表立って載せるほどではない小噺と、あとがき。 その他キャラ設定などなど、徒然なるままに書き連ねるページ。 

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13/暴走自転車と怪(エミリ→シャドー・ファントム)

「ははははははは」
 どこからともなく聞こえてくる、その愉快なんだか不愉快なんだかわからない笑い声に、エミリは思いっきり眉をひそめた。
 少なくとも、エミリにとってその笑い声は不愉快だった。

 *

「非常に言いにくいのだが」
 研究班・B班班長は淡々と言った。
 本当にいいにくいと思っているのか?
「実験№B019が逃げた」
 その言葉を聞いた瞬間、考えもせずにエミリは言葉を紡いでいた。
「またですか」
「言わせてもらえれば、この間の失態は」
「G班の失態ですね。ですが、研究班という大きなくくりのなかではまた、ですよ」
 先日のG016の脱走劇は記憶に新しい。それの追跡を担当したのもエミリだった。
 ちなみに、G016は今ではマオという名前を得て神山隆二、嘗ての実験№U078の元で居候している。
 17の小娘にあきれたように言われて、B班班長は不愉快そうな顔をした。
 でも、失態は失態だ。
 エミリはそう思った。
 失態を演じるのも、他人の失態を見るのもエミリは嫌いだった。
「能書きはいいです。B019を連れ戻せばいいのですか?」
「いや、どちらにしろあれは廃棄処分にするから、消してもらって構わない」
 基本的にエミリは感情を顔に表さない。
 だから、このときも眉一つ動かさなかった。
 しかし、G016事件の時以来、神山隆二に諭されて以来、彼女の中で生まれた名前も知らない感情が小さく叫んだ。
 ——神山隆二ならこんなとき、どんな反応をするだろう?
「わかりました」
 小さな叫び声など黙殺し、エミリは首肯した。
「それで、B019はどのようなものなのですか?」
「……非常に言いにくいのだが」
 さっきと打って変わって、B班班長は本当にいいにくそうに言った。

「笑いながら走る自転車なんだ」

 *

 基本的に、同じ研究所内とはいえ部署や班毎にて敵対感情や順位付けがあるものだ。
 特に研究班の人間は派遣執行官のことを軽蔑してる節がある。
「こいつらに言ったって理解できないさ」
 そういう論理で深くは説明しないことがある。
 だから、今回も説明は特になかった。
 必要な情報だけだった。
 だが、しかし、
「秘密主義もここまでくるとはね」
 どこからともなく聞こえてくる不愉快な笑い声に眉をひそめたままエミリは言った。
 笑いながら走る自転車なんて奇怪なもの、どうしてつくる気になったのか、それぐらい教えてくれてもいいではないか。
 レーダーで自転車の位置を確認する。
 一定の範囲内でしか走れない自転車は、毎夜毎夜23時頃に河川敷の側に現われ、そこからまっすぐに(無論言葉のあやだ。実際にはまっすぐな道などではない)先日新しく建設された高層ビルを目指す。そして、高層ビルで力尽きるのか消え去る。そして、また次の日に河川敷から現われる。
 一体、何がしたいのだろうか。
 例の高層ビルの下で待ち伏せしながらエミリは思った。


「この辺でいいのか?」
「ええ」
 話し声が聞こえて、エミリは咄嗟に植え込みのあたりに隠れた。
 二人の若い男が話していた。
 耳を澄ます。
 会話から察するに、二人は自分と同じような人間なのだろう。
 つまり、B019を廃棄処分にする、彼ら二人の言い方をするならば祓うために現われた人間。
 イレギュラーにエミリはしばし悩み、結局廃棄処分にするならば誰が手を下しても同じだろうと結論付けた。あの二人がB019を祓ってくれるならば、エミリには別に異論は無い。

 しかし、二人はなんだかもめているようだった。一方は話し合いを望んでいるようで、エミリは知らず知らずに口元をゆがめていた。
 その二人がまるで、G016事件の時エミリと神山隆二に見えたからだ。
——もしここに、神山隆二がいたならばどういう反応をするだろ?

 いざとなったらすぐに飛び出せるように銃を持ちながら、エミリは二人とそれからB019の様子をうかがった。

「止まれっ!!」
「はははははは」
「タイムリミットですよ」
 がっしゃん

 足でB019を押さえつける。
「はははははは」
 B019はそれでも笑っていた。
 エミリはふぅ、とため息のような吐息を吐いた。
 B019は、彼女の知っているG016とは違う。
 G016は、マオは、自分の意志で行動している。そのことは、研究班としてはイレギュラーではあるけれども。
 もし、彼女が蹴り倒されて足で地面に押し付けられたら、笑うなんてことないだろう。恐怖で泣くか、驚くか、逃げようとあがくか。どれかわからないが、笑いはしない。
 何よりも、神山隆二がそれを許さない。
 しかし、B019は笑っていた。
 それは、自我がないからだ。
 嗤って走るだけの存在。
 そう考えて、その考えに自分が安堵していることに気付いた。
 そのことが酷く滑稽に思えて、
「はははは」
 B019と同じように、
 愉快とも不愉快ともとれる笑い声をあげて彼女は笑った。

 向こうでは、B019を祓い終えて、自転車をつれて立ち去ろうとしていた。
 あの自転車は回収したほうがいいだろうか? いや、でもそんな指示はなかった。
 そう思って、エミリは彼を追うのをやめた。
 面倒なことはしたくなかった。
 彼女はゆっくりと立ち上がった。

 *

「なんだったんだ、さっきの愉快な笑い声は」
「私にはあの笑い声は不愉快に聞こえましたが?」
「それはお前が堅物だからだよ」
 とぼとぼと歩いていると、そんな話し声が聞こえた。
 あんなに大声でB019は笑っていたのだ。それも数日前から。もう噂は広まっているだろう。
 こうして研究所はまた新しい都市伝説を作り出したのだなぁと思った。
 そんなこと今更だ。
 口裂け女も人面犬も研究所が作り出したものだ。逃げ出したり実験のために外に放したり、理由は様々だけれども。
 今回は期間が短かったから、さほど噂にはならないだろう。
「貴方が軽いだけですよ」
「しかし、ははははなんて愉快だろうが。どんな馬鹿なんだろうな」
 そう思いながら、話していた人物の顔を見ようと視線をさまよわせた。
 しかし、そこには誰も居ない。
 そこに居たのは、一匹の黒猫と一羽の鴉だった。
「え?」
 猫と鴉が話していたのだろうか?
 また研究班が何かしたのだろうか?
 そう思いながら一匹と一羽をみる。
 一匹と一羽はそれぞれ、
「にゃー」
「かぁ」
 と鳴いて、それぞれ別々に闇へ消えていった。
 エミリはしばらくその闇を見つめ
「はぁ」
 ため息をついてもう一度歩き出した。

 あの一匹と一羽がなんであれ、もう関わる気力は残っていなかった。
「暑いわね」
 代わりにそう呟いた。
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