FC2ブログ
 
表立って載せるほどではない小噺と、あとがき。 その他キャラ設定などなど、徒然なるままに書き連ねるページ。 

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
    --:-- | Top

「八月の蜂」あとがき

2月に8月の話かよ! というね!
ネタ自体はずっとあったもの。
なんか、どうしても絵で表現したかったのですが、しきれていないという悲しい現実。

時期的には賢治と別れるちょっと前ということで一つ。
沙耶って夏に弱そうだよなー

どうしても、この蜂に同情?する今の沙耶が想像できなかったので、巫女姫様編で。
巫女姫様って沙耶の高校時代の渾名ですよー。と久々に説明

八月の蜂
スポンサーサイト
    22:02 | Top

私は忘れないで(小噺)

 勿忘草色をした、新しい和服。
 彼はそれを見て笑った。
「ああ、綺麗な色だね。その色、好きだな」
「ありがとう」
 端的に答えたあたしに、彼はまた笑った。
「青い……、これって何色?」
「勿忘草色って言われたけど」
「へぇー。ええっと、あれだろ? 私を」
「……“私を忘れないで”?」
 その言葉を自分が口にすることに抵抗を覚えながらもそういうと、彼はああ、それと手を叩いた。
「あの男間抜けだよなぁ、花束つくりに行って川に落ちてやんの」
 彼はその言葉を深読みはしなかったらしい。自分で言っておきながら、そのことに一抹の不安を抱えていたあたしは何事もなかったかのように微笑んだ。
「それで溺れておきながら、忘れるななんてむしが良すぎるよな」
 違ったらしい。
 あたしは立ち止まった。彼は2,3歩離れたところに立ち止まった。振り向きはしない。
「恋人、縛り付けて何が楽しいんだろうな」
「……さぁね」
 彼は振り返って笑った。
「その色は好きだよ。でも、勿忘草は好きではない。
行こう」
 そういって彼が右手を差し出すのを、あたしはただ黙ってみていた。
 あたしはきっと、いつか彼のことも忘れてしまう。龍に記憶を喰われて、でも。
「縛り付けるとか、つけないとかは別にして」
「ん?」
「恋人に自分を忘れないで欲しいって願うの、そんなにむしがいい話じゃないかも、ね」
 彼はあたしをみつめて、差し出した右手はそのまま、一歩近づいた。
「違うね」
「何が?」
「ずっとそばに居れば、忘れられることもない」
 彼はにやっと笑うと、あたしの手を掴んで歩き出した。
「……強引」
「おかげさまで」
 あたしは呆れて笑いながらも、彼の背中を見ながら歩いた。
 頼りになるんだかならないんだかわからない、あたしの恋人はもう違う話を始めていた。そのことに感謝をしながら、あたしはいつものように相槌を打ち始めた。
    22:17 | Top

ここは一つの分岐点、だから俺は忘れない。(小噺)

 卒業式。
 まさか男でぴーぴー泣くやつなんかいないし、そこまで悲しいと思うわけも無いが、まぁ多少は「ああ、お別れだなぁ」なんて思う日。
 多少、校長の長話で白けたとしても、だ。
 そんなことを思いながら、答辞を読む前生徒会長を無視して、視線を斜め右前にずらす。
 やっぱり、二クラスも離れていると見えないなぁ。
 ため息。
 すすり泣きまではじまっている会場の空気に少しばかり息がつまる。
 こういう空気は嫌いではないが、決して好きにはなれない。
 見えないことはわかっていながらも、視線は壇上からずらしたまま。
 まさか、来ているとは思わなかった。
 先ほどの、卒業証書授与のシーンを思い出す。
 名前を呼ばれて、返事をして、起立するだけという単調な動作。
 自分の名前が呼ばれるのを多少なりとも緊張してまっていた。だって、練習しなかったし。説明だけのぶっつけ本番。さすが高校の卒業式!

