表立って載せるほどではない小噺と、あとがき。 その他キャラ設定などなど、徒然なるままに書き連ねるページ。 

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はちきれそうなこの胸の高鳴りを! あとがき

ここで26歳の男を持ってくるのは卑怯だったような気がしないでもない。
LS生になった西園寺杏子の話。
「はち」きれそうな ということで8周年企画終了です。
あぶなかった……。9周年になるとこだった……。もうちょっと計画的に生きよう、と心に誓いました。

杏子は最近本当に可愛くて仕方が無いです。
かわいい、かわいい。
幸せになるといいなー!って思いますよ本当
龍一はもうちょっと杏子に優しくてもいいと思う。
調律師のネタバレにならないラインが難しいかと思ったのですが、まあ誰もまさか龍一と杏子がくっつくとは思ってないだろうし(笑)他メンバについてはあまり言及しないラインで。

はちきれそうなこの胸の高鳴りを!
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    00:08 | Top

キャラクターに質問案

ファンタジや人によって使えないものがあるので、100以上。
適当に抜きだして使えばいいかなーというスタンス
確認はしましたが、ダブリや他に案があったら、拍手かツイッターでお願いします☆

1. 貴方のお名前は?
2. その由来は?
3. お名前の漢字を口頭で説明してください。
4. 周りからはなんと呼ばれていますか?
5. 二つ名、通り名などはありますか?
6. 出演作品、そのジャンル、作品内での立ち位置は?
7. 性別、生年月日、年齢、血液型は?
8. 一人称は?
9. 出身地は?
10. 引っ越し、転校をしたことは?
11. 現在の職業は?
12. 転職などのご予定は?
13. 家族構成は?
14. 家族とは上手くいっていますか?
15. 家族構成について兄弟が欲しかったなどの希望はありますか?
16. 髪型、髪色は?
17. 身長は?(具体的な数字でなくとも)
18. 体型、体重は?
19. ダイエットの必要性を感じてますか?
20. 見た目について、他人によく言われる事はありますか?
21. 自分のチャームポイントは?
22. 服装は何系ですか?
23. 着てみたい服装は?
24. 眼鏡またはコンタクト愛用者ですか?
25. 長所は?(具体的に)
26. 短所は?
27. 趣味、特技などは?
28. 地声は大きいですか?
29. 好き、嫌いな食べ物は?
30. 好き、嫌いなタイプは?
31. 好き、嫌いな色は?
32. 好き、嫌いな季節は?
33. 好きな動物は?
34. 自分を動物に例えると?
35. 自分を漢字一文字で表すと?
36. 何か持病はありますか?
37. 過去一の大けがは?
38. 右利きですか?左利きですか?
39. 外国に行ったことはありますか?
40. お酒は飲みますか?
41. 煙草は吸いますか?
42. ギャンブルはしますか?
43. 座右の銘は?
44. 決め台詞ってありますか?
45. 好きな本のジャンル、愛読書は?
46. 将来の夢は?
47. 恋人・配偶者は? または好きな人は?
48. 浮気は許せますか?
49. 結婚願望はありますか?
50. 初恋はいつですか? それは成就しましたか?
51. 告白はメール、手紙、直接、どれが望ましいですか?
52. 尊敬する人は?
53. 同居または1人暮らし?
54. 部屋の間取りは?
55. 部屋の中でお気に入りの家具を一つ教えてください。
56. 日常使いする鞄のタイプは?
57. いつも持ち歩く物は?
58. 携帯電話はお持ちですか?ストラップの数や形、色は?
59. 電車の中では何をしますか?
60. 神を信じますか?
61. 霊を信じますか?
62. サンタクロールはいますか?
63. 生まれて一番古い記憶はなんですか?
64. 最終学歴は?
65. 学生時代の印象的な思い出をひとつ。
66. 夏休みの宿題を計画的にやる子どもでしたか?
67. 理系科目、文系科目、体育など、なにが得意でしたか?
68. 修学旅行はどこにいきましたか?
69. 子どものころはどんな子でしたか?
70. 子どものころの夢は?
71. 今までしたアルバイトは?
72. アルバイトでの印象的なエピソードをひとつ。
73. 自炊しますか? 得意料理は?
74. 愛用の香水は?
75. 行きつけのお店はありますか?
76. 起床、就寝時間は?
77. おひるごはんはどうしてますか?
78. 休みの日の過ごし方は?
79. 寝るときの服装は?
80. 一日の中で幸せを感じる瞬間は?
81. シャワー派?湯船派?
82. 約束の時間は守れますか?
83. お持ちの資格、免許は?
84. 泳げますか?
85. 足がたくさんある生き物と、足が無い生き物。どちらがいい(マシ)ですか?
86. 今の悩み事は?
87. 後悔していることは?
88. カルネアデスの板の話、自分ならどうしますか?
89. 一日が48時間になったらどうしますか?
90. 一億円当たったらどうしますか?
91. 多額の借金を抱えたらどうしますか?
92. 連帯保証人になってくれと頼まれたらどうしますか?
93. 今一番生きたいところは?
94. 今すぐ食べたいものは?
95. 自由ってなんですか?
96. 正義ってなんですか?
97. 愛ってなんですか?
98. 恋ってなんですか?
99. 現状に満足していますか?
100. 他人から言われて一番嬉しかった言葉は?
101. ネイルアートについてどう思いますか?
102. ナチュラルメイクと派手めメイク、どちらいがいいですか?(または好きなメイクは?)
103. ピアスはあいてますか?
104. お気に入りの装飾品は?
105.
106. **ファンタジ
107. 愛用の道具、武器は?
108. 魔法(特殊能力)は使えますか?
109. 得意技は?
110. 住んでいる世界はどんなところですか?
    22:15 | Top

調律師「Stardust whispers"Who are you?"」あとがき

第一部と第二部の間が三年ぐらい空いているのに、何故第二部と第三部の間は3カ月なのか、はやく書けるならさっさとかけよ、っていうか受験生じゃないのかよ。
そんないろんな声が聞こえるような気がします。いろんな意味で申し訳ない……。

さて、調律師「Stardust whispers"Who are you?"」 
起承転結でいうところの「転」
前々から言ってる通り、タイトル出落ちです。
「何一つ忘れたくなかった」をつけてますが、別のあおりをつけることが可能ならば「こんな日がいつかくるんじゃないかと思っていた」です。
例によって例のごとく、あとがきなぞ。

第一章 不可解な夢に就て
章タイトルは坂口安吾より。
say,askときて最後は「said」の予定なので今回は「囁きました」。星って囁きそうだしね(?)
以前書いた短編「おはよう」からまんま流用してます。

第二章 いやなんです
あなたがいってしまうのが。ということで、章タイトルは高村光太郎から。
高村光太郎のイメージは実は「首の女殺人事件(光彦おぼっちゃま)」です。なので光彦おぼっちゃまの最後のあのシーンもイメージしつつ。
遊園地でのクラス会なんて私も行ったことないよ。花屋敷とか豊島園とかのもっとローカルなやつがイメージです。
啓之出過ぎ。雅も出過ぎ。こんなはずでは。
あとやっとこさ、清澄のカノジョちゃん桜庭祐子が出せて満足です。変な人しかいないから普通の人にも出てもらわないと。でも変な人の中にふつーの人をいれると残念ながらその人が一番変に見えるんですよね、あれれ?

