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表立って載せるほどではない小噺と、あとがき。 その他キャラ設定などなど、徒然なるままに書き連ねるページ。 

夏祭り(小噺)

「沙耶、お祭り行こう!」
「いや」
 即答すると賢は泣きそうな顔をした。
 ずるい。
 そんな顔をするのはずるい。
「なんで」
「人が多いところは嫌い」
「それは、知ってるけど……。本当に、嫌?」
 だって、もし……

「人が多いところで龍をコントロールできなくなったら怖いから、嫌?」

 見抜かれた。
 軽く唇をかんで、読んでいた本から顔を上げ、賢を睨む。
 賢は多少おびえたように後ろに数歩下がる。
「……そうよ。そんなの嫌に決まっているじゃない」
 吐き捨てるようにそういうと、賢は困ったように天井を見る。
 そこに答えなんて書いていないのに。

『あれあれ、痴話げんか~?』
 暢気そうな口調でちいちゃん(この学校に居座っている霊の一人、だ)が声をかけてくる。
「どこかへ行きなさい」
 目を細めて命令すると、ちいちゃんは小さく舌を出して逃げていった。
「え、何? 俺?」
「あんたじゃない」
 慌ててこちらを見てくる賢に、言う。
「あ、そう。ならいいんだけど。……ねぇ、どうしても嫌? 一緒に行こうよ、お祭り。やばそうだったらすぐに帰るから、ね?」
 両手を顔の前で合わせて、頼み込むのを断れたら苦労しない。
「……本当に、ダメだと思ったら帰るわよ」
「じゃぁ、いいんだ」
「……いいわよ、もう。どうせ、これ、この間の球技大会の賭けのやつなんでしょ?」
「あ、よくわかったね。そのとおり。それじゃぁ、明日5時に駅前ね。あ、もちろん、浴衣着てきてよ」
「え? …………ちょっとまってよ、出かけるのは了承したけど浴衣だなんてそんなの」
「だって、お祭りだし」
 どうしよう、言い返せない。

「賢治! おまえいつまで部活サボってるんだよ、早く来い!」
 ドアが開いて、バスケ部の部長が呼ぶ。
 でも、彼はあたしを見て、一瞬顔を強張らせた。
「あ、悪い、今行くー」
 賢はそれに気づいていないふりをして、言葉を投げ返す。
 それから、自分の席からかばんをとると、すたすたと廊下へと歩いていく。
「それじゃぁ、沙耶。また明日」
 異論を唱える隙を与えず、そういうと出て行った。
 流されっぱなしの自分が悔しい。

 +

 可愛かった。
 そりゃーもう。
 いつもどこか睨んだ顔をしているのに、今は浴衣を着てきたことを少し後悔しているようにうつむきつつ、でも、満更でもなさそうに微笑んでいた。
 よかった、頑張って得点王になってよかった。
 ちょっと強引だったけど。
「じゃ、行こうか」
 そういって片手を差し出したときに、
「……帰りたい」
 早いんですけど、大道寺さん。
「え、もう……?」
 確かに無理だったら帰ってもいいって言ったけど、早すぎませんか?
 よっぽど間抜けな顔をしていたんだろう、沙耶はこちらをみると少し困ったように笑って続けた。
「違う、そういう意味じゃなくて。……なんか、普段和服を着ているときとか思わないのに、お祭りで浴衣を着ている自分って言うのが凄く恥ずかしい」
 そういってむすっとむくれて地面を睨む。
 それが可愛くておかしくて、笑うと、今度は俺が睨まれた。
 そんなふくれっつらで睨まれても怖くないけど。
「大丈夫、みんな同じような格好だし、似合ってるし。行こう」
 もう一度片手を差し出すと、沙耶はおずおずと手をつかんできた。
 一つ安心して息を吐くと、歩き出す。

「どうする? 何か食べたいものとかあるー?」
「……賢」
「ん?」
「笑わないで、聞いてくれる?」
「ええっと、善処します」
「……。……あのね、あたし、お祭りに来るのって今日が初めてなの」
「……はい?」
 笑いはしなかったけど、心底驚いた。
 でも、どこかで納得した。
「初めて? 今日が? 今まで一度も来たことないの? 高校生になるまで?」
 早口でまくし立てると、沙耶はうつむいた。
 ああ、まずいまずい。
「ごめん、言い過ぎた。ええっと、本当に?」
 小さく首を縦に振る。
「本当に小さいころは両親忙しくて連れてってもらえなかったし、一海でお世話になってからは……」
「……コントロールできなくなるのが怖くて?」
「……うん。円姉とか誘ってくれたんだけど、やっぱりどうしても行けなくて。だから、……今日円姉なんてすっごい張り切って着付けしてくれたし。……あたし、自分で出来るのに」
 ぼそぼそと呟く。
「そっかー。っていうことは、初のお祭りをご一緒できるわけですな。光栄だ」
 そういうと、沙耶は驚いたような顔をした。
 それから、
「そうね」
 とだけ呟いた。

「じゃぁ、適当に歩きながらどうするか考えようか」
「……そうね」
 そういって沙耶が頷いて、

「堂本君!」

 呼ばれた。
 誰だよ。
 いまちょっといい雰囲気だったのに。
 振り返る。
 三人組の女で、そういえばよく部活を見に来るミーハーな奴ら。
 一緒に振り返った沙耶の顔が強張った。
 握った手に力がこもる。
 あの女どもは沙耶を目の敵にしている。
 原因は俺。
 理由は「あたしたちの堂本君と付き合って!」
 いつ俺がおまえらのになった。

