表立って載せるほどではない小噺と、あとがき。 その他キャラ設定などなど、徒然なるままに書き連ねるページ。 

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なんでこんな人を

 目覚めはいいほうだという自信がある。
 大体いつも決まった時間になると目が覚める。
 だから今日もゆっくりと目を開けて、
「うわっ」
 何故か目の前にある男の顔に心底びっくりする。
 握られた手を解きながら、何故このような事態になったのかゆっくりと考えてみて、ああ、そういえば昨日の夜中、嫌な夢を見て自分が泣きついたのだと思い出した。
 そうでなければこの人がこの時間にここにいるわけがない。いつもの縁側でそ知らぬ顔をしてタバコをふかしているに決まっているのだから。
 珍しい寝顔を眺めながら、夜中のことを思い出す。
 嫌な夢を見て、飛び起きて……、考えてみたら、飛び起きて大きく息を吐いたら、知らない間に彼が後ろに立っていたのだから、泣きついたというの違うかもしれない。
 別に泣かなかった。もう、そんなに子供じゃない。
 誰に対するかわからないが、小さな矜持をもって弁明をする。 そう、あの時、頭上からかけられた「どうした?」という言葉には、心臓が飛び上がるぐらい驚いた。お願いだから、日常生活で気配を消すのはやめてほしい。
「あ、ちょっと嫌な夢を」
 そう答えると、「ふーん」と実に適当な答えを返された。
 それから彼は脇に腰を下ろし、胡座をかいて頬杖をついた。その一連の動作をぼんやりと、真意を測りかねて見つめていた。
 さっきまでタバコに火をつけていたのか、かすかにその匂いがして……
「寝ないの?」
「へ?」
 いきなり言われた言葉に、情けない言葉を返す。
「徹夜するつもりなら別にいいけど」
 しばらく彼を見つめて、ああ、寝るまでここにいるよっていうことかと理解した。
 いつものことながら、彼は言葉が足りなさ過ぎる。
「ううん、寝る。おやすみ」
「おやすみ」
 今夜二回目の台詞をいって、布団にもぐりこみ
 寝れるわけがなかった。
 目を閉じるとさっきの夢がまた現れて、意味もなくばたばたと寝返りを打つ。
 遂に諦めて顔を上げて、
「手、つないで。お話して」
「いくつですかお嬢さん」
 ねだると、そう即答された。
 ただ、彼は言ってから、ああしまった年齢の話なんてしなければよかったみたいな顔をしたので、その質問には直接は答えなかったけど。
「いいじゃない」
 もう一度ねだると、彼はため息をついて頬杖をつくのをやめて手を握ってくれた。
「お話ねぇ」
「そう、なんでもいいわ」
「……お話ねぇ」
 彼はもう一度つぶやいて、眉間にしわを寄せて何か話を思いつこうとしているようだった。その横顔を微笑みながら見つめて、結局、話を聞く前に寝てしまった。
 話は思いついたのだろうか? だとしたら、申し訳ないことをしてしまった。
 でも、そこで手を離して立ち去らないで、ずっとここにいてくれたことはとてもうれしい。
 そこまで考えて、「別に寝なくても死ぬわけじゃあるまいし」などと言って、一週間とか平気で起きている彼が——それ以上たつと、死ぬとか死なないとかそういう問題じゃなくて!と無理矢理寝かしつける。いや、本当に寝ているかどうかはわからないけれども——なぜ今日に限ってすやすやと寝ているのだろうかと思い、ひょっとしてこれは狸寝入りなんじゃないかと、顔の前で手を振ってみせる。
 起きない。
「りゅーじー」
 耳元で名前を呼んでみる。
 べしべし頭を叩いてみる。
 普段の彼ならばここまでしたら、絶対狸寝入りなんかやめるわけで、というか、今までに彼が狸寝入りをしたことがあるのかときかれたら、そんな無益なことをするような人じゃない、としか答えられない。
 どうやら本当に寝ているようだと結論付けると、畳の上に寝ている彼に、毛布をかけて朝食を作ることにした。
 お米を炊きながら、野菜を切って、お味噌汁も作って……。ひょいと、部屋のほうをのぞいてみると、どうやらまだ眠っているよう。
 ふと、生きているのかどうか不安になった。
 普段寝ないくせに、いや寝ないからなのかはわからないが、一度寝ると死んだように寝る。ちょっとやそっとでは起きない。
 彼に言わせれば「俺にどうやって生きたように寝ろというんだ」ということらしいが、それでもやりようはあるだろうに。
 近づいていって、顔を覗き込む。
 とりあえず、息はしているみたいで安心した。
 時々、「ああ、忘れてた」とかいう理由で息をしていなかったりする。あれもやめてほしい。頭ではそれでも彼は平気なのだと理解していても、びっくりするじゃないか。
 もうご飯もできたし、起こすことにする。
「隆二」
 名前を呼んで軽く揺さぶる。
 起きない。
 しばらくそうやっても、これといった反応がないので、
 げし、
 一発蹴ってみた。
 ちょっと、いい音がした。
「う〜」