第三章 龍と一人の女
章タイトルは坂口安吾から。
章タイトルすら出落ち。
この辺はイメージ「千夜一夜/see-saw」
だらだら書くと勢いなくなるからなーと思ったらなんか急展開に。でも今の私ではこれが限界。
最後のシーンがどうしても書きたかったのです。

第四章 有声慟哭
章タイトルは宮沢賢治の詩から。
プロットっていうかネタメモには「号泣する準備はできていたのやつ」って書いてあります。
「ごめん、五分だけ」とかよくありますが、円が五分もとるわけないなよなー、と悩んだ末2分に。カップラーメンもできないよ。
龍一の鞄「グリーンと灰色のメッセンジャーバック」は友人(男性)が持っていて、それ超いいよなー! 欲しい! って思ってたやつです。私の中で龍一はほどほどにちゃらい感じ。ちゃらいっていうか、イヤホンじゃなくてヘッドフォンで音楽聞くタイプ。

第五章 あなたをつくります
章タイトルはディックから。今回本当まんまが多いですね。
KYな直純。
杏子の存在はもともと「すっごく嫌いだった大学のクラスメイトをおちょくって書いてやれ」だったのですが(途中で別にそんなに嫌いでもなくなったんですが)、この章の最後を思いついた時にそんなに嫌いじゃなくなってしまって困ったという。
そのうち彼女はロースクール生になりますよ(笑)
こずもの話もそのうち書きたい(別枠で)

第六章 それぞれの冴えたやり方
章タイトルは、ジェイムズ・ティプトリー・Jr.から。しかし、あの本の少女漫画な表紙はどうにかならんもんですかね? 恥ずかしいのですが。
王子様が四天王を倒して行くお話(違)
一海のやり方が一番本家っぽいという皮肉。冴えたやり方って別に冴えてないよね。
今回清澄と直純のターンです、って前回言った気がしますが、気のせいです。あんまり目立ってない……。

第七章 追憶あげます
章タイトルはディックから。
沙耶のモノローグはいれないで、龍一だけで終わりにしようかですっごく悩んだのですが、第四部がはじまるまで放置するのは「直純が」可哀想だなとも思い、やっぱりいれました。
適度に第四部へのふりも出来たと思っているので、やっぱりこっちでよかったかも。
「あの星空の下の彼の言葉」が今回全体を通してのテーマでした。
それにしても今回、3日間ぐらいの出来事なんですよねー。盛り込みすぎ。


というわけで、中学生の時から一緒にいる調律師の面々もあと一部で終わりです。
……まあ、どう控えめに考えても第四部が更新出来るのは来年の五月以降になるのですが(新司法試験終了後)
今回実はなぁんにも片付いていないので、出来るだけ早めにお届けしたいな、と思います。
ちゃんと風呂敷たためるかな……。なんか忘れてそうで怖いわ。
そして、次回はいよいよ、あいつの話です。

おつきあいくださってありがとうございました!
    22:45 | Top

雨の日は迎えに来て

「雨、やまないわね」
 窓の外を見ながら円姉が呟いた。
「台風だし」
 そう返事をする。
 ごう、となって、窓の外を物が飛び交っている。
「騒霊現象みたい」
 その、強風が織り成すダンスをみながら円姉が呟く。
 賛同していいものか悩み、結局答えないことにした。だって、よくわからないし。
 そういうことが良くわかるであろう、他の二人は円姉に構うことなく黙々と事務処理を続けている。
 直さんはともかく、沙耶が円姉を相手にしないのは珍しい。いつもなら「何馬鹿なこと言ってるの?」とか言うであろうに。
 機嫌悪いのかなぁ?と思う。そして、機嫌が悪いときの沙耶は相手にしない方がいいことを、経験上良く知っている。
「……今日はこのまま帰りましょうか」
 円姉が退屈そうに万年筆をくるくると回しながら言った。
「お前、今日このあと新宿だろ? №050621」
 直さんがあきれた調子でそう言った。
「……ま、ね」
 円姉はため息混じりにそう同意する。
「でも、あんたもでしょ? №050701。渋谷だっけ?」
「……なんだよなぁ。やだなぁ、こんな雨に降ってるのに」
 そういって二人同時にため息をついた。
 暗いなぁ。
「こういうときは早めにでた方がいいわよね」
 ぶつぶつ言いながらも円姉は荷物をまとめはじめる。
「書類も一段落したし、ちょっとはやいけど、もう出るわ」
「あ、俺も行く」
 そういって直さんも立ち上がった。
「沙耶、戸締りよろしく」
 そう言って沙耶に事務所のカギを投げる。
「……はいはい」
 沙耶はそれを受け取って頷いた。どこか、投げやりに。
「じゃぁ、適当に帰っていいから。お疲れ~」
「二人とも帰る時気をつけろよ」
 そういって円姉と直さんは出て行った。
 沙耶は何も言わない。
 なんだかとても気まずい。
 それが嫌で、目の前の書類に集中した。


「帰りましょうか」
 時計の針が六時近くになって沙耶がそう言った。
 まだ、外では風が鳴っている。
「あ、うん」
 正直書類も書き終わって暇だった。
 沙耶がふぅとため息をついた。
 ブラインド越しに外を見て、
「……止まないわね」
 そう呟いた。
 あることがさっきから俺の頭の中をめぐっていたが、言葉にすることは躊躇われた。
 困って沙耶をみる。
 沙耶は何も言わないで、ただ黙々と机の上を片づけていた。
 黙々と、けれども、ふとその手を止めて顔を上げた。相変わらずの無表情だったけれども、少しだけ嬉しそうな顔になった気がした。
 耳を澄ます。
 ぎしっ
 雨と風の音にまぎれて、聞きなれた、この古びたビルの階段がたてるあの独特の音が聞こえた。
 ああ、やっぱり。
 さっきから頭の中をめぐっていたことが、確信にかわった。

