表立って載せるほどではない小噺と、あとがき。 その他キャラ設定などなど、徒然なるままに書き連ねるページ。 

04/見えない来客(円→三浦)

 駅前の関東チェーンの喫茶店。
 いつも通るけれども、足を止めるのは初めてで、もう一度店名を確認すると、よっしっと心の中で気合をいれて足を踏み入れた。

「いらっしゃいませ」
 太陽にさらされていた身には心地よい温度の冷房。
 店員が営業スマイルを浮かべて私に向かってそう言った。
「アイスコーヒー」
 ろくにメニューも見ずにそう言った。もしかしたら、機嫌を悪くさせてしまったかもしれない。
「アイスコーヒー、280円になります」
 喫茶店にしては割合良心的で、でも本格的な喫茶店ではないのに高めな値段を提示される。
 まぁこれぐらいなら自腹を切ってもいいし。
 そう思いながら280円丁度を払い、奥の方の席に座る。
 自動ドアが、見える位置で。
 レジ横にあった灰皿を何の疑問も抱かずに持ってきてしまってから、
「禁煙ですか?」
 疑問を抱き、先ほどの店員に尋ねてみる。
「そちらのお席は喫煙席です」
 その言葉に満足して微笑むと、煙草に火をつけた。

 私のほかには2人いるだけの、静かな空間。
 この時間帯に客が3人というのは混んでいるのか、空いているのか?
 どうでもいいことを思いながら、煙草と珈琲を消費する。
 それにしても、煙草と珈琲だなんて、我ながら体に悪い組み合わせ。

 ——。
 自動ドアが開くときの、空気の振動。
「やだ、またなの?」
「ええ」
「センサー、壊れちゃったのかしら? 店長に直してもらうように、やっぱり言っておこう」
 先ほどの店員と、もう一人がそうやって話している。
 自動ドアは開いたけれども、そこには誰も居ないように見える。
 煙草を灰皿に押し付けて、立ち上がる。
 まだ煙草も珈琲も残っているけれども、仕方があるまい。
 だって、それが仕事なのだから。
「ごちそうさま」
 そういってグラスと灰皿を返却口へ返す。
「恐れ入ります。ありがとうございました」
 おそらくマニュアルどおりであろう言葉に、思わず嗤う。
 それから、誰も居ないように見える席に手を伸ばす。
 掴む。
 そのまま、店を出て行った。
 大方、店では変な人ね、とでもいっているのだろうな、と思いながら。

 *

 よっぽど、あの店は好かれていたのだろう。
 それとも、もしかしたら、お目当ての彼女でも居たのかもしれない。
 彼の腕を掴んで歩きながら、そう思った。
 彼は私の後ろをとぼとぼとついてきて、そのことに少し安堵した。
 話を聞いた限りは、拒絶されることなんて無いだろうと思ったが、暴れられたら迷惑だ。
 じりじりと、太陽が責めつけてくる。
「暑いわね」
 思わず呟いた。
 無論、彼は返事をしなかった。

 今回の依頼は自動ドアの原因不明の不調を試しに調べてみるというもの。
 世の中に原因不明なんてことはなく、原因不明ということは、原因を知りたくないからわからないまま隠してしまおう、世間一般ではあまり誉められたことではないから無いことにしてしまおうという臭いものにふたをする思考のことだ、という沙耶の持論を思い出す。
 なるほど、確かに今回はそうだった。

 木陰のある公園のベンチ。
 それを見つけると、そこに向かう。
 やれやれと腰をおろし、立ったままの彼に座るように促した。
「……それで、どうしたの?」
 ブランコと滑り台と砂場しかない小さな公園。
 きっと子供もお昼寝の時間なのだろう。
 今ここには、私たちしかいない。
 彼は困ったように私をみてきた。
「ああ、名乗るのが先? 私の名前は、一海円。調律事務所所長で、貴方を救いに来た者よ」
 そういって笑う。
「貴方の未練、教えて頂戴」
 彼は私の顔を見ていたが、やがて、ぽつりぽつりと話し出した。

