表立って載せるほどではない小噺と、あとがき。 その他キャラ設定などなど、徒然なるままに書き連ねるページ。 

恋愛物強化月間あとがき

創作者さんに15の恋愛

01.恋に落ちた瞬間
賢治と沙耶の出会いの話。
ずっと書きたかった話の一つです。
サブタイトル(?)は「階段落ちてこんにちは」
結構マジです。

02.恋の病
医者は実は結構年をいっているはず。
奥さんは看護士なのですよ。
個人経営の小さな病院で(妄想)

03.恋の敵 この二人はいつも同じことばかりしている気もしますが。
こういうスタンスの恋愛が一番憧れますよね?
仕事と恋愛ならばやっぱり仕事じゃないかと(以下長々と続く)

04.恋水
サブテーマは「ひとでなしの恋」
大乱歩です。
友人に好評だったもの。

05.嫉妬心
笹倉譲巡査部長と小鳥遊麗華検事の話。
小鳥遊検事初お目見え
続きます。

06.恋人中毒
九官鳥話。
冒頭の会話だけずっと頭の中にあったのに、
なかなか形に出来なかったもの。
今回やっと形に出来ました。甘め。

07.初恋の人
ギャグで。
初恋って思い出すと恥ずかしいものじゃないですか?

08.イジワル
ティーンコート話。
この人たちをちゃんと書くのは初めてですが。
菊の名前は、哲学の授業で聞いて「これはネタになるっ!」と思い即メモしました。
まぁ、この人たちは「そういう関係」です

09.こいのうた
異常愛物?
何で牧師様にしたのかは、自分でもわからなかったり。

10.優しい嘘
本当は漫画で描きたい。
別れ際の優しい嘘というもの。
前断片で書いたことがあるので、記憶のある方もいらっしゃったらうれしいなぁ(控えめ)

11.恋は盲目
ホーセイとスイリの話
いや、本当にいちゃついているバカップルが居るんですよ、バイト先の裏口。
そういうときは先輩達と顔を見合わせ、何事も無いふりをしますが
ちなみに、スイリは「茗がもし仕事よりも恋人を選んだらどうなるか」から
発生したキャラでもあります。

12.甘い罠
続・恋の敵
恋の敵→嫉妬心→幸福理論→甘い罠 な時間軸です。

13.ご褒美
ホーセイとスイリの話
惚気ばかっぷるぶりを発揮。
バイトに迎えに来るのは、バイト仲間の彼氏さんです。

14.愛のしるし
ホーセイとスイリの話
店長のモデルは、バイトの店長と副店長を足して二で割った感じで。
一時期、私の同期の間で「副店長はバイトの××さんと付き合っているのでは?」
という噂が流れたのでこうしてみました。

15.誓いの言葉
九官鳥話。
法廷シーン(語弊あり)へのつっこみ不可
デラ・ストリートがめっちゃ可愛いと思います(最後のあれ)

恋の花束15選

01.ガラス越しの恋
エミリの話。
恋の話と言い切るには些か厳しいものがあるかもしれませんが
(まぁ今に始まったことじゃないし)

02.鏡言葉の世界
誰かのコントで、「貴方の言っていることわからないのよっ!」
って言ったら相手がしゃべったのが謎の外国語だった、っていうのを思いだして。
こうやって書くと夢も希望もありませんけど。

03.難攻不落の男
ギャグ。
でも、障害がある愛ほど燃えるのです

04.リトルレディの反乱
王女様の話。
ちなみにこれ、中学のときからのキャラクターの設定を少しと名前をそのまま流用しています。
性格は大分違うんだけど(むしろ別人だ)
本物(?)の方を知っている方は「もし彼女が最初から王女だったら」
というパラレルワールドだと思ってお楽しみください~(ってそんな人少数だけどさ)

05.嘘つきがいっぱい
救いようの無い話。
でも、最近の高校生とかの恋愛模様を聞いていると、
こういうことってありませんか?

06.ハッピートライアングル
続・王女様の話。
詐欺師と王女と従者にとって今の形が実は一番幸せだという話。
会話文だけとかって凄いすきなんですけど。

07.たったひとつの冴えたやり方
異常愛?むしろホラー?ミステリ?
これを書く前に原作(?)読もうと思っていたのに、
図書館で見つからなかったのでちょっと残念。

08.出来心の誘惑
本当は牡丹灯篭みたいな話にしたかったんですけれども。
あと、最初は最後の方に調律師の話があったんですけれども
主旨がずれてきたので削りました。

09.1日軟禁計画
ホーセイとスイリの話。
ネタとしては、クラスメイトのルームメイト(他大学)が
遊びに来ていたところから。
ばれやしないさ。

10.独占主義者の言い訳
異常愛、もしくはホラー
「罪を狩る者」甲斐梓の話。
上総にするか迷ったのですが、恋愛といえばこっちだから。

11.子供の言い分
翔と円の話。
彼女が煙草を吸い始めた理由。
「待っています」に込められた意味を深読みしてください(笑)

12.僕の愛し方、君の愛され方
某創作友人に感謝。
(彼女がカラオケで歌った歌がヒントなのですよ)
悪徳商法には気をつけましょう。

13.不満をひとつあげるなら
お察しの通り、隆二と茜。
「愛されるよりも愛したい」とかそんな感じで(古いよ)

14.幸福理論
小鳥遊検事の話。
この人はつまり、そーいう人です。
そしてこの人がみていた占いは目覚ましのあれ。

15.ありがとうのかわりに
ホーセイとスイリの話。
もしくは、店長と恋人の話。
これも、「副店長と喧嘩したから代わって」と言われたところから始まったネタです。
あのバイト先は素敵過ぎだと思います(いや、それもどーかと)

    22:51 | Top

迷い仔猫の居候 あとがき

 ひとでなし一作目にして、はじめてまともにあげた長編です。まともじゃない長編とかは過去に多数ありました(笑)
 そこかしこで言ってますが、もともとひとでなしは、本当にひとでなしな、ひとでなしたちによる、結構な残酷物語になる予定でした。
 結果的に、……あんまり残酷じゃなくなりました。びっくり。隆二とか甘いよね、
 あと、過去の作品は未だに統一できていないのですが「ひとでなしの二人組み」が正式名称です。「人でなし」ではなく(こだわり)

・序幕 彼女が拾った猫の名は。・
 隆二が茜と出会う話です。削られたり付け足されたり、色々ありましたが結局序幕ということで納められたもの。
 本当は雨の日に拾うつもりだったので、傘設定の名残があります。

・第一幕 捨て猫の拾い方・
 ひとでなしの長編原稿は、結構大幅な改稿を繰り返しています。今のは第三稿。
 最初は隆二の一人称でした。この冒頭部分は一人称の方が良かったなぁ……って、ずっと思ってる。でもまさか、まぜるわけにはいかないし。
 そして第二稿はやたらと――を( )代わりに使う長ったらしいフォーマットでした。

・第二幕 猫への餌の与え方・
 どこにもおさめることがなかったので、こんな短い第二幕。
 女をとっかえひっかえする悪い男、っていう設定も、本当はもっといきてくるはずだったのに、予想以上に隆二が丸くなってしまったのでした。

・間幕劇 彼女の猫に対する考え方・
 ここだけ書くのが異様に早かった思い出が……。
 第二稿よりも、甘く、長くなっています。茜といたときの隆二は今よりも子どもっぽい感じ。
 拾った猫は、最初はただの三毛でした。
 
・第三幕 怪波を出す猫の手懐け方・
 第二稿まで、最初の一ページのみで「猫を飼うことに伴う弊害」という章だてでした。今思うとなんてめんどくさいフォーマット(っていうか、第二幕もどこかにおさめてしまえばよかったのに、過去の自分)
 「つまらないと死んじゃうの」はずっと昔からあった話です。
 あと第二稿から第三稿にかけて、ゆびきりげんまんの話や、隆二のお人よしさが追加されています。マオに対してなんだか隆二がすごく甘い……。
 終章のことを考えると、ゆびきりげんまんの話をいれたのは正解だったなぁ、と思います。

・第四幕 捨て猫の元の飼い主・
 神山隆二による不老不死講座は第三稿ではじめてはいったものです。ある方がいいのかどうかは不明(笑)
「久しぶりだな、祓い屋のお嬢ちゃん」
「派遣執行官です、と何度言ったらわかるのですか?」
 っていう台詞からエミリは生まれました。昔は純ジャパだった。赤い服は当時から着てたけど。
 エミリがなければ、マオや隆二の今の設定(研究所が云々)はなかったので、そういう意味では結構大きな存在。
 ひとでなしのテーマのひとつは、エミリの成長なので、その辺もよろしくお願いします。

・間幕劇 猫と彼女のその後・
 ここは初稿からほとんどいじってません。
 一度だけ帰った時……、っていう文はいろんなところで使っています。コピペ。

・第五幕 逃走猫を追うワケは。
 アクションとか大嫌いなのです。読むのは好き、見るのも好き。でも書くのはだめ。頭に描いている状態が全然形にならなくて泣きそう。
「あなたなら組織を壊滅することぐらい造作のないことだ、と父が言っていました」
「そりゃずいぶんと買いかぶられたものだ」
 の台詞が原型(?)ただ、当初よりも隆二の性格が丸くなっているので、当初のニュアンスでは使えなくてちょっと残念。
 銃とナイフをつきつけての掛け合いは、漫画に出来たらいいのになー。

・第六幕 居座り続ける居候猫・
 第二稿では「最後まで猫の面倒を見るということ」という章タイトルでした。
 「一緒に学んでやってもいい」がこの章の中核。というか、あるいみこの話の中心。

・第零幕 猫を飼うと決めた理由・
 過去も現在も絡んでくるので、間幕劇でもなく、零、です。
 前述の通り、当初は指きりげんまんはしませんでした。
 指きりげんまんってすっごく倖せだと思うのです。


 そんな感じです。
 とりあえず、章タイトルを「猫」絡みにすることができたのはよかったです。しかし、この猫縛りがいつまで続くのか……(結構今後つらい気が。
 ひとでなしは、一応全5部作です。
 今後、過去編、京介編、G016編、父の気がかり編、と続くので、今後ともお付き合いお願いいたします。
    10:45 | Top

Cherry blossoms say"Hello" あとがき

 と、いうわけで調律師「Cherry blossoms say"Hello"」をお読みいただきありがとうございました

 この話は私が中3のときからあたためていた(と聞こえはいいけど、ようは煮詰まって放置していた)ものです。ひとでなしなんかよりも付き合いはずっとずっと長くて、そういう意味ではとっても思い入れが深いものです。……まぁ、初期設定とはだいぶ別物ですが(遠い目)
 軽く各章ごとにあとがきなんぞを……。
 
 ・第一章「ボーイ・ミーツ・ウーマン」・
 一番最初の沙耶のモノローグからすべては出来上がりました。今回のテーマはタイトルどおり「櫻」です、っていうのもここからです
 最初の設定と大きく違うのは、やたらと賢治がでてくることです。本当は短編だけのキャラにするつもりなのに、気づいたら話の真ん中にいました。不思議
 もっとも書きたかったのが、龍一の最後のシーンだったりします。
 章タイトルは言わずとしれた映画から。

 ・第二章「ありがとうございました、と依頼人は言った」・
 最初のシーンは昔かいた小噺からの流用(?)です。
 調律師の説明の回です。書いていて非常につまらなかったです(笑)これでうまく伝わっているといいんですが。
 章タイトルはディックです。ちょっと深い意味もあるのですが、それは秘密で。

 ・第三章「夢魔は悪夢をみるか?」・
 やっぱりまだ、多少はキャラ説明の回です。正直、清澄はここでしか活躍してないかも……。でもまだ全部はしゃべりません
 数学のスーサンは多少内輪ネタが入っています。なんとなく同じ学校だったんだよ~ってことをあらわしたかったのですが、意外とこれがふくらんできてしまったのです(次章で)
 章タイトルはやっぱりディックです(好きだなぁ)夢魔は清澄の妹ちゃんのことや沙耶が見た夢(ってこの章では見てないのですが)やらなにやらがまざってます

 ・第四章「オドラデクの猫」・
 あとにもさきにも、ちゃんとお仕事するのこの回ぐらいなんじゃ……。直純がここまでいい性格になるとは自分でも思ってみませんでした。
 章タイトルは、カフカです。これは本文中にもあるし説明いらないかと。最初はただオドラデクにしようかと思ったのですが、語感的にシュレディンガーの猫と似てていいかなぁと思ってこれで。ふたを開けてみなければわからない。隠れテーマは高村光太郎でした。
 ちなみに、オドラデクと加島の話も書きました。サイト内のどこかにあるので探してみてください(長編最後まで読めば、結構わかりやすいはず)

・第五章「櫻の樹の下には」・
 本当に当初の予定とはことなって活躍?する賢治です。まさかこんなことになるとは……
 アクションとか苦手なので、もっとも苦労したところです。男前な円に助けてもらった感が(かっこいいおねーさんは好きですか?←隠れテーマ)
 章タイトルは、まんま梶井基次郎です。このネタはすでに巫女姫様編で一回使ってるのですがそれはそれ、これはこれです(まて)

 ・第六章「本当の空」・
 円による種明かし(?)です。円と直純の語り合いが書きたくて、書けたときは本当にうれしかったです。正直、直純は龍一の邪魔ばかりして感じ悪かったと思うのですが、ここで多少は好感度あがればいいと思ってます
 星を見に行くのは初期設定から生き残った数少ない設定です。そして、電車描写だけがやけに細かいのはそこだけちゃんと取材したからです(笑)
 章タイトルは、4章からの引継ぎで高村光太郎です。

 ・第七章「ウーマン・ミーツ・ボーイ」・
 1章と対で、終章です。
 そして、沙耶が今まで閉ざしていた扉を開ける話、です。

 書き足りないかな、と思うところもありますが、全体的には今の私にしてはかけてるよなと思ってます。中3のときに書き上げなくて(書き上げられなくて?)よかった。こういうとき文章も縁だよなぁと思います。
 いろんなところで言ってますが、調律師は全4部構成です。あと3つ話が続くわけです。次で、巽のおぼっちゃまや暴走爆裂桃色片思いガール杏子がでてくるので、せめてそこまでは書きたいです。うそです。最後まで書きます。まだ賢治の話とか全部種明かししてないことばかりなので
 時間はかかってしまうかもしれませんが、次の話ができたときにまたお付き合いいただけると幸いです
 本編を読んでいただけただけでもうれしいのに、こんなあとがき?にまで目を通してくださって本当にありがとうございました。

2007.01.28 小高まあな
(当時のを多少加筆修正しました)
    10:36 | Top

薔薇(小噺的断片)

 つくづく親子だなぁ、と思う。
 可愛い薔薇のアップリケをつけたスカートで上総ちゃんはぱたぱた走り回っている。シャドーとファントムと追いかけっこのようだ。
 僕に気づくとこちらに走ってきた。
「おはようございます!」
「おはよう、それどうしたの?」
 スカートのアップリケを指す。
「んっとね、このあいだ、おのぼりしてたらひっかけちゃったの。あなあいて、せんせーがつけてくれたの」
「幼稚園の? 可愛いね」
「ありがとー」
 上総ちゃんは嬉しそうに笑う。目と口がかかれてデフォルメされたその薔薇は、裾の方で踊っている。
「好きなの、薔薇?」
「ばら?」
「そう、このお花」
「うん!」
 大きく頷く。
「そっか」
 僕は笑うと彼女の頭を撫でた。
「上総ちゃんのお母さんの使い魔の名前」
「つかいま?しゃどーとふぁんとむ?」
「そう。お母さんはシャドーと同じ猫だったんだけどね、その名前がロザリーっていうんだ」
「ろざりー?」
「薔薇っていう意味。お母さんも好きだったんだよ、薔薇が」
「わー、じゃぁ同じだね!」
「ああ」
 僕は微笑んだ。
 まったく、こちらが困るぐらいよく似てる。

「……相模様」
 恐る恐るといった体で声をかけてくるのは
「あ、おばさま」
 武蔵の側の老いた魔女。今は上総ちゃんの世話係。
「子どもを公園で一人にしておくとは感心しないな」
「あ、はい、すみません」
「気をつけないと、武蔵はこの子を溺愛してるよ。知ってると思うけど」
「はい、それはもう……」
 世話係があまりにも素直に肯定するから、あいつはきっと僕の予想よりも甘やかしているのだろう。まったく、あいつは……
「このことは武蔵に黙っておこう。僕がここに来た話もしないように」
「はい……」
 僕は上総ちゃんに向き直ると笑顔を作った。
「じゃぁね、上総ちゃん」
「はい!」
「僕と会ったことは武蔵には」
「ひみつでしょ。ないしょ」
 上総ちゃんは人差し指を口に当てて笑った。
「そう、いい子だね」
 もう一度頭を撫でると彼女はまた笑った。


 あのときの話を、今の上総ちゃんが覚えているのか、僕は知らない。
 彼女はどんどん、母親に似ていく。
 相変わらず、彼女も薔薇が好きである。
    10:28 | Top

一問一答設定集:エルネスト

名前は?
「エルネスト・バークレー」

誕生日は?
「6月6日。あんまりいい誕生日じゃないな」

家族構成は?
「7年前に勘当されてる。今はノエルがいてくれるから」

職業は?
「翻訳の仕事をしている。元IPA」

周りからはなんと呼ばれていますか?
「エルネスト、もしくは、エル。ソルだけは未だに昔の役職で呼ぶけどな。なんであんなに嫌われてるかな」

趣味、特技は?
「射撃はそこそこ。まぁ仕事でもあるし外国語は得意だよ」

長所は?
「頭の回転が速いところ。策謀係、かな」

短所は?
「策に溺れがちなところ。頭でっかちなわけだ、ようは」

得意料理は?
「サーモンのパスタ」

好きな食べ物は?
「アップルパイ」

嫌いな食べ物は?
「辛いもの……」

お酒は強いですか?
「そこそこ」

煙草は?
「好きじゃない」

好きなことは?
「珈琲タイム。今の仕事」

嫌いなことは?
「融通のきかないこと。自分も含めて」

苦手なことは?
「ソル。どうにも……、なんで嫌われてるのかな?」

好みのタイプは?
「おしとやかな女性。今言うと笑えるよな」

恋人はいますか?どんな人ですか?
「婚約者が。ノエル・バライト。もともとIPAでの私の部下で。非常に有能で頼りになるんだが、いささか先走りすぎる傾向が……。初対面でいきなり銃突きつけられたし」