 ぎぎぃー
 こちらも少しきしんで、ドアが開く。やっぱり古いって、このビル。
「こんにちは」
 そう言って入ってきたのは予想通りの人物で。濡れ鼠になりながら、困ったように笑っていた。
「龍一」
 沙耶が龍一に駆け寄る。
「もう、びしょびしょじゃない」
「台風だし」
 そういう龍一に沙耶はあきれたような顔をしてみせ、棚からタオルを取り出すと龍一の頭にかぶせた。
 龍一の方が少し背が高いから、少し背伸びをして髪の毛を拭く。
 それを見ながら、思う。
 ああ、やっぱり。
「ここに来なくても良かったのに」
 嘘つき。
 来て欲しかったくせに。
 素直にそういえばよかったのに。
「学校帰りだしさ、一度濡れちゃえばあとはどれだけ濡れても一緒だから。ここ、通り道だし」
 嘘つき。
 あの学校から駅に行くならば、ここじゃなくて裏道を通った方がいいことを俺は知っている。
 あの学校の生徒で、ここの道を通る人間は殆ど居ない。
 確かに駅へ続く道だが、信号が多くて時間がかかる。一本中の道を行った方が、信号が無くてはやくつくんだ。
 多分、沙耶も知っている。
 来たかったくせに。
 ただそれだけなのに。
 素直にそういえばいいのに。

 まったく、何なのかこの二人は。
 今更ながらそう思う。
 俺の存在なんてすっかり忘れたような顔をして、うわべだけの会話を繰り広げる。
 その仮面を取り払って、本音を見せ合えばいいのに。本音を見せ合ったって、そのうわべの会話が壊されるわけじゃないのに。
 お互いすぐばれるような嘘をついて、お互いそれでお互いの気持ちを確認するなんていう遠回りなこと、やめればいいのに。
 いつまで純情ぶっているんだろうか?
 いつまでお互いのことを庇うふりをして、自分が傷つくのを避けていれば気が済むんだろうか?
 気付いてしまったから、そう思う。

「……制服もびしょびしょね」
「しょうがないよ」
「龍一」
 仕事柄何かと動き回って服を汚すから、事務所に替えの服ぐらい置いておきなさい。そんな円姉の言葉に素直にしたがっておいてある洋服。
 それの入った袋を投げる。
「貸すから、それに着替えた方がいい。そんな格好で電車に乗ったら、迷惑がられるだけだ」
「え、ああ。ありがとう」
 いつもよりも早口でそう言ったら、やはり変に思ったのか龍一は首を捻って、隣の部屋に消えていった。

「沙耶」
 名前を呼ぶ。
 彼女は何も言わないで振り返った。
 その顔はさっきと同じように無表情だった。
 いや、違う。
 その顔は、さっきとは少し違っていた。
 ただ表情を作る必要が無いから無表情であったさっきと違って、今は意識的に無表情を装っている。
「雨は、嫌い?」
「いいえ」
 沙耶は首を横に振った。
「むしろ、好きだわ」
 そういって、自嘲気味に嗤う。
「気付いていたのでしょう、いつから?」
「なんとなく、今日は機嫌が悪いなとは思ってた。確信にかわったのは龍一が来てから」
「酷い奴でしょ?」
 そういってくすり、と嗤う。
「ああ」
 俺は頷いた。
 本当にそう思うから。
「酷いよ」
「試したかった、のよ」
 迎えにきてくれるか。

 彼女の前の恋人、堂本賢治は絶対に雨の日に沙耶を一人で帰さなかった。
「消えちゃいそうだから」
 その理由を聞いたら、ただ簡潔にそう答えられた。それで全て答えたような顔をされてはこっちも困るが。
 まぁ、なんとなくわかる。
 あのころの沙耶は、今もちょっとそうだけど、雨と一緒にどこかへ流れてしまいそうだったから。
 雨の日は、自然な流れで沙耶のとなりに立って堂本は帰っていた。


「昔の男と比べるのは、酷いだろ」
「本当ね」
 朝から雨が降っていた日は別にして、そうでない日はどんなに雨が降りそうでも沙耶は傘を持ってこなかった。
 それを聞いたら、
「雨は嫌いじゃないのよ。濡れることも厭わない」
 それだけ言われた。
 でも本当は、一つの傘に堂本と二人で入ることに、子どもが母親に抱きしめられるのと同じような安堵感を得ているのだと思っていた。
 これは確信に近い。
 堂本と沙耶の間にあった感情には、確かに高校生らしい恋愛感情もあったけれども、それよりも、もっと、深く確かな安心感を得るための感情があった。
 少なくとも、俺はそう思っている。
 庇護してくれるものを求める感情。
 無条件に自分を愛してくれるものを望む感情。
 それが、別れる原因の一端になったことぐらい、沙耶だって理解していだろう。
「でもね、賢と龍一は違うわ」
 沙耶は少し泣きそうな顔をした。
「賢は、あたしが傘を持ってこないのを知っていて、それでも一本しか持ってこなかった。でも、龍一は、絶対に傘を二本持っているのよ」
 そういって、嗤う。

 そこまで言った時、龍一が出てきた。
「清澄、ありがとう。洗濯して返すから」
「ん、ああ」
 笑みをつくってみせる。
「……」
 微妙な空気に気付いたのか龍一は首を傾げるが、俺も沙耶も何も言わなかった。
 龍一も追及してこなかった。

「それじゃぁ」
「また明日」
「気をつけて」
 二人とは事務所の下で別れた。
 祐子が車で迎えにきてくれると言ったから。感謝してそれに頼ることにして、彼女が来るのを待つ。
 龍一と沙耶は、それぞれ黒と水色の傘をさして駅に向かって歩いていく。
 風が音を立てる。
 先ほどよりは少しましになったかと思う。
 迎えにきてくれるのをただ待つよりも、自分で迎えを要請したらいいのだと、あの二人はどうして気付かない?
 いや、もしかしたら気付いているのかもしれない。というか、多分気付いている。
 それでいてあえて無視している。
 迎えを頼んで、断られるのが怖いから。
「酷いな」
 そう言って嗤う。
 でも、酷いのは沙耶だけじゃない。龍一だって十分に酷い。
 そして、俺だって。
 暴き立てるだけ暴き立てて、二人の仮面を壊そうとしながらも、いざ、それが壊れたら俺はきっと、何も出来ない。