 彼の名前は川上弘一。
 享年22歳。
 死因は交通事故。
 生前はあの喫茶店の常連で、というのもある女子店員に片思いをしていたから。けれども、彼が死ぬ直前から、彼女の姿が見れなくて心配していた。辞めたならばいいのだけれども、何かあったのでは、と。
 だから、死んでからも彼女が心配でちょくちょくあそこにいっている。
 彼女の名前は、名札や他の店員が呼んでいたものから推測するに「ハザマ ミユキ」

「なるほどね」
 さてはてどうしたものか。
 暑さは少し、思考回路を混乱させる。
「彼女が、やめていたならばそれはそれで構わないのでしょう?」
 私がいうと彼は頷いた。
 無事にやめていたならば——。
 財布からさっきのレシートをとりだす。
 インクが妙に薄いが、ちゃんと電話番号が書かれていた。
 ケータイを取り出し、その番号を押した。
 しばらくすると、店長と名乗る男が電話にでた。
「そちらに、ハザマミユキさんはいらっしゃいませんか? 実は以前……、具合が悪くなったときに彼女に助けていただきまして、遅くなってしまいましたがお礼が出来たらと思いましてお電話したのですが」
 そういうと店長と名乗る男は黙り、
『……今はそのような人は……。すみません、私はついこの間ここに来たばかりで私が来る前にいた人のことは、
……あ、ちょっと待てください』
 電話の向こうで、話し声がする。
『新條さん、ハザマミユキさんってわかる?』
『美雪さん? 美雪さんがどうしましたか?』
『いや、この電話の人がハザマミユキさんを探しているらしくて、ちょっとよろしく』
『え、店長っ』
 そんなやりとりが聞こえた後、
『すみません、お電話代わりました、新條と申します』
 声から察するに、その人は先ほどの店員。
「実は私、以前ハザマさんにお世話になりまして、お礼をしたいのですが……」
『波佐間さんでしたら、2ヶ月ほど前にやめたのですが』
 2ヶ月前、丁度月日も合致する。
「そうなんですか……」
『私、個人的にまだ彼女と連絡をとりあっているので、もし伝言でもあったらお伝えしますが』
「あ、いえ、そこまでして頂くわけには。……彼女、何故やめたのですか? もしかして、何か事故にでも?」
 電話は少し笑いが篭った声で答えを返してきた。
『まさか。一種の病気ですよ。医者も草津の湯でも治せない、ね』

 本当に伝言はいいんですか? もしも彼女にあっても私がそんなことを言った、なんて言わないでくださいね。
 そんなやりとりをした後、電話を切った。
「だ、そうよ」
 横で聞き耳を立てていた彼に言う。
 彼は泣きそうな顔をしていた。
 だって、失恋だし。
 でも、妙にすがすがしい口調で、彼女が元気ならばそれでいいといって微笑んだ。
 私も笑い返し、

 彼は消えた。

 *

 ああ、ちくしょう、暑いなぁと思いながら立ち上がる。
 早く帰って報告書つくらなきゃ。
 そう考えて、少しため息をつくと、
 事務所に向かって歩き出した。
    00:16 | Top

03/夏の来客(スイリ→円)

 言い訳することは好まない。
 好まないが、あえて言わせてもらうならば、この暑さがいけないのだと思う。
 このうだるような暑さのせいで、昨日の夜は上手く寝付けなくて、(私の部屋にはクーラーなどという文明の利器は存在しない)さすがに、朝はどこか涼しくてぼんやりしていたら、そのまま転寝してしまった。
 それの何処が責められよう?
 起きてみたら、午後2時45分で、バイトが今日は午後3時からだったとして、
「……」
 目覚めてからそのことを理解するまでに時間を要した私を誰が責められよう?
 否。
 誰が責めなくても、自分で責めなくてはいけないのだ。