後悔していることはありますか?
「7年前のこと。自分の失脚はともかく、リリスちゃんを巻き込んでしまったことが……」

倖せを感じるときは?
「ノエルが休暇をとって帰ってきてくれた日」

夢は?
「ゆっくりのんびりすごすこと」

もしも一つ願いが叶うなら?
「ノエルにIPAを辞めて欲しい。やめてもいい、といえるようになりたい」

これだけは許せないことは?
「貴族のお偉いさん」

守りたいものは?
「今の生活」

この世で一番大切なものは?
「ノエル」
    00:20 | Top

一問一答設定集:ノエル

名前(由来も)は?
「ノエル・バライト。12月24日生まれだから、"ノエル”って短絡的よね」

家族構成は?
「婚約者は家族に入る? 入るなら、あたしの家族はエルネスト」

職業は?
「IPA、国際警察軍」

周りからはなんと呼ばれていますか?
「ノエル、かな」

趣味、特技は?
「射撃。警察学校の卒業試験は満点だったわよ。ちなみに主席!」

座右の銘は?
「才色兼備」

長所は?
「射撃の腕前。行動力」

短所は?
「感情論に走って短絡的なところ」

得意料理は?
「アップルパイ。料理出来なさそうに見えるらしいんだけど、結構得意よ?」

好きな食べ物は?
「エルが作るサーモンのパスタ」

嫌いな食べ物は?
「においがきついもの」

お酒は強いですか?
「そりゃぁもう!」

煙草は?
「昔は吸ってたけど、今はやめてる」

好きなことは?
「お洒落すること。ソルとかゼフィとかからかうこと」

嫌いなことは?
「朝礼。軍服。あれは本当、大嫌い」

苦手なことは?
「エラとブランセットは苦手……」

好みのタイプは?
「知的で優しい大人の男性」

恋人はいますか?どんな人ですか?
「エルネスト。一応、婚約者。小さな村で翻訳業をやっている、頭の回転が速くて、とても優しくて、優しすぎてどうしようもない人」

悩みは?
「リリスちゃんのこと。ソルって本当肝心なところ抜けてるし、あいつに任せておくのは心配」

後悔していることはありますか?
「7年前のこと。リリスちゃんのことも傷つけないで、エルがIPAを辞めさせられることもなくて、もっとみんなが倖せになれる方法があったはず」

倖せを感じるときは?
「休暇でエルのいる家に帰るとき。リリスちゃんに会うとき」

夢は?

「IPAをやめて、普通の家庭生活っていうものを送ること。勿論、エルと一緒にね」

もしも一つ願いが叶うなら?
「IPAの上層部をぶっつぶす。もっとも、自分でかなえるけどね」

これだけは許せないことは?
「IPAの上層部。他人に罪を擦り付けてのうのうとしてるなんて、くずだわ」

守りたいものは?
「エル、リリスちゃん。ソル……は、まぁほっといても自分でどうにかするでしょう」

この世で一番大切なものは?
「エルネスト」
    00:19 | Top

一問一答設定集:ソル

お名前は?
「ソル・フェリア」

家族構成は?
「家族……。親とか覚えてないんだよなぁ。しいて言えば、相棒のリリス」

職業は?
「相棒に言わせると、ただのしがない旅ガラス、だそうだ。7年前までIPAをやっていた」

周りからはなんと呼ばれていますか?
「ソル」

趣味、特技は?
「剣術」

長所は?
「剣の腕前がいいこと。わりとお人よしなところ」

短所は?
「愛想がないこと。がんばってるんだが、どうにも……。ノエルには女々しいとか言われる」

得意料理は?
「大体なんでも作れるけどな。リリスが料理できないから。あ、じゃがいもとベーコンのスープはリリスのお気に入りだな」

好きな食べ物は?
「食べ物ならなんでも」

嫌いな食べ物は?
「ない」

お酒は強いですか?
「……正直、あんまり。周りには酔ってないようにみえるらしいんだが、記憶がないことがおおい」

煙草は?
「嫌い。煙くないか、あれ」

好きなことは?
「のんびりすること」

嫌いなことは?
「厄介ごとに巻き込まれること。何故か多い……」

苦手なことは?
「細かい作業」

好みのタイプは?
「気の強い女」

恋人はいますか?どんな人ですか?
「……今は、いない」

悩みは?
「ゼフィランサスをどうしたらいいのか……。頼むからリリスに余計なことをしないで欲しい」

後悔していることはありますか?
「7年前のこと」

倖せを感じるときは?
「無事に一日を終えて、新しい一日が始まるとき」

もしも一つ願いが叶うなら?
「7年前のやり直し」

これだけは許せないことは?
「頭の悪いトップ」

守りたいものは?
「リリス。レーラとの約束だし」

尊敬している人物は?
「……エルネスト・バークレイ。絶対に言わないけど」

  **
 
 本人は知らない名前の由来は、太陽神から。あと、孤独(solitude)の意もあり。
 この名前の由来、昔はすっごい大きい意味を持ってたんだけど、もう使わないかもしれないなぁ、このネタ(キャラ変わっちゃったし)
    00:18 | Top

一問一答設定集:リリス

名前(由来も)、年齢をどうぞ。
「リリス・エリュファ・トレール・ローロ・カピリュ・ゼルファ。名前の由来は、素直な女の子になって欲しいからだって、ママが言ってた。もうすぐ16です」

家族構成は?
「パパとママとお姉ちゃんが居ました。みんな死んじゃったけど……。お姉ちゃんとはパパが違います。
今は旅の相方ソルが家族かな? あと、IPAの人たち」

職業は?
「ただのしがない旅ガラスよ。ソルと適当にお仕事して路銀稼ぎつつ、うろうろ厄介ごとに首つっこんだりとかしてます」

周りからはなんと呼ばれていますか?
「ソルとゼフィはリリス。あとの人、ノエルさんとかIPAの人はリリスちゃん、かな?」

趣味、特技は?
「特技……、実家が道場だったから体術は得意。ママが道場の娘で、パパが道場破りとかいう変な縁であったんだけど、二人が得意とするものが違ったから、私が得意なのはいろんなのが組み合わさったものなの」

座右の銘は?
「明日は明日の風が吹く」

長所は?
「前向きなところ。ソルには危機感がない、とか言われるけど」

短所は?
「前向きの反動で、一回落ち込むとなかなか立ち直れないところ」

得意料理は?
「……あんまり得意じゃない」

好きな食べ物は?
「大体出されたものは食べる。でも、胃が小さいのかなんなのか……。あんまり食べません」

嫌いな食べ物は?
「辛いもの」

お酒は強いですか?
「飲んだことない。ソルが、子どもなんだから、って言って飲ませてくれない」
(注:異世界ファンタジーにつき、この世界では未成年者の飲酒・喫煙は禁止されていません、一応)

煙草は?
「嫌い。煙いよね、あれ。酒場とか超いきたくない」

好きなことは?
「旅」

嫌いなことは?
「怖いこと」

苦手なことは?
「ことっていうか……、人だけど。ゼフィランサス。嫌いじゃないんだけど、どうあしらったらいいのか……」

好みのタイプは?
「パパみたいな人」

恋人はいますか?どんな人ですか?
「いません。偶に勘違いされてすっごく不愉快だから言っておくけど、ソルは恋人じゃないよ」

悩みは?
「ゼフィをどうやったらうまくあしらえるか。嫌いじゃないんだけど……」

後悔していることはありますか?
「7年前のこと。村が内乱でなくなったことも、そのあとIPAでおきたごたごたも。まだ子どもだったころのことだけど、もっと何かできたんじゃないかって思ってる」

倖せを感じるときは?
「美味しいものを食べているとき、人から感謝されたとき、寝ているとき」

夢は?
「結婚して、子どもを産んで、昔村があったところで道場を開くこと」

もしも一つ願いが叶うなら?
「7年前のやり直し」

これだけは許せないことは?
「自分勝手な領主」

守りたいものは?
「私の好きな人、みんな。みんなが笑って暮らせるように、私がどうにかしたい」

この世で一番大切なものは?
「……一番? 相方」
    00:17 | Top

一問一答設定集「渋谷慎吾」

名前、年齢をどうぞ。
「渋谷慎吾(しぶやしんご)、29歳」

誕生日は?
「5月31日」

職業は?
「渋谷探偵事務所、所長だ! まぁ、おれしかいないけど?」

周りからはなんと呼ばれていますか?
「渋谷とか慎吾とか。茗ちゃんはシンって呼ぶかな」

座右の銘は?
「勝てば官軍。いい響きだなー」

長所は?
「大体全て?」

短所は?
「かっこつけたがりなとこ」

得意料理は?
「なんでもいけるよ。俺、超うまい」

好きな食べ物は?
「女の子の手料理ならば、なんでも」

嫌いな食べ物は?
「辛すぎるものとかはちょっと……」

お酒は強いですか?
「大好き♥」

煙草は?
「茗ちゃんはとめるけど、こればっかりはねー」

好きなことは?
「さて、皆さん。とかいう瞬間?」

嫌いなことは?
「面倒なこと」

苦手なことは?
「姉一家。つーか、嫌い」

愛読書、ってありますか?
「ミステリはなんでも。特にアルセーヌ・ルパンがすきだな。特に赤い絹のスカーフ。ええっと、L'Écharpe de soie rougeだっけ?」

好みのタイプは?
「女の子はみんな可愛いよね。でも茗ちゃん」

恋人はいますか?どんな人ですか?
「華奢で可愛い弁護士さん。でも、多分俺よりも強い」

悩みは?
「過去の人間関係の清算。……あ、女関係も含めて」

後悔していることはありますか?
「人生後悔だらけ。でも、今からどうにかしていくからいいんだ」

倖せを感じるときは?
「デート?」

夢は?
「アルセーヌ・ルパンになること! 真面目に」

これだけは許せないことは?
「反省しない人間」

守りたいものは?
「カノジョ」

この世で一番大切なものは?
「ん、これって上の質問と一緒じゃね?」

尊敬している人物は?
「モーリス・ルブラン。日本人なら乱歩だな」
    00:15 | Top

私は忘れないで(小噺)

 勿忘草色をした、新しい和服。
 彼はそれを見て笑った。
「ああ、綺麗な色だね。その色、好きだな」
「ありがとう」
 端的に答えたあたしに、彼はまた笑った。
「青い……、これって何色?」
「勿忘草色って言われたけど」
「へぇー。ええっと、あれだろ? 私を」
「……“私を忘れないで”?」
 その言葉を自分が口にすることに抵抗を覚えながらもそういうと、彼はああ、それと手を叩いた。
「あの男間抜けだよなぁ、花束つくりに行って川に落ちてやんの」
 彼はその言葉を深読みはしなかったらしい。自分で言っておきながら、そのことに一抹の不安を抱えていたあたしは何事もなかったかのように微笑んだ。
「それで溺れておきながら、忘れるななんてむしが良すぎるよな」
 違ったらしい。
 あたしは立ち止まった。彼は2,3歩離れたところに立ち止まった。振り向きはしない。
「恋人、縛り付けて何が楽しいんだろうな」
「……さぁね」
 彼は振り返って笑った。
「その色は好きだよ。でも、勿忘草は好きではない。
行こう」
 そういって彼が右手を差し出すのを、あたしはただ黙ってみていた。
 あたしはきっと、いつか彼のことも忘れてしまう。龍に記憶を喰われて、でも。
「縛り付けるとか、つけないとかは別にして」
「ん?」
「恋人に自分を忘れないで欲しいって願うの、そんなにむしがいい話じゃないかも、ね」
 彼はあたしをみつめて、差し出した右手はそのまま、一歩近づいた。
「違うね」
「何が?」
「ずっとそばに居れば、忘れられることもない」
 彼はにやっと笑うと、あたしの手を掴んで歩き出した。
「……強引」
「おかげさまで」
 あたしは呆れて笑いながらも、彼の背中を見ながら歩いた。
 頼りになるんだかならないんだかわからない、あたしの恋人はもう違う話を始めていた。そのことに感謝をしながら、あたしはいつものように相槌を打ち始めた。
    22:17 | Top

夢幻―∞

 私は認めたくなかった。
 そんなこと認めたくなかった。

 そんなとき、彼は現れた。



 女性は肩まである髪をかき上げ、面倒くさそうにため息をついた。
「めんどくさ~」
 呟いた彼女を隣にいた男性がつっつき、たしなめる。
「仕事」
「わかってるけど」
 女性は頷き、部屋の中を眺める。男性もそれにならう。
「夢魔」
「ナイトメア」
 二人同時に呟いた。そして、女性が再び呟いた。
「めんどくさ~」



「どうして、ここに?」
 わたしは彼に尋ねた。彼はいつもと同じ少し哀しそうな笑みを浮かべた。
「だって、あなたは」
「会いに来た」
 彼は簡潔にそれだけを言う。
「わたしに?」
 小首を傾げて尋ねる。
「ああ」
 彼は頷く。わたしは戸惑い、彼をみつめる。
 それから、彼にだけ向ける笑みを浮かべ、言った。
「ありがとう」



「いるんでしょ?」
 女性は部屋の空間へ呼びかける。
 くすくすと、嗤い声が響く。そして、声は言う。
「僕を祓いに来た、祓い屋かな。君たちは」
 男性が小さく頷く。女性が言った。
「めんどうなんでちゃっちゃと片づけたいと思うの。というわけで、その娘から離れてくれると嬉しいんだけど」
 嗤い声の主はいう。男とも女とも老人とも子どもともとれる不思議な声で。
「そんなこと、聞くと思ってるの?」
 女性は天井を仰いだ。
「言ってみたかっただけだってば」



「ずっと、ここにいてくれるの?」
 わたしが尋ねると彼は微笑む。
「置いていけるわけがないだろう、君を」
 何て言えばいいのかわからなかった。何を言うべきなのかわからなかった。わたしはただ嬉しくて、彼に抱きついた。
「ありがとう」
 何度も何度もそういうと、彼はわたしの頭を撫でた。



 声は言う。
「何が夢で何が現実か、狭間などどこにある? これが全て夢でないと、どうして言い切れる?」
 女性は真顔で言う。
「難しいことは難しいから難しいし難しいので考えないことにしているの」
 その自信満々な言葉に、隣の男性が呆れたような顔をした。
 女性は不敵に笑って、付け加える。
「いずれにしても、わたしがここにいる事実は変わらないでしょ? それ以外に何がある?」



 夢を見ているみたいだった。だから、わたしは彼にそういった。彼は首を横に振った。
「そんなことないよ」
「わかってる。でも、幸せすぎて不安になるわ」
 いつもと同じようにソファーに二人で腰掛ける。彼が入れたとびっきりのコーヒーとわたしが焼いたクッキー。
 それを食べながらテレビで映画をみる。それが、いつものわたし達。ソファーに上に膝を抱えて座る。
「寂しかった」
 わたしは言った。
「何が?」
 彼が尋ねる。
「あなたが……」
 わたしは言いかけて小首を傾げる。
「なんだったかしら?」
 眉根を寄せる。結局、思い出せなくて首を振る。
「いいわ、なんでも。今とても幸せなんだから」
 わたしがいうと、彼は微笑んだ。



 声は言う。
「血塗られて残酷な現実よりも、甘い夢に抱かれていたとは思わないのかい?」
「思うわよ」
 女性は即答した。そして、続ける。
「けれども、甘すぎるお菓子はいずれ食べ飽きてしまうのよ」



 たくさん、たくさん、話をして。もう話すことが思い浮かばなくて、わたしは彼の目を覗き込む。そのわずかに灰色がかった彼の目は、いつもと同じように優しかった。
「また、この目にあえてよかった」
 彼の前髪をかきあげ、額をくっつけ、呟く。呟いてから、自分の言葉の意味がわからなくなる。
「どういうことかしら?」
 彼は何も言わなかった。わたしは、まぁいいわ。とだけいう。彼は微笑んでいた。

 彼はずっと微笑んでいた。

 何かが違う気がした。



「いつまでも夢に甘えてるんじゃないわよ」
 女性は、寝台の上に横たわっている少女に言う。それから、寝台の端に腰掛ける。
「それじゃぁ」
 女性は男性の名を呼び、続ける。
「あとは任せた」
 ズボンのポケットから煙草を取り出し、火をつける。その一連の動作を見て、男性は困ったようにため息をついた。
「いっつもそれだ」
 それだけいうと、天井の辺りを睨みつけた。



「ねぇ、何かもっと話して?」
 わたしは額を離し、彼に言う。彼は眉をひそめる。
「話をして」
「何を……?」
「なんでもいいわ。なんでもいいから、わたしが安心する話をして。これが夢じゃないと信じさせて」
 彼は口を開き、数回動かした。けれども、何も言わなかった。



 男性が早口で何かを唱える。部屋の中を二つの色の光が飛び交う。ぶつかり合う。そして新たな光を生む。
 女性はそれを眺めながら、煙草を吸っている。

 ただ、寝台の少女だけが変わらず眠っていた。



 わたしは涙をこらえて、彼に問いかける。
「ねぇ、あなたは何もかも知っているのでしょ? 騙すなら最後まで欺き通して。お願い」
 彼はわたしから顔を背けた。打ちのめされた気がした。
 わたしは彼の肩から手を離した。
「やっぱりそうなの?」
 ソファーの背に寄りかかる。
「やっぱり夢なの? これは夢なの? 嘘なの? 偽物なの?」
 気づかない振りをしていたのに。



