表立って載せるほどではない小噺と、あとがき。 その他キャラ設定などなど、徒然なるままに書き連ねるページ。 

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
    --:-- | Top

捨て猫と居候猫

『ねぇ、隆二〜』
 いつも通り、マオの言葉を適当に聞き流しながら路地を歩く。

 にゃ〜
 かすかに聞こえた音に目を細める。けれども、気づかない振りをして歩き続ける俺を、
『隆二』
 マオの声が引きとめる。
「なんだよ?」
 振り返った俺の目に映ったのはある程度予想していた状況だった。


——うちの居候猫は捨て猫に一目惚れした。


 路地であった猫を見つめ合っていたマオは、顔をあげると笑みを浮かべて言った。
『飼いたいっ!』
「誰が世話するんだよ」
 俺の至極冷静な質問にマオはにっこり微笑んでいった。
『隆二に決まってるじゃない』
「却下」
 この悪魔の笑みに騙されてはいけない。
「大体、猫なんて飼うもんじゃ……」
 言いかけて、頬に当たる視線に気づく。
 恐る恐るそちらをみると、二対の緑色の目が俺を見ていた。
 ……負けるな俺、がんばれ俺。そう、こんな悪魔のようなマオに負けるんじゃない。負けるんじゃ……。


 結局、負けてしまった。


 捨て猫の入っていた段ボールを抱えて歩きながらため息をつく。
 でも、まぁ……
『おまえ、良かったねぇ』
 そういって段ボールの中の猫を見ているマオを見て苦笑する。
『ねぇ、この子、オス? メス?』
「知るかよ」
 まぁ、これでもいいのかもしれない。

 猫はマオの姿が見えているようだった。
「にゃ〜」
 そう鳴いて、マオの後をついてまわる。俺はコーヒーを飲みながらそれを眺める。
「みゃ〜」
 猫はマオの足にじゃれついた。
 そして、
 マオを通り抜けた。

「みゃ?」
 不思議そうにマオを見る猫に、マオは引きつった笑みを浮かべ言った。
『ごめんね』
 触れられないことはどうしようもない。
 例えば、自分で餌をやることも、撫でてやることも、捕まることも捕まえることもない追いかけっこ以外の遊びをすることもできない。
 それは最初からわかっていたはずだ、俺もマオも。
 ただ、夜中、窓によりかかるようにして座っているマオ。
 その隣ですやすや寝る猫。
 マオは猫をじっとみていたかと思うと、恐る恐る手を伸ばした。
 その手は、
 その手は、猫の中にのめりこんだ。
 マオは両手を月の光にかざすようにして見る。
 そのまま、立てた膝に顔を埋めた。

 俺にはどうすることも出来ない。
 黙ってその場を去った。

 触れることが出来ない。
 それは最初からわかっていたはずだ、俺もマオも。
 ただ、納得できるかどうかは別として。

 もっとも、それ以外の問題は特になかった。
 マオと猫はいつもの通りマンションの裏の小さな路地で追いかけっこをしていた。俺は窓枠に腰をかけて、それを見ていた。

 多分、気づいたのは俺が一番最初だったと思う。
 そして、あの時もっとも無力だったのも俺だったと思う。
 真っ赤な車が、狭い路地を猛スピードで走ってきた。

 マオは丁度その車の進行方向をよぎったところで、当然猫もその後をついてきた。
『来ちゃダメっ!!』
 マオが叫び、猫を押し戻そうと手を伸ばす。

 その手は空しく宙をきった。

 俺は空を見上げた。
 神がいるかどうかは知らないが、もしいるならばこれは酷い仕打ちだろ。
「くそったれ」

 そして、ブレーキ音が響いた。



 雨が降りだした。
 地面に座り込み、目の前に猫だったものをおいたマオの背後に立つ。
 そして、呟いた。
「だから、猫なんて飼うなっていっただろ」 
 マオは空を仰ぎながら問いかけてくる。
『隆二は、こうなることをわかっていたの?』
「……ただ、俺やおまえより、遙かに早く死ぬことだけはわかっていた」
 そこで一回言葉を切る。
 正義の味方も向かないが、完璧な悪役にもなりきれない。そんな中途半端な自分に思わず舌打ちをする。
「マオ、これからも存在していくつもりなら、覚えておけ。どんな生き物も、俺達より早くいなくなる。これからはそれの繰り返しだ。俺達の永遠が続く限り」
 嘆息。
「ともかく」
 着ていた上着を脱ぎかける。
「墓でも……」
『隆二は』
 そんな俺の言葉を遮り、マオが言った。
『隆二も、こんな気持ちになったことがあるの? 誰かを送ってきたの?』
「……さあ」
 空を見る。
 雨が顔にあたるが、不愉快ではなかった。

 一人の女性の姿が目に浮かぶ。

「……さあ」
 俺は空を見たまま答えた。
「あまりに大昔のことで忘れちまったな」

 俺は上着を脱ぐと、それを猫だったものにかぶせ、抱え上げた。
「行くぞ」
 マオに視線は合わせない。あわせたら余計なことを言ってしまいそうだったから。
「公園に墓でも作ってやろう」
『隆二っ!!』
 歩きかけた俺を、マオが呼び止めた。

『あたしは、あたしはいなくなったりしないからっ!!』
 叫ぶようにマオが言う。
 マオが俺に何を思い、そう言ったのかはわからない。ただ、
『隆二の隣からいなくなったりしないから。だからっ!!』
 ただ、俺は
『だから、隆二もあたしの隣からいなくなったりしないでっ!!』
 ただ、俺は、

 敵わないと思っただけで。
 振り返る。
 口元には笑みが浮かんでいた、と思う。
 なぜならマオは俺の顔を見て、それからその後に俺がいった言葉を聞いて、泣きそうな顔で、それでも微笑んだからだ。
「ああ……」

 公園の片隅には木で出来た小さな墓がある。
この話は結構お気に入りだった。っていうか、漫画にしたかった。
    23:15 | Top
 
 
プロフィール
 
 

小高まあな

Author:小高まあな
FC2ブログへようこそ!

 
 
最新記事
 
 
 
 
カテゴリ
 
 
 
 
月別アーカイブ
 
 
 
 
リンク
 
 
 
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。