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表立って載せるほどではない小噺と、あとがき。 その他キャラ設定などなど、徒然なるままに書き連ねるページ。 

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あとがき

01/体感温度(隆二&マオ→茗)
不毛な会話の人たち。。
「暑いな」『暑くないでしょ』がやりたかったのです。
あと、マオの好みはまんま私です。

02/夏バテにはご注意を(茗→スイリ)
微妙にいちゃつく人たち。
何かと慎吾はご飯を作っている気もしますが……。

03/夏の来客(スイリ→円)
慌てるスイリちゃん。
慌てながらも法律馬鹿っぷりを発揮。

04/見えない来客(円→三浦)
お仕事円。
店長の恋愛相手がまさかこんなところに繋がるとは、
私も思っていませんでしたよ。

05/夏の幻(三浦→京介)
霊感少年。
三浦殿は絶対に見えそうだな、というお話。
そして彼が怪しい人にあう話。

06/同類相憐れむ(京介→武蔵)
怪しい人の話。
自分で書いておいてあれですが、とことん怪しいと思います。

07/記憶(武蔵→茜)
記憶力の無い人。
こんなおまけ的な話で魔女の組織がどうなっているのかとか、
そういうものを書くってどうなんだろう?
なんて、少し思いながらも。

08/彼女と猫(茜→相模・シオン)
猫好きの話。
そして、そんな猫好きが好きだという話。
ほのぼのしているこの人たちが好きですよ。

09/猫と彼女(シオン→朝陽)
気まぐれ長と使い魔。
とりあえず猫がいると目で追いかける私。
バイト先にいる猫は大人しいので、触るけど。

10/お仕事見学(桜子→麗華)
闘志を燃やす桜子さん。
そして、とても眠い朝陽ちゃん。
父親が新聞記者なのは、苗字が設楽だから
(設楽デスク、でわかって笑ってくれる人がいるのかどうか
↑マニアックすぎるという自覚はありますが)

11/夏ボケにはご注意を(麗華→直純・巽)
幻覚をみる女検事。
なんだかんだ言って、それなり茗のことも認めている人。
というか、認めているからああなのか……?

12/暴走自転車の怪(直純・巽→エミリ)
優しい騎士と冷酷お坊ちゃま。
この二人はとてもとても馬が合いません。
女王はとてもはまり役だと思う。

13/暴走自転車と怪(エミリ→シャドー・ファントム)
やけになったエミリ。
研究所にはろくな人間がいないらしいですよ。
この子がどうかわっていくかも話としては重要なところ。

14/真夏の夜のお仕事(上総→譲)
仕事をする魔女と使い魔。
冒頭の二人(一匹と一羽)の会話が、それぞれの性格がでていると思う、

15/真夏のお仕事(譲→探偵同好会)
お忙しい捜査一課。
実はこの辺から地理とかそういう矛盾が出てきていますが、
パラレルストーリーなので気にしない方がいいと思います。うん。

16/真夏のお仕事ごっこ(生徒会長→小春)
横暴生徒会長とお子ちゃま探偵同好会。
生徒会長が書いていてとても楽しい。
ろくな人間がいない学校ですよ。

17/小春日和の夏(小春→颯太)
夏なのに小春日和な喫茶店。
高校生だけで成り立っている喫茶店ってどうなんだろうか、とも思う。
けど、きっと小春は土地を持っていたりするんだと思いますよ。

18/珈琲論(颯太→新・店長)
珈琲マニア。
コーヒーについて教えてくれた友人に感謝!
ちなみに、本当に豆についてきかれたことがあります。

19/変な来客(新・店長→沙耶)
暇すぎる喫茶店。
お盆は本当に暇でした。

20/紅茶論(沙耶→上泉)
紅茶マニア。
ティーバックは赤いポットのアレ。
あ、あんまり美味しくないと思うんですけどぉ。

21/アツサニマケズ(上泉→隆二&マオ)
走る、ミス・マープル。
どう扱っていいのかわかりにくい人。
何の意味が〜のくだりが気に入っていたり

22/真夏のコンビニ族(隆二&マオ→高校生三人組)
バイトをする不死者と邪魔をする幽霊。
愛想の無い店員がいたもんだ。
「お二人とも」の三浦殿の台詞がやりたくてやりたくてしょうがなかった。

23/図書館ではお静かに(高校生三人組→静)
結局は高校生な三人組。
凸凹ですがいい感じにこの人たちはおさまっていると思います。
主は背が低いので本を取るのに苦労しています。
ええ、それは私もですが。

24/図書館ではお勉強を(静→龍一)
優等生、静。
この子は叔父様があいつなことを知らないわけですが、
知ったときにどれだけ彼女の価値観が揺らぐのか……。

25/決戦は夏(龍一・円→英輔)
受験生とおねーさん。
この二人のコンビもなかなか面白いと思っています。
色々とね。

26/甘いのがお好き(英輔→ホーセイ)
恐るべし甘党の話。
甘いもののためだけに生きているのです。
そして、九州男児という名前をつけた店主が凄いと思う。
彩果の宝石は浦和土産らしいっすよ
私はあんまり好きじゃないんですがね(え)

27/浮気調査(ホーセイ→慎吾)
頑張るスウリ探偵。
お盆云々は白夜行とかその辺がネタ元(確か)

28/素行調査(慎吾→探偵同好会)
いい性格している渋谷探偵。
慎吾の方がホーセイよりも探偵の腕は上です。
うん、年齢的にもね!

29/仕事調査(探偵同好会→和広)
頑張れ太陽君。
どんなに振り回されてもついていく、子犬みたいな子です。
朝陽ちゃんと並ぶと子犬が二匹、みたいな感じです。

30/メモリアル(和広→梓)
憂えるおやっさん。
書いているときは人間関係狭いなぁと思ったけれども、
意外と世の中そういうことあるんだなぁと思ったり。
(バイトの先輩の妹の元彼が同期の子の友達だったり、とか)

31/青春の夏(梓・相模→円・直純)
愛の告白と見える人達。
正直、チビ円と直純が書きたくてしょうがなかったのです。

32/怪談(調律師→裁判委員長)
憑きやすい少年と祓う女性(と大きくなった人々)
龍一に憑いてきた男の子を祓う、というのは前からやりたかったネタ。
ビルは怪談の噂になってます。

33/いざ、一勝負(裁判委員長→四月一日)
将棋好きな高校生。
桜子さんのところの裁判委員長。
まともな人間はやっぱりいません。

34/さぁ、一勝負(四月一日→沙耶・龍一)
将棋好きな鑑識。
九官鳥の鑑識さん。
慎吾とはとても仲良しです。

35/ドッグディズ(沙耶・龍一→?)
再会した人々と総括。
さぁ、皆さん声を揃えて「またこのネタかよ」
好きなんですよ、この組み合わせ。
というわけで、続「Stray cat」です。
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35/ドッグディズ(沙耶・龍一→?)

