表立って載せるほどではない小噺と、あとがき。 その他キャラ設定などなど、徒然なるままに書き連ねるページ。 

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War

「署名お願いします!」
 街角で聞こえた、その悲痛なんだかイマイチよくわからない声に俺は思わず足を止めた。
『どしたの? 隆二?』
 マオが言う。
「いや、基本的に俺は署名だとか募金だとかそういう慈善事業は嫌いなんだ」
 マオにだけ聞こえるように、そして多少げんなりして俺は答える。
『ああ、そんな感じ』
 マオが笑う。どんな感じだ。俺は喉まででかかった言葉を飲み込んで、歩みを再開する。

「署名、お願いします」

 歩み始めた俺の前に、一人の女が割り込んできた。ぶつかる寸前で歩みをとめる。
「はい?」
 俺は眉をひそめる。最近では、署名の押しつけもやるのか?
 女は俺の不思議そうな顔を見て、ふふっと笑った。それは親しい人にする笑みだった。
 人違いではないかと俺が言うよりも早く、
「神山君、久しぶり。覚えてないかな? 前、パン屋で一緒にバイトしてた信条なんだけど」
「あ〜、はいはい」
 覚えてないけれども適当に返事をする。
「神山君、私のこと忘れてたね」
「いや、そんなことはない」
 忘れようにも覚えていなかったわけだし。
 女はまあいいかと笑うと、バインダーを差し出して言った。
「戦争反対についての署名をお願いします」
「嫌です」
 俺はそういうと歩みを再開する。
「何で!?」
 女は追いかけてきた。おいおい、最近の若いもんは。
『隆二、今ひどく年寄りじみたこと考えたでしょ?』
 マオの言葉を無視し——図星だったわけだし——俺はひたすら歩く。
「ちょっと、神山君!」
「まだ、何か?」
「署名、なんでしてくれないのよ」
 俺はため息をつき、世間知らずのお嬢ちゃんに現実はいかに厳しいか説いてやることにした。
「そんな無理矢理集めた署名なんかで、つきつめていうならばそんな紙切れ一枚で戦争がなくなるなんてそんな夢物語みたいなことを考えているならば、現実を見据えて真面目に生きた方がいいと思うぞ」
 けれども、俺のせっかくの忠告なんて聞かず、女は言う。
「神山君は、戦争の恐ろしさがわかっていなのよ!」
 視線がこちらに集まる。白昼堂々、往来のど真ん中で戦争について語る女とそれを聞く男。世間の目にはどうやってうつるんだろうか?
「いや、わかってると思うぞ。少なくとも、あんたよりは」
「貴方は、今日もどこかで人が亡くなっているのを、戦争で誰かが傷つくのを哀しいとは思わないの!?」
「そんな感情を俺に期待してもらっては困る。どこの誰ともわからんやつが死のうと傷つこうと俺の知ったこっちゃない」
 女が口を開く前に、続ける。
「あんたは知らない人の不幸に泣けるような素晴らしい人間かもしれない。だからと言って他人にまでその生き方を強制するな。
 いいか、俺の考えはこうだ。それはただの自己満足なんだ、綺麗事なんだ、ただの施しにしかすぎないんだよ。大体こんな平和な国で平和そうに署名お願いしますなんて言ってる時点で、危機感とか零だな、零。あんた、戦争に巻き込まれた人を哀れだとか可哀相だとか思ってるんだろ」
『隆二、それ意味一緒』
 横やりを入れてきたマオの頭をそれとなくはたき、俺は続ける。
「それはそいつらを下に見ているからだ。もし、あんたが本当の意味でそいつらのことを思っているならばそんなことは思わない。そいつらが望んでいるのは、そんな他人事みたいな可哀相なんていう感情じゃない。事実、あの状況で一番必要なのは物資だ。遠い土地で戦争反対!なんてやっていても、そいつらの生活が良くなる訳じゃない。それならば、生活が多少なりともよくなる物資を送ってやるのが筋ってもんだろうが。くだらない、紙切れじゃなくてな」
 俺はそういうと、それじゃぁと片手をあげて歩き出した。