「大道寺沙耶」

 教師がそう言うのを聞いて、軽く口元を歪ませた。
 ああ、そんな風に名前を呼んだって彼女が、“巫女姫様”が来ているわけでも……

「はい」

 ……来てるんだ。
 聞こえてきた返事に驚いて、視線を声のほうに移す。
 睨みつけるように壇上を見ながら、見慣れた彼女が立っていた。
 体育祭も球技大会も、それこそ修学旅行さえ休んだ彼女が来ている事に、驚いたのは俺だけではないようで、ちらほらと囁きあっている人がいる。
 いや、俺も驚いたから人のことは言えないが……、卒業式ぐらい、いい気持ちで迎えて欲しい。


 式終了後、ボタンをくれと迫ってくる、いつもの三馬鹿トリオを無視しながら教室に戻る。
 ボタンなんてそんな、漫画じゃあるまいし、第一あの馬鹿にあげるようなものはない。
 そこまで考えてから、あることを思いついた。


 担任のありがたいお言葉のホームルーム終了後、鞄はそのままで席を立つ。
 ボタンの無い制服がぴらぴらしてうざったい。
 ボタンは、仲のいい女子が「ボタン集め競争しているの!」という実に女子高生らしい理由でもぎとっていきやがった。
 まぁ、競争に使われるほうがよっぽど気楽でいいが。
「堂本、写真とるってよ。クラスで」
 その言葉に軽く肩をすくめる。
「ちょっと急いでるんだ。俺抜きで頼む」
 そういいながらドアを開けて、廊下の先、二クラス先をみる。
 どうやらまだ終わっていないようでほっとした。
 彼女は、終わったらさっさととっとと帰るに決まっている。
「……。お前、もしかして」
 俺の視線の先がなんであるのか気づいた友人が呟く。
 俺はただ、笑って見せた。
 友人は、ふぅとため息混じりに笑い返してきた。
「まぁ、相手が誰だとしても気持ちはわかるよ。どーんと行って来い。少しぐらいなら、クラスの連中も待ってるだろうしな」
「どうも」
 ありがたい送辞の言葉をうけとって、ふざけた敬礼交じりに答辞の言葉をおくる。


 ざわめいてる廊下で、彼女の教室の扉の前に立つ。
 窓からのぞいた限り、もうすぐ終わりそうで。
 終わった途端に立ち上がった、見慣れた黒髪の彼女はなんだか怒った顔をしてこちらにやってくる。
 少し扉から離れて、
 がらっ
 勢いよくドアが開く。
「……賢」
 沙耶は目を大きく見開いてそう呟いた。
 それをみて、かすかに微笑んだ。
 最後に、会えてよかった。そう思って。
「卒業、おめでとう」
 沙耶は微笑みながらそういう。
「沙耶も」
 本当は、めでたいなんか思っていないだろうにそんなことをいう沙耶が少しおかしかった。
 でも、そういうところが好きなんだ。
「人気者ね」
 沙耶がそういって、俺の学ランを指差す。
 ひらひらと揺れている。
「ん、ああ」
 そんな風に言われたら、口が裂けても「勝負に貢献したんだよ」なんていえない。
「漫画の中だけかと思ったわ。そういうの」
 そういって彼女は肩をすくめる。
 やっぱり、こういう行事ごとって嫌いかなぁ?
 あんまり好いてるとも思えないが。でも時々、俺からしてみればくだらないことに妙にこだわって、そう言うときは本当に「ああ、ただの女の子なんだなぁ」と思うんだけど。
 なんて考える。
 少しだけ沈黙する。
 きっかけが欲しい。
「沙耶、……あのさ」
 沈黙が耐えられなくて、きっかけなんて自分で作るしかないし、ためらいながらも片手をさしだした。
「元気で」
 沙耶は少し驚いた顔をしたがすぐに、笑って
「貴方も」
 手を握り返してきた。

 もう片方の手でも、沙耶の手を包むようにして持つと、少しためらいながらも沙耶の手に握らせた。制服の、第二ボタン。

 首をかしげながら沙耶が、握らされたものをみて、説明を求めるようにこちらをみてきた。
 なんだか、ものすごく緊張する
「それは、沙耶にもっていてもらいたくって。勿論、捨ててくれてもいいんだけど。第二ボタンなんだけどさ」
 早口でまくし立て、我に返る。
「あー、やっぱり俺未練がましいかもっ!」
 恥ずかしさの余り思わず叫ぶ。
 そんな今さら第二ボタンなんて渡したって沙耶が困るだけじゃないかっ。

