表立って載せるほどではない小噺と、あとがき。 その他キャラ設定などなど、徒然なるままに書き連ねるページ。 

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35/ドッグディズ(沙耶・龍一→?)

「お腹がすいた」
「……それで?」
「外は暑そうね。ここはクーラーが利いていて、とても涼しい。わかる? つまり」
「あたしにお昼ご飯を買って来い、そういいたいんでしょ? 自分で買いに行くのも、自炊するのも暑くていやだから」
「当然」
 沙耶の言葉に円は満足そうに頷いた。沙耶が呆れた、と呟いた。
「何がいいの?」
 軽くため息をつきながら、手近なメモ用紙を引き寄せる。
「冷やしうどんとか冷やし中華とか」
「はいはい。清澄と直兄は?」
「何でも。強いて言うなら、ご飯系」
「あー、じゃぁ、ラーメンで」
「了解」
 鞄を掴むと立ち上がる。
 それかふっと、隣に尋ねた。
「龍一はどうする?」
「え?」
 まさか聞かれるとは思っていなかった龍一は少しほうけた顔をして、それから立ち上がった。
「じゃぁ、俺も行くよ。荷物もち」
「そう? ありがとう」
「えっ……」
 ひそかに一緒に行くタイミングをはかっていた直純は小さく声をあげたが、それに気づいたのは隣の円だけだった。
「じゃぁ、行ってきます」
「いってらっしゃい」
 その円は直純の声を黙殺して、片手をふり……、
「あ、ついでに煙草も」
 そう付け加えた。
「覚えていたらね」
 最初から買ってくるつもりのない沙耶は、そう返事をした。

 ぎしぎし、
 相変わらず今にも壊れそうな音のする階段を下りる。
 2階まで降りたところでちらりと、噂の将棋クラブを覗いてみた。
 そしてまた降りていく。
 全部降りきったところで、沙耶は言った。
「お客さん、2人しかいなかったね」
 その言葉に龍一は頷き、
「また、つぶれちゃうかな?」
 肩をすくめて尋ねてみた。
「そうねぇ……、まぁ、こればっかりはしょうがないわ」
 沙耶は苦笑して答えた。



「10月の第四日曜だっけ?」
「そうよ、見事に学園祭とかぶってるけどね。ちょっと、これってどういうこと?」
「どれ?」
 向こうから歩いてきたカップルらしき男女二人組みは立ち止まり、女性が持っていた本を男性が覗き込んだ。
「げ、こんなの知らないし。俺の受けたところは地上波デジタル放送の問題なんてでなかったから」
「もう、この役立たず!」
 女性は一方的にそういいきると、また本を見ながら歩き出す。
「スィ、転ぶぞ」
 男性がその隣に並ぶ。
「法令は大丈夫なのよ。6割どころか8割とる自信がある。うん」
「法律馬鹿だもんな」
「五月蝿い、ホーセイ。でも、一般教養が駄目。何、地上波デジタル放送なんて行政書士に必要?」
「知らないよ。だから、俺が受けたころにはそんなものなかったし」
「ああ、そうよね、ごめん。もう、『走査線525本のアナログ放送に対し、デジタル放送では走査線1125本の高精細な映像が視聴できる』合ってるか合ってないかどころか、意味すらわからないわよ。走査線って何? あー、今年こそ受かりたい。もう落ちたくない」
 女性が一人で憤りながら歩いてくる。
 すれ違うとき、沙耶と肩がぶつかった。
「あ、ごめんなさい」
「いえ。すみません」
 女性はそういって何度か頭を下げると、また本を見ながら歩き出す。
「すみません」
 連れの男性が沙耶に向かって一度頭を下げ、
「スィ、わかったからお前どこかで座ってやれよ。珈琲代ぐらい出してやるから」
 女性に向かってそう話し掛けた。
 そんな二人を見送りながら、沙耶は軽く肩をすくめた。
「大丈夫?」
「別に、掠っただけだし」
 それから龍一の方をみて、少しだけ悪戯っぽく笑った。
「大変そうね、受験生」
「……」
 龍一は明後日の方を向いた。



「暑いわね」
「そうだね」
「でも、提案」
 隣よりも一歩後ろを歩く龍一に言った。
「この次の角を曲がればそこにコンビニがあるわ。でも、あと10分ぐらいかかるけど、別のコンビニがあっちの方にあるの。そっちまで行かない?」
 その提案を却下するだけの理由を龍一は持っていなかった。
 微笑んで頷くと、沙耶は安堵したように息を吐いた。
 ガードレールの傍に止めてあったバイクの上でまどろんでいた猫が、にゃーと一度鳴いた。
 バイクの持ち主らしき男性が道の反対側から、道路を渡ってこちらへ歩いてくるのが見えた。