「そろそろ終わりね」
 女性は煙草を持っていた灰皿に押しつけると、立ち上がった。

 丁度そのとき、紫色の方の光がはじけてとんだ。



「あなたは、……もういないのにね」
 わたしは呟く。彼は何も言わない。
「一年前のあの時から、あなたはいなくなったのに。わたし、まだ信じられないよ」
 彼は一年前に、いなくなってしまったのに。私の前から消えてしまったのに。彼は手を伸ばし、わたしの頭を撫でた。
「ごめん」
 わたしは、彼を見上げる。それから、思わず苦笑する。
「あなたは、いつでもそうやって優しいのね? わたしの夢の中でも」
 彼はわずかに笑う。
「君はもう、行かなくてはならない」
 わたしは頷く。それから立ち上がり、唇をあげてみせる。彼との別れは哀しくないと、わたしと彼に言い聞かせた。
「待ってて。いつかあなたの元に逝くから」
 わたしがそういうと、彼は軽く肩をすくめる。
「もっと後でいいよ。君の人生を楽しんでからで」
 それから左手で虚空を指す。
「ほら、君を待っている人がいる。まず、そこに帰らなくっちゃ」
 何故か、何故かその彼の台詞だけは、わたしが作ったまやかしではなく、本物の彼自身が言っているような気がした。わたしは頷き、歩き出した。

 振り返らなかった。涙をこらえるのに必死だった。



「お目覚めかしら? お嬢さん」
 女性は寝台の上で目をあけた少女に尋ねた。
「あなたは?」
 少女は女性と男性を交互にみて、尋ねる。男性が言う。
「君がナイトメア……、まぁいい夢を見せて人の魂を奪うあやかし、といったところかな? 日本語で言うならば、夢魔なんだけれども。ともかく、君がその夢魔に憑かれていると聞いて、祓いに来た祓い屋さ」
 女性が続ける。
「信じる信じないは貴女の勝手だけれども」
 それから、部屋のドアをあける。
「けれども、忘れちゃいけないわよ」
 体を半分ドアの外に出し、女性は言う。
「これが現実だと言うことを」
 女性はそのまま去っていく。男性がその後ろ姿を見て苦笑し、それから少女に一礼する。
「お大事に」
 それから女性の後を追っていった。



 何が起きたのかわからなかった。
 祓い屋と名乗った二人組と入れ違いに、お母さんが入ってきた。わたしを見ると駆け寄ってきた。心配した、とだけお母さんは繰り返した。
 女性の言葉を思い出す。
『これが現実だと言うことを』
 それから、彼の言葉も。
『君を待っている人がいる』
 わたしはお母さんの目を覗き込み、言った。
「心配かけて、ごめんなさい」
 お母さんはわたしの髪を撫で、言った。
「おかえりなさい」
「ただいま」

 心の中で彼に呼びかける。
 ねぇ、わたしがそちらに逝く前に、あなたに逢えないかしら? そう、例えば……、
 例えば、寝ているときに見るほんの一時の夢の中で。

 **

キリリクだったもの。
一番最初の、中学ときにできた初期設定の調律師の番外編的存在。円と直純(この二人は別に従姉弟とかそういう設定じゃなかった、当時
    22:16 | Top

病院(小噺)

 ベッドの横に置いたいすに、前後ろ逆さまに座りぼけっと外を見ていた少年は、毛布の固まりから聞こえてきたうめき声に視線をそちらに移した。
 毛布の固まりからひょこっと顔をのぞかせた少女は、寝起き特有のどこをみているのかわからない視線で天井あたりを見つめる。
「おそよう」
 少年言葉に視線を移し、
「あ~、おそよう」
 同じように返事を返した。
「どうよ?」
 少女の前髪をかきあげ、額に手を置く。
「さがったみたいだな」
 わずかに安堵の含んだ声でそういい、しかし次の瞬間には意地悪く笑っていた。
「夏風邪は馬鹿がひく」
「馬鹿言うな」
 夏風邪をひいて熱をだしていた少女はむぅっとふくれた。
「もうちょっと、寝れ」
「……そういわれてもねぇ」
 時計を見る。今の時刻は四時だから、かれこれ五時間近く眠っていたことになる。寝れない。
「何かお話して?」
「ガキか、おまえは」
 上目遣いでいった少女の言葉を、少年は鼻で笑った。
「ひどっ!彼女に対してその仕打ちはどうなのよっ!」
 少年は軽くため息をつき、
「まぁ、暇だからな」
 話し始めた。

 *

 恋人が病気で入院した少年がいたんだ。ちょうど、俺らと同じくらい。少年は、毎日毎日病室に通っていた。
 ある日、少年が病院に行くと見たことのない女の子がいたんだ。壁に背を預けて、ぼぉっと天井を見てな。
 少年は迷子かと思って、少女に声をかけた。
 少女は驚いたように少年を見て、それから嗤ったんだ。「あなた、あたしが見えるのね」ってな。
 少年は何を当たり前のことを言うんだ? と問いかけた。少女は答えなかった。
 代わりに少女が問いかけたんだ。
「あなたはどうしてここに?」
「恋人の見舞いに」
「そう、あなたの恋人は入院しているのね」
 それから少女は、恋人の部屋番号と名前を言った。
 少年はわずかに驚き、知っているのか? と聞いたんだ。
 少女は淡々と言ったよ。
「知っているわ。あたし、ここにずっといるから」
 それから、少年の前に立って歩き始めた。少年は黙ってついていき、ついた場所は恋人の病室だった。
 病室にはいると、恋人は二人の姿を見て微笑んだ。
「あら、二人一緒だったのね」
「知り合いなのか?」
「ええ」
 恋人は頷き、少し微笑んだんだ。
「でもよかったわ」
 そういって少女の髪に手を伸ばし、まるで子猫にするみたいに撫でた。少女は特にそれをいやがらずに、むしろ甘えているようだった。
「だれも、彼女のことを知らないんですもの。私の幻覚かとおもったわ」
 少年はそのとき、さらりと怖いことを言う、と思ったんだ。
 何せ、恋人は病気の治療のために強い薬を使っていたし、自由を愛する人だったから無機質な真っ白い壁だけを見つめる日々に耐えられるとは少年にも思えなかったんだ。
 少年は、自分には見えるから安心するようにいって、続けて
「きっとみんな、おまえを楽しませようと思っているんだよ」
 そうやってフォローした。
 けれども恋人は少し頬をふくらませた。少年はそこで、恋人が少しやせたことに気づいた。
「だけど、彼女がそれじゃぁかわいそうだわ」
 少女は首を横に振り、言った。
「いいえ、構わないわ。いつものことですもの」
 二人とも、その言葉の意味はわからなかったんだ。

 それからしばらく、少年が見舞いに行くと少女も一緒にいるという日々が続いた。
 その間にも恋人はどんどん弱っていった。
 そして、

 そして、桜が散る日に死んでしまったんだ。

 少年は嘆き悲しんだよ。
 恋人の形見を抱きしめて、ずっと部屋に閉じこもるんだ。
 そして、ついには、いるはずのない人と、つまり誰もいない空間へと話しかけるようになったんだ。
 そこまできて、これはまずいと思ったんだろうね。少年の両親は少年をカウンセラーの元に連れて行った。
 そこでも少年は要領を得ないことばかり言って、カウンセラーを困らせた。
 そしてある日、手に負えないと思ったのか精神科の病院に入院させられた。奇しくもそこは、恋人が入院していた病院だったんだよ。
 もっとも、病棟自体は違っていて同じ敷地にあるというだけなんだけどな。
 それでも少年は、空中へと話し続けていた。

 少女は、……例の少女な?
 少女は少年の元に訪れた。
 少年は少女へ言ったんだ。
「あいつの元へ逝かなくちゃ」
 少女は答えた。
「どうして?」
「あいつは、一人に耐えられるような人間じゃない。だから……」
「それはあなたのエゴよ。耐えられないのはあなたの方じゃない?」
「それでも」
 少女は嗤ったんだ。そして、言った。
「そう、なら、止めないわ」

 そして少年は、その日の夕方……、病院の屋上から飛び降りた。
 余談だが、病院側は責任を問われたりと色々大変だったらしい。

 少女は、かつて少年だったものの頭の辺りに立って、謡うように言ったんだ。今まで無口だったのが信じられないくらい、饒舌にな。
「あたしね、あなたと同じ人間ではないのよ。そうね、陳腐な言い方だけれども“死神”というやつ? あたしの姿が見えるのは、もうすぐ死にそうな人だけなのよ。わかる? つまりあなたがあたしに話しかけた時点で、あたしはあなたが死ぬってわかってたの。あなたの恋人もね、あたしの姿が見えたから。かわいそうに」
 かけらもかわいそうとは思っていなさそうな口調で言ったよ。
「そうそう、それからね。あなたは死んで彼女と同じところに逝くっていってたけど、無理よ。この死神の仕事はね、あなたたちのいう“地獄”なのよ。わかる? 昔から言うでしょ、大罪を犯した人間や自殺した人間は地獄に堕ちるって。ね? あなたもあたしたちの仲間入りよ。あなたは彼女の元へ逝くことは出来ず、ただ延々と繰り返される地獄の儀式を繰り返すの。ご愁傷様」
 そこまでいって、少女は眉をひそめた。
「何? あたしがどうしてこれをやっているかって?」
 それはまるで、見えない何かと、さしあたって言うならば少年と会話しているようだったよ。
「自殺じゃないわよ。あなたみたいな小さな人間と一緒にしないで。あたしはね、元々心の臓を患っていてね、入院してのたのよ。あたしは、結構早い段階に自分が死ぬということを知っていたわ。だけれども、あたしだけが死ぬなんて悔しいじゃない? だから、あたしは他の入院患者を殺したの」
 悪びれもせず、少女は続けていた。
「点滴を入れ替えたり、生命維持装置のコードを抜いたり。そうやって次々とね。中にはそう簡単に死なない人もいたけれども。……もっとも、そんなに殺す前にあたしも死んじゃったんだけれども。そして、今に至るというわけ。わかる?」
 少女の耳にいくつかの人の足音が聞こえてきた。
 それは医者と看護婦……今では看護士だったか? 彼らは少女に目もくれず、素通りしていった。一人の看護士は少女の中を通り抜けていったよ。
 少女はそんな彼らと、少年だったものに冷たい視線を一度送った。
 そのままどこかに歩き出して、途中で足をとめて少年だったものに言ったんだ。
「ねぇ、考えたことはないかしら? 日常的に事故や事件は起きて、一日に多くの人が死ぬけれども、それは全て仕組まれたことだと。例えば、地球上に人が増えすぎたと思った神様が、間引きをしていると、思ったことはないかしら?」
 そして、今度こそどこかに向かって歩き出し、その途中で消えたんだよ。

 *

「……それ、病気の彼女に聞かせるにはどうよ?」
 聞き終わって一番、少女は言った。
「そう?」
「……ねぇ、作り話、よね?」
 少女は怖いのか毛布に顔半分を隠して聞いた。
 少年はいすの背に頬杖をつき、窓の外を見るようにして言った。
「さぁ?」
「……さぁって……」

 こんこん、

 ドアをノックする音がして少女の母親が入ってきた。
「ごめんね、病気なのに一人にして。……一人で大丈夫だった?」
 少女の母親は少年に目もくれず入ってきて、あろうことに少年が座っているはずのいすに何のためらいもなく座った。
 少年は頬杖をついたままだった。
 少女は凍り付いたように二人を見比べた。

 少年は、うっすらと嗤った。

 **

死神の話。まとめたいけど方向性がまとまらないのだった。
    22:13 | Top

花の名前(断片ネタ)

「桜、薔薇、その辺よね、花のイメージって」
「そんなことないよ」
「じゃぁ、ほかに言える?」
「ええっと、ベラドンナ、ジキタリス、ハシリドコロ、ドグゼリ、トリカブト、オキナグサ、スズラン。あと……」
「……ねぇ、なんで毒草ばっかりなの?」

 **

使いどころが見つからないまま数年が経過
    22:08 | Top

女は化粧で化けるのよ(小噺的断片)

「……」
「……ねぇ、じっと見てないでくれる?」
「いや、女って化粧で化けるよなぁと思って」
「悪かったわね、化けて」
「いや、茗ちゃんは何にもしなくても綺麗だよ?」
「……ありがとう」
「でもさぁ、スッピンになると酷い顔になるやつもいるよな。凄い可愛い子だったのに、ちょっと失望なんてこともあったし」
「……参考までにお聞きするわ。
一番最初に失望したのはいつ?」
「……中3?」
「ませがき」
「ソレは、俺が?それとも中3なのに化粧してた相手が?」
「両方。この女たらし、変態」
「酷っ」
「事実でしょ?やだ、マスカラなくなりそう」
「参考までに、茗ちゃんが一番最初に化粧したのはいつ?」
「大学に入ってから。寮だったから規則が厳しくて」
「あ、そっか」
「よし、出来た」
「あれ、口紅は?」
「今はいいの。それじゃぁ、行ってきます」
「ああ、そういうこと。行ってらっしゃい」

「……女って怖いよなぁ」
    22:02 | Top

木蓮(小噺的断片)

『木蓮って怖いよね!』
「木蓮?」
 肩で言われたマオの言葉に、今しがた通り過ぎた家の庭を見る。立派な木蓮が咲いている。
『だって、怖いじゃない! あの毒々しい赤紫色! 絶対下に死体が埋まってるのよ!!』
「埋まってるのは桜だろ」
『木蓮にも! だって、気持ち悪いもん! 怖いもん! 木蓮のあの色!!』
「幽霊がたかが花ごときを怖がるなよ……」
 呆れて笑う。
『だぁぁって、怖いもん!』
「白い木蓮もあるんだぞ」
 いいながら、木蓮の花を見る。
 まぁ、確かに毒々しいと言うか、けばいというか、あまりいい色ではないかもしれない。
 耳元でまだ、『怖い怖い』いっているマオに呆れながら、再び歩き出した。
    21:56 | Top

万華鏡(小噺的断片)

『ねぇ、これ何?』
 マオが指さしたそれを、俺は立ち止まってみる。
「ああ、万華鏡だ」
 俺は小さな声で言う。
『万華鏡?』
 マオはそれを眺めながら、どんなのなの? と尋ねる。辺りの人を確認してから、マオを手招きし耳元に口を近づけて説明する。
「覗くと中の景色? が変わるんだ。赤とか緑の色がくるくると変わってな。そうだな、俺らしからぬ言葉だが、幻想的なもんだぞ?」
 俺は言ってから後悔した。マオの目がきらきら輝いていたから。
『見たいっ!』
「……どうやってみるつもりだよ、おまえ」
 マオは偉そうに腰に手をあてると言った。
『それを考えるのが隆二の役目でしょ!』
 おまえは俺をなんだと思っている?
 俺は万華鏡を手にしばらく考えたが、手招きしてマオを俺の前に立たせた。
「いいか? ちゃんと見ろよ」
 俺が見ているように見えるような位置に立ち、マオに見えるようにそれをくるくる回す。

 万華鏡なんて久しく触っていないな。
 そう思いながら、くるくると。

 マオが満足したらしいのを見届けると、万華鏡を置き、歩き出す。
『隆二、隆二っ! すっごく綺麗だったよ!!!』
「ああそうかい、それはよかったな」
 俺は投げやりにいったが、マオは気にしなかったようだ。
『うんっ!』
 と大きく頷くと、嬉しそうに俺の前をふわふわと飛んでいく。

 それをみながらふと思った。
 マオと万華鏡は似ているのではないかと。
 くるくると変わっていく。
 考えてから苦笑した。
 それは万華鏡に対して失礼というモノだろう。

 あほらしい。
    21:55 | Top

物語(小噺的断片)

『ねぇ、シンデレラってどんな話?』
「継母にこき使われていた不幸な娘が棚ぼたラッキーで玉の輿にのる話だ」

『ねぇ、白雪姫ってどんな話?』
「嫉妬にかられた魔女が毒林檎なんて作り継子に食べさせ、それが裏目にでて継子は王子に見初められて玉の輿にのる話だ」

『ねぇ、人魚姫ってどんな話?』
「我儘な人魚の末っ子姫が、身分不相応にも人間の王子に片思いし、周囲を散々巻き込んだ挙げ句泡になり消える話だ」

『ねぇ、カルメンってどんな話?』
「魔女といわれる女を愛した男が、結局は嫉妬にくるって女を殺す話だ」

『ねぇ、雪女ってどんな話?』
「自分が殺した男の息子に取り入り、誘導尋問で自分のことを話させ、話すなといったじゃないと一人で怒った挙げ句、でも愛しているから構わないわなどとわけのわからないことをいって去っていく物の怪の女の話だ」

『ねぇ、眠れる森の美女ってどんな話?』
「100年の眠りについた王女が、不可解なことに100年後現れた一人の皇子の口づけて目が覚め、起きた後は何事もなく動き回れたという話だ」

『ねぇ、幸福の王子ってどんな話?』
「自分の自己満足のために燕をこきつかい、最後には燕を死なせた銅像の話だ」

『ねぇ、ロミオとジュリエットってどんな話?』
「両親が仲違いしているからと結ばれないと嘆く二人の若者が、結局自ら死を選ぶ話だ」

『ねぇ、ハムレットってどんな話?』
「自分の父親の亡霊にそそのかされて、人を殺し自らも死んだ王子の話だ」

俺は、本から顔をあげ、マオに尋ねた。
「なぁ、一体何が聞きたいんだ?」
『ちょっと気になっただけよ』
マオはそういって笑った。
『それにしても、やっぱり隆二は人でなしな説明しかしてくれないのね』
    21:54 | Top

