表立って載せるほどではない小噺と、あとがき。 その他キャラ設定などなど、徒然なるままに書き連ねるページ。 

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32/怪談(調律師→裁判委員長)

「そういえば、また、変わったんですね。2階」
 ふらりと現われた龍一が、椅子に腰掛けながら言った。
「2階? ああ。将棋クラブになってたわね」
 宣言通りに現われた彼に嗤いかけながら、円は頷いた。
 龍一はその笑みに居心地の悪さを覚え、僅かに身じろぎした。
「はい、どうぞ」
 心なしか軽い足取りで沙耶は近づくと、テーブルの上にグラスを置いた。
「ありがとう」
「ストロベリーとシャンペンで香り付けをした紅茶。水出しアイスティーよ」
「ふーん。ん、おいしい」
「よかった」
「沙耶、私にも」
 円が言葉とともに差し出してきたグラスにアイスティーを注ぐ。
「直兄と清澄は?」
「俺はいい」
「ちょっとだけ」
 清澄のグラスにも少し注ぐと、自分の分に口をつけた。
「ころころ変わりますね、2階」
 この事務所が入っている5階建てのビル。この事務所は5階にあるが、他の階のテナントはころころ変わっている。龍一が知っている限り、2階は行政書士事務所、喫茶店、何かの事務所、そして今回の将棋クラブへと変貌を遂げている。
 ちなみに、今1階は花屋、3階、4階は空き部屋になっている。
「ん〜、そうね」
 円は机の中からクッキーの缶をだすと、それをみんなに配りながら答えた。
「まぁ、一種の怪談の元ネタみたいなものね。この事務所のせいなのよ、それって」
「え?」
「怪しいでしょ、調律事務所、なんて」
 沙耶はクッキーを片手に、ブラインド越しにかすかに見える窓の文字を指さした。
「それはもう」
 龍一はここぞとばかりに頷いた。
「だからね、ほかの階にはあんまり人がいつかないのよ。お客さんが不気味がって来ないから」
「……ああ、なるほど」
 なんとなく足を踏み入れることを躊躇う気持ちはわかる。事実、龍一自身も慣れるまでここへ足を踏み入れるのを躊躇っていた。
 今ではそんなことはないが。
 もっとも、また別の意味で躊躇うときはあるが。
「ま、私たちが商売柄あやかしをひきこんじゃうときもあるし、それを見た人がこのビルは出るっていったりしてねぇ」
「大変ですね」
「……他人事みたいに言っているけど、龍一」
 沙耶はグラスを両手で抱えながら呟いた。
「貴方が霊媒体質で色々連れてくるから、っていうのもあるのよ」
 そしてそのまま、じっと彼を見る。
 正確には、彼の肩の辺りを。
「……今度はどこで何に同情してきたの?」
 低い声でそう尋ねる。
「……なんかいるの?」
 見えない代表佐野清澄が眉を思いっきりひそめてきいた。
「ああ」
 龍一を睨んでいる沙耶の代わりに直純が答えた。
「男の子、かな。3,4歳ぐらいの」
「……大方、交通事故ね」
 頬杖をついて事の成り行きを見守りながら、円も付け足した。