 二人で何も言わないでただ歩く。
 ほんの十数分のその道を、ただ黙々と。
 この沈黙が心地よいと、僅かに沙耶は笑った。
 そして、そのままを言ってみようかと口を開きかけたときに、
 ききぃっ!
 大きな音がして、二人はそちらを見た。
 それがブレーキ音だと気づいたのは、そこにあったのがバイクだったからだ。
「シン、ありがとう、助かった」
 後ろに座っていたスーツ姿の女性が、転げるようにしてそこから降りると、ヘルメットを投げた。それを片手で受け取り、男性は
「帰りは?」
「あー、出来たら送って」
「じゃぁ、終わったら電話してくれ」
「うん、ホントありがとう」
 女性は走り出そうとして、振り返ると、
「愛してる」
 ヘルメット越しに男性に軽く口付けて、本気なんだか冗談なんだかわからない口調でそう言うと、正面のビルへかけこんだ。
「こういうときだけ愛してるとか言われてもねぇ、俺は便利な足か」
 男性が自嘲気味に呟いて、じっと自分を見ている二人に気づいた。
「……何か?」
 目の前であんな光景を繰り広げておいて“何か?”もへったくれもないと思ったが二人は声を揃えて答えた。
「「いえ、別に」」
 電線にとまった鴉が、一声カァと鳴いた。



「今日はおかしな人に会うわ」
 沙耶がぼそりと呟いた言葉に龍一は苦笑した。
「暑いからね」
「ああ、暑いから」
 その言葉に沙耶は納得したかのように頷いた。
 その傍を高校生ぐらいの男の子が二人、かけていった。
「暑いのにご苦労なことね」
 沙耶がそう呟くと、龍一も一つ頷いた。



