表立って載せるほどではない小噺と、あとがき。 その他キャラ設定などなど、徒然なるままに書き連ねるページ。 

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君に伝えたいたった一つの言葉

 嗚呼、羨ましい。

 何度そう思ったかわからない。
 貴方は、自分が死なないことを嫌悪しているようだけれども、私にはただ、羨ましくてしょうがない。
 長く生きられないのだ、ということは、最初からわかっていた。もともと病弱な家系なのだから。それを疎ましく思ったことは、あまりなかった。
 だけど、

「こんなもの、放っておけば治る」
「そんなわけないでしょうっ! こんなにに血だらけで」
「五月蝿い。耳元で騒ぐな、餓鬼が」
「なっ!」
「一度しか言わないからちゃんと聞けよ? 俺は人間じゃない。よって死なない。怪我しても放っておけば治る。わかったら、その手を離せ」
 一番最初に会ったとき、頭から血を滲ませながら、当然のように貴方は言い放った。
 間抜けな顔をしている私に貴方は自嘲気味な笑みを見せた。
「もう少し端的に言うならば、物の怪ということだ」
 貴方は私が怖がらなかったことを不思議がったわ。
 本当はとても怖かったのよ。本当に物の怪だったら勿論のこと、そうじゃなくても少し頭がおかしいのではないかと思った私の事、一体誰が責められる?
 でも、それよりも、貴方がまるで置き去りにされた迷子のような顔をするから、私は放って置けなかったの。

 どうして、貴方みたいな人、好きになってしまったのかしらね?
 貴方は我が儘で自分勝手で、自分のことは何も喋らないで人にばっかり喋らせて、そのくせ、自分のことは二の次で、二言目には私の心配をして、置いていかれることに恐怖を抱いているくせに、私を置いていったりして。
 貴方みたいな難儀な人、どうして好きなってしまったのかしらね?
 こんなことを言うと、貴方は怒るか困るかのどちらかだろうから、私は何も言わなかったけれども、貴方と同じ体になれたらどんなにいいかと思ったわ。
 だって、そうしたらもっとずっと貴方のそばにいられたのに。
 貴方が私を置いて行くことも、私が貴方を置いて逝くことも、そしたらなかったでしょうに。
 でも、私は待っていると約束したわ。だから、例え幽霊になっても貴方を待っているのよ。
 ねぇ、隆二。
 ……いいえ、——。
 ちゃんと、帰ってきて頂戴ね?

 そして、私は呟いた。
 きっとどこかにいるはずの、貴方に向かって呟いた。
「貴方をいつまでも愛しています」
**

 いやまぁなんというか、最近こいつが妙に羨ましい。
 何が楽しいのか知らないが、ケラケラ笑いながらありきたりなバラエティーを見ている。そんな作られたもののどこが面白いのか言ってみろ、おい。そんなことを思いながら俺は黙って珈琲を啜る。

「待っているから、必ず帰ってきなさい」
 考えてみればあの日から、俺の時間は止まっていた。帰る勇気なんて沸くわけが無い。どんな理由があろうとも、俺は途中で逃げ出した。
 でも、
『あたしは、貴方に色々な事を教えて欲しいの』
 そう言われたのは今からどれぐらい前なのか。
 時間感覚なんてとっくの昔に麻痺していて、最近そういえば少し元に戻った。……のが、この居候猫のおかげかと思うと少しばかり腹ただしい。
 口に出していってやると調子に乗って付け上がるだけだから、決して言ったりはしないが、この居候猫には感謝している。半ば強引だったが俺の止まった時間をまた動かし始めたのだから。そのことには感謝している。
 だけど、時々、この居候猫の言動は俺に羨望を抱かせる。そして、それは妙に辛い。
 例え時間が動いても、昔には戻らない時を懐かしがっている俺は、やっぱりどこか惰性的で、見るもの全てに懐疑的。
 でも、この居候猫は昔を振り返るなんてことはせず、ただまっすぐに前へと、ちょっと無謀なぐらい突っ走っていく。見るもの全てを慈しみ、すべてのことに楽しみを感じているようで。
 ああやって、何かに対して屈託なく笑うなんてこと、いつからしなくなったんだろうか?

『隆二〜』
 呼ばれて見れば、今はコマーシャルで、退屈になったのか居候猫は抱きついてくる。
「お前、そうやってコマーシャルの度にこっちに来るのやめろよ」
『だってつまらないんだもん』
「あ、ほら、お前の好きなシャンプーのCMだぞ?」
『あ、本当だ!』
 教えてやるなり目を輝かせて画面に戻る。CM一つに楽しそうに笑うことが、なんだか酷く羨ましい。何度も見たはずのCMをじっと見つめることができるのが直に羨ましい。勿論口に出したりしないが。
 CMが明けて、相変わらず楽しそうに画面に見入っているマオに、小さく呟いた。
「教えてもらっているのはこっちの方だよ」

**

 羨ましいと、いつも思っている。会ったことも無い、貴女のことを。
「俺の……、恋人だった人だよ」
 あたしはあんな顔をした隆二をあの時初め見たわ。あたしに対しては絶対、あんな顔をしないもの。あんな優しそうで懐かしそうで悲しそうで、とにかく“ひとでなし”の神山隆二には似つかわしくない、あんな顔。
 貴女のことは隆二と、それから京介さんに聞きました。
 その時流したあたしの涙は、貴女に対する鎮魂の意味なんて持ちません。あたしが泣いたのは、貴女のことを忘れられないで、いつまでも罪の意識を背負っている、あんな顔をした隆二を見てしまったから。
 貴女の話には確かに同情すべき点もあって、貴女が隆二を置いて逝くのを嫌がっていたのだってわかってます。
 でも、貴女はずるい。ずるい、ずるい、ずるすぎる。
 隆二を置いて死んでしまうなんて、そんなの卑怯だわ。死んで美化された貴女に、あたしが勝てるはずもないじゃない。
 あたしは未だに、隆二の本当の名前を教えてもらっていない。
 なのに、貴女は知っている。
 未だに隆二は貴女のことを想っているわ。時々、あの顔をして外を見ている。絶対に、あの顔をあたしに向けてはくれないわ。
 すごく悔しくて、貴女がとても憎らしくて、同時にひどく、羨ましい。死んでも想ってくれる誰かがいる貴女が羨ましい。
 だけど、今、隆二と一緒にいるのはあたしだわ。
 勿論、あたしと貴女じゃ隆二に対する立ち位置が違う。隆二と恋愛ごっこをするつもりなんて毛頭ないし、そんなくだらない関係に自分を押し込めるつもりも無い。
 だけど、茜さん。
 会ったことも無い貴女に、あたしはこれだけは言っておきたのです。
 そしてあたしは、隆二がよくするように外をみて呟いた。
『隆二は、貴女には返しません』
    23:24 | Top
 
 
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