「ありがとう」

 言われて、沙耶を見る。
 驚いたことに、彼女は微笑んでいた。
 どこか泣きそうな微笑じゃなくて、本当に。

「女子は、何を上げるものなのかしら?」
 ボタンを片手で遊びながらそう言う。
「え、知らない」
「そうね、じゃぁこれでも」
 そういって彼女は制服のスカーフをとると、俺に押し付けるようにして渡してきた。
「え、これ……」
 渡されたものをまじまじと見る。
 理解できない。
「あげる。要らなかったら捨てて頂戴」
 俺が言ったのと同じようなことを彼女は早口に言って。
 ああ、なんだか少し泣きそうだ。
 俺は、やっぱり彼女がまだ好きなのだと思う。
 勿論、俺じゃ彼女を支えきれなかったし、もう元には戻れないんだけど、それでも。

「あたしは」

 未練がましいことを思っていると沙耶が呟いた。
「いつか、……貴方のことも忘れてしまうわ」
「……うん」
 いつか言っていたことを思い出す。
『龍はあたしの記憶を喰らうのよ』
 だとしたら、そういうことなのだろう。
「でもね、本当は」
「……うん」
「忘れたくなんか、ないのよ」
 そういってもう一度微笑む。
 一番最初に見た、あの不意打ちの微笑を。
 そして、彼女は
「それじゃぁ、元気で」
 片手を振って、逃げるようにして立ち去った。

 ただ渡されたスカーフを見る。

 もう少し、大人だったら、もっとちゃんと付き合いつづけていたのかと考えることもある。
 だけど、高校生というときの中で会えたということは、それ自体がきっと凄い偶然で、ここから先、多分、もう二度と会うこと無いだろうし、いつか沙耶は忘れてしまうかもしれないけれども、それでも

「忘れないよ」
 小さく呟いて、教室に戻ろうと歩き出す。

 そして、もし、いつか、また大人になったときに出会うことがあったら、そのときはまたあのころの思い出話をしよう。
 例え、沙耶が忘れていても思い出すまで話してやるんだ。
 そう思って、少し笑う。
 男がぴーぴー泣くわけにはいかないから。


「遅い」
 教室に戻ってみると、クラスの連中がそう言った。写真をとる体制で並んでいた。
「ほら、全員いないと写真取れないじゃないか」
 そう言って、俺を無理矢理列の中にいれる。
 一瞬、俺がもっているスカーフを見て、軽く眉をひそめて、それから、少し微笑んで。
「お疲れ様」
 さっきの友人が肩を叩いてきた。
「ん、ああ、遅れて悪い」
 そういって微笑んでみせる。

 こういうときほんの少しだけ思う。
 沙耶は学校を嫌っていたけれども、でも、沙耶自身が思っていたほど連中は沙耶のことを嫌っていなかったんじゃないかと。
 勿論、それを今更どうこう言ってもしょうがないし、沙耶にはそう思う余裕すらなかったことはわかっている。
 だけど、
「未練たっぷりだなぁ、賢治」
「うるさい」
「巫女姫様が羨ましいわ、堂本君の第二ボタンをもらえるなんて」
「なんでばれたっ!?」
「や、お前見てたらそういうのわかるよ」
「最後のお別れの挨拶なんかしちゃって」
「卒業式までいちゃつくなー」
 そう言ってふざけるこいつらは、やっぱりそんなに巫女姫様を怖がっていたわけじゃないんだとも思う。
 そして、この輪のなかに沙耶がいればいいのに、とも思う。

 だから、
「じゃぁ、とるよー」
 運悪く捕まってしまったほかのクラスの奴がカメラを持ちながら言う。
 皆急に黙って笑顔をつくる。

 だから、この分岐点をすぎて、これから歩む道で、もう少しだけ他人に心をひらいてもいいんじゃないかと思う。

「はい、チーズ」

 例えば、こんな風にシャッターをおすときは笑顔をつくっていたのに、

「うわぁ、目瞑った」
「手が邪魔で私うつってなかった気がするんだけどっ!」

 とり終わった途端、ふざけて話出すようなそういう輪の中に入ってもいいんじゃないかと思う。
 沙耶が馬鹿らしいっていってた、ただ表面を取り繕うだけのことでも、そこから発生する何かがあると今は思うんだ。
 俺じゃ無理だったけど、でもちゃんと沙耶のことを支えてくれる人はいるはずで、勿論、それはすっごい悔しいことなんだけれども。
 だけど、もし、どこかで次に会ったときに、今よりも笑ってくれればそれでいい。
 そう、結局のところ何が言いたいかというと