「ああ、私の馬鹿っ!」
 慌てて鞄を掴み、家の戸締りを始める。
 こんなときに限って家には誰も居ない。
 窓を閉めて、ガスの元栓を締めて、ほかに何かなかったか、ざっと部屋を見回して、何も無いだろうという結論に達するとそのまま家を飛び出した。
 勿論、カギをかけるのは忘れずに。
 普段乗らない自転車をひっぱりだし、そのまま勢いよく漕ぎ出す。
 ああ、お願い間に合って。
 そんなことを思いながら走っていたので、非は十分に私にあっただろう。
「あ」
 角を曲がった瞬間、同じように角を曲がってきた女性とぶつかった。
 ばん、
「っ!」
 やばいやばいやばいやばい。
 思考が飛びそうになる。
 ああだってそんな慰謝料損害賠償ああ。
 そんな言葉が頭を駆け巡る。
「うー」
 幸いにしてその女性は起き上がってきた。
 ああ、良かった。良くないけど。
「あ、あの、すみません!大丈夫ですか!!
 自転車を乗り捨てて、慌てて駆け寄る
「あ、大丈夫ですよ」
 スーツ姿のその女性は、笑いながら立ち上がってそういう。
 見た目大丈夫なことに少し安心した
「すみません!急いでて」
 そう言って頭を下げる。
 ああ、どうしよう慰謝料損害賠償治療費請求。
 確かこういうのって後遺症の治療費も請求されるのよね、ああ。
「いえ、それはこちらも一緒だからそんなに謝られても」
 女性は人のよさそうな顔でそういう。
 いい人そうでよかったと思いながら、顔をあげて、その女性のスーツの襟元についたバッジに目を奪われる。
だって、それは。
「ご、ごめんなさい」
 私が言葉を紡ぐよりも早く、
「私急いでるんでこれで。すみません、本当」
 早口にそういって、頭をさげて、その女性は走り去ってしまった。
 そんな謝られても悪いのは私のほうだし。
 そうでなくても自転車と歩行者ならば過失は自転車にあるとみなされるわけだし。
 閑話休題
「……弁護士さん?」
 襟元のあのバッジは、確かに弁護士バッジで、追いかけて、話を聞きたい衝動に駆られる。
 しかしながら、確かにあの人に話を聞きたいが、それよりも私には重要なことがあって、
「っ、やばいもう50分っ!」
 自転車に再び飛び乗ると、ペダルを漕ぎ出した。
 ……今度は人に気をつけて。

 *

「珍しいね、新條さんが遅れそうになるなんて」
 例の恋愛沙汰でやめた店長の代わりに新しくきた店長はそう言って笑った。
 彼がここにきて、まだ2ヶ月だけれども、この人のよさそうな笑顔で皆に好かれている。つまり、私が知っているバイトの人は皆、ということだけれども。
「ええ、色々有りまして」
 それだけいうと、荷物を置いて更衣室のカギをとると、更衣室まで走った。
 今日はノーメイクだけれども、しょうがない。
 せめてインする前に顔だけ洗っておこう。

 *

「いらっしゃいませ」
 慣れとは恐ろしいもので、あれだけ先ほどまでばたばたしていたのに私はにこやかにお客様に対してそう言った。
 喫茶店の癖に、セルフサービスという形態をとっているこの店では、レジカウンターで先に注文をしてもらう。
 入ってきたお客さんは、20代後半ぐらいの女の人で、顔立ちの整った人だった。彼女は肩までの髪の毛を揺らしながら入ってきて、
「アイスコーヒー」
 メニューを軽く一瞥しただけで、そう言った。
「アイスコーヒー、280円になります」
 毎度のことながら、ぼったくりだよなぁという値段を提示する。
 彼女は会計を済ませると、奥の方の席に座る。
 座ってからこちらに目をやり、
「禁煙ですか?」
「そちらのお席は喫煙席です」
 それを聞いて彼女は満足そうに笑い、煙草に火をつけた。
 お客さんは彼女のほかに常連が2人いるだけ。
 とても静かな時間。