「お腹がすいた」
「……それで?」
「外は暑そうね。ここはクーラーが利いていて、とても涼しい。わかる? つまり」
「あたしにお昼ご飯を買って来い、そういいたいんでしょ? 自分で買いに行くのも、自炊するのも暑くていやだから」
「当然」
 沙耶の言葉に円は満足そうに頷いた。沙耶が呆れた、と呟いた。
「何がいいの?」
 軽くため息をつきながら、手近なメモ用紙を引き寄せる。
「冷やしうどんとか冷やし中華とか」
「はいはい。清澄と直兄は?」
「何でも。強いて言うなら、ご飯系」
「あー、じゃぁ、ラーメンで」
「了解」
 鞄を掴むと立ち上がる。
 それかふっと、隣に尋ねた。
「龍一はどうする?」
「え?」
 まさか聞かれるとは思っていなかった龍一は少しほうけた顔をして、それから立ち上がった。
「じゃぁ、俺も行くよ。荷物もち」
「そう? ありがとう」
「えっ……」
 ひそかに一緒に行くタイミングをはかっていた直純は小さく声をあげたが、それに気づいたのは隣の円だけだった。
「じゃぁ、行ってきます」
「いってらっしゃい」
 その円は直純の声を黙殺して、片手をふり……、
「あ、ついでに煙草も」
 そう付け加えた。
「覚えていたらね」
 最初から買ってくるつもりのない沙耶は、そう返事をした。

 ぎしぎし、
 相変わらず今にも壊れそうな音のする階段を下りる。
 2階まで降りたところでちらりと、噂の将棋クラブを覗いてみた。
 そしてまた降りていく。
 全部降りきったところで、沙耶は言った。
「お客さん、2人しかいなかったね」
 その言葉に龍一は頷き、
「また、つぶれちゃうかな?」
 肩をすくめて尋ねてみた。
「そうねぇ……、まぁ、こればっかりはしょうがないわ」
 沙耶は苦笑して答えた。



「10月の第四日曜だっけ?」
「そうよ、見事に学園祭とかぶってるけどね。ちょっと、これってどういうこと?」
「どれ?」
 向こうから歩いてきたカップルらしき男女二人組みは立ち止まり、女性が持っていた本を男性が覗き込んだ。
「げ、こんなの知らないし。俺の受けたところは地上波デジタル放送の問題なんてでなかったから」
「もう、この役立たず!」
 女性は一方的にそういいきると、また本を見ながら歩き出す。
「スィ、転ぶぞ」
 男性がその隣に並ぶ。
「法令は大丈夫なのよ。6割どころか8割とる自信がある。うん」
「法律馬鹿だもんな」
「五月蝿い、ホーセイ。でも、一般教養が駄目。何、地上波デジタル放送なんて行政書士に必要?」
「知らないよ。だから、俺が受けたころにはそんなものなかったし」
「ああ、そうよね、ごめん。もう、『走査線525本のアナログ放送に対し、デジタル放送では走査線1125本の高精細な映像が視聴できる』合ってるか合ってないかどころか、意味すらわからないわよ。走査線って何? あー、今年こそ受かりたい。もう落ちたくない」
 女性が一人で憤りながら歩いてくる。
 すれ違うとき、沙耶と肩がぶつかった。
「あ、ごめんなさい」
「いえ。すみません」
 女性はそういって何度か頭を下げると、また本を見ながら歩き出す。
「すみません」
 連れの男性が沙耶に向かって一度頭を下げ、
「スィ、わかったからお前どこかで座ってやれよ。珈琲代ぐらい出してやるから」
 女性に向かってそう話し掛けた。
 そんな二人を見送りながら、沙耶は軽く肩をすくめた。
「大丈夫?」
「別に、掠っただけだし」
 それから龍一の方をみて、少しだけ悪戯っぽく笑った。
「大変そうね、受験生」
「……」
 龍一は明後日の方を向いた。



「暑いわね」
「そうだね」
「でも、提案」
 隣よりも一歩後ろを歩く龍一に言った。
「この次の角を曲がればそこにコンビニがあるわ。でも、あと10分ぐらいかかるけど、別のコンビニがあっちの方にあるの。そっちまで行かない?」
 その提案を却下するだけの理由を龍一は持っていなかった。
 微笑んで頷くと、沙耶は安堵したように息を吐いた。
 ガードレールの傍に止めてあったバイクの上でまどろんでいた猫が、にゃーと一度鳴いた。
 バイクの持ち主らしき男性が道の反対側から、道路を渡ってこちらへ歩いてくるのが見えた。



 二人で何も言わないでただ歩く。
 ほんの十数分のその道を、ただ黙々と。
 この沈黙が心地よいと、僅かに沙耶は笑った。
 そして、そのままを言ってみようかと口を開きかけたときに、
 ききぃっ!
 大きな音がして、二人はそちらを見た。
 それがブレーキ音だと気づいたのは、そこにあったのがバイクだったからだ。
「シン、ありがとう、助かった」
 後ろに座っていたスーツ姿の女性が、転げるようにしてそこから降りると、ヘルメットを投げた。それを片手で受け取り、男性は
「帰りは?」
「あー、出来たら送って」
「じゃぁ、終わったら電話してくれ」
「うん、ホントありがとう」
 女性は走り出そうとして、振り返ると、
「愛してる」
 ヘルメット越しに男性に軽く口付けて、本気なんだか冗談なんだかわからない口調でそう言うと、正面のビルへかけこんだ。
「こういうときだけ愛してるとか言われてもねぇ、俺は便利な足か」
 男性が自嘲気味に呟いて、じっと自分を見ている二人に気づいた。
「……何か?」
 目の前であんな光景を繰り広げておいて“何か?”もへったくれもないと思ったが二人は声を揃えて答えた。
「「いえ、別に」」
 電線にとまった鴉が、一声カァと鳴いた。



「今日はおかしな人に会うわ」
 沙耶がぼそりと呟いた言葉に龍一は苦笑した。
「暑いからね」
「ああ、暑いから」
 その言葉に沙耶は納得したかのように頷いた。
 その傍を高校生ぐらいの男の子が二人、かけていった。
「暑いのにご苦労なことね」
 沙耶がそう呟くと、龍一も一つ頷いた。



