表立って載せるほどではない小噺と、あとがき。 その他キャラ設定などなど、徒然なるままに書き連ねるページ。 

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小ネタ

 もしも、人生の分岐点で選択肢を間違えたのだとしたら、あの最終電車でのことだったと思う。



 どこから持って来たのか、トランプを目の前に広げた恋人を見て、うんざりとため息をついた。
 どうしてこの人はいつもいつも、
「事件を呼び寄せ、解決するのか」
 隣に座っていた笹倉君が小さい声で言った。
「ほんと、それ」
 私は答えると肩を竦めた。

 この世には名探偵という人種がいる。それは、職業ではない。人種だ。
 彼らは事件を呼び寄せ、それを解決し、それで食べている。なんというか、事件そのものを喰らっているのだと思う。妖怪か。
 そしてとても残念なことに、私の恋人がソレなのだ。
 残念過ぎて、吐き気がする。

「と、いうことで一枚ずつひいて頂きましょう。ひいてもまだ見ないで。犯人は、トランプが教えてくれます」
 あの人の言葉に、
「くれねぇよ」
 笹倉君が小さく毒づいた。
「トランプが教えてくれたんです! で起訴まで持ち込めたら素敵ね」
「素敵ですよね。事件を解決して終わる探偵は楽でいいよな」
「……きみたちも黙って引いてくれるかな?」
 背後に立ったあの人が不満そうにいうので、二人で素直に一枚ずつ引く。
 あの人の合図を待たず、二人でめくる。ハートの8。
 これはどうなんだろうか、ジョーカー以外もあの人が仕組んで引かせているのだろうか。結婚の話。
「いやめくるなって言ったし」
 不満そうにいうあの人を無視する。
 そんな私たちを無視してあの人も推理を続ける。
 犯人、ジョーカーは誰なのだろうか。今の私たちはそこには興味はない。
 あの人が犯人を間違えないことはわかっている。名探偵だから。
「たまに、つきあっていることを後悔するわ」
 まあ、事件に巻き込まれなくても遅刻もするしいつまでたっても煙草やめないし、で喧嘩するし、別れてやろうと思うけれども。
「ここまで振り回されるのに、なんで別れないんですか?」
「だって」
 笹倉君の言葉に、首を傾げてみせる。
「名探偵の元カノなんて、殺されるか殺人犯になるかの二択しかないじゃない」
「……あー」
「どちらもまっぴらごめんよ。付き合っていれば、よっぽどのことがない限り大丈夫だし」
「なるほど」
 笹倉君が納得したように頷いた。


 そして、本当は困った事に、普通に好きになってしまっているのだ。
 この名探偵という生き物を。
 事件に巻き込まれる事が苦ではない程度に。


 そうして、私の探偵さんは、推理ショーを終える。
 事件を解決した後の達成感に満ちあふれた、それでいてちょっとだけ、ほんの少しだけ悲しそうな顔をして近づいてくる。
「おつかれさま」
 そのクセっ毛を撫でる。
「ん」
 私の探偵さんはいつものようにされるがままになっていた。


 もしも、人生の分岐点で選択肢を間違えたのだとしたら、あの最終電車でのことだったと思う。
 あのとき、十何年かぶりに再会したこの人に着いて行かなければ、家の最寄り駅でちゃんと降りていれば、私は名探偵なんていう人種にかかわることなく、生きていけたのだろうと思う。


 でも、もしも、今またあの電車の中に放り込まれても、私は最寄り駅では降りないだろう。
 そんな気がしている。
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