「君の歩く道の先に、倖せがありますように」

 窓の外を見ながら小さく呟いた。
    15:25 | Top

ここは一つの分岐点、だからここに捨てていく(小噺)

 それは一つの節目だから。

 あたしはそう思って、今、ここに座っている。
 壇上に掲げられた「卒業証書授与式」の文字が、白々しくあたしを威嚇してくる。
 壇上ですすり泣いている、前生徒会長の答辞の言葉は、とても白々しくて嘘っぽくて演技じみていて、あたしは泣けやしない。
 周りのすすり泣きがものすごく耳障り。
 だって、まるで泣くことを強要しているみたいなんだもの。

 くだらない。
 くだらなさすぎる。

 卒業式の一体どこで泣けばいいのかわからない。
 人前で涙を流せるその神経が信じられない。
 お決まりの台詞と、お決まりの展開で、簡単に騙される生徒達は、これが芝居ならばとってもいいお客様。
 きっと、フィナーレにはスタンディングオーベーション。
 拍手喝采、アンコールの声はなりやまない。

 ああ、いいから早く終わらないかしら?

 節目だから。
 最後にきちんと決別しておこうと、卒業式に出ようなんてやっぱり思うんじゃなかった。
 この空気に窒息死しそう。
 早くここから、解放して。
 スカートのすそをぎゅっと握った。


 最後のホームルームで生徒も先生も大泣きで、あまりのくだらなさに眩暈さえする。
 ちらりと視線を移してみれば、あろうことか清澄までちょっと眉をひそめていて、彼のあの顔は悲しいことがあったときの顔だから、彼も多少は卒業式を悲しんでいるということ。
 なんだか、裏切られた気分さえする。
 奪い取るようにして担任から証書と通知表を受け取ると、卒業記念品なんかと一緒に鞄に突っ込んだ。
 どこからでてきたのかクラッカーを鳴らして、勿体無くも500円を一人ずつ集金したプレゼントを担任に渡しているクラス女子。
 そんなもの渡したい人だけでやればいいのに馬鹿らしい。
 あんなにびくびくしながらあたしに「500円払って」って言うぐらいならば、最初からあたしを仲間外れにすればよかったのよ。いつもみたいに。
 最後だけみんなで仲良しこよし?
 ああ、ばっかみたい。

 一度動きだした思考回路は止まらずに、ただただ言葉を吐き出す。

 何故か三本締めで最後のホームルームが終わると、あたしはさっさと教室を飛び出そうとした。
「あ、写真……」
 なんて後ろで誰かが言っていた。
 ああ、そういえば、クラス全員で写真をとるから残ってなんて言っていたっけ?
 誰が残るか、そんなもの。
 最後をとりつくろって、今まで自分達がしてきたことを無かったことにできるとても思っているならば、
何て幼稚で可愛らしいのかしら?


 勢いよくドアをあけて、
 一瞬、
 息が止まった。

「……賢」
 目の前に立っていた元彼は、ちょっと泣きそうな感じで笑った。
 あたしは貴方のそんな顔が嫌いで、そんな顔をさせたくないから、別れたのよ。
 そんな言葉が喉まででかかって、でも言わなかった。
「卒業、おめでとう」
「沙耶も」
 そういって彼はやっと少し、いつもの馬鹿みたいな、それでもあたしの好きな笑顔を浮かべた。
「人気者ね」
 そういってあたしは、彼の学ランを指差す。
 ボタンが一つも無いそれは本来の役目を放棄していた。
「ん、ああ」
「漫画の中だけかと思ったわ。そういうの」
 そういって肩をすくめる。
 いらつくと、あたしは饒舌になる。
 自分でそれがわかっているから、馬鹿なことを、例えば未練がましいことを口走ってしまう前に立ち去りたかった。
 だけど、お別れを言うのは、やっぱり少し辛いのだ。
 ああ、それこそ、未練がましいのに。
「沙耶。……あのさ」
 賢はそういって少しためらってから、片手を差し出した。
「元気で」
 それを少し意外に思いながら、あたしも出来るだけ笑顔をつくって、
「貴方も」
 その手を握り返した。