 目的地のコンビニについたとき、沙耶は軽く眉をひそめた。
 店先で三人の女の子がたむろっていたからだ。
「マンバメイクっていうんだっけ?」
 隣の龍一に耳打ちする。
「山姥に失礼だよな。まだ見たこと無いけど」
 龍一は答えた。
「意外といい人よ」
「え、会ったことあるのっ!?」
 龍一の驚きの声に軽く微笑み返し、さてはてどうしようかと、僅かに思案して、面倒だから関わらないでおこうかと思ったそのときに、
「あー、またあんた達!」
 後ろから甲高い女の子の声がした。
「昨日に引き続き今日も店先でたむろって居るなんていい度胸じゃないの!」
「魔女さん、昨日注意されたばっかりでしょう?」
 一緒にいた女の子がそう言った。
「今日は三浦君もいないんだから、程ほどにしておきなさいよ」
 そんな忠告なんぞに耳を貸さず、注意した方の女の子は続ける。
「昨日も言ったと思うけれどもそういう、貴方達みたいな子どもがいるから大人に馬鹿にされるのよ。わかっている? だいたいね」
「……あまり厄介ごとに首をつっこまない方がいいと、昨日忠告しなかったか?」
 女の子の言葉をさえぎるように、呆れたような男性の声がした。
「あ、」
 だまって成り行きをみていた沙耶は、小さく声をあげた。
『あれ? 沙耶じゃんっ!!』
 その男性の後ろにいた幽霊が顔中を笑みにして手を振ってきた。
「知り合い?」
「ええ」
 幽霊を指さしながらの龍一の問いに頷き、微笑み返す。
「あ、あなた、昨日の。ここ、貴方の勤務先じゃないんじゃないの?」
「今日は休み。コンビニでバイトしているからって自分のバイト先に行くと思ったら大間違いだ」
 女の子の言葉に青年はそれだけ返すと、沙耶の方を見て、会釈した。
「あのときはお世話になりました。……ええっと、大道寺さん?」
 忘れてたのか、とも思ったが、彼と話したのは少しだけだし、彼が人間ではないという事実を除いてはたいしたインパクトもない出会い方だった。それは向こうも同じだろう。
「はい。お久しぶりです」
 そもそもそう言って笑った沙耶だって、彼の名前をすぐには思い浮かべられなかった。
「神山さん」
 記憶から引っ張りだしてきたその名前に、青年は一つ頷いた。
『沙耶、久しぶりー』
 神山隆二の背中にへばりついていた幽霊はそこからひらりと離れると沙耶に抱きついた。
「久しぶり、マオ」
 マオにだけ聞こえるようにそういうと、マオは満足そうに頷いた。
「ここに用?」
「ええ、お昼の買出しに。職場のみんなの分も」
「ああ、この辺なんだ」
 そう言いながら隆二はマンバと女子高生を放置して店内に入る。
 そのあとに続きながら、沙耶は首を傾げた。
「放っておいていいんですか? お知り合いなんじゃ?」
「まさか。昨日も見かけた正義感の強いじゃじゃ馬女子高生だ。そもそも放っておいても店員が対処しに行くさ」
 そういった隆二の隣を店員がかけていく。
 外に出て行ったその店員は彼女たちに何かを言っているようだった。
 納得いかない顔をしてマンバと女子高生がその場を立ち去る。ただ、女子高生の連れの方は、晴れ晴れとした顔をしていたが。
「ホントだ」
「な?」
 隆二は肩をすくめる。
「神山さんは何を買いに来たんですか?」
「天気がいいから外で飯でも喰おうと思っておにぎり」
「……天気がいい?」
 龍一がその言葉に眉をひそめた。
「些か良すぎるように思いますけど」
 沙耶もそう言って苦笑する。
 無論、彼が人間ではないということを踏まえての言葉だが。
「暑くないし」
『そうよねー』
 沙耶の周りをくるくる回りながらマオが頷いた。
「大道寺さんもよかったら一緒にどう? こいつも喜ぶし」
「せっかくですけど」
 沙耶は微笑んで辞退した。
「仕事中ですし、何よりも、あたしには暑すぎるので」
 そういうと隆二は今気づいたかのように、ああ、と呟いた。
「そうかも」
 隆二は苦笑しておにぎりを二つとる。
 沙耶は頼まれていたものと自分の分のお昼ご飯をかごの中にいれた。
「龍一は? 奢るわよ、500円ぐらいまでなら」
「でも」
「頑張ってる受験生にご褒美」
「じゃぁ、お言葉に甘えて」
 サンドイッチをかごの中に入れると、沙耶は満足そうに笑った。
『ねぇ』
 マオが沙耶の肩越しに龍一を見ながら尋ねた。
『この人が沙耶の大切な人?』
「なっ!」
「マオ」
 顔を真っ赤にして固まる沙耶をみて、隆二はため息混じりにマオをたしなめた。
「失礼だろ」
 そうだったとしても、違ったとしても。まぁ、あの反応を見る限り当っているのだろうが。
 沙耶の後ろで龍一も同じような顔をして固まっていた。
『だってだってだって』
 マオは頬を膨らませながら、隆二の背中にしがみつく。
『この間は上手いことはぐらかされたのよ?』
「だったら尚更だ。はぐらかされたっていうことは言いたくないってことだ。すまないな、この通り中身はお子様なんでな」
 最後の台詞は沙耶と龍一に向かって苦笑しながら言った。
 沙耶は落ち着きを取り戻し、微笑んだまま首を横に振った。
「彼は」
 曖昧な笑顔を浮かべている龍一をしめしながら続ける。
「榊原龍一。あたしの働いている事務所で手伝いをしてくれている人です。あたしの……」
 右手で肩を掴む。
「あたしの、これ、も知っている人なんで」
「ああ、なるほど」
 低く押し殺した声で沙耶が紡いだ言葉にも、隆二はあっけらかんと言葉を返した。
「大道寺さんの理解者ってわけだ。そういう人は大事にした方がいい。いなくなってから後悔しても、どうしようもない」
 微笑みながら隆二は言う。
 マオが軽く唇をかんで隆二から離れた。
「……それは、経験から、ですか?」
「ああ」
 一人で棚の商品を見るふりをするマオに一度視線をやり、沙耶は続けた。
「でしたら、その言葉そっくりそのままお返しします。……いなくなってから慌てて探しにでても、遅いんですよ? いつかみたいに」
 そこでくすりと笑う。
 隆二はきょとんとした顔をして、それからすぐに微苦笑を浮かべた。
「ああ、確かにな」
 そういって横目でちらちらこちらを伺いながらもデザートなんて眺めているマオの右腕を掴んだ。
『……。』
 マオは少しだけくすぐったそうな顔をして笑った。そのまま、また隆二の背中へくっつく。それをみて、沙耶も微笑んだ。
 そして、そんな沙耶をみて、龍一が少しだけ微笑んだことを、本人以外誰も知らない。



 かごをレジに出し、それから隆二は店員に告げた。
「あと、マルボロ」
『隆二! 禁煙!』
 背中にはりついていたマオがわーわー叫ぶ。
 それを無視して隆二は会計を済ませる。
 隣のレジで会計を終えた沙耶に、その買ったばかりの煙草の箱を投げた。
「大道寺さん」
「うわ」
 慌ててそれを受け取る。
「これは?」
「もう一人のねーちゃん、なんだっけ? 名前、確か聞いてないと思うんだけど」
「円姉?」
「そう、その人へ。なんだかんだいってあの時は世話になったし」
 出来れば禁煙を勧めたい沙耶は少しだけ渋い顔をして、それからすぐに笑った。
「ありがとうございます。この上もなく、喜ぶと思いますよ」
 隆二は少し笑うと、沙耶の隣の並ぶ。
 歩きながら、袋をあさり
「あとさ」
 肩でドアを開けながら、目的のものをとりだすと沙耶ではなく龍一に渡した。
「お二人でどーぞ」
「あ、ありがとうございます」
『それねー、あたしが選んだんだよ〜』
 何時の間に買ったのか、二つのソフトクリームを龍一は受け取っていた。
「ありがとうございます」
 ぺこりと頭を下げる沙耶に、
「だから、この間のお礼だって。じゃぁ、まぁ、元気で」
 そう言って笑うと、さっさと歩き出す。
『えー、ちょっと隆二』
 マオが慌てて隆二についていこうとして、もう一度沙耶と龍一の前に戻ってくると二人の手を気持ちだけでも掴んで言った。
『喧嘩しちゃ駄目よ』
「マオもね」
 苦笑しながら沙耶が言葉を返すと、マオはにっこりと笑った。
『大丈夫。喧嘩するほど仲がいいって言うから。ええっと、龍一さん?』
 マオに名前を呼ばれて龍一は慌てて頷く。
『沙耶のことよろしくね。じゃぁ、またね』
 マオはそれだけいって手を振ると、一度も振り返らずに歩いていく隆二を追いかけた。
『隆二ー、待ってよ〜』
 そう言いながらも、時々こちらを振り返って手を振る。
 そして、隆二の背中に再びしがみつくと、もう一度大きく手を振った。
 彼らが角を曲がると、沙耶はくるりと向きをかえて歩き出す。
 慌てて龍一がその隣に並んだ。
「はい」
 そして持っていたソフトクリームを片方渡す。
「あ、ありがと」
「それで、どういう知り合いなの? 仕事上?」
 そのソフトクリームを食べながら龍一が首を傾げる。
「ん〜、前ねマオが神山さんと喧嘩して、あたしの家の前まで家出したことがあるの。そのときに、ちょっとね」
「仲良くなったんだ」
「そう、なんだか放っておけなくて」
「似ているよ」
 真夏の太陽にさらされて勢いよく溶けていくアイスに慌てながら龍一は言った。
「……何が?」
「沙耶が」
「……何に?」
「あの二人に。うわ、溶けるのはやいって」
 真夏の太陽に文句をいいながら、龍一はアイスを消費していく。
 同じように溶けていくアイスに格闘していた沙耶は続きを促さなかった。
 大体食べ終わったところで、もう一度尋ねる。
「神山さんとマオに? あたしが?」
「そう、なんとなくだけどね」
 最後のコーンの欠片を口に放り込みながら龍一は頷いた。
「今日は随分と、誰かに似ているって言われる日なのね」
 おどけて笑う。
「でも、あたしはマオみたいに可愛げがあるわけでもないし、神山さんみたいに落ち着いているわけでもないわ」
「でも似ているよ。なんとなく、だけどね」
 もう一度そういうと、龍一は黙る。
「なんとなくね」
 最後の一口を飲み込むと、
「なら、龍一もなんとなく似ているわ。あの二人に」
「え、なんで?」
「特に、マオにね」
「なんで!」
 沙耶は微笑んで
「さぁ、なんででしょう?」
 それだけいうと少しだけ歩くスピードを速くした。
「沙耶?」
 沙耶は微笑んだまま、黙っていた。
 それを見て、龍一も結局ため息をついて追求するのをやめた。