桜~後日談(小噺)

『わぁ!』
 この間の桜が見えてくると、マオが嬉しそうに桜の方に飛んでいった。こういうとき、幽霊というのはとても便利だと思う。
 マオにせかされて家からここまで小走りで来た俺は、ぼんやりとそんなことを思った。

 桜の開花宣言が出て、数日が経った。
 満開の日に来ようかと思ったのだが、マオは散りぎわがいいと言い張った。
 別に、満開だろうと散りぎわだろうと俺としてはどうでもよかったので、今夜、夜桜を見に来た。

 暗い中で桜の花びらがひらひらと舞う。
 夜だと、桜のピンクが良く映える。

 上を見上げると、この間と同じように、月が枝にひっかかっていた。

『綺麗ね』
 マオは目を細め、笑った。
「そうだな」
 俺は頷き、この間と同じように木の根元に座る。そして、やっぱり買ってきたビールの缶を開ける。
 マオもふよふよと、この間と同じように裏にまわる。
『まるで、桜のカーテンみたいね』
 その言葉に、顔を上げる。
 確かに、木の根元に座り前を見ると、枝がカーテンのようになっている。
「枝垂れ桜だからな」
『枝垂れ桜って、他の桜よりも咲くのが微妙に遅かったよね』
「言われてみればそうかもな」
『なんだか、一人でかわいそう』
 ため息を一つつく。
 どうやら、うちの居候猫は桜の下に来るとセンチメンタルになるらしい。
「目立てていいじゃないか」
 精一杯軽口をたたき、しめっぽくなるのを回避する。
『そういうもの?』
「ものは考えようだ」
 マオは呆れたようなため息をついた。
 これ自体はいつものことなので気にしない。
 むしろ、しめっぽくならずに済んだと安心する。

『隆二は、時々冷たい』

 済んだと思った。
 予想外の台詞に、ビールを吹き出しそうになるのを慌ててこらえる。
『隆二は優しいのか冷たいのかわからない』
「何を言ってるんだ。俺はほら、ジェントルマンだろ?」
 馬鹿みたいに両手を広げて笑う。
『そういうところ。そういうところが優しいのか冷たいのかわからない』
 俺はしめっぽくなる覚悟をして、空を仰ぐ。
『いつもは冷たく突き放すくせに、いざとなったら必死で慰めようとしてくれる。自分が道化師になろうとも』
 放っておけ。心の中で毒づく。確かにさっきのはばかっぽいと自分でも思った。
『でも、やっぱり隆二は冷たい』
「だんだん言ってることがわけわかんなくなってるぞ」
『わかってるわよ』
 横からちゃちゃをいれると、マオは憮然として言った。
『でも、そういうとき思い知らされるんだ。隆二とあたしが存在してきた時間の差を』
「奇遇だな」
 俺は再びビールに口をつける。
「俺もこの間同じ事を思った」
『え、いつ?』
「この間、ここに来たとき。おまえ、桜が脈打っているみたいだって言っただろ。俺は、そんなこと思ったこともなかった。桜が咲くのなんて、当たり前だと思っていたからそんなこと思ったことなかった。きっと、これから先もそんなこと思わないだろうな」
 それが少し残念だと思うのは、やっぱりこの居候猫のせいだろう。
『……あたしも、いつかそうなるのかな。桜が咲くのなんて当たり前になって、人の精気を喰べて生きることも当たり前になって。永遠があるって、そういうことなのかな?』
「知るか」
 ビールを全て飲みきると、続ける。
「だけど、おまえなら平気だと思うぞ」
 マオは答えない。
「根拠はないけどな。おまえなら、毎年桜が咲くと見に行きたいと俺をせかすと思うぞ」
 俺のようにはならないと思う。
 心の中で続ける。
 そうならないで欲しいと、願っている自分に気づき、苦笑する。
『……やっぱり、隆二は優しいのか冷たいのかわからないわ』
 マオが呟いた。
 聞かなかったふりをする。

「桜……、綺麗だな」
 上を見あげ、呟く。
『……そうね』
 マオは答え、続けた。
『月も綺麗』
「そうだな」
 俺は相づちをうつ。

「……なぁ」
『何?』
「来年も来ような」
 マオから返事はない。
「マオ?」
『……本当、隆二は優しいのか冷たいのかわからないわ』
 今度のそれは、呆れたように紡がれた言葉だった。
「俺はほら、ジェントルマンだから」
 俺もそれに答え、馬鹿みたいに手を広げ笑う。
『そうね、ジェントルマンだわ』
 マオが俺の正面にふわふわと回り込み、小憎らしい笑みを浮かべていった。

『人でなしのね』
    21:48 | Top

桜(小噺)

『桜が見たい』
 マオが突然言いだした言葉に、俺は眉をひそめる。
「桜?」
『桜』
 ため息混じりに笑うと、近くにあった新聞を引き寄せめくる。
『ちょっと、隆二聞いてるの?』
「聞いてるよ」
 返事だけはするが、それではお気に召さなかったらしい。
『りゅうじぃ~~』
 いつものように背中に抱きついていくる。流石に長いこといっしょにいるので、今さら驚いたりしないが。
「はいはい」
 俺は苦笑して、新聞を適当に放り投げる。
「で、桜がどうしたって?」
『桜が見たいの』
「桜ねぇ」
 俺は笑い、カレンダーを指す。
「まだ3月の上旬で桜なんて咲いてないと思うが」
『満開になったら混んじゃうじゃない』
 俺は頷きかけ、慌ててつっこんだ。しまった、妙に納得してしまうところだった。
「咲いてないのに見たってしょうがないじゃないか」
『でも、混んだら行くの嫌でしょ、隆二?』
「そりゃぁ、まぁ」
 人混みでマオが話しかけてきても相手してやれないし、そもそも、男一人がお花見っていうのもなぁ。
『だから、今行こう?』
「咲いてない花、見てどうすんだよ」
『桜は満開よりも、八分咲きや散りぎわが美しいっていうけど、咲く直前も綺麗なのよ』
 マオは俺の正面に回り込み、笑う。
『桜の木が、全体で綺麗な花を咲かせようとするの。生きてるんだって感じじゃない?』
 俺はまじまじとマオの顔を眺め、呟いた。
「おまえさ」
『うん?』
「桜見たことあるのか?」
『……ないけど』
 俺はわざとらしくため息をつく。
「また何かの受け売りか」
『うるさいわね! しょうがないじゃない!』
「いや、いいんだが。この後、時間ならたっぷりあるし、桜なんていやってほど見られるだろうしな」
 俺は立ち上がり、タンスを開ける。
「前から思ってたんだが、おまえってどこからそういう知識手に入れてくるわけ?」
『……本屋で立ち読みとか』
「人が見てるのを横から見る……ってことか?」
『うん』
 ごくろうなことで。
 声にはださなかったが、表情にでていたらしい。マオが怒ったように言う。
『だって、隆二に買ってって頼んでも嫌っていうじゃない』
「金がもったいない」
『もったいないって、家賃と光熱費だけじゃない! 食費かからないくせに!』
「世の中何があるかわからないんだぞ」
 タンスから出した上着を羽織り、ポケットに財布が入ってることを確認する。まだぶーぶー言っているマオに声をかける。
「さて、行くか」
『どこに?』
「桜を見に、だよ。おまえが行きたいって行ったんだろうが」
 ぱぁぁぁっとマオの顔が明るくなる。わかりやすい。
『行くの、行くの? 本当に? 今から?』
「いやならやめるぞ」
『行く行く行きます!!』
 嬉しそうに背中に抱きついてくる。
『ねぇ、どこ? どこに行くの?』
「さぁな。どこがいいか……」
 いいながら俺は必死で頭の中から桜が咲いている場所を思い出す。
「近場で行くなら近所の公園とか」
『え~、どうせなら桜の名所がいい』
「怒るぞ」
 なんで咲いてない花のために、わざわざ桜の名所――京都とかなんだろうか?――に行かなくちゃならないんだ。
『でもどうせなら綺麗なところがいいな』
「綺麗な所ねぇ」
 靴を履きながら、記憶を探る。
「綺麗なしだれ桜があるところが隣駅にあるんだが……」
『いくいく! どこにでも!!』
 そりゃおまえは歩かないからいいよな。時計を見てため息をつく。もう終電も行ってしまった後だろう。
 俺は再びため息をつき、外に出た。

 人が誰も通らない。
 大きな通りから一本中に入ってしまえば、こんなもんだろう。
 夜も眠らない街なんて、大嘘だろうなと俺は思う。
 それともそんなに、夜が怖いのか?
 今では吸血鬼など信じている人は少ないだろう、だけれども思う。
 心のどこかで信じていて、怖がっているのだろう。
 だから、あえて闇を葬る。
 けれども、光が大きいところほど闇も大きくなると。
 もっとも、俺にそんなことは関係ないが。
 例え闇を嫌おうと、光で満たそうと、俺には関係ない。

 黙々と歩いていく。
 静かなことに文句を言ってくるかと思ったが、意外にもマオは静かに俺の後をついてくる。
 逆に薄気味が悪いが、とりあえず黙っておく。

「ほれ、着いた」
 散々歩いて着いた場所は、隣駅から徒歩10分――と地図には書いてある――の場所にある小さな公園。
 その公園の芝生の真ん中にその桜はあった。
『……これが、桜?』
「やっぱり咲いてないな」
 俺はそう言うと木の根元に座り、途中のコンビニで買ってきたビールを取り出す。
「だが、少し早い花見にはいいだろうな。人もいないし」
 仮にいたとしても、俺が宙に向かって話しかけていることを気にとめるような人じゃないだろう。
『……。』
 マオが桜の木に近づくのを横目で見ながら、缶ビールを口に流し込む。さっきマオが言った通り、食べる必要性はないんだが…、たまにはいいだろう。
『……大きいのね』
「木だからな」
 マオは恐る恐るといった感じで、手を伸ばす。
 幹に触れそうなところで、手を引っ込める。
 野良猫に触る時みたいだと、ぼんやりと思う。
 そして、意を決したのか、片手を幹につける。けれども、その手はわずかに幹の中にのめり込んでいる。
 霊体である以上、しょうがないことなのだが。
「……“力”を貸すか?」
 俺の“力”を使えば、霊体に触ることができる。逆に霊体は俺に触ることが出来る。マオが木に触りたいならば、その“力”を貸すのもいいかと思った。
 普段そんなこと思わないのに、と苦笑する。早くも酔いがまわってきたか?
『いい。大丈夫』
 マオは首を振ると、もう片方の手も幹につける。そして、額を押しつけ、目を閉じる。
 マオが何をしたくて何を考えているのかはわからなかったが、話しかけるべきではないと思い、視線を逸らす。
 ちびちびとビールを飲んでいると、
『ねぇ』
 マオが突然話しかけてきた。
『ねぇ、桜の木の下には何が埋まっていると思う?』
 そのらしくない、妙に落ち着いた声に驚く。
「そうだな」
 俺は缶から口を離し、空を仰ぐ。それから視線をマオに移す。
「定番のところで行くと、死体……か?」
『……本当、定番ね』
 今度の口調は、いつもと同じような少し皮肉気味だったので、何故か安心した。
『……あたしね、時々思うの』
 俺は再び缶ビールを口に近づける。
 マオに背を向ける形で幹に背を預け、空を見上げる。しめっぽくなる気がした。
『人を喰らってまで存在することに何の意味があるのかって』
 初めて聞いた。
 一番最初に出逢ったときでさえ、悪びれせずに『人の精気を喰べて生きている』といったのに。
『隆二は、そう思ったことない?』
「思ったことがあるかもしれない。けれど、きっと……ずっと昔の話だ」
 きっと、まだ吸血鬼として存在しはじめたばかりのころ。
『そう。……もっともっとたてば、あたしもこんなこと考えなくなるのかしら?』
 俺はコメントを控えた。
『今日はね、答えを探しに来たかったの。桜が、精一杯生きているというのを知って、あたしが存在していてもいいかってことを、知りたかったの』
 俺はコメントを控えた。
『結局、わからなかったけど』
 マオが泣いているような気がして、いたたまれなくなって俺は立ち上がった。
『隆二?』
 そのままマオの背後に回り込み、頭を撫でる。
『……隆二』
「居候猫が、いなくなるのはつまらないな」
 俺はそれだけ言う。
『……ばか』
 何故馬鹿呼ばわりされなくてはいけないのか、とんとわからなかたが言われるままにしておく。
『ばか、ばか、ばか』
「ばかだよ、どうせ」
 投げやりに呟く。
『……隆二、あのね、“力”を貸してくれる?』
 俺は思わず目を見開く。
『……ダメ?』
「いや」
 俺は首を振ると、慇懃に一礼した。
「喜んで。お嬢様」

 彼女の肩に手を置いて、そこに“力”を込める。
 マオはこちらを一回振り返ると、らしくない曖昧な笑みを浮かべ、先ほどと同じように恐る恐る手を伸ばしていく。

 触れた。

 その手は幹にめり込まない。
 後ろにいてもマオの顔が華やいだのがわかった。

『……あったかい。幹の下で、桜が脈打っているみたい』
 そんなこと、俺は感じたことがなかったが何も言わなかった。こういうとき、思い知らされる。マオと俺が生きた年月の差を。幹のでこぼこした感触を楽しむかのように、片手を動かす。
『初めてだ』
 嬉しそうに笑い、額を幹に押しつける。
『初めて、触れた』
 それからしばらく、マオはそのままの動かなかった。
 俺も黙って空を見上げる。
 丁度、桜の枝に月がひっかかったような状態だった。
『……ありがとう』
 マオがそう言い、桜から離れる。
「いいのか?」
『うん。ありがとう』
 そうやって笑った姿はいつもと同じで、心の中でだけ安堵のため息をつくと、ビールの空き缶を拾う。
「帰るぞ」
『うん』
 素直にマオは頷く。

 俺は歩き出す前に、桜の枝をに触れる。
「なぁ」
『何?』
 肩越しに俺の手元を覗き込みながら、マオが首を傾げる。
「咲いたらまた見に来るか。夜桜はきっと綺麗だぞ」
 指先で桜のつぼみをそっと撫でる。
 もう少しで咲くんだろうなと、ぼんやりと考える。
 マオは驚いたように俺の横顔を眺め、にっこりと笑った。
 滅多に見られないその笑みに、俺は思わず目を細めて見入ってしまう。
『そうね。真夜中に来ましょう。今日みたいな』
 それからあいつは空を仰ぎ、月を指して笑う。
『花見と月見がいっしょに出来るなんて、最高ね』
「そうだな」
 俺は頷き、
「帰るぞ」
 そういって今度は歩き出す。
 マオがひらひらと後に付いてくる。

 そろそろ始発は動いているだろうか?
 それとも、この余韻を楽しんで歩いて帰るべきだろうか?
 そんなことを思いながら。

 **

キリリクだったもの。ちょっと設定に今後矛盾が出そう……。隆二がまだ吸血鬼設定。
    21:45 | Top

幸福論

「ヒトはいつ過ちを犯したのか?」

 なんて偉そうに言うテレビをみて、俺は軽くため息をつく。
『どうしたの?』
 横にいたマオが声をかけてくる。
「ヒトはいつ過ちを犯したのか? そんなもの、発生した時点で過ちだったんだよ、どうせ。最初から最後まで過ちで通していくに決まっているんだ。自分達の過ちで勝手に滅びればいい」
『……やけに、苛立っているのね』
 マオが眉をひそめながらいう。
「いつもこんなもんだろうが」
 適当に言葉を返すと
『そうかしら?』
「そうだよ。人が大量に死んだところで俺には関係ないし、別に今は守りたい“人”なんていないし」
 少し頬を膨らませて口を開きかけようとするマオに先回りして
「おまえは幽霊」
 そう言うと、でかかった言葉の行き場を失ったように口をもごもごと動かして、それでも少しだけ嬉しそうに
『そうね』
 とだけ言った。
「大体、いつ過ちを犯したのかなんて知ったところで変化は無い。過去をとやかく言っている暇があるならば先に目を向ければいい」
 一度腹ただしいことがあると、それはとどまることを知らない。
「過ちを犯したのが例え、今であろうと、三年前であろうと、存在し始めたそのときであろうと、それは問題ではない。問題は、なぜその過ちを放置しておくかであり、同時に、何故過ちを犯すことになったかであり、……違うな。これからどうしたらその過ちを払拭することが出来るのか、だ。大体、俺は……」

『もう、見たくない』

 マオがいった言葉にはじかれたように顔をあげる。
 マオはテレビの画面を見たまま、ゆっくりと続ける。

『見たくない。隆二は優しいから、なんだかんだいって見たくない。人がただ死んでいくのを見たくない。もう、見たくない』
 そこでゆっくりとこちらに顔を向けた。
 驚くほどの無表情だった。
『違う?』
「……そのとおりだ」
 知っている。
 あの時俺はもう、死なない体になっていたけれど、だから、あの大戦を知っている。
「……だけど、先の大戦で学んだことを生かせないなら、その程度なんだろうな」
 再びあの争いに巻き込まれても、俺はきっと存在しつづける。

『置いていかれることは悲しい?』
「置いて?」
 ゆっくりとマオが、一つ一つ呟く。
『もし、この世界に人が居なくなったとき、それでも死ねないことは置いていかれること、それは、悲しい?』
「……どうだろうな。ただ、確かに置いていかれることは悲しいな」
 世界に誰も居なくなることは想像できないけれども、置いていかれることは良くわかっている。

『ねぇ、隆二』
 これがいいたかったのだろう。
 マオは、こちらを見据えてゆっくりと言った。
『もし、この世界から人がいなくなったら、あたしはもう存在していられない』
 言われて気づく。人の精気を糧としているのだ、確かにマオは存在できない。
『きっと、そうなっても、京介さん達もいるでしょうね。それでも、その上で聞いていい?