 違和感。

 握り返したその手に、何かを握らされ、不審に思いながら開いてみる。
 それは、制服のボタン。
 説明を求めるように賢を見ると
「それは、沙耶にもっていてもらいたくって。勿論、捨ててくれてもいいんだけど。第二ボタンなんだけどさ」
 早口でそういった。
 そこまで言ってから後悔するかのように頭を抱え、
「あー、やっぱり俺未練がましいかもっ!」
 なんて叫ぶ。

 ああ、あたしは、

「ありがとう」
 そういって微笑んでみせる。

 あたしは、今、泣きそうだ。

「女子は、何をあげるものなのかしら?」
「え、知らない」
「そうね、じゃぁこれでも」
 そういってスカーフをとると彼に押し付けるようにして渡した。
「え、これ……」
「あげる。要らなかった捨てて頂戴」
 同じような台詞を返すと、彼はまた、泣き笑いみたいな顔をした。
 お願いだから、いつもみたいに笑ってよ。
「あたしは、いつか、……貴方のことも忘れてしまうわ」
「……うん」
「でもね、本当は」
「……うん」
「忘れたくなんか、ないのよ」
 そういって、微笑んで見せる。
 限界だと、思った。
「それじゃぁ、元気で」
 そのまま片手を振ると、逃げるようにしてその場を立ち去った。

 ああ、本当に、あたしは泣くかもしれない。


 校門をでると、見慣れた車が止まっていた。
「……円姉」
 彼女はあたしをみつけると片手をあげた。
「父様がね、卒業祝いになにかおいしいものでも食べに行ってこいって。行くでしょ?」
 円姉はあっけらかんとそう言うと、ぴっと宗主のクレジットカードを見せてきた。
「うん」
 頷くと、円姉は満足そうに笑って、後部座席のドアを開けた。
 乗り込む。
 車が出る。

「……」
 窓の外を見るふりをして泣いていたあたしに、きっと円姉は気づいている。
 さようなら。
 もう二度と会うことは無いけれども、
「貴方の歩く道の先に、倖せがありますように」

 きっと、あたしの最初で最後の恋人になる人に、小さく祈りの言葉を捧げた。

 **

高校の卒業式の日に書いたもの
    15:20 | Top

夏祭り(小噺)

「沙耶、お祭り行こう!」
「いや」
 即答すると賢は泣きそうな顔をした。
 ずるい。
 そんな顔をするのはずるい。
「なんで」
「人が多いところは嫌い」
「それは、知ってるけど……。本当に、嫌?」
 だって、もし……

「人が多いところで龍をコントロールできなくなったら怖いから、嫌?」

 見抜かれた。
 軽く唇をかんで、読んでいた本から顔を上げ、賢を睨む。
 賢は多少おびえたように後ろに数歩下がる。
「……そうよ。そんなの嫌に決まっているじゃない」
 吐き捨てるようにそういうと、賢は困ったように天井を見る。
 そこに答えなんて書いていないのに。

『あれあれ、痴話げんか~?』
 暢気そうな口調でちいちゃん(この学校に居座っている霊の一人、だ)が声をかけてくる。
「どこかへ行きなさい」
 目を細めて命令すると、ちいちゃんは小さく舌を出して逃げていった。
「え、何? 俺?」
「あんたじゃない」
 慌ててこちらを見てくる賢に、言う。
「あ、そう。ならいいんだけど。……ねぇ、どうしても嫌? 一緒に行こうよ、お祭り。やばそうだったらすぐに帰るから、ね?」
 両手を顔の前で合わせて、頼み込むのを断れたら苦労しない。
「……本当に、ダメだと思ったら帰るわよ」
「じゃぁ、いいんだ」
「……いいわよ、もう。どうせ、これ、この間の球技大会の賭けのやつなんでしょ?」
「あ、よくわかったね。そのとおり。それじゃぁ、明日5時に駅前ね。あ、もちろん、浴衣着てきてよ」
「え? …………ちょっとまってよ、出かけるのは了承したけど浴衣だなんてそんなの」
「だって、お祭りだし」
 どうしよう、言い返せない。

「賢治! おまえいつまで部活サボってるんだよ、早く来い!」
 ドアが開いて、バスケ部の部長が呼ぶ。
 でも、彼はあたしを見て、一瞬顔を強張らせた。
「あ、悪い、今行くー」
 賢はそれに気づいていないふりをして、言葉を投げ返す。
 それから、自分の席からかばんをとると、すたすたと廊下へと歩いていく。
「それじゃぁ、沙耶。また明日」
 異論を唱える隙を与えず、そういうと出て行った。
 流されっぱなしの自分が悔しい。