「それにしてもよく非番の日に会いますね、小鳥遊さん?」
「別に貴方をつけているわけじゃないわよ、笹倉さん」
 二人の横を、そんなやりとりをしている男女が通り過ぎた。

「暑いね」
「でも、さっきよりは涼しいわ。早く戻りましょう。円姉とか遅いとかいって怒りそう」
「円さんなら、大丈夫だよ。煙草があるなら」
「ああ、そうね」
 そういって沙耶はくすくす笑った。



「あたしが何かをして、貴方が怒って離れていっても、またすぐに心配して戻ってきてくれるところ、とかね」
 声にはしないで、口の中で言葉を転がした。
    00:33 | Top

34/さぁ、一勝負(四月一日→沙耶・龍一)

 非番の日。
 妻とは3年程前に死別したし、一人娘は成人して会社の近くで一人暮らしをしている。
 よって、非番とはいえ日常ためていた家事をするぐらしかない、わたしは一人町をうろうろしていた。
 わざわざ都内まで足を伸ばしたのに、特にすることもない。
 そこで、たまたま見つけた将棋クラブにふらりと足を踏み入れた。
 そう、暇だったからだ。
 将棋は仕事が生きがいのわたしにとって唯一の趣味といえる。
 しかし、この将棋クラブで暇を潰せたかといわれたら、まったく潰せないわけで、わたしの他に客が一人も居ないこの店で、店主と二人で他愛も無いおしゃべりをするぐらいしかすることがない。
 正直、わたしは将棋がしたかったわけで、店主としゃべりたかったわけではない。
 そもそもわたしは無口な方だし、職業を聞かれて「鑑識だ」と答えてもなんら話は発展しないし、下手するとひかれるのだ。よって会話は弾まない。
 こんなことならば、探偵のところに行けばよかったかもしれない。
 何かと事件に巻き込まれたり、首を突っ込んできたりする探偵、名前は渋谷慎吾。
 あいつとは将棋仲間なのだ。
 そんなことを思っていると、ぎぎぃと音を立てて扉が開く。
 高校生ぐらいの男子がきょとんとした顔でこちらをみていた。
 ああ、そりゃこの閑古鳥の鳴き具合をみたらな。
「坊主、客か?」
 そう尋ねてみると、坊主は近頃の若者にしては珍しく、
「はい」
 といい返事をした。
「やっと客が来たか!」
 ばしっと、膝を叩いてみせる。
 これで退屈とはおさらばだ。
「珍しいな、高校生か?」
「ええ」
「そうか、じゃぁお相手願おうか」
「是非」
 坊主は店主に使用料を支払うと、わたしの前に座った。
 この若者がどれぐらいの腕前かしらないが、年長者の意地にかけて負けるわけには行かない。

 さぁ、一勝負!

    00:25 | Top

33/いざ、一勝負(裁判委員長→四月一日)

 おお、なんと!
 わたしは心の中で歓声をあげた。
 いつも通っている道で、いつも見慣れたビルをたまたま見上げたのは、何か予感があったからかもしれぬ。
 2階に入っているのは、将棋クラブじゃないか!
 なんだかやけに寂れたビルだが、そこがまた情緒があってよい。
 1階の暇そうな花屋の隣の階段に足をかける。
 ぎしぎし、
 なんだか気味の悪い音を立てる階段。しかし、この階段にもおんぼろビルにもなんら罪は無い。だから、彼らは悪くない。もし、悪かったとしても、将棋クラブがはいっているなんて情状酌慮の余地がある。
 そう思いながら扉を開けて、わたしは愕然とした。
 店内にいた暇そうな店主と思しき女性と
 客らしき男性一人の視線がわたしに集まった。
 ……なんと!
 客が一人しかいないとは!
 前言を撤回しよう。
 なんと罪深き店なんだ。
 極刑か!
「坊主、客か?」
 男性がそう尋ねてきた
「はい」
「やっと客が来たか!」
 男性はばしっと、膝を叩いた。
「珍しいな、高校生か?」
「ええ」
「そうか、じゃぁお相手願おうか」
「是非」
 わたしは頷き、財布から800円出すとカウンターにおき、男性の前に座った。

 いざ、一勝負!
    00:24 | Top

32/怪談(調律師→裁判委員長)

「そういえば、また、変わったんですね。2階」
 ふらりと現われた龍一が、椅子に腰掛けながら言った。
「2階? ああ。将棋クラブになってたわね」
 宣言通りに現われた彼に嗤いかけながら、円は頷いた。
 龍一はその笑みに居心地の悪さを覚え、僅かに身じろぎした。
「はい、どうぞ」
 心なしか軽い足取りで沙耶は近づくと、テーブルの上にグラスを置いた。
「ありがとう」
「ストロベリーとシャンペンで香り付けをした紅茶。水出しアイスティーよ」
「ふーん。ん、おいしい」
「よかった」
「沙耶、私にも」
 円が言葉とともに差し出してきたグラスにアイスティーを注ぐ。
「直兄と清澄は?」
「俺はいい」
「ちょっとだけ」
 清澄のグラスにも少し注ぐと、自分の分に口をつけた。
「ころころ変わりますね、2階」
 この事務所が入っている5階建てのビル。この事務所は5階にあるが、他の階のテナントはころころ変わっている。龍一が知っている限り、2階は行政書士事務所、喫茶店、何かの事務所、そして今回の将棋クラブへと変貌を遂げている。
 ちなみに、今1階は花屋、3階、4階は空き部屋になっている。
「ん〜、そうね」
 円は机の中からクッキーの缶をだすと、それをみんなに配りながら答えた。
「まぁ、一種の怪談の元ネタみたいなものね。この事務所のせいなのよ、それって」
「え?」
「怪しいでしょ、調律事務所、なんて」
 沙耶はクッキーを片手に、ブラインド越しにかすかに見える窓の文字を指さした。
「それはもう」
 龍一はここぞとばかりに頷いた。
「だからね、ほかの階にはあんまり人がいつかないのよ。お客さんが不気味がって来ないから」
「……ああ、なるほど」
 なんとなく足を踏み入れることを躊躇う気持ちはわかる。事実、龍一自身も慣れるまでここへ足を踏み入れるのを躊躇っていた。
 今ではそんなことはないが。
 もっとも、また別の意味で躊躇うときはあるが。
「ま、私たちが商売柄あやかしをひきこんじゃうときもあるし、それを見た人がこのビルは出るっていったりしてねぇ」
「大変ですね」
「……他人事みたいに言っているけど、龍一」
 沙耶はグラスを両手で抱えながら呟いた。
「貴方が霊媒体質で色々連れてくるから、っていうのもあるのよ」
 そしてそのまま、じっと彼を見る。
 正確には、彼の肩の辺りを。
「……今度はどこで何に同情してきたの?」
 低い声でそう尋ねる。
「……なんかいるの?」
 見えない代表佐野清澄が眉を思いっきりひそめてきいた。
「ああ」
 龍一を睨んでいる沙耶の代わりに直純が答えた。
「男の子、かな。3,4歳ぐらいの」
「……大方、交通事故ね」
 頬杖をついて事の成り行きを見守りながら、円も付け足した。