 目的地のコンビニについたとき、沙耶は軽く眉をひそめた。
 店先で三人の女の子がたむろっていたからだ。
「マンバメイクっていうんだっけ?」
 隣の龍一に耳打ちする。
「山姥に失礼だよな。まだ見たこと無いけど」
 龍一は答えた。
「意外といい人よ」
「え、会ったことあるのっ!?」
 龍一の驚きの声に軽く微笑み返し、さてはてどうしようかと、僅かに思案して、面倒だから関わらないでおこうかと思ったそのときに、
「あー、またあんた達!」
 後ろから甲高い女の子の声がした。
「昨日に引き続き今日も店先でたむろって居るなんていい度胸じゃないの!」
「魔女さん、昨日注意されたばっかりでしょう?」
 一緒にいた女の子がそう言った。
「今日は三浦君もいないんだから、程ほどにしておきなさいよ」
 そんな忠告なんぞに耳を貸さず、注意した方の女の子は続ける。
「昨日も言ったと思うけれどもそういう、貴方達みたいな子どもがいるから大人に馬鹿にされるのよ。わかっている? だいたいね」
「……あまり厄介ごとに首をつっこまない方がいいと、昨日忠告しなかったか?」
 女の子の言葉をさえぎるように、呆れたような男性の声がした。
「あ、」
 だまって成り行きをみていた沙耶は、小さく声をあげた。
『あれ? 沙耶じゃんっ!!』
 その男性の後ろにいた幽霊が顔中を笑みにして手を振ってきた。
「知り合い?」
「ええ」
 幽霊を指さしながらの龍一の問いに頷き、微笑み返す。
「あ、あなた、昨日の。ここ、貴方の勤務先じゃないんじゃないの?」
「今日は休み。コンビニでバイトしているからって自分のバイト先に行くと思ったら大間違いだ」
 女の子の言葉に青年はそれだけ返すと、沙耶の方を見て、会釈した。
「あのときはお世話になりました。……ええっと、大道寺さん?」
 忘れてたのか、とも思ったが、彼と話したのは少しだけだし、彼が人間ではないという事実を除いてはたいしたインパクトもない出会い方だった。それは向こうも同じだろう。
「はい。お久しぶりです」
 そもそもそう言って笑った沙耶だって、彼の名前をすぐには思い浮かべられなかった。
「神山さん」
 記憶から引っ張りだしてきたその名前に、青年は一つ頷いた。
『沙耶、久しぶりー』
 神山隆二の背中にへばりついていた幽霊はそこからひらりと離れると沙耶に抱きついた。
「久しぶり、マオ」
 マオにだけ聞こえるようにそういうと、マオは満足そうに頷いた。
「ここに用?」
「ええ、お昼の買出しに。職場のみんなの分も」
「ああ、この辺なんだ」
 そう言いながら隆二はマンバと女子高生を放置して店内に入る。
 そのあとに続きながら、沙耶は首を傾げた。
「放っておいていいんですか? お知り合いなんじゃ?」
「まさか。昨日も見かけた正義感の強いじゃじゃ馬女子高生だ。そもそも放っておいても店員が対処しに行くさ」
 そういった隆二の隣を店員がかけていく。
 外に出て行ったその店員は彼女たちに何かを言っているようだった。
 納得いかない顔をしてマンバと女子高生がその場を立ち去る。ただ、女子高生の連れの方は、晴れ晴れとした顔をしていたが。
「ホントだ」
「な?」
 隆二は肩をすくめる。
「神山さんは何を買いに来たんですか?」
「天気がいいから外で飯でも喰おうと思っておにぎり」
「……天気がいい?」
 龍一がその言葉に眉をひそめた。
「些か良すぎるように思いますけど」
 沙耶もそう言って苦笑する。
 無論、彼が人間ではないということを踏まえての言葉だが。
「暑くないし」
『そうよねー』
 沙耶の周りをくるくる回りながらマオが頷いた。
「大道寺さんもよかったら一緒にどう? こいつも喜ぶし」
「せっかくですけど」
 沙耶は微笑んで辞退した。
「仕事中ですし、何よりも、あたしには暑すぎるので」
 そういうと隆二は今気づいたかのように、ああ、と呟いた。
「そうかも」
 隆二は苦笑しておにぎりを二つとる。
 沙耶は頼まれていたものと自分の分のお昼ご飯をかごの中にいれた。
「龍一は? 奢るわよ、500円ぐらいまでなら」
「でも」
「頑張ってる受験生にご褒美」
「じゃぁ、お言葉に甘えて」
 サンドイッチをかごの中に入れると、沙耶は満足そうに笑った。
『ねぇ』
 マオが沙耶の肩越しに龍一を見ながら尋ねた。
『この人が沙耶の大切な人?』
「なっ!」
「マオ」
 顔を真っ赤にして固まる沙耶をみて、隆二はため息混じりにマオをたしなめた。
「失礼だろ」
 そうだったとしても、違ったとしても。まぁ、あの反応を見る限り当っているのだろうが。
 沙耶の後ろで龍一も同じような顔をして固まっていた。
『だってだってだって』
 マオは頬を膨らませながら、隆二の背中にしがみつく。
『この間は上手いことはぐらかされたのよ?』
「だったら尚更だ。はぐらかされたっていうことは言いたくないってことだ。すまないな、この通り中身はお子様なんでな」
 最後の台詞は沙耶と龍一に向かって苦笑しながら言った。
 沙耶は落ち着きを取り戻し、微笑んだまま首を横に振った。
「彼は」
 曖昧な笑顔を浮かべている龍一をしめしながら続ける。
「榊原龍一。あたしの働いている事務所で手伝いをしてくれている人です。あたしの……」
 右手で肩を掴む。
「あたしの、これ、も知っている人なんで」
「ああ、なるほど」
 低く押し殺した声で沙耶が紡いだ言葉にも、隆二はあっけらかんと言葉を返した。
「大道寺さんの理解者ってわけだ。そういう人は大事にした方がいい。いなくなってから後悔しても、どうしようもない」
 微笑みながら隆二は言う。
 マオが軽く唇をかんで隆二から離れた。
「……それは、経験から、ですか?」
「ああ」
 一人で棚の商品を見るふりをするマオに一度視線をやり、沙耶は続けた。
「でしたら、その言葉そっくりそのままお返しします。……いなくなってから慌てて探しにでても、遅いんですよ? いつかみたいに」
 そこでくすりと笑う。
 隆二はきょとんとした顔をして、それからすぐに微苦笑を浮かべた。
「ああ、確かにな」
 そういって横目でちらちらこちらを伺いながらもデザートなんて眺めているマオの右腕を掴んだ。
『……。』
 マオは少しだけくすぐったそうな顔をして笑った。そのまま、また隆二の背中へくっつく。それをみて、沙耶も微笑んだ。
 そして、そんな沙耶をみて、龍一が少しだけ微笑んだことを、本人以外誰も知らない。



