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表立って載せるほどではない小噺と、あとがき。 その他キャラ設定などなど、徒然なるままに書き連ねるページ。 

「月蝕」

「うわ~、月が赤いね、榊原君」
 隣を歩く西園寺杏子の言葉に、榊原龍一は空を見上げた。
 そうか、今日は月蝕か。赤い月が見えると、ニュースでやっていた。
「こんな時に一緒に帰るなんてロマンチックだね!」
 勝手に隣を歩いているくせに、いけしゃあしゃあと杏子は言う。返事はしない。
 あれ、でも今日は曇りじゃなかったっけ? まわりの雲は厚いのに、なんで月だけ見えるんだ?
 その疑問を杏子に問おうと横を向く。
 隣には誰もいない。
 さっきまでたくさんいた人々は誰もいない。いつもの町並みに人だけが欠けた状態で存在している。
 ぞわっと背筋を冷たい感覚が走る。
 この感覚を知っている。これは専門家の領域だ。春に自分が憑かれたこっくりさんのような。
 ケータイを取り出す。やはりというか圏外で、荒々しく折り畳み式のそれを閉じた。
 やばいやばいやばいやばいやばい。
 動かない方がいいとも思えたが、じっとしているのに耐えられず走り出す。
 赤い月が見下ろしている。
 やばいやばいやばいやば
「何してんの?」
 どこか呆れたような声に立ち止まる。ゆっくり振りかえると、やっぱりそこには彼女がいた。
「沙耶」
 小さく名前を呼ぶ。
 黒いコートに白いマフラーという出で立ちで、こういうことの専門家である大道寺沙耶が立っていた。
「龍一はどうしてこうも上手い具合に怪奇現象に巻き込まれるわけ? 月蝕なんて滅多にないし、こっちの世界への道は狭いのに。お祓い、する?」
 沙耶は呆れたように、でも少しだけ痛そうな顔でいう。
 その対応に安堵する。間違いなく本物だ。
「沙耶はなにしてるの?」
「月蝕で龍一みたいにこっちに迷い込む人がいないかパトロール中。月蝕は世界の軸がぶれるから」
 小さくため息。ため息と一緒に、間に合ってよかったと呟きが聞こえた。
「さて」
 そして沙耶は右手を差し出す。
「帰りましょう」
 ひとつ頷いてその手を握った。

「榊原君、ぼーっとしてどうしたの?」
 杏子の声に我に帰る。辺りにはいつも通りに人がいた。
「なんでもないよ」
 小さく笑うと、左手をそっと握る。確かにさっき感じた熱をそっと握る。
 帰ったらメールをしよう、そう思った。

 月は見えない。
    22:35 | Top
 
 
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