 龍一は少し体を後ろに引く。沙耶からそれを守るかのように。
「あ、あのさ、この子は」
「龍一」
 彼の言葉をさえぎり、沙耶は鋭く彼の名前を呼ぶ。
「霊は生きている人間を連れて行きたがるものだと、言ったはずでしょう? これで何回目? 軽々しく何かに同情するのはやめなさいと言ったでしょう? 大体、簡単だけれども祓える方法、教えたでしょう? 何か憑いているのぐらい自分でもわかるでしょう? それでやれば大体祓えるはずよ」
「でも」
「遅いのよ、何かあってからじゃ」
 唇を軽くかんで、沙耶は龍一を睨むように見つめた。
「……ごめん」
 それに耐え切れなくなって、龍一は呟いた。
 沙耶が軽く息を吐いた。
「こっちに来て」
 グラスをテーブルに置くと沙耶は手招きする。
 龍一は素直にそれに従った。
「しゃがんで」
 膝を床につける。
 龍一の頭を沙耶は軽く抱えた。
「ねぇ、痛かったよね。つらかった?」
 すぐ近く、本当に耳元で聞こえる声とか、自分の頭を撫でる腕とか、そういったものに心地よさを感じるけれども、でも、それが自分に向けられたものじゃないことを知っている。
 とても、切ない感情。
 彼女は、自分に対してはこんな行動はとらない。
「でもね、もう痛いのも辛いのも、終わったから。……うん、そうね。パパともママともしばらくお別れだけど、貴方がいい子にしていれば、迎えにきてくれるわ」
 他のメンバーは黙ってことのなりゆきを見守っている。
 直純でさえ。
 彼が目に浮かべているのは沙耶を心配している、そんな気持ちだけ。
 少しでも、自分に嫉妬していてくれればなんて、思ってしまう。そこに救いを欲しがる。
「だから、今は、もうおやすみなさい。貴方が次に目覚める時にはパパもママもきっと、そこにいるわ」
 この子をだしにしていることぐらい、自分でわかっている。
 ここに来る途中で、見つめた交差点の花束。
 そこに立っている男の子。
 彼が自分に気づいて、憑いてきたことぐらい知っている。
 それを自分からおとす方法だって聞いたから覚えている。
 それでも、そのままここに連れてきたのは沙耶が祓ってくれることを望んだからだ。少しだけでもいいから、自分のことを心配して欲しかったからだ。
 ただ、それだけ。
「うん。じゃぁ、おやすみね」
 沙耶がそう言って笑った。
 少し待ち、
「はい、終わり」
 事務的にそう告げると何の感慨も残さず彼から離れた。
 再びアイスティーに口をつける。
「どうも」
 龍一もそれだけいうと立ち上がり、再び元の椅子に座った。
 一時の自分の欲求を満たしても、結局残されるのは隔たりだけ。

「今、急に思い出したんだけど」
 黙ってそれを見ていた円が唐突に言った。
「直、昔さ、変な男の人みたことあったわよね?」
「変な?」
「ほら、すごく小さかったころ。あんたと二人で土手を歩いてたら、男の人と女の人が前からやってきて……、そう、その人には魂がなかった」
 直純は視線を一瞬上にやり、
「ああ、思い出した」
 すぐにそう言った。
「俺はやめようって言ったのに円がその人に、貴方は何? とか聞いたときだろ」
「そんなことしたのっ?」
 非難を込めて沙耶が言う。
「危害を加えられでもしたらどうしたんですか?」
 龍一にまでも責められて、円は肩をすくめた。
「昔は自分の力が絶大だと思っているお嬢様だったからどうにでもなると思ってたのよ。今考えるとすっごい危なかったけど」
「そうだったんですか?」
「ええ。昔の私はかなり嫌な奴だった」
「ああ」
 円の言葉に1歳違いの従弟は思いっきり頷いた。
「ちなみにこいつは私の影に隠れてびくびくしているような子どもだったわ」
 そういって円は従弟を指す。直純は肩をすくめた。従姉と同じように。
「それで、その人は?」
「さぁ、本人は人間だって言っていたけれども……もし、人間として暮らそうとしている人だったら、悪いことしたかもね」
 そういって、グラスを手に取る。
「でもね、多分あの人は今でも元気に暮らしているわ。そんな気がする。人間だろうとなかろうと、魂があろうとなかろうと、きっとそんなことあの人には些末だったのよ。今思うとね、少し沙耶に似ている」
「あたしに?」
 沙耶は首を傾げる。
「小さなときの記憶だから、あれだけど。地上に降りてきて、みんなが自分の絶大なる力に恐れをなして近寄ってこなくて、それに涙している神様みたいな人だった。寂しくて寂しくて本当はしょうがないんだけど、
それは言わないでただ自分の仕事をこなすの。自分の力とかそういったもの、本当は捨てたいのだけれども、それで得た大切なものもあるから、捨てられない。あの人は、そんな顔をしていた」
「……円姉はあたしのこと、そんな風に見てたわけ?」
 自分の姉のような人間の、審美眼は殆ど間違わないことを沙耶は知っていて、それでいて、だからこそ、そう問い掛けた。
 それはなんだか、かいかぶりのような気がしたのだ。
 自分はそんなに綺麗に生きては居ない。
「ええ」
 そういって円は軽く微笑んだ。
 そして、絶大なる自信を持って、付け加えた。
「信念のある強い人間だと誉めているのよ、きっとね」
    00:22 | Top

31/青春の夏(梓・相模→円・直純)

「先輩に忠告されたわ。たまにはサークルの集まりに顔を出さないと、みんながあまりいい顔をしないって」
「ふーん」
「ふーん、じゃなくて。貴方のせいなのよ、相模」
 並んで歩きながら梓は相模を睨みつけた。
「僕のせい? 違うな、それは責任転嫁だよ」
 相模はひょうひょうと言い切った。
 確かにその通り。
 自分がソレを選んだことはわかっている。
 だが、その言い方はないだろう。
 悔しくて梓は、もっていたスーパーの袋を相手の足に思いっきりぶつけた。
「っ」
 不意打ちを食らって、彼にしては珍しく小さくうめき声をあげた。牛乳パックがはいったそれはとても重いのだ。そして、ぶつけられたらとても痛い。
 大体、なんで持ってくれないのか?
 期待するだけ無駄なことなんてわかっているけれども、彼氏彼女を気取りたいのならば、荷物ぐらい持ってくれてもいいじゃないか。
 そう思いながら、一人ですたすたと先を行く。
 すぐに平静を取り戻した相模は、少し大股で梓の隣へ再びならび、彼女の手からスーパーの袋を奪いとった。持ってもらったら持ってもらったで、驚いた彼女は相模をみる。
「……あれは、痛かった」
 相模は小さく呟く。
「またぶつけられたら、たまらないから」
 他に言いようはないものなのか!
 少しあきれたが、そういう人なのはわかっているので、梓は苦笑するに留めた。
 少し赤くなった左手をさする。
「じゃぁさ、」
「?」
「やめれば、サークル」
「……はぁ??」
「……やっぱり駄目か」
「馬鹿じゃないの……っていいたいところだけど、それもいいかもね」
「は?」
「何よ、自分で言い出しておいて、その反応。もともと付き合いで入っただけだし」
 軽く、リズムをつけるようにして梓は歩く。
「……大学も、やめちゃおうかなぁ」
「え?」
「もう、何よ。貴方ともあろう人がそんな間抜けな顔をさらすなんて」
 梓はそういってくすくすと笑う。
 相模は慌てていつもの少し笑みを浮かべた顔を取り繕った。
「梓ちゃん、」
「ねぇ、相模」
 相模の言葉をさえぎり言葉を紡ぐ。
 足を止める。
 同じ速度で歩いていた相模も、梓から一歩先に進んだところで止まった。

「一緒に暮らさない?」

「…………、え、ちょ……」
 今度こそ、相模の顔から平静は消え去った。
「梓ちゃん、何、いきなり!」
「いきなりじゃないでしょ、ちゃんと私は布石を打ってきたわ。いきなりだと思うなら気づかなかった貴方が悪い」
「梓ちゃん、君は自分が何を言っているのかわかっているのかい?」
「それなりにはね」
 梓は歩き出す。
 相模も慌ててあとを追う。
「私はね、相模。貴方の立場も、私が今言ったことを実行できないことぐらい、よくわかっているわ。だけどその上でそう言ってみたかったの。私の決意を示してみたかった。大学もやっぱりやめる。行ってても意味がないこと、気づいたから」
「……。」
「だから」