 ——。
 自動ドアがあく、あの音ともいえない音がして、私はそちらに目を向ける。
 けれども、そこには誰も居なかった。
「やだ、またなの?」
 一緒に入っていた先輩がそういう。
「ええ」
 最近、よくある。誰も居ないのに自動ドアが開くということが。
「センサー、壊れちゃったのかしら? 店長に直してもらうように、やっぱり言っておこう」
 先輩はそう言うと、事務所のほうへ歩いていく。
 ふと、先ほどの女性に目を向けると、煙草を灰皿に押し付けて、席を立っていた。
「ごちそうさま」
 そういって半分ほどしか手のつけていないコーヒーと、まだ長い煙草の乗った灰皿を返却口までもってくる。
「恐れ入ります。ありがとうございました」
 そう言うと、彼女はふっと笑い、何故か誰も居ない席に目をやり、何かを掴むかのように手を伸ばす。
 一瞬、そんな意味のわからない動作をした後、肩までの髪を揺らしながら出て行った。
「……ちょっと変な人ね」
 何時の間に戻ってきたのか、先輩がそう呟いた。
 たしかに。
 私は軽く苦笑する。
 そして、また自動ドアが開く。
 今度は確かにお客様がいて、私は笑みを浮かべると言った。

「いらっしゃいませ」
    00:12 | Top

02/夏バテにはご注意を(茗→スイリ)

 もう、嫌になっちゃう。

 ばたばた走りながら、私は心の中で毒づいた。
 なんで、こんなことになっちゃうのよ!


 千葉での仕事だった。
 もっとも、それ自体はやっぱりすぐ終わったんだけど。
 それで、今度は事務所のある横浜へ帰っての仕事……、だったのに。



「……大丈夫ですか?」
「……え? あれ??」
 気付いたら、知らない男の人が心配そうに尋ねてきた。
 夏ばてかなんだかわからないけれども、歩いていて途中で倒れたらしい。
 うわぁん、もう、恥ずかしいし、それどころじゃないし!
 亜由美ちゃんからは「早く帰って来い」って電話来たし、しかもそれを出たのは私じゃなくてその男の人で、ああもうっ!
 弁護士の仕事は走ることだ、とはよく言ったものだと思いながらも、ちょっと泣きそうになりながら、角を曲がり、
「あ」
「え?」
 ばんっ!
 同じように角を曲がった自転車にぶつかった。
「うー」
 ああ、なんてついていないの、今日。
 確か、占いでは1位だったのに。
 ぶつぶついいながら立ち上がる。
「あ、あの、すみません! 大丈夫ですか!!」
 自転車に乗っていた女の子が、慌てて駆け寄ってくる。
「あ、大丈夫ですよ」
 そういって立ち上がり、スーツについたほこりを払う。
「すみません! 急いでて」
「いえ、それはこちらも一緒だから」
 女の子、多分大学生ぐらいだと思うんだけれども、困ったように頭を何度も下げる。
「そんなに謝られても」
 言ってから、時計を見る。
 うわ。
「ご、ごめんなさい。私急いでるんでこれで。すみません、本当」
 逆にこっちが頭を下げて、もう一度走り出した。
 間にあうのかしら?
 不安になってきた。

 *

「疲れた」
 一日が終わり、私はベッドに倒れこんだ。
 自分の家の、ではなく
「お疲れさま」
 苦笑している慎吾の自宅の。
 理由は単純。
 うちのクーラーが何故か壊れているから。
 修理に来るのは明後日で、それまでどうしろと?
 暑くて寝れない。
 そんなわけで昨日から、ここに泊り込んでいる。
「なんか散々だったみたいで」
 ベッドの脇に腰掛けて、彼が笑う。
 ちなみに結局、タクシーも使って間に合わせた。
「でも、倒れたって……平気?」
 顔を向けると、彼は私の額の髪の毛をかきあげる。
 時々、こういう本当に心配そうな顔をする。
 それが、妙に嬉しい。
「平気。あれから何にもなかったし」
「無理はしないように」
 そう言って彼は笑い、私の頬に手を移し、

 ぴぃぃー

 電子音が響いた。
「あ、鍋」
 ゆっくりと近づけていた顔を急速に離し、彼は立ち上がると台所へかけていく。
 ちなみに、彼はご飯を何故か土鍋で炊く。
 炊飯器は一応、あるのにも関わらず。
 その所帯じみた情けなさに、私は苦笑して、
「さて、と」
 着替えるために立ち上がった。

 ああ、明日も暑いだろうけれども、頑張ろう。
    00:08 | Top

01/体感温度(隆二&マオ→茗)