 龍一は少し体を後ろに引く。沙耶からそれを守るかのように。
「あ、あのさ、この子は」
「龍一」
 彼の言葉をさえぎり、沙耶は鋭く彼の名前を呼ぶ。
「霊は生きている人間を連れて行きたがるものだと、言ったはずでしょう? これで何回目? 軽々しく何かに同情するのはやめなさいと言ったでしょう? 大体、簡単だけれども祓える方法、教えたでしょう? 何か憑いているのぐらい自分でもわかるでしょう? それでやれば大体祓えるはずよ」
「でも」
「遅いのよ、何かあってからじゃ」
 唇を軽くかんで、沙耶は龍一を睨むように見つめた。
「……ごめん」
 それに耐え切れなくなって、龍一は呟いた。
 沙耶が軽く息を吐いた。
「こっちに来て」
 グラスをテーブルに置くと沙耶は手招きする。
 龍一は素直にそれに従った。
「しゃがんで」
 膝を床につける。
 龍一の頭を沙耶は軽く抱えた。
「ねぇ、痛かったよね。つらかった?」
 すぐ近く、本当に耳元で聞こえる声とか、自分の頭を撫でる腕とか、そういったものに心地よさを感じるけれども、でも、それが自分に向けられたものじゃないことを知っている。
 とても、切ない感情。
 彼女は、自分に対してはこんな行動はとらない。
「でもね、もう痛いのも辛いのも、終わったから。……うん、そうね。パパともママともしばらくお別れだけど、貴方がいい子にしていれば、迎えにきてくれるわ」
 他のメンバーは黙ってことのなりゆきを見守っている。
 直純でさえ。
 彼が目に浮かべているのは沙耶を心配している、そんな気持ちだけ。
 少しでも、自分に嫉妬していてくれればなんて、思ってしまう。そこに救いを欲しがる。
「だから、今は、もうおやすみなさい。貴方が次に目覚める時にはパパもママもきっと、そこにいるわ」
 この子をだしにしていることぐらい、自分でわかっている。
 ここに来る途中で、見つめた交差点の花束。
 そこに立っている男の子。
 彼が自分に気づいて、憑いてきたことぐらい知っている。
 それを自分からおとす方法だって聞いたから覚えている。
 それでも、そのままここに連れてきたのは沙耶が祓ってくれることを望んだからだ。少しだけでもいいから、自分のことを心配して欲しかったからだ。
 ただ、それだけ。
「うん。じゃぁ、おやすみね」
 沙耶がそう言って笑った。
 少し待ち、
「はい、終わり」
 事務的にそう告げると何の感慨も残さず彼から離れた。
 再びアイスティーに口をつける。
「どうも」
 龍一もそれだけいうと立ち上がり、再び元の椅子に座った。
 一時の自分の欲求を満たしても、結局残されるのは隔たりだけ。

「今、急に思い出したんだけど」
 黙ってそれを見ていた円が唐突に言った。
「直、昔さ、変な男の人みたことあったわよね?」
「変な?」
「ほら、すごく小さかったころ。あんたと二人で土手を歩いてたら、男の人と女の人が前からやってきて……、そう、その人には魂がなかった」
 直純は視線を一瞬上にやり、
「ああ、思い出した」
 すぐにそう言った。
「俺はやめようって言ったのに円がその人に、貴方は何? とか聞いたときだろ」
「そんなことしたのっ?」
 非難を込めて沙耶が言う。
「危害を加えられでもしたらどうしたんですか?」
 龍一にまでも責められて、円は肩をすくめた。
「昔は自分の力が絶大だと思っているお嬢様だったからどうにでもなると思ってたのよ。今考えるとすっごい危なかったけど」
「そうだったんですか?」
「ええ。昔の私はかなり嫌な奴だった」
「ああ」
 円の言葉に1歳違いの従弟は思いっきり頷いた。
「ちなみにこいつは私の影に隠れてびくびくしているような子どもだったわ」
 そういって円は従弟を指す。直純は肩をすくめた。従姉と同じように。
「それで、その人は?」
「さぁ、本人は人間だって言っていたけれども……もし、人間として暮らそうとしている人だったら、悪いことしたかもね」
 そういって、グラスを手に取る。
「でもね、多分あの人は今でも元気に暮らしているわ。そんな気がする。人間だろうとなかろうと、魂があろうとなかろうと、きっとそんなことあの人には些末だったのよ。今思うとね、少し沙耶に似ている」
「あたしに?」
 沙耶は首を傾げる。
「小さなときの記憶だから、あれだけど。地上に降りてきて、みんなが自分の絶大なる力に恐れをなして近寄ってこなくて、それに涙している神様みたいな人だった。寂しくて寂しくて本当はしょうがないんだけど、
それは言わないでただ自分の仕事をこなすの。自分の力とかそういったもの、本当は捨てたいのだけれども、それで得た大切なものもあるから、捨てられない。あの人は、そんな顔をしていた」
「……円姉はあたしのこと、そんな風に見てたわけ?」
 自分の姉のような人間の、審美眼は殆ど間違わないことを沙耶は知っていて、それでいて、だからこそ、そう問い掛けた。
 それはなんだか、かいかぶりのような気がしたのだ。
 自分はそんなに綺麗に生きては居ない。
「ええ」
 そういって円は軽く微笑んだ。
 そして、絶大なる自信を持って、付け加えた。
「信念のある強い人間だと誉めているのよ、きっとね」


今から思うと、なんぞこれ。
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