「ねぇ、おにーさん」
 梓が口を開きかけたとき、下からそんな声がした。
 二人が少し拍子抜けした表情で声のほうを見ると、気の強そうな女の子とその子の後ろに隠れるようにして男の子が立っていた。
「僕のことかい?」
 相模がいつもの笑顔を取り繕って尋ねる。
「そう」
 女の子の方が頷いた。
 それから、相模の顔を睨みつけるようにしてみる。
「おにーさん、なに?」
「何って?」
「おにーさん、ニンゲンじゃないんでしょ?」
 空気が冷える。
 相模の笑顔の温度が、限りなく低くなるのを梓は肌で感じた。
 この子達は何を言っているの?
「まどかちゃんー、やっぱりやめたほうがいいよぉ。ソウシュにおこられるよぉ?」
 男の子が女の子の袖をひっぱっていう。
「なによ、なお。あんただってギモンなんでしょ? ねぇ、おにーさん。おにーさんって、なに?」
「……どうして、僕が人間じゃない、と?」
「おにーさんにはニンゲンにみえないから。なんだろう? タマシイがね、ない……? しなない? しねない、のかな?」
 品定めするように女の子がいう。
「まどかちゃんー、このおにーさんおこってるよぉ。やっぱりしつれいなんだってばぁ」
 男の子が情けない口調で言う。
「相模」
 自分がその男の子と同じような顔をしていることを感じながら、梓も同じように相模の袖をひっぱった。
 相模が片手でその梓の手に一瞬、軽く触れた。
「僕は人間だ」
 相模は吐き捨てるように言った。
「少なくともそのつもりだ、今は。例え、何に見えたとしても。今は、」
 女の子が首を傾げた。
 そして、再び口を開きかけ、
「円お嬢様! 直純お坊ちゃま!」
「志津子さん!」
「っち」
 走ってくる中年の女性の姿に男の子が安心したような顔をして、女の子は軽く舌打ちした。小さな女の子がするわりには、やけに似合っていた。
「勝手にうろうろしないでください。私が宗主に怒られてしまいます」
「はい」
「はぁい」
 中年の女性に諭されて、二人は頷いた。
「すみません。この子たちが何か失礼なことを……?」
「いいえ、大丈夫ですよ」
 相模は微笑んだ。
 いつもの笑顔で、それに梓は安堵した。
 女性はすみませんすみませんとぺこぺこ頭を下げて、去っていく。
 途中で女の子が振り返って、舌をだしてみせた。
 その姿に相模が苦笑したのがわかった。

「……ふぅ」
 三人の後姿が消えると、梓は息を吐いた。
「何、今のは?」
「たまにいるよ。幽霊を見えるような人には、僕が人間でないことがわかるらしい」
 相模は言って歩き出す。
 梓は慌てて後を追った。
 足が震えている。
「違うわよ」
 軽く目を細めて前を見る相模に、梓は言った。
「貴方は人間だわ。ただ、少しだけ人よりも長く生きて、人よりも頑張らなければならないけど」
 梓の言葉に相模は少し口元を緩めた。
「……ところで、さっき言いかけたのは?」
 相模に促され、梓は言いかけていた言葉をひっぱりだす。
「うん、だから……私をもっと傍において、つかってくれない? ってもっと時間を作るから、もっと手伝わせて、って」
 機会を逃した言葉はこんなところで使っても意味が無いなと感じる。
 何も効力をもたない。あっても薄れている。
 相模はふっと笑った。
「愛の言葉にしては苦いね」
「かもしれない」
「だけど」
 相模はそう言って微笑んだ。
「お願いするよ」


 例えそれが一時であったとしても。
    00:18 | Top

30/メモリアル(和広→梓)

「どうして貴方はいつもいつもいつもいつも! そのような愚行を繰り返すのですか? 猿にだって学習能力はありますよ? 先日も、警察官の邪魔をしたと学校側に苦情がきていたそうです。これ以上このようなことが続くのでしたら、」
「あー、うん、わかった、ごめん桜子さん今後は気をつけるから、頼むから裁判にかけて廃部とかそういうのはやめて、ね」
「でしたら、もう少し自重してください」
「そうですよー、志田さん。あんまり委員長を苛めないでください」
「付き合わされる僕の身にもなってください」
「太陽までっ!」
 男女4人が道端でなにやら話している。
 高校生ぐらいの彼らは、内容はともかくとしてなんだか楽しそうで、若々しいなと感じた。
 おそらくわたしの娘と同じぐらいだろう。
 そう思うと、軽くため息をついた。
 エミリも彼らのように友達と遊びに行くとかすればいいのに。
 同年代の友達がいないわけではない。高校こそ通っていないが(わたしは通うように説得したのだが)中学のときの友人とは今でも連絡をとりあっているのに。
 まったく、あの意固地な性格は誰に似たのか……。
 ……いや、わたしも妻も我は強いが。

 妻と出会ったのは大学3年の夏で、研究所ではなく大学で出会った。
 それを思ったらやはりエミリにも、多少無理をしてでも学校は行かせるべきだったのではないかと思った。
 わたしがいうのもおかしいがあんな研究所のあんな怪しい派遣執行官なんていう仕事、いつなくなるかわからない。人として真っ当な道とは言いがたい。
 そもそも協調性や社交性を養うには丁度いいのではないか。
 あの子は猪突猛進で自分が正しいと思ったことは決して譲らない。おもちゃの剣をふりかざしていい気になっている子どもと同じだ。
 ……まぁ、先日のG016事件(わたしはこの名称は気に入っていない)の時、神山さんと対峙したことから少し何かが変わったようだが。

 そういえば、大学のサークルの後輩で、少し変わった子がいた、と思い出した。
 何故か打ち上げなどの集まりに一回も出ない子だった。
 周りがあまりいいことを言っていなかったのでそれとなく、たまには出たらどうかと告げたら、
「駄目なんですよ」
 と微笑んで言われた。
「先輩は、幽霊とか妖怪とかそういうもの信じますか?」
 唐突にそう聞かれ、そのころから卒業後は派遣執行官だなぁと思っていたわたしは、
「全面的には否定しないよ」
 と曖昧に言葉をにごしておいた。
「私の彼は、そういうのと同じなんですよ。逆らってはいけないんです」
「……悩みがあるなら相談にのるけど?」
 彼女の言葉に、所謂不良の暴力とかそういうものが思い浮かんで、そう言ってみると、彼女は笑って首を横に振った。
「違いますよ。妖怪とか幽霊とかそういうのと同じっていうのは、この場合には肯定的な言葉なんです。彼はそういう化け物みたいな人だから、……例えば、神様が地上におりてきて、でも、それがあまりにも神々しすぎて人間が怖がって近づかない、そんな空気を持った人だから。崇拝してくれる人はたくさんいるけれども、ずっとそばに居てあげられる人はいないんです。だから、せめて私は、出来る限り彼を助けたいんですよ」
 彼女の言っている意味はよくわからなかったが、彼女はとても綺麗な笑顔を浮かべてそういうから深くは何もいえなかった。
 その後も彼女は打ち上げなどには来なかったし、そのままわたしも卒業してしまってどうなったかわからない。

 実のところ、彼女がはいってきたばかりのころ、彼女に少なからず恋心のようなものを抱いていたこともあった。
 だから、思い出したのだろう。
 彼女は今はどうしているのだろうか?
    00:15 | Top

29/仕事調査(探偵同好会→和広)