 かごをレジに出し、それから隆二は店員に告げた。
「あと、マルボロ」
『隆二! 禁煙!』
 背中にはりついていたマオがわーわー叫ぶ。
 それを無視して隆二は会計を済ませる。
 隣のレジで会計を終えた沙耶に、その買ったばかりの煙草の箱を投げた。
「大道寺さん」
「うわ」
 慌ててそれを受け取る。
「これは?」
「もう一人のねーちゃん、なんだっけ? 名前、確か聞いてないと思うんだけど」
「円姉?」
「そう、その人へ。なんだかんだいってあの時は世話になったし」
 出来れば禁煙を勧めたい沙耶は少しだけ渋い顔をして、それからすぐに笑った。
「ありがとうございます。この上もなく、喜ぶと思いますよ」
 隆二は少し笑うと、沙耶の隣の並ぶ。
 歩きながら、袋をあさり
「あとさ」
 肩でドアを開けながら、目的のものをとりだすと沙耶ではなく龍一に渡した。
「お二人でどーぞ」
「あ、ありがとうございます」
『それねー、あたしが選んだんだよ〜』
 何時の間に買ったのか、二つのソフトクリームを龍一は受け取っていた。
「ありがとうございます」
 ぺこりと頭を下げる沙耶に、
「だから、この間のお礼だって。じゃぁ、まぁ、元気で」
 そう言って笑うと、さっさと歩き出す。
『えー、ちょっと隆二』
 マオが慌てて隆二についていこうとして、もう一度沙耶と龍一の前に戻ってくると二人の手を気持ちだけでも掴んで言った。
『喧嘩しちゃ駄目よ』
「マオもね」
 苦笑しながら沙耶が言葉を返すと、マオはにっこりと笑った。
『大丈夫。喧嘩するほど仲がいいって言うから。ええっと、龍一さん?』
 マオに名前を呼ばれて龍一は慌てて頷く。
『沙耶のことよろしくね。じゃぁ、またね』
 マオはそれだけいって手を振ると、一度も振り返らずに歩いていく隆二を追いかけた。
『隆二ー、待ってよ〜』
 そう言いながらも、時々こちらを振り返って手を振る。
 そして、隆二の背中に再びしがみつくと、もう一度大きく手を振った。
 彼らが角を曲がると、沙耶はくるりと向きをかえて歩き出す。
 慌てて龍一がその隣に並んだ。
「はい」
 そして持っていたソフトクリームを片方渡す。
「あ、ありがと」
「それで、どういう知り合いなの? 仕事上?」
 そのソフトクリームを食べながら龍一が首を傾げる。
「ん〜、前ねマオが神山さんと喧嘩して、あたしの家の前まで家出したことがあるの。そのときに、ちょっとね」
「仲良くなったんだ」
「そう、なんだか放っておけなくて」
「似ているよ」
 真夏の太陽にさらされて勢いよく溶けていくアイスに慌てながら龍一は言った。
「……何が?」
「沙耶が」
「……何に?」
「あの二人に。うわ、溶けるのはやいって」
 真夏の太陽に文句をいいながら、龍一はアイスを消費していく。
 同じように溶けていくアイスに格闘していた沙耶は続きを促さなかった。
 大体食べ終わったところで、もう一度尋ねる。
「神山さんとマオに? あたしが?」
「そう、なんとなくだけどね」
 最後のコーンの欠片を口に放り込みながら龍一は頷いた。
「今日は随分と、誰かに似ているって言われる日なのね」
 おどけて笑う。
「でも、あたしはマオみたいに可愛げがあるわけでもないし、神山さんみたいに落ち着いているわけでもないわ」
「でも似ているよ。なんとなく、だけどね」
 もう一度そういうと、龍一は黙る。
「なんとなくね」
 最後の一口を飲み込むと、
「なら、龍一もなんとなく似ているわ。あの二人に」
「え、なんで?」
「特に、マオにね」
「なんで!」
 沙耶は微笑んで
「さぁ、なんででしょう?」
 それだけいうと少しだけ歩くスピードを速くした。
「沙耶?」
 沙耶は微笑んだまま、黙っていた。
 それを見て、龍一も結局ため息をついて追求するのをやめた。

「それにしてもよく非番の日に会いますね、小鳥遊さん?」
「別に貴方をつけているわけじゃないわよ、笹倉さん」
 二人の横を、そんなやりとりをしている男女が通り過ぎた。

「暑いね」
「でも、さっきよりは涼しいわ。早く戻りましょう。円姉とか遅いとかいって怒りそう」
「円さんなら、大丈夫だよ。煙草があるなら」
「ああ、そうね」
 そういって沙耶はくすくす笑った。



「あたしが何かをして、貴方が怒って離れていっても、またすぐに心配して戻ってきてくれるところ、とかね」
 声にはしないで、口の中で言葉を転がした。
    00:33 | Top
 
 
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