 +

 可愛かった。
 そりゃーもう。
 いつもどこか睨んだ顔をしているのに、今は浴衣を着てきたことを少し後悔しているようにうつむきつつ、でも、満更でもなさそうに微笑んでいた。
 よかった、頑張って得点王になってよかった。
 ちょっと強引だったけど。
「じゃ、行こうか」
 そういって片手を差し出したときに、
「……帰りたい」
 早いんですけど、大道寺さん。
「え、もう……?」
 確かに無理だったら帰ってもいいって言ったけど、早すぎませんか?
 よっぽど間抜けな顔をしていたんだろう、沙耶はこちらをみると少し困ったように笑って続けた。
「違う、そういう意味じゃなくて。……なんか、普段和服を着ているときとか思わないのに、お祭りで浴衣を着ている自分って言うのが凄く恥ずかしい」
 そういってむすっとむくれて地面を睨む。
 それが可愛くておかしくて、笑うと、今度は俺が睨まれた。
 そんなふくれっつらで睨まれても怖くないけど。
「大丈夫、みんな同じような格好だし、似合ってるし。行こう」
 もう一度片手を差し出すと、沙耶はおずおずと手をつかんできた。
 一つ安心して息を吐くと、歩き出す。

「どうする? 何か食べたいものとかあるー?」
「……賢」
「ん?」
「笑わないで、聞いてくれる?」
「ええっと、善処します」
「……。……あのね、あたし、お祭りに来るのって今日が初めてなの」
「……はい?」
 笑いはしなかったけど、心底驚いた。
 でも、どこかで納得した。
「初めて? 今日が? 今まで一度も来たことないの? 高校生になるまで?」
 早口でまくし立てると、沙耶はうつむいた。
 ああ、まずいまずい。
「ごめん、言い過ぎた。ええっと、本当に?」
 小さく首を縦に振る。
「本当に小さいころは両親忙しくて連れてってもらえなかったし、一海でお世話になってからは……」
「……コントロールできなくなるのが怖くて?」
「……うん。円姉とか誘ってくれたんだけど、やっぱりどうしても行けなくて。だから、……今日円姉なんてすっごい張り切って着付けしてくれたし。……あたし、自分で出来るのに」
 ぼそぼそと呟く。
「そっかー。っていうことは、初のお祭りをご一緒できるわけですな。光栄だ」
 そういうと、沙耶は驚いたような顔をした。
 それから、
「そうね」
 とだけ呟いた。

「じゃぁ、適当に歩きながらどうするか考えようか」
「……そうね」
 そういって沙耶が頷いて、

「堂本君!」

 呼ばれた。
 誰だよ。
 いまちょっといい雰囲気だったのに。
 振り返る。
 三人組の女で、そういえばよく部活を見に来るミーハーな奴ら。
 一緒に振り返った沙耶の顔が強張った。
 握った手に力がこもる。
 あの女どもは沙耶を目の敵にしている。
 原因は俺。
 理由は「あたしたちの堂本君と付き合って!」
 いつ俺がおまえらのになった。

 くだらなさすぎる理由で、干渉してくるのは正直うざったい。
 はっきりいうと、あいつらを俺は嫌いだ。
 出来ることならもう二度と目の前に現れないで欲しいぐらい嫌いだ。

「堂本君、奇遇ねこんなところで会うなんて」
「……祭りに来る人間なんてたくさんいるだろう」
「あら、そうかしら? たくさん居る中から出会うのってなかなか至難の業じゃない」
「そうかい。……それじゃ」
 そういって俺は片手をあげて別れの意を示す。

 まずいと思った。
 沙耶の、バランスが崩れかかっている気がする。
 まずい。
 こんなところであれを暴れさせて、一番傷つくのは沙耶だから。

「え、せっかくだから一緒に回りましょうよ」
「冗談。先約がいるんだ」
 みてわかるだろうが馬鹿野郎。
 つないだ手を少し上に持ち上げて見せながら、
 もう一度別れの挨拶をして足早に歩き出す。
 すれ違いざま、沙耶に何かあいつらがささやいたのが気配でわかった。
「頼むから、もう放っておいてくれよ」
 思わず口に出ていた言葉は、でも、残念ながら誰にも届くことはなかったけど。