 くだらなさすぎる理由で、干渉してくるのは正直うざったい。
 はっきりいうと、あいつらを俺は嫌いだ。
 出来ることならもう二度と目の前に現れないで欲しいぐらい嫌いだ。

「堂本君、奇遇ねこんなところで会うなんて」
「……祭りに来る人間なんてたくさんいるだろう」
「あら、そうかしら? たくさん居る中から出会うのってなかなか至難の業じゃない」
「そうかい。……それじゃ」
 そういって俺は片手をあげて別れの意を示す。

 まずいと思った。
 沙耶の、バランスが崩れかかっている気がする。
 まずい。
 こんなところであれを暴れさせて、一番傷つくのは沙耶だから。

「え、せっかくだから一緒に回りましょうよ」
「冗談。先約がいるんだ」
 みてわかるだろうが馬鹿野郎。
 つないだ手を少し上に持ち上げて見せながら、
 もう一度別れの挨拶をして足早に歩き出す。
 すれ違いざま、沙耶に何かあいつらがささやいたのが気配でわかった。
「頼むから、もう放っておいてくれよ」
 思わず口に出ていた言葉は、でも、残念ながら誰にも届くことはなかったけど。


「帰ろうか」
 しばらく行って、立ち止まったところでそういうと、沙耶は青い顔したまま一つ頷いた。
「……ごめん」
「いいよ。考えてみれば誰にあってもおかしくなかったんだ。気づかなくてごめん」
 沙耶はゆっくりと首を横に振って否定の意を示す。
 もう一度ゆっくり歩き出す。今度は駅に向かって。

「賢。ちょっとまって」
「どうした?」
 声をかけられて立ち止まる。
「かき氷」
「……え?」
「かき氷だけでも、食べよう」
 そういって沙耶は微笑む。
 無理をしているのがわかったけど。
「でも、沙耶、大丈夫?」
「大丈夫。ちゃんと、押さえ込んでいるから」
 そういって右肩を強く握った。
 そこに龍が憑いているわけでもないのに、ついついここ握っちゃうのよね、そう言っていたことがある。
「そっか。それじゃ」
 そういって、暇そうにしているおじさんに声をかける。
「二つ。ブルーハワイと、沙耶は?」
「……同じで」
「じゃぁ二つ」
 おじさんは冷やかしの言葉を投げかける。
 笑って交わした。
 ちらりと沙耶をみたけれども、もう本当に落ち着いたみたいで、黙っていた。

「はい」
「ありがとう」
 ざくざく。
 氷にスプーンを突き刺す音がする。
 嫌いじゃない。
「……冷たい」
 沙耶がぼそりと言った。
「当たり前」
 そういってやると沙耶は少し嬉しそうに笑った。
「……ひょとして、かき氷もはじめて?」
「まさか。小さいころよく直兄とかがつくってくれたもの。でも、こうやって外で食べるのは初めて」
 そういう沙耶は本当に嬉しそうで、少しだけ安心した。

 ざくざく。
「沙耶」
「ん?」
「ごめん、今日は無理矢理呼んだのに不愉快な思いさせて」
「……いいよ。賢が悪いんじゃないし」
「……でも」
「……謝るのはこっちのほう。ごめんね。

 普通じゃなくて」

 いつもと同じ口調で言うから聞き流しそうになったけど、
 だけど今、とても凄いことを沙耶は言った気がする。

 じっと横顔を見ると沙耶は、ざくざくとかき氷を崩していく。
 食べるわけでもなく、ただ崩していく。

「だって、あたしが普通の女の子だったら嫌味一つ言われたぐらいでこんなになることないじゃない。
だから、ごめんねって」
「……それこそ、沙耶のせいじゃないだろう」
「でも、あたしがもっとちゃんとコントロールできれば、不安にならずにすむもの」

 ざくざく。

「普通の女子高生だったら別に興味も持たなかったと思うけど」

 ざくざく。

「ああ、そうね。賢は一番最初に巫女姫様に近づいたものね」

 ざくざく。

「今、それを言わなくてもいいだろう?」

 ざくざく。

「いいじゃない。もう、この話は終わりにしましょう。お互いに今日のお詫びとして、でかけましょう、今度」

 ざくざく。

「うわ、沙耶の口から信じられない言葉がでた」

 ざくざく。

「何よ。ただし、人の少ないところね」

 ざくざく。

「じゃぁ、沙耶ん家」

 ざくざく。

「……円姉がいるわよ」

 ざくざく。

「…………やめとく。どこに行くかは、考えとく」

 ざくざく。

「ん、任せた」

 ざくざく。

 +

「舌、青いよ」
「それは賢も一緒でしょう」
 言いながら沙耶は鏡をだす。
「ブルーハワイは好きだけど、これがいや」
「同感」

 ごみをごみ箱に入れて歩き出す。

「そういえば、夜ご飯食べてないからお腹すいたー」
「そうね。……さすがにここで食べましょう、とはいえないけど、どこかに寄ってく?」
「そうしよっか」

 そういって片手を差し出す。
「行きましょう、姫様」
 沙耶は一瞬不愉快そうな顔をしたけど、小さくため息をついて、手をつないだ。
    15:15 | Top
 
 
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