 もし、あたしが隆二を置いていくことになったら、どうする?』


 決して置いていったり置いていかれたりしないことを前提の関係だった。
 だから、そんなこと考えたことも無かった。
 だけど、
「……。そうだな、もし、マオもいなくなるなら、もう、ここに存在している必要性もないな」
 マオは少し困ったように微笑んだ。
「……はずれか?」
『こんなものに当りも外れも無いでしょう。そうね、でも、少し嬉しい』
 それから俺の頬に手を伸ばしてきた。払いのけずにだまって受け入れる。

『ねぇ、でもね、多分、人間ってしぶといわ。だから、平気。間違っても、間違っただけしぶといわ。何かの犠牲の上にたっているから、人間はしぶといわ。だから、大丈夫』

 人の頬を包むようにしたまま、なんの根拠も無い自信を平気で述べていく。

「そうか……」

 何の根拠もないであろうにすぐに受け入れる自分が変だという自覚はある。
 でも、そう言っていた。

「確かにしぶといな。あのときも、ゆっくりとだけど確実に復興して来たわけだし」
『ええ。それにね、もしまた隆二が見たくないものを見そうになったら……』
 そういってマオは両手を動かし、俺の目をふさぐ。
『こうやっていれば、ね、見えない。今度はあたしが見ているから、隆二は目を閉じていればいい』
「……それは、ずるくないか」
『いいえ、ちっとも。それに……』
 言いかけてマオは止まる。
「? マオ?」
 その手をどかして、視界を復帰させると、困ったような顔をしたマオがいた。
「……どうした?」
『その……いいや、いいの、なんでもない』
「……なんでもないようには見えないんだが」
『……だって、変なこと言っちゃうから、いい』
 そういってむすっと少し膨れてそっぽを向く。
 どんなことを言うつもりだったのか気になるし、それで「ならいいや」と言うほど人でなしでは俺はない。ここで「ならいいや」とか言うようなやつは俺よりもよっぽど人でなしだ。
「いいから、なんだよ。言わないと怒るぞ」
『もう声が怒ってるぅ』
 そんな泣きそうにならなくても。
『その、笑わない?』
「ああ」
『うそだぁ、隆二の即答なんて信じられないぃぃ』
 じゃぁ、どうしろと言うのだ。
 あきれ果てていい加減本気で怒るか無視してやろうかと考え始めたころ
『あのね……』
 ゆっくりと言葉を紡ぎだす。
『隆二が前に見たものを、あたしはみてないから、だから……、隆二の、考えていることとかわからないし、その……今度のそれをあたしがみて、隆二がそれを見なかったら、その……やっと、対等になれるのかなぁ……とか、その……』

 ……ああ、そうか。


 軽く目を閉じて、微笑む。
『ああっ、笑わないって約束したのにぃぃ』
 マオが泣きそうな声で訴えてくる。
「笑うの意味が違うだろうが」
 そういって、でも今度は少し声をだして笑いながら、軽く頭を叩く。
『うー、だって……やっぱり言わなければよかった……なんか恥ずかしい』
 うーうー唸りながらクッションに顔を埋める(埋める?)マオ。
 なんだか面白くて、うりゃとそんなマオの髪を撫でてぐちゃぐちゃにしてやると、腕の下でふにゃっと変な抗議の声があがった。
「……ありがとう」
 手を止めてそう言う。
 マオがゆっくりと顔をあげて、上目遣いでこちらをみる。
「そうだな、ないにこしたことはないが、そうなったら二人でどこか人の来ない山か何か、高いところから見下ろそうか。そのときは、俺の目をマオはふさいでくれるんだろう?」
 声を出さないで、こくりと頷く。
 もう一度微笑んで、また頭を撫でる。今度は抗議の声はあがらなかった。


「やっぱり、ヒトがいつ過ちを犯したのかなんてどうでもいいことだな」
『?』
「俺は今、過ちを犯したヒトに関わるほど暇じゃないからだ。倖せ過ぎて」
 そういって唇の端だけで笑って見せると、マオもくしゃっと笑った。
『そうね、あたしもだわ』
    21:41 | Top

鏡~後日談(小噺)

『引っ越し~?なんでまた』
 マオが怪訝そうな顔をしていう。
 俺はほほおっと呟き、荷造りして手をとめた。
「誰のせいだと思ってるのかなぁ? マオちゃんは?」
 にっこり微笑んで、マオに近づく。俺の態度に不穏なモノを感じ取ったのか、マオはじりじりと後ずさりする。
『ええっと、隆二が未熟だから?』
「おまえが言うなっ!!」
 俺は怒鳴り、マオの頬をつねる。
「いいか? 確かに俺にも非があった。それは認めよう」
 俺はマオの頬から手を離し、神妙に言う。
「だけどだ、おまえがおいそれと低級霊に憑かれたりするのがいけないんだろうがっ!」
 この間の鏡の一件は、やっぱりそれとなく噂になった。
 俺だとはわからなかったようだが、屋根の上を走る謎の青年だとかなんとかかんとか。ご丁寧に写真までとられて、地元の新聞に載っていた。
 住みにくい世の中になったもんだ、本当。
 バイトも首になったし。

『……ごめんなさい』
 素直に謝られると反応に困る。別に本気で怒っていたわけではないんだし。
「……まぁ、その、いいんだけれども」
 俺は視線を泳がす。本当、俺はここ最近、何をしているんだろうか?
 ため息をついて、荷造りを再開する。
『……どこに、行くの?』
 マオが肩越しに手元を覗き込みながら尋ねてくる。
「さあな、遠く、というのだけは確かなんだが」
 手を止めて、マオを振り返る。
「どこがいい?」
『どこでも』
 マオはいい、笑った。
『隆二が行くところなら、例え地獄の果てでも追いかけていってやるんだから』
「ほぉ、それはある種のプロポーズかな?」
 軽口をたたく。
『なっ!! 何を言っているのよ!!』
 マオは顔を真っ赤にして、反論してくる。
 てっきり軽く受け流すモノだと思っていた俺は、予想外の反応にぽかんとしてしまう。
『そんなんじゃないわよっ! 隆二一人だと心配だからついてってあげるのよ! 勘違いしないでよ!!』
 そのまま、まったくもぉ!! と怒鳴って、隣の部屋へと消えていった。

 俺はマオが消えていった壁を見たまま、しばし硬直してしまった。そしてそのあと、盛大に笑い出す。
『何よっ!!』
 壁の向こうからマオの声が聞こえてきた。
「いいや、なんでも」
 俺も壁へと返す。

 とりあえず、どこに行くにしても退屈せずに住みそうだと思いながら、荷造りを再開する。

『隆二』
 いつの間に戻ってきたのか、マオが後ろにいた。
「なんだ?」
『あの、鏡もちゃんと持っていってね?』
「わかった」
 頷いて、テーブルの上に置きっぱなしにしていた鏡を持ち上げる。しばし悩んでから、それを丁寧に布でくるむ。
 段ボールの中にゆっくりといれ、これでいいか? とマオに尋ねる。
『うん、ありがとう』
 そのままマオは、俺の背中に寄りかかるようにして座った。
『ねぇ、さっきの話の続きだけどね。引っ越すなら、海があるところがいい』
「海?」
『海。広くて大きいんでしょ?』
 まるで桜の時みたいだと思い、笑う。
『それじゃなかったら、どこか静かなところがいい』
「静かなところ?」
『人があまりいないところ。人が多いところだと、あたしの姿って他の人には見えないんだと思い知らされて嫌なの』
 俺は、特に何も言わなかった。
 気にしていないのか、マオは続ける。
『ああ、でも、そうしたら、お腹が空いちゃうかな。……ごめんね、我儘ばっかり言って』
「いや」
 俺は首を横に振り、続ける。
「それぐらいの方がマオらしくていい」
『褒め言葉として受け止めておくわ』
 マオがくすくす笑う。
『ねぇ、聞いてもいい?』
「いやだといっても聞くつもりだろ」
『わかってるじゃない』
 マオが再び笑う。それから、笑いをひっこめて、酷く真面目な声で言った。
『あたし、隆二についていってもいいの? いっつもごたごたばかりに巻き込んでるけど、それでいいの? 隆二は。嫌だったらあたし、ここに残るよ』
 俺は一つため息をつき、荷造りの手を止めて言う。
「人間はつまらないと死んじゃうんじゃなかったか?」
 それだけいうと、荷造りを再開する。
 マオはしばらく黙っていた、ぽつりと言った。
『ありがとう』
 それっきり何も言わずに座っていた。


「さて、どこに行くかね?」
 荷物を車に積み終えると呟く。
『普通、引っ越す前に次に住む場所って決めておくものだと思うんだけれども』
「あいにくと普通じゃないんでね」
 助手席に座り、意味もなくシートベルトまでしているマオに答える。
『まぁ、隆二らしくていいけどね』
「褒め言葉として受け止めておく」
 俺がそういうと、マオが笑った。
「どうにかなるだろうな、きっと」
 そういうと、車を発進させた。

 **

鏡の後日談。マオがなんだかツンデレ(?)
    21:36 | Top

鏡(小噺)

 朝飯のパンを頬張りながら、新聞をめくる。ちなみに、いつものことながら、こうやって朝食を食べる必要性はあまりない。ただの気分の問題。
『へぇ、骨董市だって』
 マオが、肩越しに手元を覗いてきて呟く。みてみると、確かに骨董市にチラシが入っていた。
『ねぇ、骨董市行ってみたい』
「何が哀しゅうて古びたモノをみなくちゃいけないんだ」
 そう返し、コーヒーを飲む。
『そりゃ、隆二は生きた骨董品だからいいだろうけど』
「骨董品って、まだ100年も生きてないぞ」
『その外見で、100いったとかいかないとか言ってる時点で間違ってるって自覚しなさいよ』
 酷い言われようだな。
 口元に苦笑いを浮かべて、そのチラシを手に取る。
「神社でやってるのか」
 空になったカップと皿を流しに持っていく。
『ねぇ、行こうよ~。神社なら近いじゃない~』
「行きたいなら一人でいけばいいだろうが」
『まぁ!! あたしが一人で神社に行っても心配じゃないのね!』
 大げさに嘆いてみせるマオ。
「どう心配しろっていうんだよ」
『そりゃ……。もしかしたら、変な人に誘拐されたりとか』
「安心しろ。おまえを誘拐できる人なんてそうざらにいない」
 マオが背中でむぅっとふくれたのがわかる。
『それじゃぁ、本当に一人で行っちゃうよ? 一人でいって、隆二よりももっといい人見つけてその人のところに行ってもいいんだ?』
「そうそういないと思うぞ」
 俺よりいい男、小さく続ける。
 マオが、あきれた。とだけ呟く。
「まぁ、散歩がてらにな」
 マオの頭をくしゃっと撫でると、嬉しそうに笑った。

 ほら、やっぱりつまらないじゃないか。
 ポケットに手をつっこんで、俺はそんなことを思う。
 周りに並べられたいわゆる骨董品をみても、ちっとも俺は楽しくない。それなのに、前を飛んでいるうちの居候猫は、楽しそうにしているから帰ろうとも言い出せない。
 すると、マオが止まった。
 その隣に俺も止まり、並んでいるモノを見る。
 マオはしゃがみ、ねぇ、と俺を見上げた。
『これ、可愛くない?』
 指さしたのは、細かな装飾のされた鏡。俺はわずかに肩をすくめる。
『欲しい!』
「……なんに使うんだよ、幽霊が」
 マオにだけ聞こえるように呟く。
 映らないだろうが、鏡に。
 マオはむぅっとふくれてこちらを見てくる。
『あたしだって、女の子なんだしっ! いいじゃない、これぐらい!!』
 マオにはとりあえず言わせておいて、俺は店主――店主でいいのか? この場合――に声をかける。
「この鏡、いくらだ?」
 マオが後ろでぱぁぁっと顔を輝かせたのがわかった。
 店主(暫定)は割と若い女で、その人は唇を笑みの形にして尋ねてくる。外見年齢は俺と同じか少し下。
「彼女へのプレゼント?」
「そんな感じで」
 俺は控えめに言葉を返す。
 店主がその値段を言う。
 俺が想像していたよりも高かった。こんな古くさいモノにどうしてそんな高い値段がつくのか、俺は不思議でしょうがない。
「これはね、綺麗に保存してあるからそれなりの値段がつくのよ」
 俺の心の中を読みとったのか、店主は言う。
「へぇ」
 俺は言い、隣に来ていたマオに小声で言う。
「高い、却下」
 マオがふくれた。
『何よそれ、期待もたせてそれは酷いじゃない! 人でなし!!』
 人でなしだよ、どうせ。
『いいもん、そっちがその気ならこっちにも考えがあるもの」
 マオはそういうと、にやっと笑った。
 嫌な予感がした。それはもう、ひしひしと。
『歌ってやるんだから』
 マオが息を吸い込み、
「買います!」
 歌い出すよりも早く、俺は言った。
「あら、ありがとう」
 店主は笑った。
 マオも笑っていた。
 俺は軽くなった財布を嘆いた。

「さっきの脅しは酷いんじゃないか?」
 家に戻り、マオを床に正座――気持ちだけ――させて、俺は言う。
『なんでよ、歌うっていっただけじゃない』
「あんなところでポルターガイスト現象を起こすな、馬鹿!」
 マオが歌うと物が飛び交う。
 言うならば、音痴。それはもう、ものすごく音痴。それが、幽霊であるマオが歌うことで妙な力が加わるのか物が飛び交う結果になる。
 何度酷い目にあったことか。
 マオは俺の説教など聞く耳を持たず、嬉しそうに鏡を眺めていた。
 それをみて、あきらめのため息をつく。
 痛い出費ではあったが、さほど問題ではない。家賃と光熱費さえ払えればそれでいいんだし。まぁ、これでしばらくこの居候猫も大人しくなるだろうし、そう考えればいいだろう。
 俺はマオと鏡を見ながら思う。
「?」
 眉をひそめる。
『隆二? 何?』
 マオが、こちらをみて首を傾げる。
「あ、いや」
 鏡の周りに何か見えた気がしたんだが……。
 どうせ、下級の霊かなんかだろう。古い物にはよくある話。マオも俺も平気だろうから、とりあえず放っておこう。

 それが甘かったと思い知らされるのは、それから一週間後だった。

「マオ、バイトに行くんだがおまえはどうする?」
 働かざる者食うべからずともいうし、家賃と光熱費はとりあえずどうにかしなければならないので、近所のコンビニでバイトをしている。
 コンビニでバイトする不死者というのは、とってもかっこわるいとは思うんだが。ちなみにその前はパン屋で、更にその前は本屋だった。
 あんまり長く続けていると正体がばれる危険性があるので、長くても一年で他の所にうつるようにしている。
『あたし、いい……』
 どうせいつものようについてきて、邪魔をするんだろうと思っていたら、マオはよりにもよってそういった。
「どうかしたか?」
 意外に思ってそういう。マオは何も言わなかった。
 ただ膝に顔を埋めるようにして座っていた。
 気にはなったものの時間もないし、バイト先へと出掛けていくことにした。
「それじゃぁ、すぐに帰ってくるから」
 いつもはそんなことを言ったら、マオは『やめようよ~そんな新婚さんみたいなの~』なんていうに決まっているのに、今日は何も言わなかった。

 レジをうちながら、考えてみる。
 一番最初に考えたのは、変なモノでも喰ったんじゃないか、だった。それは即座に、いや喰えないし、で否定される。
 二番目は、何か企んでるのではないか、だった。っていうか、俺はあいつをなんだと思ってるんだろうか?
 考える。
 どうせ、答えは一つしかないけれども、イマイチ信じられない。
 あのマオが他の霊に取り憑かれるなんていうのは、イマイチ信じられない。
 けれども、考えられる可能性はこれしかない。
 鏡の低級霊。
 マオなら平気だろうと思ったのは、俺の判断ミスだったんだろうか?
 知らず知らずのうちに眉をひそめていたらしい、店長におっかない顔をするなと言われた。愛想笑いを返して、再び考える。
 マオは他の幽霊とは違うから、霊に取り憑かれるというのもわからないこともない。
 しかし、やっぱり信じられない。
 信じる信じないは帰ってから確認することにして、取り憑かれたらどうなるんだろうか?
 わからない。
 突然、不安に襲われる。らしくもない。冷静になって考えたら俺らしくもないと笑ってしまうが、不安になった。

「すみません、早引きさせてください」

 思わず俺はそう口走っていた。
「はぁ?」
 店長が怪訝そうな顔をする。
「急用が出来ました」
 そう告げると、返事も待たずに制服から着替える。
「ちょっと、神山くん」
 持ち物は何もないから、そのまま失礼しますと店を飛び出した。首になろうと構わない。どうせ、ここもやめるつもりだった。

 家に向かって走りながら考える。
 そもそもどこから間違っていたのか?
 どこからマオは憑かれていたのか?
 おそらく、骨董市であれを見たその時から。
 あいつは実体化出来ないことを嘆いていたはずなのに、鏡なんて欲しがった時点で気づくべきだったんだ。
 下級霊と侮るべきじゃなかったんだ。

 信号が赤になり、止まる。
 待つのが面倒だった。

 ぽんっと跳躍し、横断歩道を飛び越す。
 そのまま人混みをさけ、屋根の上を走る。
 噂になるかもしれないが、そしたらまた遠くへ引っ越せばいい。
 そう考えて、苦笑した。
 まったくマオが来てから、俺の人生はかき回されてばっかりだ。
 これでもし、マオが何かを企んでいるだけだったら笑ってしまう。
 俺はなんて馬鹿なんだろう?
 いつからこんなに馬鹿になったんだろう?