 はじめまして。こんにちは。僕は、私立桐沢学園高等部1年の高坂太陽です。
 一年生歓迎会の部長の演説に心を打たれて、探偵同好会に入りました。
 ちなみに、メンバーは部長と僕しかいません。それでよく同好会として存在しているよなぁと思います。部長のことなので、先生の弱みの1つ2つ3つ4つ、握っているんじゃないかなぁ、とも思っています。
 部長は部長としてはすばらしいし、尊敬もしていますが時々変です。
 よくいえば、少年の目をしていて若々しいです。悪く言えば、子どもっぽいです、幼いです、周りを判断しません。
 実は昨日、殺人犯が自首して、警察がその家宅捜査をしていたのでそれを野次馬しに行きました。
 部長は何か証拠を! とか言ってうろちょろしていて、立ち入り禁止のところに入って警察官に怒られました。しかも、そこに生徒会長(この人はとても怖いです)がやってきて、散々部長をこけ下ろしていきました。
 ちょっと部長はしょげているように見えました。

 けれども今朝また電話がかかってきて、
「昨日は公務執行妨害だったからいけなかったわけで、つまり公務じゃなければいいんだ、太陽」
「はぁ?」
「というわけで私立探偵を尾行しよう!」
 とかわけのわからないことを言い出しました。
 素行調査ならぬ仕事調査らしいです。
 そういうわけで、部長が電話帳でここから一番近いと判断したスウリ探偵事務所に張り込んで、そこの探偵さんを朝から尾行しています。
 さっきまで、このくそ暑い中探偵さんが甘味処から出てくるまで待って居たりしました。
 部長はなんだかいきいきしてますが、僕は出来れば家に帰りたいなぁとも思っています。
 いくらいま同好会に依頼がこなくて暇だからってこんなことしなくてもいいんじゃないかなぁと思います。そもそも、お仕事のじゃまをしたら悪いとも思います。
 でも、探偵さんは気付いていないのか、それとも気付いていてあえて無視しているのか知りませんが、さっきからこちらを見向きもしません。多分、前者だと思います。思いたいです。素人の尾行に気付かない探偵とかどうかなぁと僕は思うからです。
 部長は楽しそうに探偵さんのあとをついていきます。
 僕も探偵をするのは好きですが、別に探偵の尾行なんてしたくありません。
 いえ、実はちょっと楽しいですけど。
 同好会にくる依頼をこなしている方が、もっと好きなんです。
 わかっています。今は夏休みだから学校自体なくて、学校が休みならば問題事も起きなくて、その解決のために対策本部が結成されたりすることも調査の依頼が来たりすることもないことぐらい。
 それでも、こういうことはしたくないんです。


「……あ、やべぇ」
 とか思っていると、自動販売機の影に隠れていた部長が呟きました。
 どうしたのかなぁと思っていると(僕のところからじゃ部長の背中が邪魔で何も見えません)
「…………何をしているんですか?」
 聞きなれた声がしました。
「や、やぁ桜子さん」
 部長がそういって笑います。
 それをみて、僕は今日の調査は終わりなんだなぁと悟りました。
 部長の天敵、検事委員会委員長の設楽桜子さんです。部長とは犬猿の仲です。
「あ、太陽君」
 桜子さんの後ろから顔を覗かせて、古田朝陽ちゃんが手を振ってきました。
「こんにちは、朝陽ちゃん」
 僕と同じ1年生で桜子さんの後継者候補の彼女。
 部長を冷たい目で見ている桜子さんとは対照的に、明るい子です。
 それなりに、好感を持っています。平たく言っちゃうと、恋愛感情的ななにかを。
「何してたの?」
「ちょっと」
 そういって肩をすくめてみせます。
 尾行とかいったら部長に殴られるし。
 部長は桜子さんになにやら言われています。
 これにこりてすこし反省してくれればいいのになぁとか思いながら、朝陽ちゃんと他愛も無い話をしたりしてみます。

 つまり、こういうのが夏休みだと僕は思うんですけど……。
    00:12 | Top

28/素行調査(慎吾→探偵同好会)


14:57 M駅前で北山春香嬢(以下、K嬢)は
      男性(根岸正明氏、別紙参照。以下N氏)と合流する。
15:27 M区3丁目に所在する甘味処「大和撫子」に入店。
      店内での張り込みを開始する。
      K嬢とN氏は楽しそうに談笑する。



 息子の恋人の素行調査。
 結婚の約束をしたわけでもない、ただの恋人。
 そんなやつの素行調査を依頼する親ばかな依頼人の姿を思い浮かべながら軽くため息をついた。
「うちのたぁ坊は」
 成人した息子を捕まえて人前でたぁ坊なんて呼ぶその神経にもあきれ返る。
 ちなみに、この依頼はそのたぁ坊(21)には極秘なんだが。
 ところてんをつっつきながらそんなことを考える。
 尾行中は飲食は厳禁。ああ、もったいないなぁ。と思ってちょっと食べたけど。
 で、そのたぁ坊の彼女、K嬢(19)はN氏(妻帯者・39)とただいまデート中。
 不倫というか、まぁぶっちゃけていうと援助交際だな。
 その割には、N氏の奥さんが実家に帰ってから毎日会っているからちょっとは情が移っているのかもしれない。
 まぁ、N氏、君もそろそろ年貢の納め時だよ。
 ちらりと、二人のほかにいる、もう一人の男性客を見る。
 N氏の奥さんが実家に帰ってから、N氏のことを尾行している人間。気になって調べてみたら、同業者。「スウリ探偵事務所」の雛梨法征(23)とか言ったか。N氏の奥さんから依頼を受けたらしい。
 かわいそうに。奥さんが帰ってきたらどやされるんだろうなぁ、エィメン。

 そんなことを思っていると、ちりん、一人の客がはいってくる。
 俺も人のこといえないけど男一人で甘味処って寂しいよな。
 その男はにっこり笑いながら、店員に
「九州男児を」
 と告げた。
 ……待て。
 壁に貼られたそれの写真を見る。
 九州男児ってあれじゃないか。金魚鉢パフェならぬ、金魚鉢あんみつじゃないか。
 甘党の男性が居ることも認めるが、それは無謀な挑戦ではないか?
 K嬢、N氏並びに雛梨探偵も彼のことをじっと見ている。
 そりゃぁ、気になるさな。
 その男性客がこちらに視線をやると、俺も含めて全員が面白いように視線をそらした。お近づきにはなりたくない。
 仕事にさしさわりがないならば、なんでもいいんだが。
 そして、男は恐ろしいまでのハイスピードでそれを平らげると出て行った。
 時間にして僅か8分。
 すみません、気持ち悪いんですけど。

 そう思っていると、雛梨探偵が外にでていった。
 コレは外で張るつもりかな?
 ここの外の構造を思い出す。
 あまり人通りのない道だし、待ち合わせを装うにも不自然か。
 あの人が外にいるなら俺までも外にでて立っていたら怪しいしなぁ。
 そんなことを思っていると、K嬢、N氏の二人が立ち上がった。

16:32 K嬢、N氏連れ立って甘味処を出る。

 二人が外に出たのを確認し、少し待つ。
 それから、席を立つ。
 会計はあらかじめ済ませている。
「ごちそうさま」
「ありがとうございました」
 店員(えび茶式部)の声を背に受けながら日差しのなかに飛び出した。
 少し早足で大通りまででる。

16:33 K嬢、N氏西方向へ。
      尾行再開。


 帽子をかぶり、二人のあとをつける。
 二人は道路を渡り反対側へ。
 様子を見ながら、俺は歩きつづける。ここで慌てて反対側に渡ったら目立つし。
 雛梨探偵は慌てて反対側へ渡った。
 って、探偵歴浅いな、君。
 と、思っていたら高校生ぐらいの少年が二人、雛梨探偵の跡を追って慌てて道路を渡った。
 まだいたのか。
 軽く驚く。
 甘味処に入る前から、雛梨探偵をつけてはいたが、まだ続けていたのか。どうやら、探偵ごっこらしいが。
 気付いていない雛梨探偵はある意味あっぱれだ。
 そして、何よりも、こんなに大勢に(直接的であれ間接的であれ)尾行されているのにきづかない、K嬢とN氏が凄い。

