表立って載せるほどではない小噺と、あとがき。 その他キャラ設定などなど、徒然なるままに書き連ねるページ。 

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
    --:-- | Top

身内が死のうが誰が死のうが、

 呼ばれた。
 そう思った。
 直後、世界が揺らいだ。

 *

「茜っ!」
 慌てて手を伸ばし、倒れかけた茜を支える。
「茜!」
「……あれ?」
「あれじゃないだろうが、ばか」
 そう吐き捨てるように言って、目を細める。
「……隆二?」
「寝てろ」
 そういうと強引に隆二は茜を担ぎ上げて、家の中へと戻っていく。横顔がなんだか怒っているように見えて、茜は眉をひそめた。
 そもそも、何があったのかがわからない。
 庭で洗濯物を干していて、いつものように隆二がそれを縁側から見ていて、そして、“何かに呼ばれた気がした”
 そう、それで体の力が抜けて……。
 あれは一体なんだったのだろう?
「……ねぇ、隆二」
 彼は答えないで、布団を敷き、
「いいから、寝てろ」
 それを指差しながらもう一度言った。
「……でも」
「いいから」
 有無を言わさない口調で言われて、素直にそれに従う。実際問題、さっきからくらくらしてしょうがない。
 妙な疲労感があって、大人しく布団にもぐりこむと、一気に眠気が襲ってきた。
 意識が完全に消える前、見えた隆二の顔はやっぱり不機嫌そうで、でもどこか心配そうにゆがめられている気がした。
 それだけで、彼女は満足だった。

 *

 茜が完全に眠ったことを確認すると、音を立てないようにして立ち上がる。そのまま再び縁側の方へ行き、眉をひそめて舌打ちした。
 外に出ようとして、立ち止まる。
 残してきた彼女が気にかかり、後ろを振り返り、更に眉をひそめたところに
「何してんだ、隆二」
 声をかけられる。
「先生」
 垣根の向こうで茜の主治医が不思議そうな顔をしていた。
「ちょうど良かった。茜を頼む」
「何かあったのか?」
「あったにはあったんだが……、まぁ“こっち”の事情だし、まだ平気だから。とりあえず、見ててやってくれ。じゃぁ」
 いっきにそういうと、相手の返事を待たずに垣根を飛び越え、走り出した。

 *

 糸、が見えた。
 糸のような何かが、茜の首筋辺りから、どこかへ繋がっていた。
 そのどこかへ向かって走る。
 最短距離で。
 屋根から屋根へ飛び移る。
 何かが彼女の精気を吸い取っている。それだけはわかった。
 糸を伝って。
 その糸を抜き取ってやろうかとも思ったが、万が一にでもそれで彼女が死んでしまったら……、
 今はもう、あるはずのない心臓が痛んだ。
 もし、万が一にでも、彼女が死んだら。
 糸の持ち主を、殺すだけでは済まさない。

 糸の終点にたどり着いた。

 *

 “それ”は壷を持っていた。
 その壷の中には、いっぱいの人間の精気がたまっていた。
 あと、一人分だった。
 あと、一人分でよかった。
 そんなときに、彼は現われた。

 *

 穏便な手段をとる気なんて、毛頭無かった。
 糸がその壷に続いているのを確認すると、隆二は乗っていた木の上から飛び降りて、そのまま“それ”を蹴り倒した。
 明らかに“それ”は女で、子供だったけど、そんなこと関係なかった。それにどうせ、
「お前も人間じゃないしな」
 そういって嗤う。
「人形か? 人形がどうして人間の精気を集める?」
 壷を奪い取り、“それ”の上に足を乗っけたまま淡々と尋ねる。
 “それ”は何も言わない。
 その人形の表情は動かない。
「ああ、人形だもんな。しゃべれないよな。俺としたことが、とんだ失態だな」
 そういって嗤う。
 “それ”が黙って隆二が先ほどまでいた木の根元を指した。
「……ふん、そうか」
 そこに何があるのか確認すると隆二は頷いた。
「お前のご主人様が死んでしまったと。だから、生き返らせたかったと」
 “それ”が一つ頷く。
「へぇ、そうかそうか。だがな、俺にもっといい案がある」
 足に力をこめる。
「死ねよ」
 何かがきしむ音がする。
「ああ、壊れろよ、の間違いか? どっちにしろそうしたらご主人様のあとを追えるだろ、なぁ? 人形なら人形らしくしてろ。人形の分際で、茜に手を出すな」
 更に足に力をこめようとして、慌てて少し力を抜く。
「ああ、まだお前に壊れてもらうわけにはいかないんだ。なぁ、この壷の中のものを元に戻すにはどうしたらいいんだ?」
 糸はまだ切れていない。
 ゆっくりと、確実に、茜が死へと向かっていく。
 答えない人形に、答えられないのだと気付く余裕すらもう、実は残っていなくて、今度は胸倉を掴み、例の木へ押し付ける。
「なぁ、どうしたらいいんだ?」
 そうやっていいながらも、今の自分の顔は絶対に茜には見せられないことを自覚していた。