 雨は止まない。

 **

三周年企画もの。お題「雨の日は迎えに来て」
途中で消えて泣きそうになった記憶がある。
    10:11 | Top

ほっぺにさわって

「……何これ」
「ビクスドール」
「や、それは見ればわかるんだけどさ」
 そういって龍一は、机の上にある二体のビクスドールの金色の髪を撫でた。
 夕日が差し込んでくる事務所の中には、今は二人のほか誰も居ない。
「……あんまり、触らないほうがいいわよ」
 ちらりとその龍一の行動を見ると、沙耶は忠告する。
「え?」
「……それ、お祓いの仕事でまわってきたものだから」
「……あー、そう」
 そういって腕を下ろすと少しだけ後ろにさがる。
「それ、作った人形作家の最期の作品なのよ。だから、思い入れも強いんでしょうね。夜な夜な動き出すのよ。……まぁ、何か悪戯するわけでもないんだけどね」
 二体のビクスドールは何も言わずにこちらを見つめてくる。
「人形って、女の子が多いのかと思ってたけど、男の子の人形もあるんだな」
 男女ペアのその人形を見ながら龍一は呟く。
「そうね。……どちらも中性的な感じはするけど」
 書類を書き上げると、沙耶はそれを封筒にしまい、向かいの円のテーブルに置いた。
「……それで、これどうするんだ?」
「ん、これの担当は円姉だから。今、話を聞きに行ってるんだけど」
 そういって立ち上がる。
「今、お茶淹れるね」
「あ、うん。ありがとう」
「座ってて」
 椅子に腰をおろすと、机に頬杖をついてじっと人形を見る。
「綺麗な、青い目をしてるんだな」
「そうね。とても綺麗だわ」
 やかんを火にかける音がする。
「でも、少し怖いな」
「え?」
「本物の人間っぽいところがあるのに、どうみても作り物なところとか」
「ああ。人形ってそんなものよ……。でも、本当、本物みたいよね」
「うん。頬とか特に」
「ああ、それは……」
 かたん、とカップを出す音がする。
「少女の頬はつめくさの花といった感じよね……」
「え?」
「ああ、知らない? その人形のタイトル、ローマンスっていうのよ。
 ……ところで、さくらんぼとアールグレイとライチが今あるんだけど何がいい?」
「じゃぁ、さくらんぼ。で、ローマンスって何?」
「宮沢賢治」
 それだけいうと、沙耶は黙って紅茶をいれることに没頭し始めた。この状態の彼女に何を言っても聞いていないのはわかっているので、龍一も黙って人形を眺める。
「……答えになってないしなぁ」
 小さく呟いた。

「それで、ローマンスっていうのは?」
 紅茶を入れて戻ってきた沙耶に問う。
「宮沢賢治の詩よ」
 はい、どうぞとカップを置きながら言う。
「あとこれ、円姉の作ったマドレーヌ」
「ありがとう」
 沙耶も椅子に腰掛けると、自分で淹れてきた紅茶を幸せそうな顔をして飲んだ。
「可愛くて、でも少し不気味な詩よ。あたしは、すきだけど。その中にあるのよ、少年の唇はセルリーの香、少女の頬はつめくさの花、って。」
 そういって目を細める。
「ローマンスがイメージだったらしいわよ。……あたしのイメージとはちょっとずれてるけど」
 そういって笑う。
「……よくわからないんだけど」
 沙耶はそれには答えず、ただ笑いながら
「今度、本貸してあげる」
「持ってるんだ」
「ええ、一時期とっても好きだったから。高校のときのお気に入りは、宮沢賢治のペンネンネンネンネン・ネネムの伝記と、カミュの異邦人とカフカの断食芸人だったわ」
「……。」
 どこか懐かしそうな顔をしながら話す沙耶をみて、複雑な気分になる。
 記憶が確かならば、その三人が書く話はあまり明るい話ではなかった気がする。特に最後のは、タイトルから察するに明るさのかけらも感じられない。
「……好きだった?」
 “だった”を強調して聞いてみる。
「ん? 好きだったわよ。今も大切だけど、好きというのは……今は少し違うわね」
 そう言って少し微笑んだ。
「高校時代っていう、それだけで価値のある、所謂青春時代をともにした本だからね、今でも時々読み返してみるけれども、最初に読んだときの気持ちはもう味わえないんだ。それがいいことか、悪いことかは別として、ね? でも、そうね、あの本たちはあたしの戦友ね」
 膝の上にカップを手のひらで包むようにして持ちながらそう言った。
「……そっか」
 今度それらの本を読んでみようと思いながらも、些か複雑な面持ちで龍一は頷いた。
 ちらりとしか聞いたことの無い、彼女の高校時代がどういうものだったのか。その片鱗が見えた気がした。
 膝の上のカップを見つめる動作に、何て声をかけようか少し迷って、
「龍一は好きな本とかないの?」
 彼が迷っている間に沙耶は顔を上げてそう微笑んだ。
 ああ、いつもそうだ。
「特には、ないなぁ」
 口では軽く返しておきながらも内心では落胆していた。
 これが初めてのことではないが、少し近づけたと思ったらすぐに突き放されてしまうことが、本当はとても怖く思っている。
 いつでもすぐに、自分を遠くに突き放せるように、沙耶がわざと近づけないようにしている気がして、実は、とても、怖い。
「何か貸してあげようか? そうねぇ……」
 少し視線を上にあげて、考えるそぶりを沙耶が見せたとき、
 がちゃ。
「……あら、邪魔だったかしら?」
 ノックもなしに円がドアを開けて、決り文句のような言葉を呟いた。
「全然」
「いいえ」
 二人して同時に答える。
 それすらも、本当はとても辛い。
 自分が否定することは良くても、彼女が自分を否定することが辛いだなんて、とんだわがままだと頭ではわかっていても、それでも、彼女の中の自分の価値を疑わずにはいられない。
 “恋人じゃない”
 それは確かに事実だし、自分もいつもそう言っているけれども、沙耶がそういって全面否定することは見たくない。
 我が儘だとは、わかっていても。
「ふーん」
 お決まりの、納得していないようなそぶりをみせながら、円は机の上のビクスドールを手に取った。
「あれ、連れてくの?」
「ええ、家族から話は聞けたから。その人形作家のお墓まで行ってくる。時間になったら、適当に帰っていいから」
「はーい」
「龍一君も、何にも無いけどもごゆっくり」
「あ、いえ」
 慌てて首を横にふる。何も無くても、ここには価値がある。そう思いながら、円が持っている人形の頬に触れた。
「大人しくするように」
 それを聞いて、円がにやっと笑った。