「帰ろうか」
 しばらく行って、立ち止まったところでそういうと、沙耶は青い顔したまま一つ頷いた。
「……ごめん」
「いいよ。考えてみれば誰にあってもおかしくなかったんだ。気づかなくてごめん」
 沙耶はゆっくりと首を横に振って否定の意を示す。
 もう一度ゆっくり歩き出す。今度は駅に向かって。

「賢。ちょっとまって」
「どうした?」
 声をかけられて立ち止まる。
「かき氷」
「……え?」
「かき氷だけでも、食べよう」
 そういって沙耶は微笑む。
 無理をしているのがわかったけど。
「でも、沙耶、大丈夫?」
「大丈夫。ちゃんと、押さえ込んでいるから」
 そういって右肩を強く握った。
 そこに龍が憑いているわけでもないのに、ついついここ握っちゃうのよね、そう言っていたことがある。
「そっか。それじゃ」
 そういって、暇そうにしているおじさんに声をかける。
「二つ。ブルーハワイと、沙耶は?」
「……同じで」
「じゃぁ二つ」
 おじさんは冷やかしの言葉を投げかける。
 笑って交わした。
 ちらりと沙耶をみたけれども、もう本当に落ち着いたみたいで、黙っていた。

「はい」
「ありがとう」
 ざくざく。
 氷にスプーンを突き刺す音がする。
 嫌いじゃない。
「……冷たい」
 沙耶がぼそりと言った。
「当たり前」
 そういってやると沙耶は少し嬉しそうに笑った。
「……ひょとして、かき氷もはじめて?」
「まさか。小さいころよく直兄とかがつくってくれたもの。でも、こうやって外で食べるのは初めて」
 そういう沙耶は本当に嬉しそうで、少しだけ安心した。

 ざくざく。
「沙耶」
「ん?」
「ごめん、今日は無理矢理呼んだのに不愉快な思いさせて」
「……いいよ。賢が悪いんじゃないし」
「……でも」
「……謝るのはこっちのほう。ごめんね。

 普通じゃなくて」

 いつもと同じ口調で言うから聞き流しそうになったけど、
 だけど今、とても凄いことを沙耶は言った気がする。

 じっと横顔を見ると沙耶は、ざくざくとかき氷を崩していく。
 食べるわけでもなく、ただ崩していく。

「だって、あたしが普通の女の子だったら嫌味一つ言われたぐらいでこんなになることないじゃない。
だから、ごめんねって」
「……それこそ、沙耶のせいじゃないだろう」
「でも、あたしがもっとちゃんとコントロールできれば、不安にならずにすむもの」

 ざくざく。

「普通の女子高生だったら別に興味も持たなかったと思うけど」

 ざくざく。

「ああ、そうね。賢は一番最初に巫女姫様に近づいたものね」

 ざくざく。

「今、それを言わなくてもいいだろう?」

 ざくざく。

「いいじゃない。もう、この話は終わりにしましょう。お互いに今日のお詫びとして、でかけましょう、今度」

 ざくざく。

「うわ、沙耶の口から信じられない言葉がでた」

 ざくざく。

「何よ。ただし、人の少ないところね」

 ざくざく。

「じゃぁ、沙耶ん家」

 ざくざく。

「……円姉がいるわよ」

 ざくざく。

「…………やめとく。どこに行くかは、考えとく」

 ざくざく。

「ん、任せた」

 ざくざく。

 +

「舌、青いよ」
「それは賢も一緒でしょう」
 言いながら沙耶は鏡をだす。
「ブルーハワイは好きだけど、これがいや」
「同感」

 ごみをごみ箱に入れて歩き出す。

「そういえば、夜ご飯食べてないからお腹すいたー」
「そうね。……さすがにここで食べましょう、とはいえないけど、どこかに寄ってく?」
「そうしよっか」

 そういって片手を差し出す。
「行きましょう、姫様」
 沙耶は一瞬不愉快そうな顔をしたけど、小さくため息をついて、手をつないだ。
    15:15 | Top
 
 
プロフィール
 
 

小高まあな

Author:小高まあな
FC2ブログへようこそ!

 
 
最新記事
 
 
 
 
カテゴリ
 
 
 
 
月別アーカイブ
 
 
 
 
リンク
 
 
 
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。