 家に着く。

 ドアを開ける。

 部屋の中を見て、ため息をつく。
 それがどういった意味のため息かは、自分自身でわからなかった。
「予感的中」
 軽く肩をすくめ、後ろ手でドアを閉める。

 マオがいた。
 否、マオではない。
「あんた、何者だ」
 上着を脱ぎながら尋ねる。
『私はこの鏡の元々の持ち主よ』
「ほおほお、それで?」
『私は殺された』
「へぇ、それで?」
『この鏡を欲しいと金持ちの娘が言った。権力と金を併せ持っているその娘は、それでもまだ足りないといった』
「はいはい、それで?」
『私は断ったら、殺されて奪われた』
「ふ~ん、それで?」
『私はその娘を呪い殺した。それからこの鏡の持ち主を』
「次々と、ってわけか。ありがちだな」
 俺は鼻で笑って、女の哀しい哀しい復讐劇の感想を述べる。
『ありがちとはなんだっ!!』
「ありがちだろうが。あの骨董市の品物につていた数多の霊達も、どうせ同じようなことをいうだろうよ」
 そういうのを、俺はたくさん見てきた。
「それに、俺が聞きたいのはそういうことじゃない」
 目を細める。
「どうしてマオに憑いた?」
『この者、何者だ?』
「うちの居候猫」
 俺はそう答える。
『ただの霊ではあるまい。強い力を持っている』
 そうだろうか?
 俺はマオの強い力なんて、知らない。
 やっぱり俺は、まだまだ半人前だ。
『私は何かに宿らないと存在していられなかった』
 それを存在というのだろうか? 俺は頭のどこかでそんな疑問を持つ。
『人の形すらとれなかった。そんなときこの者が来た。絶好の機会だと思ってな、呼びかけてみた。見事反応してくれた。本当に憑くことが出来るとは思っていなかったが。モノとは違い、完全に中に入るのに一週間もかかってしまった』
「へぇ。それじゃぁ、次の質問だ」
 睨む。
「“マオ”はどこにいる?」
『ここに』
 女は胸の辺りを指さす。
『まだ、存在してる』
 女は“まだ”を強調して言う。
「それじゃぁ、早急に片をつけないとな」
 俺は軽口を叩くように言う。
 女が笑う。
『出来るか?』
 そういい、“力”の固まりをとばしてくる。
 こちらに、まっすぐに。

 片手で受け止めた。

 女が息をのんだ。

「へぇ、この程度があんたの力は」
 意地悪く、ゆっくりとそれを握りつぶしていく。
「この程度の下級霊のくせに、うちの居候猫に手をだして。それなりの覚悟は出来てるんだろうな?」
 俺は、嗤う。
『貴様……、何者』
「ただの不死者だ」
 俺はそう答える。
 あいにく、自分を明確に説明できる言葉を持っていなかったから。
「ああ、そうそう、これは返しておくよ」
 握りつぶした先ほどの“力”を再び手のひらに浮き上がらせる。
 そのまま、一歩一歩、ゆっくりと近づく。
「お返しは三倍返しってよく言うし、もちろん俺はジェントルマンだから三倍返しにしますよ。マドモアゼル?」
 女が逃げようとするのを、片手を掴んで引きとめる。
 そのまま女の頭に手を置く。
 その感触が、当たり前だがいつもマオの髪を撫でているのと同じで思わず眉をひそめる。
 一瞬気が緩んだその隙に、女は手を払う。
 手を握っていた方の手が、離れてしまう。
 舌打ちし、頭に置いた手に更に“力”を込める。
「俺もまだまだ甘いねぇ」
 自嘲気味に呟くと、女に嗤いかける。
「いい加減、天国なり地獄なり逝ってきな。そんなところがあるのかどうか俺は知らないがな」
 そのまま“力”を解き放った。

 一瞬、光に視力を奪われる。

 マオが倒れかけたのを慌てて支える。
 支えてから、別に支えなくてもケガをするわけじゃないんだったと、思った。
 まったく、らしくもないと髪をかき上げる。
 気持ちだけだが、マオをベッドに寝かし、その隣に今は何にも“ない”鏡を置いた。
 寝顔を眺め、とりあえず何もなさそうなのを確認するとコーヒーを淹れに立ち上がる。
 お湯を沸かしてから、そういえばバイトも首になりそうだったのを思い出した。
 まぁいいか、コーヒー一杯ぐらい。俺は今日、頑張ったんだし。

 コーヒーをすすっていると、マオがおずおずと現れた。
『あの、隆二……』
 俺は何も言わない。
『ごめんなさい。その、迷惑かけて』
「言うべき事はそれか?」
 いっつもそうだ。
「迷惑だとか迷惑じゃないとか、そういうことじゃないって言ってるだろうが。その前に言うことがあるだろう?」
 こいつは時々、人の顔色をうかがう。そんなことをするなといつも言っているのに。
『……ありがとう』
 妙に素直なその姿に、俺は思わず笑ってしまう。
 マオも困ったように笑った。
「まぁ、今回は俺も悪かった。すまない」
 気がつかなかったのは俺のミスだ。
「しかし、霊に憑かれる霊ねぇ」
 コーヒーを飲む。
『何よ』
 マオが言う。
 調子が戻ったみたいだと思い、それに合わせる。
「変だ変だとは思っていたが、やっぱり変なんだなぁ」
 しみじみ呟く俺にマオはべぇっと舌を出した。
『隆二なんて大嫌いっ!』
 ガキか、おまえは。
 マオはそのまま寝室の方へと飛んでいく。
 けれども、途中で振り返って笑うと、言った。

『あのね、その……、鏡、買ってくれてありがとう。嬉しかった。隆二があたしに何かを買ってくれたの、なんだかんだいって初めてだったから』

 不意打ちだった。
 マオはそのまま急いで飛んでいってしまったが、これは本当に不意打ちだった。
 俺は天井をみて、呟いた。
「しかし、自分よりも遙かに年下の霊に不意打ちを喰らう不死者というのもかっこわるくないか?」
 それは勿論、照れ隠しなわけなのだが。

 **

キャラ設定が今と違うのでさげたもの。でも噺自体は結構気に入っている(悪役っぽい隆二とか
    21:32 | Top

マニキュア(小噺)

 うさぎは寂しいと死んでしまうと言う。
 ならば人間は?

『人間はね、寂しくても死なないのよ』
 目の前の女は、細い指をくんでその上に顎を乗せて言った。
『人間は、寂しくても死なないの。つまらないと死んじゃうの』
 どこか遠くを見るようにして呟く。
 このビルの屋上からは夜空がよく見える。
「ほぉ、どうしてそう思う?」
 手すりに寄りかかり俺は尋ねる。
『人間はね、寂しいなんていう高等な感情は持ち合わせいないの。人間のいう寂しいはつまらないってことなのよ』
 俺はコメントを控えた。
 特に気にしていないのか、女は外を見上げたまま続ける。
『誰かがいなくて寂しいとしても、何かよりどころ、すなわち“楽しいこと”があれば平気なのよ。本とか音楽を好むのはそれが原因』
 女の紅い唇が笑みの形に歪む。
「つまらない、ねぇ」
 俺の反応が不満だったのか、女はむぅっとふくれた。
『なによ』
「いや、別に」
 先ほどの色香などどこかへ消えてしまったかのような女の顔に、笑わないように気をつけながらそう答える。
『あ! 今、笑ったでしょう』
 無理だった。
 俺の唇が歪んだのを見つけて、女は頬を引っ張ってきた。
 赤い爪が頬に刺さり、痛い。
「やめろって!」
 それを払いのけ、女をにらむ。
『だって今笑った』
「笑っとらん」
 無理矢理そう言って押し込めると、女は再び空へと視線を移した。
 そして、ぽつりと呟く。

『だから、あたしはあんたがいなくなると死んじゃうのよ?』

 心臓が止まるかと思った。
 無論、不死者の俺に心臓なんてあるわけがないのだが。
「な、なにを言ってるんだ、おまえは」
 動揺を押し込めてそう問う。
『あら、だってあんた以外にあたしが見える人あたしは知らないもの。あんたがいなくなったら、あたしはつまらなくて死んじゃうわ』
 赤い爪が空へとのばされる。
「人じゃないだろうが」
 俺がそう返すと、意外なことに女はそうね、と笑って返した。
『でもね、うさぎも人もそれからあたしも、そんなに変わらないのよ?』
 そして今度は、俺の方を向く。
 そして
『それにあんたがいなくなるとお腹が空いて死んじゃうわ』
 いつもの小憎らしい表情でそういった。
 呆れつつも俺は笑って返す。
「そうですね、お姫様」

 彼女は俺の後ろや横をふらふら飛びながら呟く。
「なぁ、その爪はどうしたんだ?」
『ああ、これ?』
 赤い爪を目の前にかざし、女はこともなげに言う。
『マニキュア』
「マニキュアっておまえなぁ……」
 ため息をつく。
『あら、マニキュアよ?』
 それから俺の前にまわりこみ、爪をみせびらかす。
『いいでしょ~』
「ああ」
 俺は思った通りを口にした。
「似合う」
『あら、ありがとう』
 本当によく似合う。
 その、血の赤が。

 **

初期設定的な感じのもの。そういえば、初期設定ではマオはなんか条件がそろうと月1ぐらいで実体化できたのですよ。
    21:26 | Top

コンビニおにぎり(小噺)

『また、そんなの食べて』
 俺の向かい側はふわふわ浮きながら、女は言った。
『体に悪いよ』
「うるさい」
 俺は二個目のおにぎりにかぶりつきながら答える。
 日差しの暖かさに目を細めて、俺は公園内を見回す。平日の昼間というこの時間には、あまり人がいない。
 意外に暖かかったのでコンビニでおにぎりとお茶を買ったのはいいが、やはりまだ風が冷たい。だから、誰も公園で飯を食おうとしないんだよな。日差しは暖かいんだが。
 そんなことを思っていると、
『ねぇ~つまんない~』
 女が人の周りをくるくる周りながらぼやいてくる。
「知るか、アホ」
 周りに人がいないことを確かめてから小さな声で返事をする。
 それから、おにぎりのゴミを小さくまとめる。
 残った梅と鮭、どちらを食べるか悩み、梅を手に取る。
 びりびりと袋をはがしていく。
『つまらないぃぃ。っていうか、あたしもお腹空いた~』
「飯ぐらいゆっくり喰わせろ」
 俺がそう言うと、女は何故か勝ち誇ったかのように笑った。
『隆二は食べなくても生きていけるじゃない。不死者なんだから』
「いや、たまにこの味が恋しくなるんだ」
 この固い米とかぱりぱりのノリとか。
「っていうか、わかってるじゃないか。それなのに体に悪いは失言だろ?」
 むぅっと女はふくれる。
 おお、ふぐみたいだ。
 三個目のおにぎりを食べ終え、残った鮭のおにぎりをあける。
『何個食べるのよ』
「四個。簡単な数の計算も出来なくなったのか?」
『あたし退屈なの! つまんないの! あたしもおにぎり食べたいのに!!』
「そいつは残念だったな」
 適当に言葉を返す。
『りゅ~じぃぃ』
 背後霊のように背中にひっついてくる。ため息をついて残りのおにぎりをお茶で流しこんだ。
「わかった、行こう」
 ゴミをゴミ箱に捨ててそういうと、あいつは嬉しそうにあとをついてきた。
 それから、恨めしそうに言った。
『あ~あ、あたしもおにぎり食べたかったなぁ』
 俺は苦笑いすると言った。
「そのうち食られるさ」
 言ってから気休めにもならないか、とため息をつく。
 ところが、意外にも
『そうよね~、そのときはあたしにごちそうしなさいよ』
 女は偉そうに言った。

 **

初期のもの。まだマオに名前がなかった模様。このスタンスでやっていてもよかったかなぁ、とも思う。
    21:24 | Top

人でなしの恋(小噺)

 ばしん!!
「人でなし!!」
 実にいい音がした後に、女の高い声が響いた。
「あんたなんか知らない!!」
 女はそういうと、泣きながらばたばたといずこへか走っていく。
 俺はそれを見ながらため息をついた。
 突き刺さる視線と叩かれた頬が痛い。
『人でなしだってよぉ~』
 背後から声がするがあえて無視。
『人でなしだって~。言い得て妙よね~』
 無視して歩いていく。
『ちょっと、聞きなさいよ』
「うわっ!!」
 後ろから抱きつかれてよろける。
 ああ、ただでさえ注目を集めていたというのに再び視線が集まる。
 周りの人に適当に笑いかけて誤魔化し、後ろを振り返る。
 後ろでは女が一人けらけら笑っていた。
 緑色の髪は光を反射してきらきらひかり、おかしそうに歪めてある唇は妙に色っぽい。
 はっきり言おう。
 美女である。
 こんな美女と共に歩き、あまつさえ抱きつかれたというのに、俺には嫉妬という視線は突き刺さらない。
 当然である。
『ねぇ、あたしお腹空いたんだけど』
 そういう女の体は透き通って、地面から浮いている。
 有り大抵に言うと、こいつは人ではない。
 妖精だの幽霊だの呼び方は人それぞれだが、人ならざるモノ。
 俺にしか見えないとはいわないが、見える素質があるもの以外には見えない。声さえ聞こえない。
『ねぇ、聞いてるのぉ~』
 声は出さずに頷くことでその言葉に返す。
『じゃぁさぁ、誰かごちそう頂戴よ~』
 俺はため息をつく。
 それから路地裏に入り、女と顔を向き合わせる位置に立つ。
「おまえなぁ」
 俺は腰に手をあてて大げさにため息をついた。
「誰のせいであの女と別れたと思ってるんだ」
『あんたに魅力がないからぁ~?』
「おまえがポルターガイスト現象をおこしてみたり金縛りをおこしてみたりするからだろ」
『あら、お言葉ですけどね、それが一番大きな理由なわけじゃないでしょ? 女をとっかえひっかえする悪人の貴方の噂があの女の耳に入ったから、でしょ? 本当、怖いわねぇ~』
「誰のためにつきあってたと思ってるんだ」
 再びため息。
『え~? 誰のためなの?』
「怒るぞ」
『冗談だってば』
 女はくすくす笑う。
『あたしのごちそうのためでしょ?』
 そう、こいつは人の精気を喰らう。
 精気を引き出すにはそれなりに油断させなければならない。
 しかもこいつは、『男ってまずくて嫌』などとほざくから、俺は「女をとっかえひっかえする人でなしの男」のレッテルを貼られている。
 それでも引っかかるヤツがいるんだから、世の中不思議だな。
『ねぇ~、あたしお腹空いた~』
 首筋に抱きついてくる女の頭を撫でながらため息をつく。
「はいはい、わかりました。強硬手段に出ますよ」
『やったぁ』
 女は空中を周りながら嬉しそうに笑う。
 それをみて、思わず頬が緩む。ああ、いかんいかん。甘い顔をするとすぐにつけあがるんだ。

 丑三つ時。
『ねぇ~』
「あ?」
 声をかけられて、振り返る。
『人でなしっていうの、あながち外れていないと思わない?』
「ああ」
 生返事を返し、今度は俺が問いかける。
「それより、満足か?」
『うん、ありがとう』
「そうか。じゃぁ戻るか」
『異議なし~』
 そのまま二人、月に向かって歩き出す。
『ねぇ、でも人でなしって言い得て妙よね』
 そんなに俺に気の利いた解答を求めているのか、相変わらず話しかけてくる。
 隣をふよふよと浮いている女に目を移す。
「そうだな」
 それから、目を細めて月を見る。
「人で“ない”からな」
『そうよねぇ~。あたしも人で“なし”、あんたも人で“なし”』
 愉快そうに笑うから、俺もつられて笑う。

 笑い声が月夜に響いた。

 **

これが原点。もはや別人28号(でもこれはこれで好きなので、この空気のお話もいつか書きたい
    21:17 | Top

ここは一つの分岐点、だから俺は忘れない。(小噺)

 卒業式。
 まさか男でぴーぴー泣くやつなんかいないし、そこまで悲しいと思うわけも無いが、まぁ多少は「ああ、お別れだなぁ」なんて思う日。
 多少、校長の長話で白けたとしても、だ。
 そんなことを思いながら、答辞を読む前生徒会長を無視して、視線を斜め右前にずらす。
 やっぱり、二クラスも離れていると見えないなぁ。
 ため息。
 すすり泣きまではじまっている会場の空気に少しばかり息がつまる。
 こういう空気は嫌いではないが、決して好きにはなれない。
 見えないことはわかっていながらも、視線は壇上からずらしたまま。
 まさか、来ているとは思わなかった。
 先ほどの、卒業証書授与のシーンを思い出す。
 名前を呼ばれて、返事をして、起立するだけという単調な動作。
 自分の名前が呼ばれるのを多少なりとも緊張してまっていた。だって、練習しなかったし。説明だけのぶっつけ本番。さすが高校の卒業式!