「そろそろ、帰りましょうか」
 他愛もない話をして、カップが空になったころ、沙耶がそう言った。時計の針は六時をさしている。
「あんまり遅くなったら、ご両親が心配するでしょう?」
 その問いに軽く肩だけすくめる。
 基本的にどこか抜けている自分の親は、息子が何時もより少し遅くなったぐらいじゃ心配しないし、それに、午後六時を「遅い」とは言わない。午後六時を遅いだなんて、今日日小学生でも思わないだろう。
 それが口実だ、何て、よくわかっている。


「忘れ物、ない?」
 カップも片づけ終わって、机の上から荷物とかぎを取りながら沙耶が言う。
「忘れるほど荷物がない」
 教科書しか入っていない鞄を持上げなら、冗談半分そう答えた。
 いっそ、忘れ物でもした方が、またここにくる口実になる。そんな少女漫画じみたことを考える。
「じゃぁ、帰りましょうか……」
「ん。……沙耶、髪の毛にごみついている」
「え、うそ」
 長い、黒い髪の毛を彼女は手で梳かすけれども、それは彼女の手を上手いことすり抜ける。
「とるからちょっと動かないで」
 そういって腕を伸ばして、彼女の耳辺りにあるごみをとる。
「ほら、とれた」
 そういって彼女と視線を合わせようとして、一瞬ギョッとする。考えてみれば当然のことなのだが、思ったよりも近くに顔があった。
「あ、……ありがとう」
「ん、いや……」
 そのまま手を引けばいいだけのことなのだけれども、何故かそれはためらわれて、少しだけ気まずい。
 腕が彼女の頬に触れて、慌てて離そうとして、思い直してそのまま手のひらで彼女の頬に触れた。
 拒絶されなかった。
「やっぱり……、人形と人間じゃ違うね。温かさとか、そういうの」
「……そうかもね」
 彼女は困ったように笑いながら答えた。
「でも、残念だけど……“つめくさの花”ではないわ」
 微笑んだまま首を横にふり、そのままの動作で彼から離れた。
「さぁ、帰りましょう」
 沙耶は何事もなかったようにドアをあけて外に出る。
 龍一は伸ばしたままの手のひらを、軽く握って、腕を下ろすとゆっくりと歩き出した。


「それじゃぁ、ね」
「ばいばい」
 駅の改札口。
 乗る電車が違うから、そこで手を振り別れる。そんなこと、いつものこと。
 手を下ろし、後ろを向いて歩き出す彼女の背に、小さく呟いた。
「ぼく永久に、あなたへ忠節をちかひます」

 **

三周年記念企画。お題「ほっぺにさわって」
「まったくあんたはー!」とか言いながらほっぺたをつねるっていうギャグしか出てこなくて苦労した代物(笑)
    10:10 | Top

Envy

「わたし、家が二階建てでよかったと思うわ。衝動的に飛び降りても死なないと分かっていたから、家で死ぬことはなかったし他人の家で死ぬなんてまっぴらよ」
 淡々と彼女は言う
「カッターで手首を切ったって死ぬ確率が低いのは分かってた。それに刃が錆びるのは居たたまれないわ」
 白くてきれいな手首を見ながら彼女は言う
「線路に飛び込むと他人の迷惑になるし、汚いし、家族に請求がいくんでしょ? それはいやだった。家族のこと、好きじゃなかったけど迷惑はかけたくなかったから」
 長い髪を遊びながら彼女は言う。
「睡眠薬も考えたけど手に入れるのも大変だったし、発見がはやいと助かるから却下。首吊りは死刑囚みたいで格好悪いからいや」
 白くて長い指を折り数えながら彼女は言う
「私は死にたがっていた。でも私が一番綺麗に死ねる方法が思いつかなかった。だから生きていた。
 なのになんで私は死んだの?」
 そして、彼女は心底不思議そうに聞いてきた。
 あたしはゆっくりと答える。
「あなたは子供をかばって死にました。トラックにひかれて。あなたは笑っていた。とても綺麗に」
「私は綺麗だった?」
 彼女はそれだけが気がかりで有るかのように聞いてきた
「ええ、とても」
 あたしは心から頷く。
 そう、と彼女はまた先ほどの、綺麗な笑顔を浮かべた。
「ならいいの。綺麗に死ねていたならそれで」
 そういって彼女は消えた。

 あたしはそれを見送って唇をかんだ。
 この感情が嫉妬なのは分かっていた。
 あたしは綺麗に死んでいった彼女に嫉妬している。笑って死んでいった彼女に嫉妬している。死ねた彼女に嫉妬している。
 ゆっくりと立ち上がりもう逝った名前も知らない彼女を乗せた救急車を見送った。
「すみません、事故の状況をお聞きしてもいいですか?」
 そう聞いてくる警官に頷き、
「でも先に仕事場に電話を入れても構いませんか? 営業から戻るところだったので」
「ああ、どうぞ」
 ケータイを取り出して、慣れた番号を呼び出す。
 野次馬も本来自分が居る場所に帰っていく。
 彼女が庇った子どもは、軽い擦り傷だけをこしらえて、でも念のために救急車に乗せられた。
 少しだけ、その子どもに同情した。あの子は一生、あの女性の重さを感じて生きていかなければならないのだろうから。
「どうぞ、ただ見ていただけですが」
 ケータイをとじながら、そういってあたしは警官を見た。
 本当に、あたしには何も出来なかった。
 ああ、あたしは、誰かを庇える行動力を持つ彼女に嫉妬している。あの子どもの中で一生生きつづけられる彼女に嫉妬している。死ぬことなんて怖くないといいながら、保身に走る自分を軽蔑して、本当に死ぬことなんて恐れなかった彼女に嫉妬している。
 でも、
 あたしは確かに彼女に嫉妬しているけど、あたしは彼女に対して少し優越感も感じている。
『それで、沙耶は大丈夫なのか?』
 さっきの事務所の電話にでたのは龍一だったから。
 きっと、また円姉にバイトまがいのことをやらされているんだろう。そう思って少し笑った。
「平気」
『そっか、よかった』
 そういって安堵の息を吐く彼があたしをここに繋ぎとめている。
 今のあたしは死ねない。
 死ねない確かな理由を持っている。
 それがひと時の虚像だったとしても。
 だからあたしは僅かに優越感を抱いている。
 右手で肩を強く握った。

