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表立って載せるほどではない小噺と、あとがき。 その他キャラ設定などなど、徒然なるままに書き連ねるページ。 

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25/決戦は夏(龍一・円→英輔)

「はぁい、龍一君」
 道を歩いていた後ろから聞きなれた声が聞こえた。
 振り返る。
「……。」
 ただ、その声と目の前の人物が一瞬一致しなかった。
「ちょっと、何よ、その顔は」
 そういって彼女はかけていたサングラスを外す。
 それでやっと、確認することが出来ました。
「サングラス、かけるんですね。円さん」
「眩しいじゃない。目が痛いし」
 そう言って、とったソレをシャツの胸元にひっかけた。
 微妙に目のやり場に困りつつ、龍一は首を傾げた。
「どうしたんですか?仕事ですか?」
「ん、終わったところ。龍一君は?」
「図書館で勉強してて。混んできたのでこれ以上は迷惑だろうな、と思って帰るところです」
「大変ねぇ」
「まぁ、受験生ですから」
「天王山の夏、ね」
 そういうと円は眩しそうに太陽を見つめた。
 そして、龍一に視線を移すと、
「よし! ご褒美におねーさんが甘いものを奢ってあげよう」
「はい?」
 一連の流れが理解できず、龍一も太陽を見あげる。そこに何か答えがあるのかと思って。
「糖分は頭が冴えるわよ。あんみつでいい?」
 いい? とか言いながらすたすたと歩き出す。
 龍一も慌てて跡を追う。
「あの、でも円さん。俺、今日は財布にそんなにお金……」
「いいって、奢ってあげるっていったでしょ?」
「でも、悪いですよ」
「気にしないで」
 なれた調子で狭い路地に入る。
 龍一の頭の中に、この人が連れてってくれるのは本当に“現実”の店なんだろうかという考えがよぎった。物の怪が営業する店でもなんの不思議も無い。
 目の前に、やけに古びた甘味処が現われると、一層強くそう思った。「大和撫子」と看板には書かれているが、本物の店ですか?
「いつも沙耶の面倒みてくれてるから、そのお礼? っていうか、私が煙草吸いたいだけ。暑いのもいやだし」
 そういって彼女は何のためらいも無くそのドアをあける。
 ちりん、
 小さく鈴がなる。
 一瞬躊躇った。
「何してるの?」
 ドアを開けたまま、円が首をかしげる。
 この人はこんなふうには、人をからかったりしない。
 そう念じながら、龍一は一歩中に踏み入れた。

「いらっしゃいませ」
 大正時代の女学生のような服をきた店員がそういう。
「白玉クリームあんみつ……でいい?」
「え、あ、はい、なんでもいいですけど」
「じゃぁそれを2つ」
「かしこまりました」
 そういって店員は去っていく。
「どう、この店? このレトロな内装とえび茶式部の制服が私は気に入ってるんだけど。もちろん、美味しいし」
 先ほどの店員が持ってきたお茶を啜りながら円は当たり前のように付け加えた。
「勿論、実在するお店よ」
 その言葉に、龍一は嘆息した。
 そして、自分の分のお茶に手をつける。
 結局、読まれていたのだなぁと思って。
 円はふふっと嗤うと、煙草に火をつける。目を細めてその煙を見つめながら、呟いた。
「受験、大変なのはわかるんだけどね、たまには顔をだしてあげて」
「……」
 煙から龍一に視線を移し、円は彼女にしては珍しく寂しそうに笑った。
「実は君にちょっと嫉妬してる。私たちじゃ、君ほど上手くあの娘を笑わせられない」
 ふぅと、煙を吐き出す。
「ああ、勿論、一番最初に言ったとおりに、嫌だったらいいの。むしろ、嫌々相手をするのはやめて欲しい。
でもね」
「いやではないですよ。勿論」
 相手の言葉をさえぎる。
 円はさまよわせていた視線を龍一に戻した。
「ただ、」
 自分の中で今の心境にぴったりの言葉を捜す。
「なんだろう、そう。“受験生に恋愛はご法度”っていうじゃないですか」
「ええ」
「まぁ、俺の場合はそれが受験の理由にもなってるんで一概には否定できないんですけど、ただ、気が緩むのが怖いから。一度会ったら、ずるずる歯止めがきかなくなって毎日行っちゃうんじゃないかと思うと、それがちょっと。俺の場合、つい最近受験を決めたばかりですしね」
「……そう」
 円はそれっきり何も言わないで、煙を睨む。
 龍一は視線を逸らさないで、円を見つづけた。

「お待たせしました」
 沈黙を破ってあんみつを持ってきたその店員は、二人の様子をどう捉えたのだろうか?
「あ、ありがとうございます」
 思わず口をついてでた龍一の言葉に、少し驚いた顔をして、それから少し微笑んで去っていった。
 その様子に龍一は軽いデジャ・ヴュを感じた。
 他ならぬ、“彼女”と初めて会ったときに、彼女が見せた反応と同じだったからだ。
 自分のお礼の言葉に、彼女は驚いたような顔をして、それから微笑んだ。それに魅せられた。あれが最初。
 今が8月だから、もう5ヶ月も前の話。

 円は煙草を灰皿に押し付けると黒蜜を少しずつかけていく。
 龍一はそのまま口に入れた。
「なんだろう、上手くいえないんだけど」
 細く、器にこぼれていく黒蜜を見ながら円は呟く。
 まるで独り言のように。
「無理矢理頑張らなくてもいいと思う。むしろ、龍一君が無理矢理頑張ってあの娘のために医学部に合格しても、多分」
 黒蜜の入った容器を置くと、スプーンをとる。
「あの娘は気に病むだけ。今でも、気に病んでるんだろうけど」
 白玉をひとつすくいあげる。
「頑張る頑張らないは、君の自由だし、私がとやかく言えたことじゃないんだけど。部外者だから。……ごめん、何が言いたいのかわからなくなっちゃった」
 そう言って、白玉を口に放り込む。
「わかりますよ。大体ですけど。円さんは、沙耶のためで受験を受けるなって言いたいんでしょ? それは、大丈夫です。結局それが自分のためだってこと、わかってますから。誰かのためだって理由をつけたって、そんなのただのエゴにしか過ぎない。結局は、自分のためなんですよね。」
 そういって、あんみつを口にいれる。
 円は、軽く息を吐いた。
「ああ、本当、君には敵わない」
 些か芝居がかった言い方ではあったが、彼女らしさが戻っていた。
「明日辺り、お邪魔します。息抜きも必要ですから」
「強要したみたいで悪いわね。ああ、事実そのとおりなんだけど」
 そういって円はおどけて笑う。
 龍一も一緒に笑った。

 あんみつは甘くて美味しかった。
調律師長編全然描いてなかったころ
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