 外ではお日様がこれでもかと自己主張をする、真夏日。
『暑い』
 と、彼女がぼやいたところで、一体なんの罪があろうが。
 まあ、そうやってぼやいた彼女も
「いや、暑くないだろう」
 そうやってつっこんだ彼も、幽霊と不死者という特異体質のために温度なんて感じないのだけれども。
 一言で切り捨てられて、マオは頬を膨らませる。
『暑いと思ったら暑いわ』
「へぇ」
 あからさまに小ばかにした表情で、隆二が嗤う。
 暑いわけなんて、ないけれども、太陽がぎらぎらと輝くから、思わず衝動的に
『暑い』
 呟いてしまうのだ。

 *

 例えば、伝承のように、日が上がっているうちは外に出れないなんていう難儀な体質ではないけれども、やはり幽霊も不死者も昼というよりは夜の眷族なわけで、
「夏の昼間っていうのはいやだな」
 外を歩きながら、隆二がぼそりと呟く。
 暑さを感じさせないとはいえ、太陽の光はなんかまぶしいし、すれ違う人々はどことなくやる気が無い。
『まったくだわ』
 彼の首筋にしがみついたマオもそれには同意する。
『大体さ、夏バテっていうの? みんなどことなく精気に欠けていて』
「ああ、まずいんだ」
 マオにだけ聞こえるような声で呟く。
『そうなのよ!』
 人の精気を喰らい、『男は嫌よ、まずいから』という理由だけでわざわざ若い女性を狙う幽霊はこくこくと頷いた。
「でも、腹は減ると」
『だから、と言ってもいいけどね。まずいおいしいっていう以前に、精気にかけているとやっぱり長持ちしない』
「なるほど」
 彼女が『お腹がすいた』と訴えるから、わざわざ夏の昼間をこうして歩いているわけである。
 不死者の癖に神山隆二は今日の夕方から夜にかけてバイトで、だったら暇なこの時間に、というわけで物色しながら歩いているのである。
『あ、あの人』
 そういってマオが一人の女性を指さす。
「決定?」
『うん』
 これだけ一緒に居ると、なんとなく彼女の好みも読めてきて、何はなくとも見目の綺麗な若い女性。それも、どことなくキャリアウーマン調の女性。いくら若くても女子高生は論外らしい。それこそ、精気にあふれている方がいいのだろう。意欲的に仕事をしているとか、そういう。
 そんなことを思いながら、その美人でこの真夏にスーツを着て忙しそうに足早に歩いている女性を目で追う。
店と店の間の、狭い抜け道。
 丁度、彼女がそこに入った。
 さりげない様子でその後を追う。
 少し速度をあげて、気配を殺して。
 すたすたと歩いていくその背中に、ごめんなさいと一回心の中で謝って、
 とん、
 その首筋に軽く気を当てて、気絶させた。
「ほら」
 マオはいつものように、僅かに眉をひそめて食事に取り掛かる。
 人がこないように注意を払いながら、女性の落とした鞄を拾う。
 落とした拍子に出たらしい大き目の封筒を拾い上げる。
「地方裁判所」
 そこに書いてある文字を小さく声にだして読み、それから片手で支えている女性のスーツに目をやる。
「……弁護士、か」
 襟元のバッジをみて呟く。
『隆二』
「あ、もういいのか?」
『うん、ごちそうさま』
 そういってマオはその女性に頭を一度下げ、
『この人、弁護士なの?』
「みたいだな」
 頷き、同じように飛び出した携帯電話を拾い上げ、
 ブルルル
「うわ」
 突然鳴り出したそれに驚き、
「あ。」
 思わず通話ボタンを押してしまった。
『あーあ』
「……これって、どうすればいいんだ?」
『知らないわよ』
 機械に滅法弱い彼は、しょうがなくそのままケータイを耳に当て
「何処ほっつき歩いてるんですかこの不良弁護士っ! 仕事が終わったならとっととこっちに戻ってきてくださいよ! まだ横浜での仕事残ってるんですから! 以上っ!!」
 電話は一方的にそういって、切られた。
 隆二はそれを見つめて、倒れている女性を見つめて、今、自分のいる場所と横浜との位置関係を思い浮かべて、
「……」
 しばし悩むと、
「あの」
 女性に声をかけた。
『あら』
 マオが少し驚いた顔をした。
「……大丈夫ですか?」
「……え、あれ??」
 女性はゆっくりと目をあけ、周囲に目をやり、……顔をしかめた。
 それは当然の反応だと思う。
 我ながら白々しいぐらいの人のよさそうな笑みをうかべ、でも心配そうにその女性に尋ねる。
「大丈夫ですか?」
「え、あ、はい??」
 女性は目の前の見知らぬ男に不審そうな顔を向ける。
「道を歩いていたら、前を歩いていた貴女が急に倒れかけるからびっくりしました。平気ですか? 夏バテか何か……ですかね?」
 女性は頭に手をあてる。
 彼女の意識がしっかり覚醒したのを見届けると、ゆっくりと離れる。
「え、えっと……、かもしれません」
「ならいいんですけど。ゆっくり休養をとった方がいいですよ」
 先ほど少し精気を頂きましたし、と心の中で付け加える。
「え、あ、はい。すみません」
 彼女はそう言いながら、ゆっくり立ち上がる。
 ふらついたりしないのを確認すると、彼女は鞄を持ち、隆二に頭を下げる。
「あの、助けていただいたようでありがとうございます」
「いいえ。別に。それよりも、すみません。さっき、咄嗟に電話に出てしまって」
 そういってケータイを差し出す。
「なんか、女性の声で早く戻って来いって言って切れちゃったんですけど」
「え」
 慌てて彼女はケータイを取り出し、
「あー、そうですか。すみません」
「いいえ、こっちも勝手に電話に出てしまって。出来ればその電話の方に迎えに来ていただければいいんですけど」
「大丈夫ですよ。あとは電車に乗るだけですから。本当、ありがとうございました」
「いいえ」
「あの、何かお礼」
「いいですから」
 段々、笑みを浮かべるのにも疲れてきた。
「急いでいるのでしょう。はやく行ったほうがいいですよ。それじゃぁ」
 有無を言わせずそういうと、彼女はちょっと悩む顔をしてから、
「本当にありがとうございました」
 もう一度頭を下げて、駆け出した。