 なんだか地獄のそこからうめくような声が返ってきて、毛布から腕が一本伸びてきた。
「あ〜」
「おはよう」
「……。ああ、茜か」
 ああ、茜かじゃない、とか一瞬思ったけれども顔には出さない。こんなことでいちいち真剣に腹を立てていたら、彼との円滑な会話は望めない。
「朝?」
「朝」
「……。」
 彼はまだ半分ぐらい寝てそうな頭で、布団の上に正座すると深々と一礼して言った。
「おはようございます」
「おはようございます」
 日ごろの彼からは考えられないあまりに丁寧な挨拶だったので、思わずこちらも一礼してしまった。
 彼は顔を洗ってくるとつぶやくと、裸足のまま、縁側から庭の井戸のほうへ出て行った。あの状態で井戸に落ちなければいいけど。
 でも、多分、落ちても自力で這い上がってくるだろうし、かえって目がさめていいかしら? なんて思いながら、食事の支度をする。
「水が冷たいー」
 水が落ちるぼたぼたという音と一緒に、子供じみた訴えが聞こえる。
 何故か全身ぬれねずみで帰ってきた彼は、それでも一応、目はさめたようだった。
「……顔洗いに行ったんじゃないの? なんで全身濡れているのよ」
「不可抗力」
 説明になっていない説明をかえすと、彼は何か拭くもの〜と訴える。
 子供じゃないんだから、と呆れながら、布と替えの服を渡す。水を拭いて解決する程度のものではない。
 やっぱり、寝ぼけた頭で井戸というのは問題があるのではないだろうか。水道があるんだから、それを使えばいいのに。
 彼は着替えを受け取るとびたびた足音を立てながら、庭から風呂場のほうへと移動する。その背中を見送りながらため息をついた。
 そして、ため息をついたら幸せが逃げるぞ、という彼のせりふを思い出して、それからでも急いで息を吸えば大丈夫、というせりふも思い出して、急いで息を吸った。
 ただ、それを言ったときの彼がやけに笑っていたことも思い出して、これをするたびにいつも思うことを今日も思った。
 私、騙されているのかしら?
 配膳しながら、そういえば最近はガスの炊飯器なるものが存在しているらしいということを思い出した。別にほしいとは思わないけれども。
 そもそも、今ここで生きていることだけで自分には十分で、それ以上を望むなんて滅相もない。
「おはよう」
 いつもどおりの少しぶっきらぼうな声が背中にかかる。
「おはよう」
 彼は濡れた服を変えるという考えには行き当たったらしいけれども、濡れた髪を乾かすという意思はあまりないようで、ぼたぼたと髪からしずくが零れ落ちる。
「隆二、畳が濡れるから」
 そういう問題でもない気もしたがそういうと、彼は「あー」と気のない返事を返してきた。
 苦笑して、彼を座らせるとわしゃわしゃと髪をふく。
 この奇妙な青年がいつまでここにいるのかはわからない。
 一生一緒にいたいとも思うけど、多分、自分が彼の立場だったら一生一緒にはいられない。
 彼が死なないということも、どうして彼がそうなったのかも、どういう気持ちで今まで生きてきたのかも、今までのことも、全部説明してもらった。
 それを聞いたときから、自分の年を数えるのはやめた。
 月日を深く確認するのはやめた。
 そして、神様なんていないのだと思った。いたらどうして、彼にだけこんなひどい仕打ちをするのですか?
 でも、時がたつのを認めなかったからといって、時が止まるわけではない。
 日々少しずつ変化して、あるときその小さな変化が大きな変化となって現れて、そのときに彼は絶対に寂しそうな顔をする。自分だけが置いていかれた子供みたいな顔をする。
 そんな彼が、いつか老いて死んでいく自分のところにずっといてくれるわけがない。
 きっといつか、辛くなってどこかに行ってしまうと思う。
 そして、そうなっても多分恨めない。
 ただ、少しだけ思うけど。
 なんでこんな人を愛してしまったのだろうかと。
 でも、今はこの小さな幸福を。

「今日はどうする?」
「猫にえさをやりに」
「それはいいから。わかってるから」
「……天気がいいからお布団干したい」
「うん」
「あとお米がなくなりそう」
「わかった。って、うわっ!」
 うなづいて、彼は何故か派手に彼はお味噌汁をこぼした。
「うわっ! ちょっと、隆二! 雑巾!」
「熱っ! うわ、豆腐が」
「熱いのぐらい我慢してよ。あ〜、もう、子供じゃないんだから。何やっているの。これ、着替えなきゃだめじゃない。洗濯物増やさないでよ。これ、自分で洗ってよ」
「そんなこといっても」
 何故か彼は本当に泣きそうな顔をしていた。
 自分の倍以上生きているのに本当に泣きそうな、情けない顔をしていた。

 なんてことをしていると、ついつい思ってしまうのだ。
 なんでこんな人を好きになってしまったのだろうかと。先ほどとは少し違う意味で。
 ひとつため息をつきかけ、慌てて息を吸い込んだ。
    23:25 | Top
 
 
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