、泊まり込み。日々怒鳴られ、貴方はどんどんやつれていった。
 酷い顔色をしながらも、貴方は私の世話だけは忘れなかった。ただ、それはとても機械的だった。貴方は、私を撫でてくれなくなった。
 私はそれを寂しく思い、そして、あの日。
 やけに早く、仕事から帰って来た貴方は、とてもとても久しぶりに私の頭を撫でた。私はその指を、微睡み中で感じていた。
 猫の私は、睡魔に勝てず、貴方が久しぶりに撫でてくれたことを、夢心地の中、嬉しく感じていた。
 それが、最期だった。
 目覚めた私が見たのは、天井からぶら下がっている貴方だった。

 自殺、という言葉を、その時の私は知らなかった。
 ただ、貴方がもう私を撫でてくれないことだけはわかった。
 私は、貴方を救えなかったことも。
 今なら思う。
 実にばかばかしい。
 そんなになる前に、会社など辞めればよかったのだ。どうにでもなるのだ。何が、最低でも三年は勤めなければいけない、だ。命が一番大事決まっている。
 人間は、実に、愚かだ。

 私は貴方を救えなかった。
 私の存在は、貴方を癒してあげられなかった。
 私は後悔して後悔して後悔して。
 人間を憎んで憎んで憎んで。
 やり直しを願った。
 そして、祈りは悪魔に通じた。
 神にではない。
 悪魔にだ。


 私は、やり直す力を手に入れた。
 人語を話せるようになった。
 そうして私はやり直すことにした。
 貴方と初めて出会ったあの日から。
「私はミザリー、地球を亡ぼしに来た恐怖の大魔王だ!」


 そのやり直しも、もう何度になるだろうか。
 何度やっても、私は貴方を救えない。
 同じような時間に、貴方はいつも死んでしまう。違う会社に入っても、死因は違っても、貴方は私を残していなくなってしまう。
 その度に、私は最初の時に戻る。
 貴方を救うために。
 何度でも。何度でも。


 私は、地球を亡ぼしにきた恐怖の大魔王なんかではない。
 でも、それに近いものかもしれない。
 何度も何度も繰り返して、地球はこの数年から先に進んでいない。地球の時はとまって、死んだようなものかもしれない。
 何度も何度も繰り返しているから、貴方の周りの人達に記憶に少し齟齬が出始めている。
 例えば、貴方が恋人と別れたとか、別れていないとか、そもそもいなかったとか。たったそれだけのことが、既になんだかよくわからなくなっている。
 このまま繰り返していけば、いずれきっと壊れてしまう。
 矛盾した記憶を抱えたまま、それに耐え切れず、地球は亡びてしまうかもしれない。
 私は本当に、恐怖の大魔王になるのだろう。
 でも、それならそれで構わない。
 貴方が居ない地球が存在するのは認められないが、地球が先に亡びてしまうのならば、貴方と私が一緒に亡びてしまうのならば、それで構わない。
 

 貴方は、私のことを思って言うのだと言った。
 私は、貴方のことを思って、今の繰り返しをしているのではない。
 貴方が居ない地球で生きていく私が耐えられないだけ。


「ミザリー、俺もうやだよぉー」
 貴方の、頭を撫でてくれる優しい指を感じながら、私は目を閉じる。
 私は、貴方のことを思って、今の繰り返しをしているのではない。
 貴方を、助けたい。
 それは、ただの、
「私のエゴだよ」
 
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