『良心が痛む?』
「……そんなものがあるなら、少しだけな」
 そういって走り去った方を見る。
 倒れる原因を作ったのにあんなに謝られてしまっては。
『良心が痛んだから、あの人を起こしたの? 何時もは放っておくのに』
「まあ。夏だし、忙しそうだし」
『そうね』
 そういってマオは隆二の首筋にまたくっつく。
 それを確認してから、女性が走り去ったのとは別の方向へ歩き出す。
「それにしてもまぁ」
 太陽を睨みつけながら呟いた。
「暑い」
『暑いわけないでしょ』
    00:00 | Top

愚かなボグスワフと可哀想なシャーロットあとがき

タイトル長いよ!
コバルト短編賞に出したもの。ちなみにあと一歩だった。
もともとは普通にやだぁボグスワフだったのー言ってよぉー! で終わる話として別の機会に書いていたものなのですが、コバ短用に使おうと思った時に、「あ、ページ足りない。よし、一ひねりさせよう!」とひとひねりしちゃったものです。
まあ、ページ設定間違ってただけで、最初にやつでも十分にページ足りてたのですが。
結果、30枚までなのに気づいた時には余裕の40枚越えしてたんですが。

同じ言葉を何回も繰り返すのって、彼女の時計は手巻き式とかでよく使うのですが、何も枚数制限があるときにまで使わなくてもよかったような気はしている。
でも、その同じ言葉の繰り返しが好きなので仕方あるまい。
あと、「愚かなボグスワフ」「可哀想なシャーロット」みたいに、頭に何か付けて渾名というか、二つ名というか、そういうので呼ぶのがすっごく好きなのです。

愚かなボグスワフと可哀想なシャーロット


追記でコバ短応募用。
48枚(だったかな)を30枚にまとめたきせきをご覧あれ←
(わたし→私 レベルで調節している。今なら思う。名前、変えろよ、と)
    00:28 | Top
 
 
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