 でも死ぬなら彼女みたいに綺麗に笑って死にたいなんて、身分不相応なことも考えている。

**
 調律師関係の短編では、これが一番気に入ってるかもしれない。
    10:09 | Top

祝福と受け入れるために

「機嫌、悪いわね」
「そう? いつもこんなものよ」
 普段、自分の方が機嫌悪そうな態度を取っているくせに、ぬけぬけとそんなことをいう円に視線を合わせずに淡々と言葉を返す。彼女のお得意の言葉を。
「ふーん」
 納得していない口調で円は相槌を打つ。
 入り口にとところにあるホワイトボードには、直純は出張で清澄は休みだと書かれている。この事務所では良くあること。もっとも外面がいいから、という理由だけで直純はよく出張になる。
 沙耶と円だけしかいない事務所は別に珍しくも何とも無い。
 だから、別にこの空気は嫌いじゃない。
 余計な詮索さえしてこなければ。
「面白いお話をしてあげましょうか」
「何?」
 仕事を放棄して、紅茶を飲みながらまったく面白くなさそうな口調で言う円に、書類にペンを走らせたまま返事をする。
「昨日ね、テレビを見ていたら、こんな話をやっていたわ。小さいころの記憶を持つ人の話。ましては、生まれてくる前の記憶を持つ人の話」
 手が止まった。
 でも悔しいから顔は上げないまま、じっと机の上の書類を睨みつける。
「それ曰く、生まれてくる前にどの母親のところに生まれてくるか選べるというの。ねぇ、これについてどう」
「何でわかったの?」
 質問をさえぎって逆に質問する。
「何であたしがあの番組を見たってわかったの?」
「なんとなく。違ったら違ったで話の種ぐらいにはなるし」
「……。」
 ひょうひょうといわれて、ため息混じりにペンをおき、机の上で腕を組む。
「あれを見ていて思ったの、つまり……、全部あたしが悪いってことなのね」
 言葉は返ってこない。でも続ける。
「あたしが母と父を選んだから、こうなったのね? あたしに龍が憑いているのも、両親があたしを見捨てるような人であったことも、全部あたしのせいなのね? あたしが生まれてくる前に選択を誤ったからこうなったのね?」
 気分が悪い。あのテレビを見てからだけど、気分が悪くてしょうがない。
「……、あたしは、汚いことだけど……、これはあたしのせいじゃないと思って、今まで保ってきたのに……」
 肩を強く握る。
 泣きそうだ。
 龍が自己主張をはじめそうになって、慌てて一つ深呼吸する。
「これすらもあたしのせいなら……、なんで……」
  言葉が続かない。
 テレビ一つをなんであたしは信じているんだろうと、自分でも思っている。それでも、
「どうやって、あたし……、あたし、どうやって……償うの?」
 それでも、信じてしまったのだからしょうがない。
 円は何も言わない。
 ただ、しらばく沙耶を見つめ……、そして彼女はゆっくりと口を開きかけ、
「こんにちは」
 ドアが開く音とその言葉に
「あら、いらっしゃい」
 当初言いかけたのと違う言葉を吐き出す。
「こんにちは、円さん。それから……」
 やってきた龍一は、沙耶に視線を移してぎょっとしたように言葉をとめた。
「沙耶?」
 殆ど泣く一歩手前だった沙耶は慌てて視線をそらす。
「え、どうした?」
 沙耶と円両方に尋ねる。
 円は答えずにゆっくりと立ち上がった。
「龍一君、あとお願い」
 そういって外に出ようとする。
「え、円さん」
 慌ててそれを引きとめようとするが、いつものゆらりとした調子でかわされてしまう。
「龍一君の方がいいでしょう、わたしが何か言うよりも」
 それだけ言うと、ドアを開けて廊下へ出て行く。
 ぱたん、としまったドアをしばらくあっけに取られながらも見つめ、それから、我ながら情けないぐらい困った顔で沙耶に視線を向けた。
「……ええっと、沙耶?」
「……なんでもない」
「なんでもないことはないだろう」
 あきれた調子で言われて、少しだけ腹が立った。
「じゃぁ……、生まれてくる前に両親を選んだという話をどう思う!?」
 切りつけるように、早口で言い捨てると、少し驚いた顔を龍一はした。
「え、ああ、何。昨日のテレビ? ……もしかして、あれを信じて落ち込んでいるわけ?」
「悪いっ!?」
「……悪くは無いけど……、くだらねぇ」
 本当にくだらなさそうに言われて、腹が立つより先に驚いた。普段、そんなこと言ったりしないから。
「くだらないって……」
「くだらないだろうが」
 円の椅子に腰掛けながら、龍一は淡々と言う。
「まんまとマスコミなんかの餌食になって。人が発生するプロセスはきちんとすべて解明されている。今時子どもだって、コウノトリが運んでくるなんて信じちゃいないさ。どこにもそんな非科学的な話、入り込む隙間はない」
 驚くほど真剣な口調でそういわれて、何か言い返す言葉は思いつかなかった。
「……やけに辛辣ね」
 かろうじてそれだけいうと、龍一は不機嫌そうに答えた。
「これでも一応、医学部志望しているわけだし。非科学的なもの、信じるわけにはいかないだろう」
「……こんな非科学的な人間達の集まりによく来るくせに」
「まぁ、確かに、沙耶も円さんも、巽も……直純さんも非科学的だよな。だけど、それは俺がしっかり目で見て確認しているから信じている。というか、あれだけ見せつけられたら信じないわけにはいかないさ。……だけど、件の話は俺は見ていないから信じない。だから、くだらないっていうんだよ」
 まっすぐに見つめられると居心地が悪い。
 少し視線をそらし、書きかけの書類を見つめる。
「……だけど、あたしは……。あたしは、あれを……信じてしまったわ」
「それは沙耶が他人を恨むよりも自分を恨むほうが楽だと思っているからだよ」
「……何それ」
「沙耶の龍はあちらこちらから恨みをもらってくる沙耶の父親のせいだ、とかこんなことになったのは龍だけのせいで自分をすてる両親のせいだ、とかそうやって他人を恨んでいくことが沙耶は苦手なだけだよ。それならば、自分を恨んだほうが楽だって思っているから、あれを信じたんだ、きっと。だけど、自分を恨んだって結局それに堪えられなかったみたいだけど」
「そういうもの?」
 眉をひそめてそういうと、
「そういうもの」
 微笑んで返された。
「結局、誰が悪いとかそういうのってないだろう。もし例え、あの話が本当だとするならば、生まれてくる前に子どもに明確な意思があるのかどうかという問題があるし、人生というものを何も経験していない魂にきちんとした決断が下せるとは思えない。それに、もし選んだ家族が平和だったとしても、一年先まで平和だとは限らない。人の心は移りやすいのだから。ならば、結局のところあの話はどうでもいいってことになる。あの話が本当で、沙耶があの両親を選んできて、それでもこうなってしまったのは別に沙耶のせいでもなくて、きっと沙耶の両親のせいでもなくて、小さな出来事の重なり合いで歪んでしまっただけだよ。
 ……って、円さんならいうと思うけど」
 そういって肩をすくめる。
「……ああ、とても言いそうね」
「言いそうだろ? でも、俺もそう思う。それに、もしあの話が本当ならば、沙耶が両親を選んだことで生き方を選んだことになる。なら、俺は嬉しいんだけどな」
「?」
「沙耶があの両親を選んでいなければ、出会うことなんてなかったんだしな」
 そう言って、ゆっくり微笑む。
 その意味を時間をかけて理解して、理解した瞬間に少し笑えた。
「ああ、そうか、そういう考え方もあるのね」
「あるんだよ。……まぁ、だから何を信じるかは沙耶の自由だよ。だけど、何を信じても、あるいは何も信じなかったとしても、沙耶が自分を責めることなんてないだろうし……、それに、一人で抱えることなんて、ないんじゃないか?」
 ああ、この人は……、
 顔を上げなくても、彼が微笑んでいるのがわかる。
 この人は、本当に不思議な人だ。
 机にひじをついて、額に手を当てる。
 あたしの龍を綺麗だと言った。
 あたしのことを怖がらなかった。
 そして今回も……
「……っ」
 あたしが何を欲しがっているのかきちんとわかって、与えてくれるなんて。
「沙耶」
 龍一の手がゆっくりと、ためらいがちに沙耶の頭を撫でる。
 泣けた。
 やっと、泣けた。
 いい意味で、やっと……。
「ありがとう……」
 顔をあげて、もう一度。
「ありがとう」
 やっぱりいつもの笑顔を浮かべて、龍一は答えた。
「どういたしまして」