「大道寺沙耶」

 教師がそう言うのを聞いて、軽く口元を歪ませた。
 ああ、そんな風に名前を呼んだって彼女が、“巫女姫様”が来ているわけでも……

「はい」

 ……来てるんだ。
 聞こえてきた返事に驚いて、視線を声のほうに移す。
 睨みつけるように壇上を見ながら、見慣れた彼女が立っていた。
 体育祭も球技大会も、それこそ修学旅行さえ休んだ彼女が来ている事に、驚いたのは俺だけではないようで、ちらほらと囁きあっている人がいる。
 いや、俺も驚いたから人のことは言えないが……、卒業式ぐらい、いい気持ちで迎えて欲しい。


 式終了後、ボタンをくれと迫ってくる、いつもの三馬鹿トリオを無視しながら教室に戻る。
 ボタンなんてそんな、漫画じゃあるまいし、第一あの馬鹿にあげるようなものはない。
 そこまで考えてから、あることを思いついた。


 担任のありがたいお言葉のホームルーム終了後、鞄はそのままで席を立つ。
 ボタンの無い制服がぴらぴらしてうざったい。
 ボタンは、仲のいい女子が「ボタン集め競争しているの!」という実に女子高生らしい理由でもぎとっていきやがった。
 まぁ、競争に使われるほうがよっぽど気楽でいいが。
「堂本、写真とるってよ。クラスで」
 その言葉に軽く肩をすくめる。
「ちょっと急いでるんだ。俺抜きで頼む」
 そういいながらドアを開けて、廊下の先、二クラス先をみる。
 どうやらまだ終わっていないようでほっとした。
 彼女は、終わったらさっさととっとと帰るに決まっている。
「……。お前、もしかして」
 俺の視線の先がなんであるのか気づいた友人が呟く。
 俺はただ、笑って見せた。
 友人は、ふぅとため息混じりに笑い返してきた。
「まぁ、相手が誰だとしても気持ちはわかるよ。どーんと行って来い。少しぐらいなら、クラスの連中も待ってるだろうしな」
「どうも」
 ありがたい送辞の言葉をうけとって、ふざけた敬礼交じりに答辞の言葉をおくる。


 ざわめいてる廊下で、彼女の教室の扉の前に立つ。
 窓からのぞいた限り、もうすぐ終わりそうで。
 終わった途端に立ち上がった、見慣れた黒髪の彼女はなんだか怒った顔をしてこちらにやってくる。
 少し扉から離れて、
 がらっ
 勢いよくドアが開く。
「……賢」
 沙耶は目を大きく見開いてそう呟いた。
 それをみて、かすかに微笑んだ。
 最後に、会えてよかった。そう思って。
「卒業、おめでとう」
 沙耶は微笑みながらそういう。
「沙耶も」
 本当は、めでたいなんか思っていないだろうにそんなことをいう沙耶が少しおかしかった。
 でも、そういうところが好きなんだ。
「人気者ね」
 沙耶がそういって、俺の学ランを指差す。
 ひらひらと揺れている。
「ん、ああ」
 そんな風に言われたら、口が裂けても「勝負に貢献したんだよ」なんていえない。
「漫画の中だけかと思ったわ。そういうの」
 そういって彼女は肩をすくめる。
 やっぱり、こういう行事ごとって嫌いかなぁ?
 あんまり好いてるとも思えないが。でも時々、俺からしてみればくだらないことに妙にこだわって、そう言うときは本当に「ああ、ただの女の子なんだなぁ」と思うんだけど。
 なんて考える。
 少しだけ沈黙する。
 きっかけが欲しい。
「沙耶、……あのさ」
 沈黙が耐えられなくて、きっかけなんて自分で作るしかないし、ためらいながらも片手をさしだした。
「元気で」
 沙耶は少し驚いた顔をしたがすぐに、笑って
「貴方も」
 手を握り返してきた。

 もう片方の手でも、沙耶の手を包むようにして持つと、少しためらいながらも沙耶の手に握らせた。制服の、第二ボタン。

 首をかしげながら沙耶が、握らされたものをみて、説明を求めるようにこちらをみてきた。
 なんだか、ものすごく緊張する
「それは、沙耶にもっていてもらいたくって。勿論、捨ててくれてもいいんだけど。第二ボタンなんだけどさ」
 早口でまくし立て、我に返る。
「あー、やっぱり俺未練がましいかもっ!」
 恥ずかしさの余り思わず叫ぶ。
 そんな今さら第二ボタンなんて渡したって沙耶が困るだけじゃないかっ。

「ありがとう」

 言われて、沙耶を見る。
 驚いたことに、彼女は微笑んでいた。
 どこか泣きそうな微笑じゃなくて、本当に。

「女子は、何を上げるものなのかしら?」
 ボタンを片手で遊びながらそう言う。
「え、知らない」
「そうね、じゃぁこれでも」
 そういって彼女は制服のスカーフをとると、俺に押し付けるようにして渡してきた。
「え、これ……」
 渡されたものをまじまじと見る。
 理解できない。
「あげる。要らなかったら捨てて頂戴」
 俺が言ったのと同じようなことを彼女は早口に言って。
 ああ、なんだか少し泣きそうだ。
 俺は、やっぱり彼女がまだ好きなのだと思う。
 勿論、俺じゃ彼女を支えきれなかったし、もう元には戻れないんだけど、それでも。

「あたしは」

 未練がましいことを思っていると沙耶が呟いた。
「いつか、……貴方のことも忘れてしまうわ」
「……うん」
 いつか言っていたことを思い出す。
『龍はあたしの記憶を喰らうのよ』
 だとしたら、そういうことなのだろう。
「でもね、本当は」
「……うん」
「忘れたくなんか、ないのよ」
 そういってもう一度微笑む。
 一番最初に見た、あの不意打ちの微笑を。
 そして、彼女は
「それじゃぁ、元気で」
 片手を振って、逃げるようにして立ち去った。

 ただ渡されたスカーフを見る。

 もう少し、大人だったら、もっとちゃんと付き合いつづけていたのかと考えることもある。
 だけど、高校生というときの中で会えたということは、それ自体がきっと凄い偶然で、ここから先、多分、もう二度と会うこと無いだろうし、いつか沙耶は忘れてしまうかもしれないけれども、それでも

「忘れないよ」
 小さく呟いて、教室に戻ろうと歩き出す。

 そして、もし、いつか、また大人になったときに出会うことがあったら、そのときはまたあのころの思い出話をしよう。
 例え、沙耶が忘れていても思い出すまで話してやるんだ。
 そう思って、少し笑う。
 男がぴーぴー泣くわけにはいかないから。


「遅い」
 教室に戻ってみると、クラスの連中がそう言った。写真をとる体制で並んでいた。
「ほら、全員いないと写真取れないじゃないか」
 そう言って、俺を無理矢理列の中にいれる。
 一瞬、俺がもっているスカーフを見て、軽く眉をひそめて、それから、少し微笑んで。
「お疲れ様」
 さっきの友人が肩を叩いてきた。
「ん、ああ、遅れて悪い」
 そういって微笑んでみせる。

 こういうときほんの少しだけ思う。
 沙耶は学校を嫌っていたけれども、でも、沙耶自身が思っていたほど連中は沙耶のことを嫌っていなかったんじゃないかと。
 勿論、それを今更どうこう言ってもしょうがないし、沙耶にはそう思う余裕すらなかったことはわかっている。
 だけど、
「未練たっぷりだなぁ、賢治」
「うるさい」
「巫女姫様が羨ましいわ、堂本君の第二ボタンをもらえるなんて」
「なんでばれたっ!?」
「や、お前見てたらそういうのわかるよ」
「最後のお別れの挨拶なんかしちゃって」
「卒業式までいちゃつくなー」
 そう言ってふざけるこいつらは、やっぱりそんなに巫女姫様を怖がっていたわけじゃないんだとも思う。
 そして、この輪のなかに沙耶がいればいいのに、とも思う。

 だから、
「じゃぁ、とるよー」
 運悪く捕まってしまったほかのクラスの奴がカメラを持ちながら言う。
 皆急に黙って笑顔をつくる。

 だから、この分岐点をすぎて、これから歩む道で、もう少しだけ他人に心をひらいてもいいんじゃないかと思う。

「はい、チーズ」

 例えば、こんな風にシャッターをおすときは笑顔をつくっていたのに、

「うわぁ、目瞑った」
「手が邪魔で私うつってなかった気がするんだけどっ!」

 とり終わった途端、ふざけて話出すようなそういう輪の中に入ってもいいんじゃないかと思う。
 沙耶が馬鹿らしいっていってた、ただ表面を取り繕うだけのことでも、そこから発生する何かがあると今は思うんだ。
 俺じゃ無理だったけど、でもちゃんと沙耶のことを支えてくれる人はいるはずで、勿論、それはすっごい悔しいことなんだけれども。
 だけど、もし、どこかで次に会ったときに、今よりも笑ってくれればそれでいい。
 そう、結局のところ何が言いたいかというと

「君の歩く道の先に、倖せがありますように」

 窓の外を見ながら小さく呟いた。
    15:25 | Top

ここは一つの分岐点、だからここに捨てていく(小噺)

 それは一つの節目だから。

 あたしはそう思って、今、ここに座っている。
 壇上に掲げられた「卒業証書授与式」の文字が、白々しくあたしを威嚇してくる。
 壇上ですすり泣いている、前生徒会長の答辞の言葉は、とても白々しくて嘘っぽくて演技じみていて、あたしは泣けやしない。
 周りのすすり泣きがものすごく耳障り。
 だって、まるで泣くことを強要しているみたいなんだもの。

 くだらない。
 くだらなさすぎる。

 卒業式の一体どこで泣けばいいのかわからない。
 人前で涙を流せるその神経が信じられない。
 お決まりの台詞と、お決まりの展開で、簡単に騙される生徒達は、これが芝居ならばとってもいいお客様。
 きっと、フィナーレにはスタンディングオーベーション。
 拍手喝采、アンコールの声はなりやまない。

 ああ、いいから早く終わらないかしら?

 節目だから。
 最後にきちんと決別しておこうと、卒業式に出ようなんてやっぱり思うんじゃなかった。
 この空気に窒息死しそう。
 早くここから、解放して。
 スカートのすそをぎゅっと握った。


 最後のホームルームで生徒も先生も大泣きで、あまりのくだらなさに眩暈さえする。
 ちらりと視線を移してみれば、あろうことか清澄までちょっと眉をひそめていて、彼のあの顔は悲しいことがあったときの顔だから、彼も多少は卒業式を悲しんでいるということ。
 なんだか、裏切られた気分さえする。
 奪い取るようにして担任から証書と通知表を受け取ると、卒業記念品なんかと一緒に鞄に突っ込んだ。
 どこからでてきたのかクラッカーを鳴らして、勿体無くも500円を一人ずつ集金したプレゼントを担任に渡しているクラス女子。
 そんなもの渡したい人だけでやればいいのに馬鹿らしい。
 あんなにびくびくしながらあたしに「500円払って」って言うぐらいならば、最初からあたしを仲間外れにすればよかったのよ。いつもみたいに。
 最後だけみんなで仲良しこよし?
 ああ、ばっかみたい。

 一度動きだした思考回路は止まらずに、ただただ言葉を吐き出す。

 何故か三本締めで最後のホームルームが終わると、あたしはさっさと教室を飛び出そうとした。
「あ、写真……」
 なんて後ろで誰かが言っていた。
 ああ、そういえば、クラス全員で写真をとるから残ってなんて言っていたっけ?
 誰が残るか、そんなもの。
 最後をとりつくろって、今まで自分達がしてきたことを無かったことにできるとても思っているならば、
何て幼稚で可愛らしいのかしら?


 勢いよくドアをあけて、
 一瞬、
 息が止まった。

「……賢」
 目の前に立っていた元彼は、ちょっと泣きそうな感じで笑った。
 あたしは貴方のそんな顔が嫌いで、そんな顔をさせたくないから、別れたのよ。
 そんな言葉が喉まででかかって、でも言わなかった。
「卒業、おめでとう」
「沙耶も」
 そういって彼はやっと少し、いつもの馬鹿みたいな、それでもあたしの好きな笑顔を浮かべた。
「人気者ね」
 そういってあたしは、彼の学ランを指差す。
 ボタンが一つも無いそれは本来の役目を放棄していた。
「ん、ああ」
「漫画の中だけかと思ったわ。そういうの」
 そういって肩をすくめる。
 いらつくと、あたしは饒舌になる。
 自分でそれがわかっているから、馬鹿なことを、例えば未練がましいことを口走ってしまう前に立ち去りたかった。
 だけど、お別れを言うのは、やっぱり少し辛いのだ。
 ああ、それこそ、未練がましいのに。
「沙耶。……あのさ」
 賢はそういって少しためらってから、片手を差し出した。
「元気で」
 それを少し意外に思いながら、あたしも出来るだけ笑顔をつくって、
「貴方も」
 その手を握り返した。

 違和感。

 握り返したその手に、何かを握らされ、不審に思いながら開いてみる。
 それは、制服のボタン。
 説明を求めるように賢を見ると
「それは、沙耶にもっていてもらいたくって。勿論、捨ててくれてもいいんだけど。第二ボタンなんだけどさ」
 早口でそういった。
 そこまで言ってから後悔するかのように頭を抱え、
「あー、やっぱり俺未練がましいかもっ!」
 なんて叫ぶ。

 ああ、あたしは、

「ありがとう」
 そういって微笑んでみせる。

 あたしは、今、泣きそうだ。

「女子は、何をあげるものなのかしら?」
「え、知らない」
「そうね、じゃぁこれでも」
 そういってスカーフをとると彼に押し付けるようにして渡した。
「え、これ……」
「あげる。要らなかった捨てて頂戴」
 同じような台詞を返すと、彼はまた、泣き笑いみたいな顔をした。
 お願いだから、いつもみたいに笑ってよ。
「あたしは、いつか、……貴方のことも忘れてしまうわ」
「……うん」
「でもね、本当は」
「……うん」
「忘れたくなんか、ないのよ」
 そういって、微笑んで見せる。
 限界だと、思った。
「それじゃぁ、元気で」
 そのまま片手を振ると、逃げるようにしてその場を立ち去った。

 ああ、本当に、あたしは泣くかもしれない。


 校門をでると、見慣れた車が止まっていた。
「……円姉」
 彼女はあたしをみつけると片手をあげた。
「父様がね、卒業祝いになにかおいしいものでも食べに行ってこいって。行くでしょ?」
 円姉はあっけらかんとそう言うと、ぴっと宗主のクレジットカードを見せてきた。
「うん」
 頷くと、円姉は満足そうに笑って、後部座席のドアを開けた。
 乗り込む。
 車が出る。

「……」
 窓の外を見るふりをして泣いていたあたしに、きっと円姉は気づいている。
 さようなら。
 もう二度と会うことは無いけれども、
「貴方の歩く道の先に、倖せがありますように」

 きっと、あたしの最初で最後の恋人になる人に、小さく祈りの言葉を捧げた。

 **

高校の卒業式の日に書いたもの
    15:20 | Top

夏祭り(小噺)

「沙耶、お祭り行こう!」
「いや」
 即答すると賢は泣きそうな顔をした。
 ずるい。
 そんな顔をするのはずるい。
「なんで」
「人が多いところは嫌い」
「それは、知ってるけど……。本当に、嫌?」
 だって、もし……

「人が多いところで龍をコントロールできなくなったら怖いから、嫌?」

 見抜かれた。
 軽く唇をかんで、読んでいた本から顔を上げ、賢を睨む。
 賢は多少おびえたように後ろに数歩下がる。
「……そうよ。そんなの嫌に決まっているじゃない」
 吐き捨てるようにそういうと、賢は困ったように天井を見る。
 そこに答えなんて書いていないのに。

『あれあれ、痴話げんか~?』
 暢気そうな口調でちいちゃん(この学校に居座っている霊の一人、だ)が声をかけてくる。
「どこかへ行きなさい」
 目を細めて命令すると、ちいちゃんは小さく舌を出して逃げていった。
「え、何? 俺?」
「あんたじゃない」
 慌ててこちらを見てくる賢に、言う。
「あ、そう。ならいいんだけど。……ねぇ、どうしても嫌? 一緒に行こうよ、お祭り。やばそうだったらすぐに帰るから、ね?」
 両手を顔の前で合わせて、頼み込むのを断れたら苦労しない。
「……本当に、ダメだと思ったら帰るわよ」
「じゃぁ、いいんだ」
「……いいわよ、もう。どうせ、これ、この間の球技大会の賭けのやつなんでしょ?」
「あ、よくわかったね。そのとおり。それじゃぁ、明日5時に駅前ね。あ、もちろん、浴衣着てきてよ」
「え? …………ちょっとまってよ、出かけるのは了承したけど浴衣だなんてそんなの」
「だって、お祭りだし」
 どうしよう、言い返せない。

「賢治! おまえいつまで部活サボってるんだよ、早く来い!」
 ドアが開いて、バスケ部の部長が呼ぶ。
 でも、彼はあたしを見て、一瞬顔を強張らせた。
「あ、悪い、今行くー」
 賢はそれに気づいていないふりをして、言葉を投げ返す。
 それから、自分の席からかばんをとると、すたすたと廊下へと歩いていく。
「それじゃぁ、沙耶。また明日」
 異論を唱える隙を与えず、そういうと出て行った。
 流されっぱなしの自分が悔しい。

 +

 可愛かった。
 そりゃーもう。
 いつもどこか睨んだ顔をしているのに、今は浴衣を着てきたことを少し後悔しているようにうつむきつつ、でも、満更でもなさそうに微笑んでいた。
 よかった、頑張って得点王になってよかった。
 ちょっと強引だったけど。
「じゃ、行こうか」
 そういって片手を差し出したときに、
「……帰りたい」
 早いんですけど、大道寺さん。
「え、もう……?」
 確かに無理だったら帰ってもいいって言ったけど、早すぎませんか?
 よっぽど間抜けな顔をしていたんだろう、沙耶はこちらをみると少し困ったように笑って続けた。
「違う、そういう意味じゃなくて。……なんか、普段和服を着ているときとか思わないのに、お祭りで浴衣を着ている自分って言うのが凄く恥ずかしい」
 そういってむすっとむくれて地面を睨む。
 それが可愛くておかしくて、笑うと、今度は俺が睨まれた。
 そんなふくれっつらで睨まれても怖くないけど。
「大丈夫、みんな同じような格好だし、似合ってるし。行こう」
 もう一度片手を差し出すと、沙耶はおずおずと手をつかんできた。
 一つ安心して息を吐くと、歩き出す。