 さてさて、仕事仕事。
 素行調査なんて好きじゃないがしょうがない。
 そう思いながら、意識を集中させた。
    00:10 | Top

27/浮気調査(ホーセイ→慎吾)

「夫が浮気しているような気がするんです」
 そいつは大変ですね。なんてこと、思っても顔にだしてはいけない。いや、いつも思うんだけど。
「……今年、お盆は実家に帰られますか?」
「え? いいえ、特にそんな予定は……」
「でしたら、ご主人に急に帰らなくてはいけなくなった、と言ってみてください。もし、ご主人が浮気しているならば、仕事が忙しいから帰らないなどというはずです」
「そ、それで浮気相手に会うと??」
「ええ。……まぁ、実際に仕事が忙しいという可能性も否定出来ませんが」
「わかりました」
 依頼人は頷いた。
「主人にそう言ってみます」


 お盆の浮気調査ほど効率のいいものは無い。
 さきほどのようなやりとりをしたら、確実に浮気相手に会う。
 それを俺は尾行すればいいだけ。

 まぁ……、一人でこんな甘味処に入るのもあれなんだけど。
 スィでも連れてくればよかったなぁと思いながら、対象者に気を配る。
 甘味処「大和撫子」
 ちなみに、浮気、してました。
 浮気って言うか、援交?
 だって、明らかに相手年下だしさ。
 これで奥さんが帰ってから3日目だけど毎日会ってるってどうなのよ、それ。
 真実の愛は今何処? あいのりの旅でもしてみようかなぁ。あはは。


 それにしても、気になるのはさきほどから何度も現われる男。
 微妙に帽子かぶったりとったりサングラスかけたり眼鏡かけたり変装しているけれども、先ほどから何度も視界に入ってくる。
 今も男で一人寂しくここにいるし。
 その割にはだされたものに殆ど手をつけていない。
 対象者をつけているのか、女性の方をつけているのか知らないけど。
 ……ご同業?
 とりあえず、こいつも調べてみた方がいいのかなぁ。

 そんなことを思っていると、
 ちりん、
 また新たに客が入ってきた。
 また、男の一人客だよ。
 そう思い、ため息をつく。
 そろそろ外にでて、張ってようかなぁ。でも、外暑いしなぁ、と思っていたら、
「九州男児を」
 そんな言葉が聞こえて、慌てて先ほどの客を見る。
 まてまてまてまてまて。
 壁に貼ってある九州男児とやらの写真を見る。
 明らかにこれ、あんみつが金魚蜂にはいってるだろ?
 3000円もするぞ。
 お前、これ、喰うんか!?
 自信満々に大丈夫です、とかいってるけどっ!?

 周りをみたら、怪しい男も対象者と浮気相手もその男を見ている。
 そりゃあ、そうだろう。
 うわ、こっち見た。


 そうこうしているうちに、その九州男児がとどけられる。
 うわ、本当にでけぇ金魚蜂にはいってるよ。
 うわ、黒蜜そんなにかけて。
 甘。
 見ているだけで気持ち悪くなってくる。
 それを、その男は何のためらいも無く、恐ろしいほどのスピードで消費していく。
 店内の誰もが、そいつから視線を逸らせない。
 恐ろしいほどのスピードで、金魚鉢を空にすると、そいつはにこやかに笑って出て行った。
 何、あいつ。
 甘い、気持ち悪い。


 ……ああ、そうじゃなかった。
 余計なところに気をとられるなんてプロ失格だ。
 俺は席を立ち、会計を済ます。
 ここは裏路地なので隠れるところが無い。
 幸いに、ここから大通りまでは一本なので、大通りに出た木陰に立った。
 あんなやつのことを忘れて、対象者がでてくるまで張り込むことにする。
 立ちっぱなしはきついけどさ。


 ……でも、あの、暑いから、出来たら早くしてください。
 ちょっと情けないけど、そう思った。


 そうそう、それから、スウリ探偵事務所では、あなたからのご依頼をお待ちしています。
    00:07 | Top

26/甘いのがお好き(英輔→ホーセイ)

 神坂英輔は甘いものが好きである。
 むしろそれらが彼の主食だと言い換えても構わない。
 特に食べる必要性のない彼の不死者という特異体質上、彼は自分の好きな甘いものばかりを食べつづける。
 それでよく太らないものだ、と最近ちょっと体重を気にし始めているエミリという女の子に言われた。
 太りたくても太れないのだというのが彼の言い分。
 そもそもこんな体にしたのは君たちじゃないか。
 そうは思っても、好きなものだけ食べられるこの体を彼は特別嫌っているわけではない。むしろ、割と好意的に受け止めている。
 閑話休題。
 彼はどこから仕入れてくるのか、美味しい店の噂を拾ってくる。東にケーキの美味しい店があると聞けば跳んでいき(割と文字通り)西に美味しい大福があると聞けば走っていく(文字通り)それを買う資金が一体どこから出てくるのかというのも疑問だが(悪銭身につかずってことのことだよね。手に入るとすぐにお菓子に使っちゃう)。

 そして彼は、美味しいあんみつを食べさせてくれる店があるというのを聞きつけ、はるばる広島からここ東京まで来たわけである(とにかく紅葉饅頭が食べたくなってさ)。
 路地裏にある、少しレトロ……といえば聞こえのいい店。
「甘味処 大和撫子」
 彼はその看板を見ると躊躇いもなくドアをあけた(彼が人生において躊躇ったことは多分ない)。
 ちりん、
 ドアについた鈴が小さくなった。
「いらっしゃいませ」
 えび茶式部の制服を来た店員が言った。
 店内には男女の組み合わせと、それから男一人が二組いた(自分のことを棚にあげて、寂しいやつらだな、と英輔は思った。男一人で甘味処なんて気持ち悪いぜ)。
 彼は席につくと、彼女の目を見つめはっきりと自分の意志を告げた。
「九州男児を」
 店内にいた全ての人々の視線が彼に集まった。
 雷が見えた。
「お客様……、その」
 店員もなんて言っていいのかわからない様子だった。
 しかし英輔は
「大丈夫です」
 そういってにこやかに笑った。
 その様子におされて、店員は
「しょ、少々お待ちください」
 そう言って引っ込む。 
 彼が視線を前に向けなおすと、店内の人々は慌てて彼から目をそらした。


「お待たせいたしました」
 微妙に声の震えた店員が持ってきたのは金魚鉢だった。
 表面を餡子とアイスクリームと生クリームで覆われている。
「ごゆっくりどうぞ」
 そういって店員はこちらにちらちら視線をやりながらさがる。
 彼はその金魚鉢にざばっと黒蜜を注ぎ込んだ(ちょっとテーブルにはねた、勿体無い)。
 店内に再び動揺が走る。
 ちらちらと彼のことを伺っていた客達は、完璧に彼のことを見ていた。
 英輔はそれにかすかな優越感を感じながら、思いっきり口にいれた。
 口の中に広がる甘味(それはもう芸術的な程の。芸術は爆発だ)に彼はうっとりと目を閉じた。


「お会計3000円になります」
「ごちそうさま」
 彼は小豆の一つ残すことなくそれを平らげるとにこやかに笑って店を出て行った。
 店員がじっとドアを見つめていたことを、彼は知らない。店員だけではなく、客全部が。
 そんなこと知らずに彼は、今回のあんみつはなかなか美味しかったと思っていた。3000円の価値はあっただろう。


 彼は今度はその足で埼玉に向かった。
 彩果の宝石というゼリーが人気らしいと聞いて。
 ゼリーならば甘さはあまり期待できないかもしれないが。

(ちなみに、彼は仲間内では「あいつは味音痴だから」で一致していた。グルメというよりも甘いものが好きなだけの)
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小高まあな

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