「どう?」
 ゆっくりとドアが開いて、円が顔をのぞかせる。それをみて、ほっと一息吐いた。
「ちょうど良かった。眠ってしまって……」
 そういって机につっぷして、寝息を立てている沙耶を指差す。
「昨日、眠れなかったみたいだからね」
 そう言って、自分のカーディガンを脱いで沙耶の肩にかける。
「まったく、馬鹿なんだから」
 そういって、沙耶の髪を撫でて、それをみて、龍一は微笑んだ。
「……何かおかしい?」
 机に腰掛けて、沙耶が寝ているのをいいことに煙草を口で引き抜きながら円は訝しげに問い掛ける。
「いいえ」
 ゆっくりと首を横にふり、否定の意を表す。
「おかしいことなんて何もありませんよ。ただ、沙耶が気づかないことは不思議ですが」
「不思議?」
 ライターを探してポケットを探りながら円は言葉を繰り返す。
「こういう風に一人で落ち込まなくても、円さんも清澄も直純さんも、あと巽とか……いろいろな人が助けてくれるということに」
「そうねぇ」
 やっと見つけたライターでゆっくりと火をつける。
「まぁ、それが沙耶が沙耶である所以だしねぇ。これでも昔に比べたらまだましよ、うん。昔は年中あの状態だったし。多分、龍一君のおかげでしょうけど」
「……そう言っていただけるなんて光栄です。」
「とりあえず、気が変わるまでこの子の面倒を見てやって頂戴」
「はい」
 円は彼女にしては珍しく、にっこり微笑むと机から立ち上がった。
「あの話、実際のところどう思う?」
 窓をわずかに開けながら問う。「どっちでもいいです。うそであっても本当でもあっても、結局今ここにいることに違いはありませんし、別に俺は両親に左右されるような人生を送っていませんから」
「らしいわね」
 くっくと円は笑う。
「円さんはどうなんですか?」
「信じているわよ」
 あっさりと言われて、一瞬理解するのに時間がかかった。
「え、今なんて……」
「信じているわよ」
 円は笑いながらもう一度言う。
「意外だった? でもさ、私、無神論者なのよ」
「それは知っています。だから、てっきり信じていないかと思っていました」
「違うわよ、無神論者だから信じるの」
 そういって楽しそうに笑う。
「龍一君、私は生まれたって英語にしてみて」
 突然の質問に眉をひそめつつ、
「I was born.」
「正解。流石、受験生」
「というか、中学生レベルですから、この問題」
 大げさに両手を叩く円に訝しげなまま言葉を返す。
「それで、これがどうしたんですか?」
「be動詞+過去分詞という形のことを何ていう?」
「……受動態?」
「そ、受動態、受身。人は自らの意志で生まれてきたわけではなく、生まれさせられたとその英語は言っているわけだ」
 窓枠に寄りかかりながら続ける。
 眩しくて、龍一は少し目を細めた。
「だけども、私が生まれる前に母を選ぶということは能動態であるわけでしょ? 母を私が選んだ。ならば、生まれてきたことは受動態ではなく、能動態になるわけじゃない」
「……そうですね」
「私は神様なんて信じていないし、要らないとも思っている。だから、生まれさせられるよりも、自らの意志で生まれたと思える説をとる。簡単なことでしょう?」
 そう言ってにやにやと笑う。
 内容を理解すると、龍一も笑った。
「意外かと思いましたが、やっぱり円さんは円さんですね」
「そう? 誉め言葉として受け取っておくわ。だから、私は生まれてくるときに母を選んだ。今の家がいいとも悪いとも思わないけど、まぁこんなもんよね」
 ひらひらと片手を振りながら軽く言う。
 それから、その手で煙草をつかむと灰皿に押し付ける。
「お茶淹れるけど、羊かんは平気?」
「はい。ありがとうございます」
「沙耶が寝ているから緑茶ね。頂きものの美味しい羊かんがあるのよ」
 そういいながらコンロのほうへ歩いていく。それを見送って、次に眠ったままの沙耶を見る。
 少し微笑んで、口の中でだけ呟いた。
「せめて、今は選んだ生を祝福と受け入れることが出来ますように」

 **

時系列とかキャラが長編と合わなくなって来たのでさげました。
……我ながらちょっとどうかと思う。
    10:08 | Top

神を信じるかい?