「どうする? 何か食べたいものとかあるー?」
「……賢」
「ん?」
「笑わないで、聞いてくれる?」
「ええっと、善処します」
「……。……あのね、あたし、お祭りに来るのって今日が初めてなの」
「……はい?」
 笑いはしなかったけど、心底驚いた。
 でも、どこかで納得した。
「初めて? 今日が? 今まで一度も来たことないの? 高校生になるまで?」
 早口でまくし立てると、沙耶はうつむいた。
 ああ、まずいまずい。
「ごめん、言い過ぎた。ええっと、本当に?」
 小さく首を縦に振る。
「本当に小さいころは両親忙しくて連れてってもらえなかったし、一海でお世話になってからは……」
「……コントロールできなくなるのが怖くて?」
「……うん。円姉とか誘ってくれたんだけど、やっぱりどうしても行けなくて。だから、……今日円姉なんてすっごい張り切って着付けしてくれたし。……あたし、自分で出来るのに」
 ぼそぼそと呟く。
「そっかー。っていうことは、初のお祭りをご一緒できるわけですな。光栄だ」
 そういうと、沙耶は驚いたような顔をした。
 それから、
「そうね」
 とだけ呟いた。

「じゃぁ、適当に歩きながらどうするか考えようか」
「……そうね」
 そういって沙耶が頷いて、

「堂本君!」

 呼ばれた。
 誰だよ。
 いまちょっといい雰囲気だったのに。
 振り返る。
 三人組の女で、そういえばよく部活を見に来るミーハーな奴ら。
 一緒に振り返った沙耶の顔が強張った。
 握った手に力がこもる。
 あの女どもは沙耶を目の敵にしている。
 原因は俺。
 理由は「あたしたちの堂本君と付き合って!」
 いつ俺がおまえらのになった。

 くだらなさすぎる理由で、干渉してくるのは正直うざったい。
 はっきりいうと、あいつらを俺は嫌いだ。
 出来ることならもう二度と目の前に現れないで欲しいぐらい嫌いだ。

「堂本君、奇遇ねこんなところで会うなんて」
「……祭りに来る人間なんてたくさんいるだろう」
「あら、そうかしら? たくさん居る中から出会うのってなかなか至難の業じゃない」
「そうかい。……それじゃ」
 そういって俺は片手をあげて別れの意を示す。

 まずいと思った。
 沙耶の、バランスが崩れかかっている気がする。
 まずい。
 こんなところであれを暴れさせて、一番傷つくのは沙耶だから。

「え、せっかくだから一緒に回りましょうよ」
「冗談。先約がいるんだ」
 みてわかるだろうが馬鹿野郎。
 つないだ手を少し上に持ち上げて見せながら、
 もう一度別れの挨拶をして足早に歩き出す。
 すれ違いざま、沙耶に何かあいつらがささやいたのが気配でわかった。
「頼むから、もう放っておいてくれよ」
 思わず口に出ていた言葉は、でも、残念ながら誰にも届くことはなかったけど。


「帰ろうか」
 しばらく行って、立ち止まったところでそういうと、沙耶は青い顔したまま一つ頷いた。
「……ごめん」
「いいよ。考えてみれば誰にあってもおかしくなかったんだ。気づかなくてごめん」
 沙耶はゆっくりと首を横に振って否定の意を示す。
 もう一度ゆっくり歩き出す。今度は駅に向かって。

「賢。ちょっとまって」
「どうした?」
 声をかけられて立ち止まる。
「かき氷」
「……え?」
「かき氷だけでも、食べよう」
 そういって沙耶は微笑む。
 無理をしているのがわかったけど。
「でも、沙耶、大丈夫?」
「大丈夫。ちゃんと、押さえ込んでいるから」
 そういって右肩を強く握った。
 そこに龍が憑いているわけでもないのに、ついついここ握っちゃうのよね、そう言っていたことがある。
「そっか。それじゃ」
 そういって、暇そうにしているおじさんに声をかける。
「二つ。ブルーハワイと、沙耶は?」
「……同じで」
「じゃぁ二つ」
 おじさんは冷やかしの言葉を投げかける。
 笑って交わした。
 ちらりと沙耶をみたけれども、もう本当に落ち着いたみたいで、黙っていた。

「はい」
「ありがとう」
 ざくざく。
 氷にスプーンを突き刺す音がする。
 嫌いじゃない。
「……冷たい」
 沙耶がぼそりと言った。
「当たり前」
 そういってやると沙耶は少し嬉しそうに笑った。
「……ひょとして、かき氷もはじめて?」
「まさか。小さいころよく直兄とかがつくってくれたもの。でも、こうやって外で食べるのは初めて」
 そういう沙耶は本当に嬉しそうで、少しだけ安心した。

 ざくざく。
「沙耶」
「ん?」
「ごめん、今日は無理矢理呼んだのに不愉快な思いさせて」
「……いいよ。賢が悪いんじゃないし」
「……でも」
「……謝るのはこっちのほう。ごめんね。

 普通じゃなくて」

 いつもと同じ口調で言うから聞き流しそうになったけど、
 だけど今、とても凄いことを沙耶は言った気がする。

 じっと横顔を見ると沙耶は、ざくざくとかき氷を崩していく。
 食べるわけでもなく、ただ崩していく。

「だって、あたしが普通の女の子だったら嫌味一つ言われたぐらいでこんなになることないじゃない。
だから、ごめんねって」
「……それこそ、沙耶のせいじゃないだろう」
「でも、あたしがもっとちゃんとコントロールできれば、不安にならずにすむもの」

 ざくざく。

「普通の女子高生だったら別に興味も持たなかったと思うけど」

 ざくざく。

「ああ、そうね。賢は一番最初に巫女姫様に近づいたものね」

 ざくざく。

「今、それを言わなくてもいいだろう?」

 ざくざく。

「いいじゃない。もう、この話は終わりにしましょう。お互いに今日のお詫びとして、でかけましょう、今度」

 ざくざく。

「うわ、沙耶の口から信じられない言葉がでた」

 ざくざく。

「何よ。ただし、人の少ないところね」

 ざくざく。

「じゃぁ、沙耶ん家」

 ざくざく。

「……円姉がいるわよ」

 ざくざく。

「…………やめとく。どこに行くかは、考えとく」

 ざくざく。

「ん、任せた」

 ざくざく。

 +

「舌、青いよ」
「それは賢も一緒でしょう」
 言いながら沙耶は鏡をだす。
「ブルーハワイは好きだけど、これがいや」
「同感」

 ごみをごみ箱に入れて歩き出す。

「そういえば、夜ご飯食べてないからお腹すいたー」
「そうね。……さすがにここで食べましょう、とはいえないけど、どこかに寄ってく?」
「そうしよっか」

 そういって片手を差し出す。
「行きましょう、姫様」
 沙耶は一瞬不愉快そうな顔をしたけど、小さくため息をついて、手をつないだ。
    15:15 | Top

球技大会(小噺)

「沙耶、あんた今日、学校は?」
 円姉が声をかけてくる。
 あたしは枕に顔を押し当てたまま、くぐもった声で答える。
「……休む」
「休むってあんたねぇ」
「…………今日、球技大会だから」
「……。ああ、そういうこと。……じゃぁ、いいわよ。学校には連絡しておく」
「……ありがとう」
「どういたしまして。私、出かけるけど、ちゃんとご飯食べなさいよ、いいわね?」
「はーい」
 くぐもった声で返事をすると、円姉は呆れたようにため息をついた。
 受話器を取り上げる音がする。
 それを聞きながら、もう一度目を閉じた。


 電話のベル。

 それで目がさめた。
 時計の針は既に正午をさしていた。
 ため息をつき立ち上がると、電話に出る。
「はい」
『……沙耶?』
「……なんだ、賢」
『沙耶、大丈夫なのか?』
 何が? と問い返そうとして気づいた。
「ああ、今日休んだのは球技大会だったからで、別に体調を崩したわけじゃない」
『……ああ、そういうこと』
 電話の向こうで賢が安心したような息を吐いたのがわかった。
『明日は? 明日も休む?』
「……そのつもりだけど」
 どうせ、あたしがいってもしょうがないし。
 クラスの子があたしを扱いかねているのはわかっている。あたしがいない方が団結するっていうことも。
 そもそも、殆ど体育の授業にでていないあたしが、体育で役に立てるとは思わない。
『……おいでよ、明日は』
 賢はためらうようにして言う
『別に競技に参加しなくてもいいじゃん。いつもみたいに見ていれば』
「そういうわけには……」
『明日、決勝戦だから、バスケ』
 強い口調で言われて、押し黙る。
 言いたいことは理解できた。
「そう。……バスケ部だもんね」
『うん、だから……、絶対優勝するから見に来てよ』
「……でも」
『わかった。俺、得点王で優勝させる。もし、出来なかったらなんでも一つ言うことをきく。だから、もし俺が出来たら、デートな』
「……賢?」
『よし、決まり!』
 電話の向こうで、賢が嬉しそうに笑ったのがわかった。
「賢? あたしは承諾したつもりは」
『じゃぁ、沙耶。明日な』
 あたしの言葉なんか聞かずに、賢は電話を切った。

 あたしは途方にくれて、受話器を見つめた。



 どうして、こんなに、緊張するんだろう。
 ただ、自分の教室のドアをあけるだけなのに。
 一つ息を吸い、小さいルルちゃんが肝油を飲み込むときのように一気にドアに手をかけて、開いた。

 視線が集まる。
 みんなが、不可解そうな顔をしているのがわかる。「どうして、巫女姫様がきたの?」そんなの、あたしが聞きたい。

 なんだか、もう、泣きそうで、黙って席に座る。
「沙耶!」
 賢があたしの机のところまで走ってくると、両手であたしの手を握ってぶんぶんふった。
「よかった、きてくれて。よっし、俺頑張るからな」
「……出席日数が」
 張り切っている賢治に、出来る限りの冷たい目で言う。
「足りなくなるとやばいから来ただけ」
 賢はぽかんと口をあけて、こちらをみると、次に泣きそうな顔をした。少し、悪いことをした気がした。
「でも、あの約束は生きているんだからな」
 気を取り直してそういうと、あたしに有無を言わせずに去っていった。



 結局、あたしは何も競技には参加しなかった。
 あたしの名前はドッヂボールにあるはずだけど、時間になってもいかなかったらだれも呼びに来なかった。
 誰も、気にしていなかった。
 それで構わない。


 ただ、ずるいと思う。
「はははは」
 目の前で高笑いしている男を睨みつける。
「どうだ、沙耶!」
「……ずるい」
「ずるくない」
 なんでこの人は本当に得点王になって優勝してしまうんだろう。

「じゃぁ、約束どおりデートな」

 嬉しそうにそういって、賢は着替えに更衣室へと向かう。
 残されたあたしは、嬉しいのか悔しいのかなんだかわからない気持ちでその後姿を見つめた。
    15:09 | Top

夏祭り~あるいは佐野清澄による調律事務所観察日記(小噺)

「お祭り? あれ、今日だっけ? 何時まで? 9時半か……。じゃぁ、ごめん。今日は無理。ん、そう。仕事」
 電波のよく入る窓際の角に、壁に背中を預けて立ちながら沙耶はケータイ片手に電話中。
 勿論、電話の相手は龍一。
 さっきから直さんがじぃぃっと見ているのに気づいているのかいないのか、沙耶は楽しそうに話をしている。
 もっとも、せっかくのデートの(本人は断固として否定するが)誘いを断らなきゃいけないようで、今は少しむくれている。
 ……へちゃむくれ23歳。

「沙耶」

 円姉が声をかける。
「ちょっと待って」
 電話に向かってそういい、
「何? 私用電話はもう終わるけど?」
 多少嫌味っぽい言い方で(私用電話を咎めるはずの円姉が一番私用電話が多い)そういうと、円姉は
「違う、龍一君でしょ? ちょっと貸して」
 そう言って右手を出す。
 沙耶が首を傾げつつもケータイを渡す。

「もしもし? 龍一君。……あら、驚いた? なに、うちのお姫様にデートのお誘い? お祭りでしょ? いいわよ、行きなさいよ」
「は? ……円姉何言ってるの?」
 沙耶が言う。
 円姉は気にせず話を続ける。
「気にしないで。沙耶の分の仕事は直純に押し付けるから」
「ちょっと待てっ!」
 直さんが怒鳴る。
「何? 引き受けてくれないの?」
 円姉が問い掛ける。
 直さんは沙耶を祭りに行かせたくない気持ちと、沙耶を失望させたくない気持ちの間で迷って……
「いいよ、やるよ」
 不本意そうな口調で言った。
「あら、そう? もしもし、龍一君、大丈夫。直純仕事かわってくれるって」
 にこにこ微笑む円姉。
「鬼だ」
 関わらないように雑務に(郵便物の仕分け)取り組んでいたおれだけど、さすがに一言呟いた。

「直兄」
 沙耶が直さんに声をかける。
「ありがとう。今度、何かお詫びするね」
 振り向いた直さんに両手を合わせてお礼の微笑。
「あ、いや、気にするな、うん」
 弱っ!?
 直さんってばどこまでも沙耶に弱い。
 あんた、そんなんだからいつまでたっても報われないんだよ、いい加減気づけ。

「沙耶」
 円姉がケータイを放り投げる。
 沙耶が慌ててそれを受け取り、
「え、通話切れてるじゃん」
「待ち合わせは5時に駅前」
「なんで円姉が決めてるのよ」
「いいじゃない、てっとりばやくて」
 もぉ円姉はいつも勝手なんだからと(俺に言わせれば沙耶も十分自分勝手だ)ぶつぶついいながら、沙耶は時計を見て、
「……円姉、5時って言ったよね?」
「言ったわよ?」
「あと1時間もないじゃないっ!」
「まぁ、大変」
 全然大変だと思ってないだろうあんた。
 怖くて口には出せないけど。
「そうよねぇ、せっかくのお祭りだもの浴衣着たいわよねー」
「いや、そんなこと言ってないけど」
 口に出してはいないけど目では言っていた。
「でも沙耶、そんなこともあるだろうと思って、この事務所には何故か常に浴衣が常備されて」
「どんな事務所よっ!?」
 ……円姉の和服がおいてあるのは知ってたけど。(なんでもいつ一海に呼び出されても嫌味っぽい正装でいけるように、ということらしい。自分の家をなんだと思ってるんだろう、この人。どうでもいいが、円姉は和服のほうが似合う)
「ほらほら、貸してあげるから着ていきなさい。あんた、プライベートでのお祭り二回目なんだから」
 円姉がそういうと沙耶はわずかに曇った顔をした。
 ああ、あれか。
 一回目のお祭りは高校のとき堂本と行って、ちっとも楽しめないで帰ってきたって言うやつか。

「……気にしてた?」

 時々円姉は驚くぐらい優しい声を出す。
 これにころっと騙されたこと、数知れず。
「でも、もう今はあのときと違ってあんたの“それ”も安定してるし、ちょっとやそっとじゃ暴走しないし、“ストッパー”の龍一君が一緒なんだし、大丈夫でしょう? この間の分も、今日は楽しんできなさい」
「……わかった」
 沙耶が呟くと、よしっと円姉は笑って浴衣を取り出しにかかる。
 うわ、本当に置いてあるし。
「着付けてあげようか~?」
「自分で出来るからいいです」
「あらそう、残念」
 直さんに聞いた話だが、円姉は小さいころの沙耶を着せ替え人形にして遊んでいたらしい。目に浮かぶ。

 沙耶が浴衣を持って隣の部屋(主に仮眠室として使用)に移動する。円姉は少し微笑んでその後姿を見つめてから、
「さて、それじゃぁ直純、これよろしくね」
 沙耶の机の上においてあった、本日のお祓い業務の資料を渡す。
「……へいへい」
 ぶすっとした顔をしながらそれをうけとり、中を見る。
 かわいそうに。
 っていうか、あんたが自分でやればいいだろう。……いや、怖くて円姉にそんなこと言えないけど。

「円姉~、ヘアピン持ってる?」
 浴衣を着終えた(どうでもいいが沙耶も和服のほうが似合う)沙耶が顔だけ出して問い掛ける。
「ああ、髪の毛結わえるの? やってあげようか」
「っていうかやりたいんでしょう? じゃないと貸してあげないとか言うんでしょう?」
「あら、お見通し?」
「……いつからの付き合いだと思ってるの。じゃぁ、お願いします」
 円姉は楽しそうに笑うと、沙耶を座らせて髪の毛を結わえ始める。
 自分の髪が短いから(昔は長かったらしい。想像できない)よく沙耶の髪の毛で遊んでいるのは知っているけど、こうやってちゃんと結ぼうとするのは初めてかもしれない。
「円姉って、料理とか掃除とかもそうだけど、なんていうかこういう女の子女の子したことって意外と得意よね」
 沙耶が鏡の中の円姉の手際のよさに舌を巻きながら言う。
「意外って何よ」
 いや、でも意外だよ。

「はい、出来た」
 そういって円姉は沙耶の肩を軽く叩く。
「ありがとう」
 沙耶はそういうと笑う。

「そろそろ行かないと間に合わないわよ」
「え、あ、本当だ。それじゃぁお先に失礼します。直兄ありがとう」
「え、あ、うん。……ええっとまぁ、気をつけて」
「楽しんでらっしゃいね」
 わざとその言葉を避けていた直さんの後に続いて円姉は「楽しんで」という。
 やっぱり鬼だ。
「龍一によろしく」
 出来るだけ無難な言葉を選んだつもりだったけど、直さんはさらに影を背負った。
 しまった、これも禁句か。
 沙耶はそれに気づいているのかいないのか(最近ではわざと気づいていないふりをしているんじゃないかと思う)にこやかに手をふって、下駄をからんころん(この擬音って本当に的確だ)と鳴らして出て行った。

「……ふぅ」
 円姉はため息を一つつく。
「いいわねぇ、若いって」
「……円姉、もうすぐでみそ」
 三十路だもんねと言いかけると、
「それ禁句っ!」
 凄い勢いでシャーペンが飛んできた。

 怖っ!?
    15:06 | Top
 
 
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