「このひとでなしっ!」

 女が叫ぶ。
『あ、またひとでなしって言われてる〜。いや〜、本当、隆二って筋金入りのひとでなしよね。ひとでないわけなんだし』
 マオが何やら言うのを無視し、それから女に言う。
「ああ、俺はひとでなしだ。なんか文句あるか?」
「あ、貴方は! 自分が彼らの立場だったらどうしようとか思わないの!? 大切な人が、戦争でいなくなったらどうしようと思わないの!?」
 それはなかなか難しい質問で。
「俺は馬鹿騒ぎで死ぬほどやわじゃない。それから」
 俺は隣のマオを見る。
「それから、少なくとも今俺の周りにいるやつで死んだら俺が間違いなく悲しむようなやつは、戦争なんかで死なないだろうな」
『なに、あたしのこと? そりゃ、幽霊だもんね』
 マオはそういい、でもね、と続ける。
『幽霊でもお腹が空いたら死んじゃうのよ。というわけでお腹が空いたわ、隆二』
 俺はマオに目で少し待ってろと伝えると——伝わったかどうかは、俺の知ったこっちゃない——、女を見る。
 女は何か言いたそうに口を開け閉めしている。
 俺は努めて親しみがこもった口調で言った。
「どうやらお互い、誤解しているところがあるみたいだな」
 俺は大げさに両手を広げ、女に言う。
「そのことについて、俺達は議論すべき必要性があると思うんだが、どうだ?」
「そうね」
 女は頷いた。その目には“そうよ、話せばきっと神山君もわかってくれるわ!”なんて希望に満ちあふれている。
「しかし、ここで立ち話というのも人目が気になってしょうがないし、そろそろ小腹もすいてきたし、どこか適当な喫茶店か何かに入らないか?」
 女は俺にちょっと待ってて、というと、同じようにバインダーを持ってうろうろしている連中のところに行った。俺は近くにあったポストに背中を預ける。
『隆二、あの人を狙うつもりなの?』
 ポストの上に腰掛けたマオが尋ねてくる。
「嫌か?」
 マオは首を横に振ると、言った。
『嫌なんてことないけど、ただ隆二らしくないなと思って。いつもはあたしがお腹すいたっていっても、しばらく我慢してろだのうるさいだの言うくせに』
 マオの言葉に自分の行動を思い返してみる。確かに、今回はマオが空腹を訴えてから行動が早い気がする。
「まぁ、いいだろ。チャンスはモノにするもんだ」
 俺がそう言うと、マオはふーんと呟いた。それっきりマオは何も言わず、足をぶらぶらさせながら女が戻ってくるのを待っていた。
 俺は特にすることもなく、空を見ていた。

「神山君」
 声の方に顔を向ける。
「行っていいって。少しでも仲間は多い方がいいって」
 そうかい、とだけ俺は呟きポストから体を離す。
「その路地を」
 俺は狭い路地を指した。
「その路地を抜けたところに、顔なじみの喫茶店があるんだが、そこでいいか?」
 もちろん、大嘘だ。俺がそんなところをつくるわけがない。
 女はちっとも疑わず、頷いた。
 こういう人に対する無条件の信頼というか警戒心のなさが、近年の凶悪犯罪とやらをたやすく引き起こす原因なのではないかと、どうでもいいことを思った。

 路地には誰もいない。
 それを確認すると、先を歩いていた女の首筋にわずかだけれども“力”をあてる。くた、と倒れかけた女を支えて、後ろにいたマオを目で促す。
『本当、今回はやることはやいのね』
「戯言はいいからさっさとしろ。殺すなよ」
『はいはい、いただきます』
 マオはいつもと同じようにわずかに眉をひそめてから、ご馳走にとりかかる。
 俺は先ほどと同じように空を仰いだ。建物と建物の間からみる空は、非常に狭かった。いつからこうなったんだろうかと、とりとめもなく考える。
『隆二』
 マオが声をかけてくる。
「いいのか?」
『うん、ごちそうさま』
 意味もなくマオの頭を撫でてから、女を起こす。
「おい、大丈夫か?」
 女は体を起こし、あれ? と呟く。
「急に倒れたから心配したぞ。疲れてるんじゃないのか?」
 女は精気に欠けた——比喩でも何でもなく、事実として——顔で俺を見た後、そうかも、と小さく呟いた。
「話し合いは今度にした方がよさそうだな。帰って休んだ方がいい」
 白々しく聞こえないように努力する。
 女は素直に立ち上がり、
「それじゃぁ、ごめんなさい。お言葉に甘えて」
「ああ」
 俺は女が立ち去るのを眺めて、ふと思った。こういう場合は、送っていこうかとか言うものなんだろうか?
「あ、神山君」
 女は振り返り、言った。
「私、大抵あの場所にいるから考えが変わったら来てね」
「あ〜、はいはい」
 俺の返事を聞くと、女は嬉しそうに笑って立ち去った。

 俺は再び、壁によりかかり空を見上げる。
『隆二、最後のあれはちょっと白々しかった』
「やっぱりそうか?」
『うん。もっと演技力を身につけた方がいいわよ』
「考えておく」
  マオは俺の隣で、同じように空を見た。
『何かおもしろいものでも見えたの?』
「別に」
『そう。……ねぇ、あの女の人はどうしてあんなことをしてるのかしらね。自分に関係ない事なんて放っておけばいいのに』
 マオはそういい、
『あたしにはわからない』
 と締めくくった。
「俺にもわからねぇよ」
『そっか』
 マオはそれだけいうと、俺の正面にまわりこんだ。
『ともかく、ここから立ち去りましょ。またぶらぶらするんでも、帰るんでもいいし』
「そうだな」
 俺も壁から体を離し、歩き始める。
 俺の横を飛んでいるマオに向かって、俺は言った。
「ともあれ、今回のことで一つだけはっきりしたことがある」
『何?』
「もう二度と、あの道は通れない」
 マオは俺の顔をしげしげと眺めてから、ふふっと笑った。
『そうね、でもいいじゃない。他にも道はあるんだから』
隆二がまだニートではなくフリーター設定だったころ。
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