「円姉は、神様っていると思う?」
 突然の質問に、円は顔上げ沙耶を凝視する。
「何?急に。」
「いると思う?」
 沙耶は窓の外を眺めながらもう一度問いかけてくる。
「いないわね。」
 今度は落ち着いて即答した。
「いてもどうせ不公平なんでしょうから、ならば、いらない。」
 そう続けると、再び書類に目を通し判子を押すという作業に戻る。
「あたし、思ったんだけど」
 それに気を遣ったりすることなく沙耶は続ける。
「神様もいっしょなんじゃないかって。幽霊とか妖怪とかと一緒で、人が強く思えば思うほど存在を強めていくんじゃないかって。だから、宗教家達には神は存在する。信ずる者は救われる。」
 どう? と、そこでやっと円の方を見た。
 判子を片手に持った状態で固まっていた円は唇の片端だけで笑った。
「信仰深い人が聞いたら、卒倒しそうな話ね」
「そうかしら?」
「なかなか興味深いけどね」
 書類と格闘することを諦め、足を組み頬杖をつく。
「確かに私にとって幽霊も妖怪も神も全部一緒だわ。どういうことだか、わかる?」
 沙耶は静かに首を振る。
「つまり、一生かかっても理解できない」
 くっくと笑う。
 その冗談とも聞こえない冗談に、沙耶は小さく苦笑した。
「円姉こそ、誰かが聞いたら卒倒してしまうようなこと言って」
「実際、そうでしょ?」
 そういって円は頬杖をついていない方の手を大げさな動作で広げた。そして、そのままの口調で言う。
「それで、今度は何があったの?」
 その普段通りの口調に危うく聞き流しそうになる。
「……え?」
「何かあったんでしょ。こんな、愚問にも等しいことを聞いてくるなんて」
 今度は円が、さっきの沙耶のように窓の外を眺めながら淡々と言う。
「……。」
 沙耶は何も答えない。
 それを促したりせず、円はぼぉっと外を眺めている。
 沈黙。
「……今日の夕食、うちで食べていかない?」
 沈黙を破ったのは円で、どこかずれた問いを投げかける。
「……え?」
「アサリの酒蒸しを作ろうかと思うんだけれども。」
「なんで、急に……」
「急に食べたくなって、そしたら思い出したの。そういえば沙耶、好きだったなぁって」
 帰りにスーパーにでも寄らなきゃね、そう円は呟く。

「あたしの」
 軽く目を閉じて、ゆっくりと沙耶は言った。
 円は相変わらず外を見ている。
「あたしのこれも」
 肩に爪をたてる。
「結局は、そういうことなんだよなぁと思ったらこれも、信じるあまり具現化してしまった人間の思いこみなんだと思ったら、神さえも同じもののような気がしただけ。」
 そこまでいってから目を開けて、自嘲気味に嗤う。
「なんて、すごいこと言っちゃった。同じなわけ、ないのに」
「さぁ? 少なくとも私にとって、あんたの龍も神も一緒よ」
「一生かかっても理解できない、から?」
「いいえ。」
 頬杖をついたまま沙耶を見て、言った。
「私にとってたいしたものではないということ。あってもなくても、変わらないということ」
 それからため息をついた。
「なんか、面倒になっちゃったわね、仕事」
 そういって処理の終わった書類をファイルに押し込む。そして何故か机の中からクッキーの缶を取り出す。
「沙耶、なんか紅茶淹れてきて。お茶にしよう」
「……うん」
 しばらく何ともいえない表情で円を見ていた沙耶は、一つ頷くとお湯を沸かしに立ち上がる。
「あ、待って」
「ん?」
「一つ、聞いてなかったわ」
 沙耶を引き留めた円は、クッキーを一つ頬張りながら尋ねた。
「それで、うちに夕食食べに来るの?」
「もちろん」

 **

調律師関係の短編は時系列が合わなくなって来たので下げる事にしました。
その救済品。
    10:07 | Top

フォークひとつ あとがき

相手の立場に立つのって難しいよね、というお話。

私、金銭面ではそこそこ恵まれてるので「お金ある人はいいよねー」って言われる側の気持ちも、
だからと言って予備校とかに通える程の余裕は無いので 言う側の気持ちもわかるなーという。
ただ、そういうどっち付かずは立場が無くて困るんですけどね。

お金がないのはその人の責任じゃない様に、お金があるのもその人の責任じゃないのに、
ただただ「いいよねー」というのは相手に対してかなり失礼だよな、と思ったのでした。
1題は日常生活のこまごまとしたものをどうにかしようというスタンスです。小説で昇華?


事務所にきた迷子ちゃんのお話。
この事務所のメンバは清澄以外裕福なご家庭で育ちすぎじゃないかと思います。沙耶は微妙だけど。

「フォークひとつ」
    11:40 | Top

村八分にご用心 あとがき

未だに終わらない八周年記念企画その七。や、やっとここまで……

久しぶりな魔女さん。
上総と亜紀が出会ったお話。
ちょっと上総のキャラを忘れかけてた気も……。
この二人は変人同士とても仲がいいと思います、変人同士(酷い)

上総の制服のポイントはニーハイ。
しかも柄物。でも制服にニーハイって可愛いよねー。
あとはYシャツの代わりにTシャツ着たりパーカー着たりするのも好きです。
ええ、まあ、制服最後に着たの何年前? って世界ですけど(遠い目)

「村八分にご用心」
    22:05 | Top

ネタメモ的ななんか

 そうして彼は、どっから調達してきたのかわからないシルクハットを胸にあてて、高らかに宣言した。

「レディーーースアーーーンドジェントルメン! さぁ、解決篇という名のショータイムの始まりだ」


 遠くの壁に寄りかかり、腕組みをしながら譲と茗はそれをあきれ顔で見つめる。
「あいつ、なんだかんだでノリノリですね」
「あの人、ミステリと名がつけばボケミスでもラノベでも構わないタイプの人だから。こういう演出も好きなのよねー」
「今回はハードボイルドに行くとか言ってたような」
「トリックが手品っていう段階できっと捨てたわね、それ。手品とミステリとかいいよね! 地獄の傀儡師っぽい! 金田一孫の方の!! って言ってた」
「ああいうのが探偵とか、やってられないですよ」
「あの人、名探偵も歩けば事件に当たる、を地で行く人だから……。どこをどーしたらそういう事になるのかわかんないけど」
「名探偵がいるから事件が起こるんですよ。マジで」
「それでも神奈川県内だけだからいいかなーと思ってたんだけど」
「俺等が神奈川県警だからですね。でも」
「広域連続殺人犯にたまたま旅行に来てた草津で会うとか最悪」
「……慰安にならない」
「もう絶対、一緒に旅行とか行ってやらない」

 うなだれる犯人に、説教をかましながら、手から薔薇をだす。

「うさんくせー。つーか、手品もできるのかよ」
「手品ぐらい今更驚かないわよ。海の上での密室殺人、殺された船長っていう状況下で、俺運転出来るよ?とか言うんだもん。何者」
「そのくせ普通自動車免許持ってないですしね」
「ねー、私だって持ってるのに」
「俺だって」


(神奈川県警だから、のくだりとか使えないけど思いついたので……
    22:24 | Top
 
 
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