表立って載せるほどではない小噺と、あとがき。 その他キャラ設定などなど、徒然なるままに書き連ねるページ。 

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ギリギリチョコレート

「はいっ!」
 怒ったような顔をして、乱暴につきだされたその包みがなんなのか、最初わからなかった。
「……あの、アリスお嬢様これは?」
 白藤銀次は、庭のベンチに座っていつものように本を読んでいた。そこにずんずんと凄い勢いで鈴間屋アリスがあらわれ、目の前に突き出して来たのだ。なんか、ピンクの箱を。
「チョコレートに決まってるでしょう! 白藤、バカなのっ?!」
 噛み付くような勢いで怒鳴られた。
 顔を見ると、ものすごく怒っていた。
 鈴間屋の家に居候するようになって数ヶ月。アリスお嬢様の奇想天外で突飛な行動には多少なれているつもりだったが、しかしこれは予想外だった。
 確かに今日はバレンタインだが、チョコレート? アリスお嬢様が??
 彼女がおおよそ、そういうことをするとは思えないんだけれども。
 思いながらも、
「あ、ありがとうございます」
 ぐいぐい差し出されるそれを、慌てて受け取る。それから、自分が座ったままだったことに気がつき、慌てて立ち上がった。
 銀次が受け取ったことで満足したようにアリスは頷き、
「じゃあ、ちゃんと食べなさいよ!」
 偉そうにそう言い残し、来たときと同じぐらいの速さで立ち去ろうとする。
 その背中をあっけにとられながら見つめていると、
「言っとくけど!」
 アリスはぐるっと振り返った。
「義理だからね!」
「……はぁ」
「っていうか寒いんだからこんなとこ居ないで、中はいりなさいよ! 風邪引くわよ! ばっかじゃないの!?」
 怒鳴りつけるようにそういうと、銀次の返事もまたずに、またずんずんと屋敷の方へ戻って行った。
 なんなんだか。
 首を傾げながら、ベンチに再び腰をおろす。
 アリスお嬢様本当、意味わかんないなー。
 思いながら包みをあける。
 可愛らしい小さなアルミのカップに入ったチョコがいくつか並んでいた。上には色鮮やかなカラースプレーがかけられている。典型的な子どもの作ったチョコレートになんだか微笑ましくなる。
 それから、中学の時にクラスの女子にもらったチョコを思い返して、懐かしい気分になったりして。
 偉そうにしているけれども、彼女はまだ十四歳。まだまだ子どもなのだ。
 四歳年上の余裕から、そんなことを思いながらチョコを一つ口に含む。
「……かたっ」
 異様に固かった。
 これはあれか、ただチョコを溶かして固め直しただけのタイプのやつか。そんなことを思いながらも、口の中で噛み砕きながら溶かしていく。なんか微妙に不味い。成分が分離しているっていうか、なんていうか、そのままチョコ食べた方がきっと美味しいんだろうな、なんてことも思ってしまうが、せっかくのアリスお嬢様が作ってくれたチョコレートだ。残す訳にはいかない。
 アリスの父親である鈴間屋拓郎に恩義を感じている白藤銀次は、妙なところで律儀であった。
 そうして、白藤銀次がアリスからのチョコレートを受け取ったのはこれがはじめてであった。
 ゆえに。
「銀次さんっ!」
 妙に慌てたようすで、メイドの優里が走りよってきたときには、銀次は全てのチョコレートを食べたところであった。
「優里さん?」
 優里は、銀次の膝の上におかれた、空の箱を見て軽く悲鳴をあげる。
「え、あの?」
 普段クールを通りこして氷のような彼女の、らしくな態度になにが起きたのかと思っていると、
「アリスお嬢様のチョコレート、召し上がってしまったんですね……」
 低いトーンで言われた。
 はっ、しまった。この異様にお嬢様が大好きな優里にバレちゃいけないタイプの出来事だったんだろうか、なんて思っていると、
「行きますよ」
 ぐっと、乱暴に右手をとられる。
「あ、あの、優里さん」
 なにか弁明しようと口をひらきかけたのを、
「ああ、ごめんなさい」
 まさかの謝罪が遮った。
 あの優里さんが、謝罪!?
「もっとはやく、今朝にでも忠告しておくべきでした。優里としたことが、迂闊でした。本当にごめんなさい」
 優里にひきずられるようにして歩きながら、
「あの、どうしたんですか?」
「はやく、お医者様のところに行きましょう。はやめが肝心です」
「あの?」
「アリスお嬢様はとても可愛らしくて聡明で素晴らしいお方で優里は大好きですし、優里などがアリスお嬢様についてケチをつけるようなこと、身の程知らずにも程がありますが、それでも言わせて頂きますと」
 優里はそこで立ち止まると、重苦しくひとこと告げた。
「お料理がとても苦手です」
 あ、なんか全部わかったかも。
 銀次の顔を見て、優里は一度頷くと、また歩き出す。
「あれは今から四年程前のことです。アリスお嬢様がはじめてチョコレートを手作りしてくださいました。それも、鈴間屋の使用人全員分。優里達は皆、とても喜んでそれをいただきました。その晩のことです、全員が原因不明の腹痛に襲われたのは」
 いや原因明らかだろ、それ
「次の日、アリスお嬢様に心配をかけないように、優里やシュナイダーさんなど一部の人間は気力で働きましたが、八割の人間がダウンして寝込みました。三日程。その次の年も、アリスお嬢様は同じようにチョコレートを作ってくださいました。今度は、くじ引きをして選ばれしものだけが食べました。去年のは偶然かもしれないからです。……偶然ではありませんでした。アリスお嬢様はお料理がとても、苦手です」
「……はやく言ってください」
 っていうか、苦手っていうレベル超越しているだろう。何いれたんだよ……。
 あ、本当になんかお腹いたくなってきたかも……。
 その年、白藤銀次は三日間寝込んだ。




「はいっ!」
 怒ったような顔をして乱暴につきだされた包みを、
「ありがとうございます、お嬢様」
 軽く微笑みながら白藤銀次はうけとった。
 それから、いつもと同じように車の後部座席のドアをあける。
「……もうちょっとなんか反応しなさいよね」
 アリスは不満そうに唇を尖らせてから、素直に車に乗り込んだ。
 最初のバレンタインの悲劇から二年。銀次はアリス付きの運転手として、相変わらず鈴間屋にいて、アリスからチョコレートを受け取っていた。
 空いている助手席に置いたチョコレートをちらりと横目で見る。
 一年目で学習したので、チョコレートは食べない。大変申し訳ないが。もしかしたら、あれから料理が上手になったのかもしれないが、試すつもりはない。
 万が一、それで体調を崩したら支障がでるからだ。
 軽く腹部を撫でる。
 正義の味方、メタリッカーの業務に。
 自分で考えたことに皮肉っぽく唇が歪む。正義の味方ね、よく言ったものだ。
 後部座席のアリスは、なんだか不満そうに唇を尖らせて窓の外を見ている。
 このチョコレートは食べられない。
 それはアリスの料理がとても下手だからだし、去年の分から銀次へのチョコレートだけがあからさまなハート型になったことに気づいてしまったからだし、自分が今、メタリッカーだからだ。
 正義の味方メタリッカーは、悪の手先と紙一重だからだ。
 アリスにはまだ、正体を話していない。話せない。
 だから今はまだ、このチョコレートは食べられない。
「白藤」
「はい?」
「お返し、期待しているから。三倍返し」
「三倍大きなチョコレートですね。頑張って探します」
「そんなこと言ってないでしょ!」
 今はまだ、自分は鈴間屋アリスの運転手だ。
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