「そこまでです。神山隆二」
 かけられた声に、振り返ることもなく返事をする。
「ああ、嬢ちゃんか。っていうことは何か? これも、あんた達のところのものか?」
「……ええ、そうです」
 嬢ちゃん、は長い黒髪を揺らして一つ頷く。
「ご迷惑をおかけしました。あとは私たちが」
 ゆっくりと、隆二を押し留めるかのように手を伸ばす、彼が最も嫌悪する研究所の人間を一瞥する。
 相変わらずの長い黒髪を結わえることなく、相変わらずの無表情さで彼女はそこにいた。
 何かをいいかけ、結局やめて素直に人形を彼女へ譲り渡す。
「人に迷惑をかけるな、馬鹿が」
「すみませんでした」
 彼の罵倒に動じることなく、彼女は頭を下げる。
 それから、例の壷を持上げる。
「茜さ……」
「お前らがその名前を呼ぶな」
 切りつけるような冷たい声で言われて、今度は少し驚いて彼女は隆二を一瞥し、けれども何も言わないで先を続ける。
「彼女のことですが、大丈夫です。この壷さえ壊せば、全て元に戻りますから」
 そういって、持っていたものを地面に叩きつける。
 ばりんっ
 音がして、壷が割れる。
 虚空に目をやり、糸も存在しないことを確認する。
「そうか」
 少し息を吐いた。
「……なぁ、もし次にこんなことがあったら」
 そう言って、
「お前らが死ね」
 今度は彼女の胸倉をつかみ、先ほどと同じように木に押し付けて、低く押し殺した声で言った。
 いつも無表情な彼女の顔に、恐怖が走るのを見て、暗い喜びを自分の中に見出す。本当に茜には見せられないなと、その心のどこかで自嘲気味に笑い、手を離す。
 すとん、と彼女が地面に座り込んだ。
 そのまま背を向けて、先ほどと同じようにして家へと急いだ。

 *

「どこいってたんだ、隆二」
「どこにいってたのよ、隆二」
 家に戻ると、茜はすっかり起き上がっていて、先生と一緒に彼を非難した。隆二はその様子に、どこか拍子抜けしたものを感じて、同時に確かに安堵した。
「いや、別に。ちょっと私用」
 そういって茜へ笑いかける。少し、自分が本当に笑えているのか心配になった。
「先生も悪かったな」
「……説明はなしか?」
「ああ、私用だからな」
「そうか、私用か」
 どこまでわかっているのかわからないが、この好々爺は一つ頷く。時々、この人は全てを理解しているのではないかと思うときがある。
「まぁ、いいさ。じゃぁ、茜。あまり無理はするなよ」
 そういって先生は立ち去った。その後姿を見送り、隆二は一つ息を吐いた。あの人に何度助けられたかわからない。
「……隆二?」
 訝しげな茜の声に、慌てて彼女のほうを向き微笑む。
「大丈夫か?」
「え、うん。もうくらくらしないし。平気」
「それならいいんだ」
 そういってもう一度笑う。
 茜はそんな彼を見て、
「ねぇ、」
 隆二の頬に両手を添えて、首をかしげた。
「隆二の方こそ大丈夫? 何かあった?」
「っ」
 咄嗟に、彼女の手を振り払い、距離をおく。
 茜の驚いた顔をみて、自分が何をしたのか悟る。
「あ、いや……悪い。大丈夫だから」
 自分の手が汚れている気がして、彼女に触れるのがためらわれた。
「……隆二はいつもそうね」
「何が」
「いつだって大丈夫だって言って、私に本音を見せてくれないのね」
 決して責めるわけではなく、淡々と事実だけを述べる彼女に、どんな言葉を返せばいいのか迷う。
「それは……」
「でも、いいよ。ここに居てくれるならば、今は、それだけでも」
 そういって微笑む。
 その笑みを直視することが出来なくて、
「お茶でもいれてくる」
 その場を立つ。
 茜があきれたように笑ったのを感じた。

 *

 あの人形は、自分の主人が死んだことを悲しみ、主人を生き返らせるために人の精気を集めていた。
「……困ったな」
 湯を沸かしながら、自嘲気味に嗤う。
 もしも、茜が死んだならば……。
 他の誰が死んでも自分は何も感じないだろう。例え先生であっても、ただ、惜しい人を亡くしたと悼むだけだろう。
 でも、もしも、茜が死んだならば……、
「俺は、同じことをしかねない」
 彼女が望まなくても。ただ、自分の心を満足させるためだけに。
 壁を思いっきり叩きつける。
 ああ、やっぱり自分は、彼女のそばに居るべきではない。
 改めてそう思った。
 何故ならば、自分は化け物だから。
 だから、
「……ごめん、茜」

『ここに居てくれるならば、今は、それだけでも』
「たったそれだけのお願いも、果たせないかもしれない」

 人間に戻りたいと、切に願った。叶わないのは、知っているけれども。

『人形なら人形らしくしてろ』

「化け物は、どんなにあがいても化け物なんだよ」
これはいったい、どこらへんにいちするものがたりなのか……
    23:22 | Top
 
 
プロフィール
 
 

小高まあな

Author:小高まあな
FC2ブログへようこそ!

 
 
最新記事
 
 
 
 
カテゴリ
 
 
 
 
月別アーカイブ
 
 
 
 
リンク
 
 
 
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。