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表立って載せるほどではない小噺と、あとがき。 その他キャラ設定などなど、徒然なるままに書き連ねるページ。 

バレンタイン

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 鏡を見る。
 前髪を直す。リップを塗り直す。スカートの丈を直して、タイは綺麗に対象になるように。
「よしっ」
 鏡の前の自分に、気合いをいれた。

 身支度を終えてトイレから出ると、教室のドアをあける。
「はよー、杏子」
 もう来ていたこずちゃんが、共犯じみた笑みを浮かべてくる。
「おはよう」
 それになんとか笑いかける。
 彼、はもうそこにいた。
 半月ぶりぐらいだ。久しぶりに見る。なんだかちょっと、大人っぽくなった気がする。気のせいかもしれないけれど。
 高校最後の年。学校が家庭研修に入ってしまって、半月たった今日、予餞会の日。バレンタイン。そして彼の、榊原龍一君の、誕生日。
 深呼吸。
 クラスメイトと楽しそうに話している榊原君。会話が終わったころを見計らって、
「おはよう! 榊原君!!」
 できるだけいつもと同じように声をかけた。
 榊原君はこっちをみると、
「おはよう、西園寺さん」
「あ、あのね!」
「ん?」
「今日、終わったら! ちょっと、時間、いいかな?」
 榊原君はちょっとだけ驚いたような顔をしてから、ふっと笑った。
「うん、わかった」
「あ、ありがと。じゃあ、終わったら!」
 それだけいうと逃げるように席につく。はー、疲れた。緊張したぁー。
 ちらっとみるとこずちゃんがにやにやと笑ってこっちを見ていた。もう!

 予餞会、楽しみにしてたけれども、結局なに一つ頭に残らなかった。
 はやく終わって欲しいような、そうでもないような。
 今日が終わってしまうと、榊原君にはあと二回しか会えない。卒業式の予行練習の日と、卒業式の二回だけ。
 でも、そんなの嫌だから。
 だから。

 今日、榊原君に告白するのだ。


 屋上に続く階段の踊り場。屋上は立ち入り禁止だから、ここにはめったに人が来ない。
 SHRが終わったあと、榊原君をここに呼び出した。
「ごめんね、呼び出して」
「ううん」
「あのね」
「うん」
 ぐっと気合いをいれると、榊原君を見つめた。
「これ、バレンタインと、誕生日プレゼント」
 言いながら、作って来たお菓子を差し出す。できるだけ、笑って。
「こずちゃんに、手伝ってもらったから、味は、平気」
 榊原君は困ったように笑ったまま、受け取らない。
 話がまだ終わってないのを、わかっているからだろう。
「あのね」
「うん」
「キョウちゃん、ううん、あたし、榊原君のことが好きです。卒業式で終わりじゃなくて、できたらこのあともずっと、会いたいです」
 沈黙。
 あたしはお菓子を差し出したまま。
 榊原君はあたしの顔をじっとみて、顔をゆっくり横に振った。
「受け取れない、ごめん」
 彼は一歩、後ろにさがる。
「……だよねぇー」
 あたしは笑って、頑張って笑って、持っていたお菓子を手元に引き寄せた。

 榊原君には、好きな人がいる。
 そんなこと、知っていた。
 知っていたけど。
 それでも少し、期待していた。

「えへへ、ごめんねー。困っちゃうよねー」
「ごめん」
「ううん、キョウちゃんじゃなくて、あたしが悪いからー」
「そうじゃなくて」
 榊原君は真面目な顔をしていた。
「今までずっと、西園寺さんの好意には気づいてて、曖昧な態度をとったりしてて。沙耶のこと、西園寺さんだって知ってるのに。沙耶のことで落ち込んでるときに励ましてくれたこと、本当にありがたく思ってる。甘えてた。ごめん」
「ううん」
 泣きそうになるのを耐える。
「気持ちは嬉しい。ありがとう」
 そうして榊原君は笑った。
 今まで、あたしには見せてくれなかったようないい笑顔で。優しい顔で。
「……一個だけお願いしてもいい」
「なに?」
 唇を一度噛むと、顔を上げて微笑んでみせる。
「その人と幸せになってね。幸せにならなかったら超怒るから!」
 超超怒るから! って続けると、榊原君は一瞬顔をしかめてから、少し笑顔になって頷いた。
「ありがとう」
 

 榊原君と別れて、教室に戻ると、
「……こずちゃん」
 こずちゃんが待っていてくれた。
「おつかれ」
 こずちゃんが笑う。
 それから、手に持ったままのプレゼントを見て、
「せっかく、美味しくできたのにねー」
 ちょっといつもより優しい声で呟いた。
「……うん」
「あとでわたしが食べてあげるから」
「……うん」
「杏子」
 優しく名前を呼ばれる。
 耐えられなくなって、しゃがみ込む。
 こずちゃんがゆっくり近づいてくる。
 上履きにかかれた海藤の文字が滲んで見える。
 優しく頭を撫でられる。
「杏子」
「うん」
「おつかれさま」
「……うん」
「ハッピーバレンタイン」
「うん。……こずちゃん」
「なに?」
「卒業式、笑ってでようね」
 こずちゃんは一瞬戸惑ったように黙ってから、
「そうね」
 優しく答えてくれた。

 榊原君が好きな人がいるのは知っていた。
 だから、大丈夫。
 わかっていたから。
 次に会うときは、最後に会うときは、ちゃんと笑っているから。
 だから、
「幸せにならないと、超怒るんだからっ」 
    21:42 | Top
 
 
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